免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く 作:アルトリア・ブラック(Main)
物心ついてすぐ、両親から言われたのは『真っ白で良い子』だった。
一人っ子として大切に育てられた記憶は大いにあり、それなりに金をかけて貰った記憶もある。
私の家庭はそれなりに裕福な家庭だと思っている。シビュラからの判定で都内の名門幼稚園に入ることができ、いわゆる勝ち組枠だった。
親が口を揃えて言うのは『シビュラに従えば間違いはない』という言葉
確かに今の社会の在り方としてシビュラは間違いではない。
でも、人生の方針を全部頼り切って良いのかと幼心に思った。
少しは自分で考えたい、自分で未来を掴み取りたいと思っている部分はあった。
幼い時にそう言えば、両親は複雑そうな顔をしつつも機械を見て私のことを賢い子と言った。
必ず私が何かを言えば機械を見てから私を見る。一回何かを挟まないとこちらを見てくれないことに寂しさを幼い頃は思ったものの、次第にそれは普通のことだと思うようになった。
「相性適性?」
中学に進学してからシビュラからそう診断を受けたと両親が話していた。
私にその相性適性を見せるのを嫌がっている両親を不思議に思ったものの、我儘を言えば見せてくれた。
「白澤雪絵ちゃん?」
データに載っている少女は銀髪っぽい白髪の綺麗な顔をした女の子だった。気だるげな感じでちょっと暗いなと思った程度で凄く美人な子だった。
両親の話ではこの子はかなり特殊な出自らしく、関わらせたくないのが本音らしいが、シビュラからは相性良好と出た手前、大っぴらには否定していなかった。
「初めまして、佐藤由美です」
その雪絵ちゃんと出逢った時、初めての感覚になった。
それは親を愛するような感覚、一目惚れに近いだろう。自分は同性が好きなわけではない、むしろ、異性と結婚できるならその方が良いと思える方だ
「白澤雪絵です。よろしくね」
そう簡潔に済ませて読んでた本に目を落とす雪絵は中学生というより知的な大人だった。
「ねぇねぇ、雪絵ちゃん、なんの本読んでるの?」
そう問いかけると雪絵は本の表紙を見せてくる
「…『人間に向いてない』……?ミステリー?」
「ミステリー。ちょっと虫描写があるけど」
そう言われ「虫だけは嫌」と言いつつ、読んでいる雪絵と本を見る
ある程度読み終えたのを見て
「オチ良かった?」
「オチだけ知りたいの?」
「うん、だって虫嫌だもん」
そう言うと雪絵は『見方によってはハッピーエンドだね』とまとめる
「え?何それ、そんなエンディングあるの?」
主人公目線で見るとハッピーエンド?と聞くと
「うん、面白いよ?読む?」
「うーん…虫描写さえなければ…」
「虫って言ってもゴキブリとか蜘蛛って言うよりミミズ的な…」
「あー!もう、その点で無理、ていうか、雪絵ちゃん凄いね」
彼女と話していると時間を忘れられた。楽しくて仕方なかった
「佐藤由美さん今月の色相検査またクリアカラーだったわよ」
先生から褒められて「やったー」と言いながら席に戻る
「雪絵ちゃんは…」
大して喜んでいないのを見て一瞬聞くのを躊躇ったが出した言葉は雪絵に届いたのか
「…ホワイトカラー」
そう言って見せてくれる
「え?白?見たことないよ、サイコパスもひっく」
嬉しくなさそうな雪絵を不思議に思いつつデータを見ていると
「白澤、またホワイトカラーで0なのかよ、赤ん坊か?」
「なぁ雪絵ちゃん」
生徒達に言われるも雪絵はまるで気にしていなかった。
「宮坂さん、また色相がグリーンまで行っているわよ、ストレスケアのためにしばらく学校をお休みしたら?」
そう生徒に言う教師に目線が行く雪絵
宮坂と呼ばれた女子生徒が暗い顔をしながら席に戻っていく。すれ違う生徒が『ヤダヤダ』と言って目線を離す
(…色相悪化かぁ…宮坂さん、休んだ方が良いのに…)
