無事に目的地であるアルテミスに到着したアークエンジェル
談話室にあるモニターから外の様子を見た彼ら達の目に映ったのはアークエンジェルを囲う、武装した兵士達の姿だった
沢山の兵士達がアークエンジェルの中に入っていく様子をただ見る事しかできないマリエ達
『キラ…』
「大丈夫、マリエは僕が守るから」
銃を持った彼らに怯えるマリエにキラは優しく背中を撫でた
そして
「そのまま動くなっ!」
とうとう談話室にまでやってきた兵に銃を向けられ、その場にいた民間人を含めた全員が食堂へと連れて行かれた。中の様子を見るとマリュー、ナタル、フラガの3人以外が集められているみたいだ
銃を持った兵に入り口を塞がれ食堂から出られない状態に民間人は今どんな状況なのか分からず騒ついている。不安そうに自分の腕にくっつくフレイを見てサイは近くにいたトノムラ達に話を聞いた
「ユーラシアって味方のはずでしょ?大西洋連邦とは仲悪いんですか?」
「そういう問題じゃねぇよ」
「はぁ…識別コードがないのが悪い」
「それってそんなに問題なんですか?」
「どうやらね」
「ま、本当の問題は別の所にありそうだがな」
彼らの狙いがなんなのかわからない以上、このまま待機するしかないか
あれから2、3時間ほど経った頃、禿頭の軍人が部下を引き連れて食堂へ入ってきた
「私は当衛星基地指令、ジェラード・ガルシアだ。この艦に積んであるMSのパイロットと技術者はどこだね?」
「「「『………』」」」
「パイロットと技術者だ!この中にいるだろう!!」
ガルシアの問いに中々答えない我々に痺れを切らし、後ろに立つ部下がもう一度大声で問いただした
「あ…」
隣にいるキラが名乗り出ようとするが、背後に立つマードックに肩を抑えられ止められた
どうして?と理由がわからず首を傾げるキラ
「なぜ我々に聞くんです?」
「なに!?」
「艦長達が言わなかったからですか?それとも聞けなかったからですか?」
ノイマンやマードック達がキラを必死に隠そうとしているのを見てガルシア達が我々の味方でない事を察した
確か、ここに来る前にフラガさんにストライクのOS をキラにしか起動できない様にロックをかけておけって言ってたし、ストライクを起動する事が出来ないんだろう。それをパイロットにロックを解除させてストライクを奪うつもり?
それだけじゃない。もしキラがコーディネイターだってバレたら…
…マズイ。完全に利用される。確かに隠さなきゃだ
そこまで考えていたところでガルシアが突然ミリアリアの腕を掴みかかった
「い、痛い!」
「ミリアリア!?」
「女性がパイロットと言う事もないと思いがこの艦は艦長も女性という事だしな」
怪しげな笑みを浮かべ強い力で腕を掴むガルシアにミリアリアが痛いと悲鳴を上げる。それに思わずミリアリアを放してと声を上げようとした時、マリエよりも先にキラが立ち上がって自分がパイロットだと名乗り出た
『キラ!?』
「おい坊主!!」
気持ちは凄いわかるけど!貴方がコーディネイターだってバレたらっ!!
「坊主、彼女を庇おうという心意気は買うがね。あれは貴様の様なひよっこが扱える様なもんじゃないだろ、ふざけたことをするな!!」
「!」
子供のキラがパイロットの筈がないと言い、ガルシアがキラに殴りかかろうとする。だが、キラはその腕を掴みガルシアを投げ倒した
「僕は貴方に殴られる筋合いはないですよ!」
「司令!!」
「なんなんですか!?貴方達は!」
「キラやめろ!抵抗するな!」
「貴様!!」
ガルシアを投げ倒したキラに士官が胸倉を掴み、拳を振り上げようとする。咄嗟にそれを止めようとしたサイが殴り飛ばされ、フレイが悲鳴を上げ士官を睨んだ
「ちょっとやめてよ!キラが言ってる事は本当よ!」
『ちょっ、フレイ!!』
フレイが何を言おうとしているのかがわかり、マリアは慌てて止める
それを言ったら駄目っ!!
