ものひろいおじさんのものひろい日記   作:流々毎々

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おじさん同士。食堂のひととき

 

 やあ、こんにちは。僕の名前はワンダー。またの名をものひろいおじさんだよ。唐突な話になっちゃうけど僕って実は転生者なんだよね。

 前世とも言うべき僕は今よりもっと歳を取ったおじいちゃんで、生憎と配偶者には恵まれなかったけど弟夫婦の家族に見送られるそれなりに恵まれたと言える最後であった。

 

 それが気が付いたらこのポケットモンスターの世界に生れ落ちていたんだから人生とは何が起きるか分かったもんじゃないね。

 

 前世()の僕はサブカルチャーと無縁の生活をしていて、ゲームはおろか漫画やアニメと言ったものにろくに触れた事のない人間だった。

 一応、テレビで宣伝されるくらいの有名作品の一部は見た事があるけれどそれだって予告やあやふやなタイトルくらいしか覚えていない。

 

 僕が今生きているこのポケットモンスターの世界だって同じようなものだ。何度かテレビで映画の宣伝を見た程度。後は甥子や姪にプレゼントとしてゲームを買ってあげた事があるくらいだ。

 だから一度天寿を全うしてから生れ落ちて、自我が芽生える頃には酷く混乱したよね。何て言ったって死後にもう一度人生を送る事になるなんて思わなかったからさ。

 

 しかもそこは自分の知る常識とは全く違う世界と来たもんだ。人間、外国に行くだけでストレスがマッハな人だっている。僕はその典型的なタイプの人間だった。

 新しいものを受け入れられるだけの感性も無く、若者に交じって夢を追いかけるには僕の精神は老いていた。

 

 要は僕は周囲からめちゃくちゃ浮いた存在になっちゃったんだよね。とかくポケモンと言う存在が受け入れられんかったんだ。

 想像してみてほしい。例えば喋るチンパンジーがいたとして、君はそれを受け入れる事ができるのだろうか?

 

 僕には無理だった。

 

 無論、ポケモンが人の言葉をしゃべることはない。けど犬猫のような動物(ペット)と判断するにはあまりにも彼らは賢過ぎた。

 ポケモンは喋る事が出来ないんじゃない。人とは違う独自の言語体系を持ち合わせているんだ。

 

 それなのに人の言葉を理解して考えることが可能な彼らを僕はひどく不気味に思えてしまったんだ。だから僕はポケモンを拒絶した。

 その有様が、ポケモンが身近なこの世界でどれだけ異端な事であったかも理解せずに・・・

 

 流石にこの世界で過ごして云十年と経った今ではある程度の事は慣れてしまったけれど、当時は両親にとても苦労を掛けた自覚がある。

 後に妹が生まれた事によって彼らの興味と愛情がそっちに移ってしまったことも仕方がない事であったのだろう。

 

 故に僕は家を出た。

 

 これ以上、異端の僕と過ごす事は家族にも僕自身にも駄目な影響を与えると考えたからだ。旅を通じて見聞深めたいだなんてもっともらし理由を付いて。大きなリュックを背に掛けて故郷を飛び出したんだ。

 いや、もっと正確に言うなら僕は逃げ出したんだ。家族や周りの環境と向き合うことを放棄して。

 

 以来。僕は家に帰らず各地を転々と過ごす日々を送っている。

 

 このパルデア地方に訪れたのも大した理由は無い。たまたまパルデア行きの航空券をゲットした僕はそのまま流れるようにこの地へと来た。

 運が良い事に僕のものひろい生活とこのパルデア地方の気質は相性が良い。だからしばらくはここいらを拠点に活動をしていくつもりだ。

 

 だがこれも所詮は結果論でしかない。

 とどのつまり。家を出た僕の暮らしと言うのは行き当たりばったりのどうしようもないものであるのだ。

 

――――――――――

―――――

―――

 

「と、言うのが僕の今までの旅の軌跡何ですよ~」

「なるほど、色々と辛い経験をされているのですね。・・・感動しました」

 

 僕は今、パルデア地方の町の一つであるチャンプルタウンにある大きな食堂の中にいた。基本的に収入が安定しない僕は散財する趣味も余裕も無いのだけれども、初めてパルデアに訪れた日くらいはぱーっと飲み食いしたいと考えてパンフレットにおすすめされていたこのお宝食堂に来ていたのだ。

 