雪絵は彼女をじっと見ていた
その後、雪絵が珍しくその生徒に話しかけに行っていた。
話をしていた宮坂さんがどことなく楽しそうにしていた。
その翌日、宮坂さんは学校を休まずきていた。
「あら、宮坂さん、色相がクリアカラーになってるわ、ストレスケアきちんとしてるのね」
そう言われて宮坂さんは嬉しそうに雪絵を見て笑う
雪絵は軽く手を振るだけで後は変わらなかった。
それどころかどことなく寂しそうだった。
例の爆破事件から雪絵のやる事は公安局との共同の捜査以外特に大きな変わりなく、突然呼ばれることもあり、待機する時間があった。
「………」
急に呼ばれる事があるため、友人とのお茶はそんなに出来ないと由美に伝えると『別に良いよ!』と言われる。
本を読みながら喫茶店で待っていると…
「お待たせ〜!ごめん!忙しいのに」
やって来た由美に気付き、本をおく
太陽のように明るい笑顔の由美、科学技術省で働いていても特にストレスもないのか、日々楽しく仕事しているとのことだった。
「元気そうだね、由美」
「まぁね〜、雪絵は相変わらず読書家だね、何々?今日読んでる本は珍しく有害本じゃないじゃん」
「…珍しくて」
苦笑いしながら由美が興味津々な本を見る
「『人間達の物語』?あれ?こんな分厚い本だったっけ?」
「旧作の方だよ、新作のは有害な箇所を削って出版した絵本」
「やっぱり有害本だったんだ、たまにはオススメされた本読んだら?」
お茶と食事を頼みながらいう由美
「たまには読むけど、基本的に平和な展開多すぎてつまらないんだよね、起承転結ばっかりあって読者に考えさせる本ないし」
シビュラシステムが出来て以来、電子書籍で発売される本は雪絵にとってみれば、絵本のような平和な物語しかなく、起承転結がしっかりとあり、基本的にみんな幸せになるエンディングしかない。
なかにはバッドエンドを書いてる作品はあるが、レビュー欄は酷評しか書かれていない。
誰も幸せになれない物語なんてモノはメンタルがやられると酷評され、どんな過程があっても最後は絶対に幸せになってほしいなんてコメントがあるくらいだ。
「平和すぎる話は確かに見ててつまらないけど、精神衛生的には良いよ、まぁ、そういう私もフィリップ・K・ディックとか好きだけど」
ズズーとお茶を飲みながら笑う
「『アンドロイドは電気羊の夢をみる』?」
「『高い城の男』かな、途中わけわからなくなってん?とは思うけど、もしもこうなっていたら、こういう社会になってたらって考えたら今の社会って割と恵まれてる方じゃないかなって」
笑顔で言う由美が『アンドロイドは電気羊の夢をみるって有害図書で二冊しかない最後の一冊が誰かさんに買われたから読めないよ』と言われる
「ナチスドイツと日本帝国が世界を支配するっていうのなかなか怖いよね、でも、日本人にとっては最高の未来で、他の人種からしてみれば最悪な世界に他ならないあの感覚が好きなんだよね」
「一種族の幸福のために他種族が犠牲になる最悪な世界、ああいう世界にならなくて本当に良かったよ」
「………」
潜在犯達の生活を思い出し無言になる。
(…ナチスドイツは敗者だからこそ、アウシュヴィッツは史上最悪な施設になったけど、今の更生施設と何が違うんだか)
毒ガスで殺すなんてまんまアウシュヴィッツの技術を採用したような物だ。
まぁ、無意味な労働や虐殺をしていない分マシな方なんだろうが
「ところでさ、雪絵、厚生省公安局の局長から直々にヘッドハンディングされたんでしょ!」
「え?まぁ…犯罪心理学者として、だけど…」
犯罪者、この世界では潜在犯と言われている彼らの心理を理解し、犯罪になる前に推測し予防する
一種のプロファイリングを求められている気がした。
「雪絵はホント凄いよねー犯罪心理学者なんて、絶対に就けない仕事だよ」