「貴様らいい加減にしないか!!」
「嘘じゃないわよ!だってその子コーディネイターだもの!!」
フレイの言葉に部屋が静まり返る
『馬鹿ッ!!なんで言うの!?』
キラがどれだけ危険な目に合うかも知らないで!
「なによ!だって本当の事じゃない!!」
「コーディネイター…なるほどな」
彼女達の会話を聞いていたガルシアはフレイの言葉が嘘ではないと確信し、帽子を被り直すをキラを格納庫に連れていくように命じた
『キラを放して!彼をどうするつもりなの!?』
「貴様には関係ない事だ!」
『キャッ』
「嬢ちゃん!」
兵に突き飛ばされ、倒れそうになったマリエをマードックが受け止める。それを見ていたキラはマリエに安心させる様に笑みを作る
「心配しないでマリエ。僕は大丈夫だから」
『キラ…』
連れて行かれるのを見送る事しか出来ない自分が悔しくて拳をキツく握りしめる
何が大丈夫なの、大丈夫な訳ないのにッ
「坊主が起動システムのロックを解除しない限りアイツらも坊主には手を出さねぇさ。それにフラガ大尉もアルテミスの連中を警戒してたし何か策を練っている筈。大尉達を信じようぜ」
『マードックさん…そうですね』
はぁ…と息を吐き、落ち着きを取り戻すマリエを見てマードックは肩から手を離すと、フレイを責めるトールの怒鳴り声が食堂に響いた
「なんであんな事言うんだよ、お前は!」
「だって…でも本当の事じゃない」
サイの手当をしながら煩わしそうにトールを見るフレイは自分が何故責められるのか理解出来なかった
「キラがどうなるかとか考えない訳?お前って!」
「…お前お前って何よ!キラは仲間なんだし、ここは味方の基地なんでしょ?ならいいじゃないの!」
フレイは先程のノイマンさん達の様子を見てなかったんだろうか。あれが仲間同士のやり取り?お互い敵を見る様な目で見ていた事に気がつかなかったの?
「地球軍が何と戦ってると思ってんだよ!!」
何も知らない自分達でも気づいたのにフレイは自分やサイの事ばかりで他の人の事なんかどうでもいいんだ
トールにそこまで言われても不機嫌そうに顔を顰めるフレイ。そんな彼女にマリエは冷めた目を向けた
一方、キラはガルシア達に連れられ格納庫に来ていた
「OSのロックを外せばいいんですか?」
「まずはな。だが君にはもっと色々な事が出来るのだろう?」
「何がです?」
怪しげに笑うガルシアにキラは顔を顰める
「例えばこいつの構造を解析し、同じものを造るとか。逆にこういったMS対して有効な兵器を造るとかね」
「僕はただの民間人で学生です。軍人でもなければ軍属でもない!そんな事をしなければならない理由はありません!」
「だが君は裏切り者のコーディネイターだ」
「裏切り者!?」
ガルシアの言葉に衝撃を受けるキラ。彼の脳裏に親友の顔がチラついた
「どんな理由でかは知らないがどうせ同胞を裏切ったんだろ?ならば色々と…」
「違う!僕はッ」
彼らを裏切ったつもりはない!!そう叫ぼうとしたが、それを声に出せなかった
何故なら自分はもう彼の仲間を一人殺してしまった
「地球軍側に付くコーディネイターというのは貴重だよ。なに、心配する事はない。君は優遇されるさ、ユーラシアでもな」
僕は…裏切り者なのか?
アスラン…君の、敵なのか?
ゴオオォォン__!