 お宝と称するだけあってそれなりに良い値段のするメニューが並んでいるが、その味はかなり良い。このレベルの食事処なら週レベルで通いたいほどだ。

 まあ僕の懐事情だとそれは厳しいのだけれども。

 

 そんな中で僕はたまたま隣の席に座っていたスーツを着たおじさ・・・いやぎりぎりお兄さんと呼べるお客さんと談笑(ダル絡み)していた。多分、僕より年下の彼であるだろうけどその覇気の無さと言うか、くたびれた姿は僕にも勝るとも劣らない。

 

 そこに勝手にシンパシーを感じた僕は彼に喋りかけたのだ。

 

「本当ですか?いやぁ、うれしいな。あなたと話してると何だかすごい楽しく思えてしまって。ごめんなさいね。僕だけこんなに喋っちゃって!」

「いえ。お気になさらず。・・・無駄に長い話は上司のお陰で聞きなれておりますので」

 

 山の様に積み上げられた焼きおにぎりや大量の丼を次々食す彼はあくまでたんたんとした受け答えを僕に返してくれた。その程よい距離感が心地良かった。

 しかし一体彼の体のどこにあれだけのご飯が消えていくのだろうか?ぱっと見、細身に見えて食が細そうに感じたのでその健啖っぷりには驚きである。

 

「それに、中々聞きごたえもありましたよ。真偽はともかく、食事の席の話としましては面白かったです」

「ははは!お世辞が旨いですね、お兄さん」

「サラリーマンですので。・・・それに接待先での話のレパートリーが増えましたしね」

 

 それを言うと最後に、彼は残りの食事を片付けると立ち上がる。

 

「・・・私は食べ終わりましたのでこれで。ものひろいのお仕事でしたっけ?頑張ってください」

「ええ、ありがとうございます。よければまたお話しましょうね、お兄さん」

「・・・縁がありましたら、また」

 

 そうして彼は席を立ちお会計を済ませるために店の入り口へ歩いて行った。社交辞令の代表の様な立ち去り方をした彼だが僕はそれで良いと思う。

 旅先の一期一会の出会いは面白い。

 

 その場限りで出会わなくなる人もいれば何度も再開することもある。それこそ旅の醍醐味の一つだ。

 

「さて、僕もお兄さんを見習って働きますか」

 

 食事を食べ終えた僕は彼と同じように席を立つ。ものひろいでの仕事のコツはちゃんとした拠点を決める事だ。ただ闇雲に探せば換金価値のあるものを拾える訳ではない。

 しばらくはパルデア地方の色々な街へ行き、どの町の近くが一番ものひろいに適しているかを調べる必要がある。

 

 ひとまず最初はこのチャンプルタウンから調査を開始しよう。最安値の宿も探して泊まれるようにもしておかなければならない。

 ここの環境に慣れるまでは赤字が続くであろうがこれは必要経費である。焦ったところで収入は対して変わらないのだからデンっと構えて事に当たるのだ。

 

 良くも悪くもものひろいの生活には焦りは禁物なのである。

 

「あのアイス、おいしそうだなぁ。あ、パン屋さんもある。ラーメンも。ここ最近全然食べてなかったものばかりだ・・・」

 

 いけない。このチャンプルタウンが特別そうなのかは知らないが、どうにも気になる飲食店が多い。宿屋を探す目的を忘れ、あれもこれも全て食べたくなってしまう。

 ・・・いや!駄目だ。ここで無駄使いをすれば確実に後に響いてしまう。我慢だ。我慢だぞ、僕!

 

「アイスが安いよー!今ならミニクレープのおまけつき。買わなきゃ損だよー!!」

「焼きたてのベーカリーパンはいかがですか~。お惣菜パン・菓子パン・フランスパン。なんでもありまよ~!」

「当店自慢の新鮮なお魚料理を食べてみませんか?持ち運びや保存に便利な缶詰入りのインスタント商品も扱っています!」

「・・・・・。今日くらい、まあいっか!」

 

 僕はあっさりと食の誘惑に負けてこの日は存分に食べ歩きをすることに決めた。欲望とは我慢し過ぎればパンクしてしまう。なのでこれは必要な事。心の潤いなのである。

 そのように自分に言い聞かせた僕は取り敢えず一番最初に目に入った屋台のアイスクリーム屋さんに足を運んだ。

 

 こうしてパルデア地方に踏み入れた僕の初日はグダグダのまま終わりを迎えるのであった。

 

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