「まぁ…絶滅危惧種扱いされてるし、犯罪者の心理を理解しようなんて心持ったら潜在犯になるのが目に見えてるし、誰も考えたくないよね普通」
淡々と言う雪絵に由美はスプーンを置き
「雪絵はさ、サイコパスが濁らない自分の体質が嫌で仕方なかった訳じゃん?学生の頃もアンタ、人の心ないんかとツッコミたくなるくらいエゲツないことしてエリアストレス上昇させたりしたり、まぁ、割とヤバこの人とは思ってたけど」
「……怪物で悪かったですね」
ジト目で言うと由美は微笑み
「怪物なんかじゃなくて、私は思った訳よ、堕落した天使は羽を取られたから悪魔になったわけじゃん?なら、雪絵はまだ片方の羽がもげただけの天使ってなるワケ」
「…………」
遠慮なしの由美に苛立ちは湧かないが、そんな風に見られてたのかという事にジト目になる。
「誰も出来ない仕事を雪絵は必要とされてる。潜在犯の心理を理解して予防する。それって、この社会の国民からしてみれば、毒にも薬にもなるワケ!何回も言ってるけど、絶対に犯罪は犯さないでよ!今のアンタは、市民を守れる見習い女神さまなんだから」
「……女神に見習いとかあんのかな?」
由美は「分かんないけどさ」と言い
「ほら、アンタが貸してくれた天才ハッカーの話あったじゃん?」
「あぁ、FBIにスカウトされたアメリカのハッカーの話?」
「そうそう、アイスマンはそのハッキング技術のせいで、悪を知って堕ちてしまったけど、アンタの才能も使い方を間違えれば史上最悪の潜在犯になり得るだろうけど、使い方を間違えなければ最後まで罪のない人間として生きていられる訳」
由美は笑顔で『ずっと普通の人であって欲しいな』と言う。
すると、慎導灼から電話が来る
「ごめん。早速公安局に呼ばれちゃった」
立ち上がり、羽織っていたものを持つ
「いってらっしゃい!無理しないでね!」
「ありがとう!また今度食べに行こうね」
そう言って走っていく
公安局に向かう道中、事件が発生した経緯を教えてくれる。
『春田文章の自宅周辺から異臭がすると近隣住民から過去に二係に通報があるのを確認しました。その当時、様子を見に行った二係からは異臭は収まり、本人の色相もクリアで何も無かったから引き返したという報告がありました』
灼の報告、一緒にいる炯が不快そうな顔している。
『…春田文章の自宅周辺からまた異臭騒ぎがあったため、本人に事情を聞き、自宅捜索を快諾され、入りました。その時の室内の写真コレです』
自動運転にしているため、両手を離し、手首から出てくるモニターに写った写真を見る。
薄暗い部屋、カーテンは閉め切り、フォログラフを使わずにいる珍しい室内。
「………」
ある場所をアップし、違和感を感じる
天井にまで行かない壁、156センチくらいの女性が立って口元当たりの壁に血のような色がこびりついていた。
『行方不明であった春田文章の母親の血液が下水道から発見されました。しかし、遺体の断片はなく、バラバラにしたのは確実です』
灼はメンタルトレースして特定したのか心臓の部分をさすっていた。
「ありがとうございます。春田文章は取調室にいるんですよね?何か言ってました?」
灼は首を振り
『全然、話ができないんです。こっちが質問したらはいかいいえだけ、どこか虚ですし、殺したにしては静かすぎるんです』
普通の事件の犯人と違うのか、まるで興奮していないと言う。
「分かりました。少し疑問に思った事があったのでそちらに伺います」
『よろしくお願いします』
公安局に着き、取調室に案内される。
待ち構えていた男性を見て違和感が確実なものになる。
「公安局犯罪心理学者の白澤雪絵と言います。よろしくお願いします」
「はい」
虚ろな瞳、ロボットのような雰囲気
『全ての精神疾患者のために、治療のためにこの技術を広めなければならない!』
ウォルター・フリーマンの幻覚が見える。
「今回自分が何故ここに連れてこられたか分かりますか?」