『なに!?』
あれからお互い何も喋らず、無言の状態が続いていると突然、艦に大きな衝撃が襲った
それも一度だけではない。今もその衝撃は続いている
『これって…敵に攻撃されてる?』
「まさか!ありえない!アルテミスは"傘"によって守られているのだぞ!?」
『え、でも…』
マリエの声が聞こえたのか兵が銃を構えたまま首を振りありえないと否定するが、その直後艦内に警報が鳴り響いた
「攻撃じゃないだと?ならこの警報はなんだ」
詰め寄って来るノイマン達の剣幕に兵は思わず後ずさる
「わからねぇのかよ!」
「だったら誰かに聞いて来い!どう考えたってこれは攻撃だ!」
そう言って兵達の間を通り抜け、食堂を出ていくノイマンに兵は慌てて銃口を彼の背中に向けた
「ま、待て!」
「させるか!」
すかさずマードック達が銃口を向ける兵を取り押さえ、マリエ達にもブリッジに行って艦を起動させる様に言ってきた
アルテミスの人達が困難している今がチャンスだ。キラもフラガさん達も何とか上手くやってるよね?
彼らを信じ、アルテミスから脱出する為にマリエ達はブリッジへ向かった
ストライクのお陰でアルテミスとそのアルテミスを襲ったブリッツから逃れることが出来たアークエンジェル。無事にマリュー達とも合流し、次の目的地が決まるまで自由にしていいと言われたマリエは一人、窓から外の景色を眺めていた
『はぁ…』
ブリッツがアルテミスを攻撃してくれたお陰でなんとか逃げる事が出来たけど、こうも戦闘が続くと流石に疲れる
早く安全な場所に着けばいいな
そんなことを考えていると近くからトリィの鳴き声が聞こえてきた
〈トリィ!〉
『トリィ!どうしたの?』
トリィはマリエを見つけると二周ほど彼女の周りを飛んでから先程来た方向へと進んでいく
『ついて来いってこと?』
一体どうしたのかとトリィを追いかける
〈トリィ!〉
案内されるまま、後をついていくとトリィがある部屋の前で止まったのを見て首を傾げる
『此処に入りたいの?』
〈トリィ!トリィ!〉
トリィがこんなにも入りたがってるって事はもしかして__
部屋の仕切りドアを開け、中を覗くとそこには暗闇の中でベットに座るキラがいた
『キラ!』
「…マリエ?」
どうして此処に?という顔をするキラの肩にトリィがとまる
『トリィが連れてきてくれたみたい』
そう言いながらマリエはキラの顔をじっと見つめる
「な、なに?」
『よかった、怪我はしてないみたいだね。あのガルシアって男、すぐに手が出るみたいだから殴られてないか心配だったの』
まぁ、キラならあの時みたいに簡単に躱すと思うけどと、笑うマリエにキラは堪らず彼女の腕を引っ張り抱き寄せた
キラに強く抱きしめられたマリエは顔が熱くなるのを感じながらキラの名前を呼ぶ
『キ、キラ…あのっ』
「僕は…裏切り者なのかな?」
『え…?』
ポツリと呟かれた言葉に思わず聞き返す
「僕はっ、裏切り者なのか!?あの人の言葉に否定できなかったんだ!!」
流石にキラの様子がおかしいと思ったマリエはキラを見上げると、キラは苦しそうに涙を流していた
その姿を見て胸が苦しくなったマリエはキラの気持ちが少しでも良くなる様にと背中を優しく撫でる
『あいつらに何か言われたの?』
「…君は裏切り者のコーディネイターだって言われたんだ」
『なっ!?キラは裏切り者なんかじゃないよ!!』
「僕もそう言おうとした。けど…僕はアスランの仲間をっ」
アスラン…?
