免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く 作:アルトリア・ブラック(Main)
春田文章の母親の頭蓋骨が自宅の冷凍庫から発見されたと言う話を聞かされる。
「えーと…綺麗に肉を切られてるわね、まるで、焼き肉みたいな感じでコンロで焼いてたみたいよ」
そう聞いた瞬間、執行官たちも気持ち悪いと口々に言っていた。
「春田文章の犯罪係数は相変わらず基準値、一応保護観察してるんだけど…問題はこっちの方」
そう言って見せて来たのは留置所のような場所に一人倒れ込んでいるようにいる男性だった。
「同窓会爆破事件の犯人なんだけど、ここ数日まともに受け答えが出来ない上、失禁や混迷している様子で時々痙攣しているのよ、医師の見立てじゃ脳機能が炎症を起こしてるみたいなんだけど…」
「ロボトミーの副作用ですね、これを放置したら死にます」
雪絵の言葉に唐之杜が振り返る
「何か手立てある?」
「穏やかに死ねたら幸せ、なんじゃないですかね…」
そう呟くように言うと炯が拳を握り締める
「死んだ方が幸せな状態になるんですよ、これで犯罪係数が正常値、犯人からのメッセージみたいですよ」
ロボトミーにはいろんな副作用がある。感情を失って無気力になるのも十分辛いが、特定の感情だけ残ったまま他の感情を感じられなくなるのは何より辛いことだろう。
「これがシビュラの社会にとって健康的な人間だって言う皮肉言ってるみたいですね」
灼の言葉に常守は唇を噛み締める
「潜在犯を身内から出したくない思いが暴走して、こういう人間が出続けたら洒落にならない。急いで犯人を逮捕しないとな」
この世界においてサイコパスが安定していない人間は感染者のように扱われる。
つまるところ、そういう人が沢山いればいるほど黒幕の思う壺なのだ。
「そうだね」
炯と灼が話している横で雪絵は悩む
「にしても、ここ数ヶ月、色相が悪化してんのに急に持ち堪えた人間を割り出すの、結構時間かかるぞ監視官」
入江の言葉に『やるしかないだろう』と言う
「炯監視官、慎導監視官。その割り出しに女性は省いて大丈夫です。後、5歳〜30歳代までの男性で両親が生きててそこそこ社会地位のある人間、廃棄区画に近い人間を割り出してもらってください」
雪絵の言葉に「なぜ、女性は省くの?」と常守が言う
「女性の潜在犯ってそんなにいないんです。いたとしてもダークイエローに行くほど悩んでる人間いないんです。でも男性の親は違う、息子だからと言う理由で過保護になる例があります。後…この人について調べてもらって良いですか?」
そう言って唐之杜に名前と性別を伝える
「科学技術省 部長 松本雄二?どうして?」
「私の本を貸してる人間ではあるんですけど、話しててなんかおかしい人なんです」
「ちなみになんて本を貸したんですか?」
灼の言葉に雪絵は『…正当な手続きで借りましたし、相手の色相を見て貸しましたから』と呟き
「『ロボトミスト』ウォルター・フリーマンの一生を書いた物語です」
その本の内容に炯は深いため息をつき、灼が「えげつないの貸しましたね」と言う。
「まぁ、それを読んで色相が悪化してる様子もないから話を聞くにはちょうど良いんじゃない?ほら、サイコパス10だし」
「灼、入江を連れて松本雄二の話を聞きに行ってくれ、俺は他の執行官を連れて行く」
「あ、私も慎導監視官の方に同行していいですか?」
そう聞くと二人とも少し考えた後、灼が「いきましょうか」と言う
立ち上がって外に出ようとすると、由美からメールが届く
《松本部長から本を返したいって言われて本を預かってるから、今度会おうね》とメールが来る
「………?」
「雪絵先生?」
「あ、今行きます」
何か違和感を感じつつもメールを閉じる
灼と同じ車に乗り、後部座席で書類について見ていると…