「はい、悪いことをしたからです」
弁護士にこう言えと言われて話しているような口調になる。
「その悪いことってなんですか?」
「…部屋を汚くしたことです」
少し間が生まれた事と、目の動きが少し変わったのを見て、両手を組み、前のめりになる。
被害者は春田文章の母親であり、心臓を一発で突かれた事により即死だという事だった。
「母親をどうしました?」
「解体して流しました」
「どこに?」
「下水道に」
決められた答えしか言えないような声色に一旦深呼吸をする。
『大丈夫ですか?雪絵さん』
灼の声が聞こえてくる
「大丈夫ですよ」
(…現場には大きな鍋があった。バラバラに流したにしては、量が少なすぎる…)
松崎勇人の事件の時は下水道から遺体の断片が数多く見つかった。
しかし、今回ばかりはその傾向が見られなかった。
深呼吸し、しっかりと目の前の春田文章を見る
ビデオの砂嵐があたりに現れる。
その砂嵐から一人の男がゆっくり現れる。
好青年のような見た目の男が、春田文章を見る
「『死体はバラバラに細切れにして冷蔵庫に保存した?』」
「……」
そう言うと春田はビクつき、視線が下を向く
「『女性の死体は、男性の死体より切り易い。君ぐらいの身長と体幹なら問題なく切れるだろうね』」
雪絵はモニターを操作し、現場の写真を映す
「あなたのお母さんはあなたの事をかなり愛していた。それも、貴方の衣食住を全て管理するような人間だった」
愛情がかなり重い、共依存気味の親と言われていた。
「あなたのサイコパスが基準値を超えた3ヶ月前、あなたの母親はあなたを連れて廃棄区画に行った。そこからあなたのサイコパスは基準値を下回った。でも」
「あなたのサイコパスが下がっても『あなたの気持ちは変わらなかった。母への憎しみは強まり、殺害した』」
愛の反対は憎悪ではなく無関心、母に言われた言葉を機械のように行っていたが、次第に彼は理性を持った。
恋人適性で幸せになりたいと願っても母はシビュラ判定された相手を責め続けたろう。
「ちがう…」
ロボットのようだった彼が初めて口を開く
「『自分を支配する母を憎んでも、結局は愛していた。君は母親を殺害して、ずっと見ていて欲しいと依存した』」
憎んでいるつもりで、知らずの内に母親に依存してしまうのだろう。
「『食べる事で自分と一体化し、見ていて欲しかったんだろう?人体はちゃんと血抜きをしないと食べれないからなぁ』」
「………」
「『だから排水溝に一定の血が流れ、残りは君が食べた、頭蓋骨はどうした?』」
好青年のような男は春田を撫でながら嗤う
「『頭蓋骨はクッキーのように砕けるだろうけど、食べるには大きすぎるからな、どこに保存したんだい?』」
「………かの下…」
呟くように言う
「『うん?』」
「床の下…です」
そう言われ、好青年は嗤う
「雪絵先生!」
パァン!と少し大きめな音が頭の横で聞こえてくる
「!」
いつのまにか入ってきていたのか、灼が首を傾げて微笑んでいた。
「一旦休憩しましょうか、先生」
『あぁ、入江達を連れて行ってくる』
炯監視官がそう言って動き始める
「雪絵先生、外出ましょ、とりあえず」
「……タバコ吸いに行って良いですか?」
眉間を抑えながら言うと灼は笑顔を浮かべ『良いですよ〜』と言う。
【参考文献】
『人間に向いてない』
著者名・黒澤 いづみ/〔著〕講談社文庫
出版社・東京 講談社
《軽い内容》
ニートや引きこもりが突然異形の化け物になってしまう病気が流行する物語。化け物になった人の目線ではなく周りの視点の物語
『人間たちの物語』
著者名・柞刈湯葉
出版社・早川書房
発売日・2020/3/18
↑オススメ
『たのしい超監視社会』
バッドエンド作品って鮮明に記憶に残るけど、ハッピーエンドって残らんよなぁ…吐き気がしつつも興奮したのは『向日葵の咲かない夏』でしたねハイ
ちなみに次は今日の19時です