知らない名前に一瞬眉を顰めるが、すぐに思い当たる人物が1人浮かんだのでキラに聞いてみる事にした
『もしかして、その人ってイージスのパイロット?』
「どうしてそれを!?」
『この前、一緒に艦内を散歩した時に言ってたでしょ?ザフトに戦いたくない奴がいるって。キラはなんだかイージスとの戦闘を避けてる感じだったからもしかしたらって思ったの』
確かにあの時、マリエにアスランの事を言い掛けていたのを思い出したキラは少し悩んだ末、マリエになら話しても大丈夫だろうと口を開いた
「……アスランは僕の幼馴染なんだ」
3年前まで月で仲良くしていた親友と呼べる存在で、ヘリオポリスが襲撃された時にザフト兵になった彼と再会したこと
戦争を嫌っていた彼が血のバレンタインで母を亡くしザフトに入ったこと
地球軍のアークエンジェルからキラを下ろし、プラントに来るように説得しようとしていること
キラもアスランも互いに戦いたくないと思っていること_
抱えていた悩みを打ち明けることが出来たキラは大分落ち着きを取り戻していた
『…そっか。友達同士で戦うのはすごく辛いね』
「うん…。デュエルにやられそうになった時、アスランが助けてくれたんだ。そんなことしたら大変な目に遭うのはアスランだってわかってる筈なのに…!」
『…キラは、プラントの方に行きたい?』
「えっ」
『プラントに行ったら大切な親友と一緒にいられるし、アルテミスの奴らみたいにキラを傷つける人はいないと思う。キラが苦しまないで済むなら私…』
自分を思ってのマリエの言葉にキラは驚くと同時に嬉しく思った
こんなにも自分を大切に思ってくれる人がいるなんて
「僕は…行かない」
『キラ…』
本当にいいの?と言いたげなマリエに頷く
「マリエ達を置いてプラントになんて絶対に行かない。たとえそれが……アスランの頼みであってもね」
『そう…。キラが決めたのならこれ以上何も言わない。でも、辛くなったら言ってね。私に出来ることは限られているけど、それでもキラの助けになりたいから』
いつも私達の為に戦って、守ってくれる心優しい彼の力になりたい
キラにはいつも笑っていて欲しいの
「助けって…何するの?」
『そうだなぁ…』
助けになると言っても具体的なことはまだ考えていなかったマリエは少し頭を悩ませた後、閃いた!とばかりに顔を明るくさせた
『もし、キラが辛くなったり苦しくなったら…私が慰めてあげる!!』
ドーンッとさぁ、来い!とばかりに両手を広げるマリエにキラはキョトンとした後、プッと吹き出した
「あははっ!」
『な、何よ。結構本気で言ったんだけど…』
笑うキラになんだか恥ずかしくなりマリエは手を下ろし、顔を逸らす
「ご、ごめんね!なんだかマリエ、お母さんみたいだなって思って」
『お、お母さん…』
せめてお姉さんって思って欲しかった…
「だって君はいつも僕を甘やかしてくれるから。………それじゃあ、お願いしようかな」
『えっ』
マリエの肩をそっと押し、ベットに押し倒したキラはそのまま彼女の胸に顔を埋め、抱きしめた
『キ、キラ!?』
「少しだけこのままでいさせて…」
小さな声でポツリと呟いたキラの身体が微かに震えていることに気づいたマリエはドキドキと鼓動が高鳴りながらもよしよしと頭を撫でる
やがて、すすり泣く声が聞こえてそれに反応したトリィが心配そうにキラの周りを飛び回る
『大丈夫、大丈夫だよ』
どうか、キラがこれ以上傷つきませんように
マリエは心の中でそう祈った
あれからどれくらい時間が経っただろう。やっと顔を上げたキラの目は赤くなっていた
『もう大丈夫?』
「うん…大分スッキリした」
覆い被さっていたキラが退き、身体が自由になったマリエは身体を起こす
慰めるとは言ったけどまさか押し倒されるとは思わなかった。私的には膝枕とかをイメージしてたんだけど、キラってば意外と大胆なんだな
「マリエ…」
『?』
名前を呼ばれ何かと顔を上げた瞬間、唇に何か柔らかい物が触れた
えっ___
目の前には目を閉じたキラの顔があり、何が起きているのか理解できない
え、え!?これって___
数秒後、触れ合っていた唇が離れ、目の前にいたキラも遠ざかる。その様子をただ呆然と見ていたマリエはさっきまで彼と触れ合っていた自身の唇に指を当てる
「ありがとう、マリエ」
そう言って微笑むキラにマリエは言葉が出なかった