「雪絵先生って音楽聞きますか?」
「ん?音楽ですか?」
書類を一回消す
「最近流行りのアイドル、可愛くて歌声も良いから好きなんですよ、ほら見てみます?」
そう言って映し出されたコンサートの映像に雪絵は『まぶしっ…』と言う
「…これが最近の流行りの音楽…いろんな色使ってて目が痛くなりますよ…こんなの」
「まぁ、そこは確かにと思っているんですけど、色には様々な効果があるみたいですよ、例えば緑はリラックス効果や疲労回復効果があるから好んで使われるみたいですよ」
今の時代の人間は穏やかな音楽が多く、メタルのような激しい音楽はないに等しい
「色彩心理学とかありますからね……まぁ、色彩が与える心理傾向とか無視出来ませんけど…私はコレ好きですよ」
そう言って音楽を灼の端末に送信する。
流れて来る音楽が想像以上に優しかったことから驚く灼。
「えっと、コレなんですか?ZARD?」
「1990年代に活躍した女性ボーカルアーティストです。私、かなり好きなんです。彼女の歌」
流れて来る音楽に灼が「確かにこれは落ち着く…」と頷く
映像も派手ではなく、古いこともあってかかなり落ち着いた色合いだった。
「でもなんか哀愁が漂ってますよね、題名は『揺れる想い』かぁ」
「歌詞ひとつひとつに意味が込められていて、カウンセリングで必ず使う音楽なんですよ、基本的に前向きな音楽が多いから」
音楽は精神を安定させるモノであり、音楽と心理は切っても切れない関係だ
「…まぁ、落ち着く曲だからってループして流してる施設ありましたけど…同じ曲何回も聴いてたら精神参りますけどね」
一度、広島の潜在犯更生施設に行った時のことを思い出して遠い目をする。
同じ曲を一日ずーとループして聴いていたら精神が参るモノだ。聞くとしても別のものを挟んだり、止めたりするのが必要だろう。
「あはは…」
苦笑いする灼
科学技術省、管理室に着くと部長である松本雄二が出迎えて来る。
「こんなタイミングで会えるなんて信じられませんね、会えるって分かってたらあの本、今この場でお返ししたのに」
申し訳なさそうな顔をする松本雄二
「あなたは更生施設に行く前の潜在犯の家族から面談を受けてる。あなたの仕事の内容じゃあ、良い施設を紹介するってだけになってますけど、アンタが依頼した家族の大半が落ち着いたって帰って行くのが多いが…アンタ何かやってんのか?」
入江の言葉に松本雄二は笑いながら両手を広げる
「嫌だなぁ、僕はただセラピーまがいのことをしているだけですよ!雪絵先生の足元にも及びませんけど…」
灼の隣に座っていた雪絵はファとため息をつき
「『ドライブスルー・ロボトミー手術』知ってますよね?その簡単すぎる手術はもはや医師が扱わなくても良いレベルまで落ちてるんです。アレですよ、過去の殺人犯が医師がやったロボトミーの手術を模倣したみたいですよ、かなり劣悪な状態ですが」
このシビュラの世界になってから便利なものが増えた。
アイスピックなんぞより細い武器は手に入るし、脳の様子を常に出せる写真すらある。
「連続殺人犯は好奇心旺盛でやったって話を読みましたよ、医師に出来ることは自分も出来るんじゃないかと」
饒舌に話す松本
「あなた、春田文章って人知ってますか?」
そう言ってモニターを見せる
話している最中、灼がトレースに入っているのか耳にイヤホンを入れていた。
「春田文章…?えーと、確か…」
「『松本先生、僕、間違ってないよね…感情何も感じないけど、母さんがいつも以上に笑ってくれていたんだ』」
灼がメンタルトレースに引っ張られ始める
炯監視官がいない為、現実に戻ってこない場合は揺さぶって起こしてあげてくださいと言われる。
「あぁ、彼の家族が来てましたね、息子のサイコパスが悪化したから良い施設を教えて欲しいと言われましたね、もちろん、どこの更生施設もいっぱいだから待ってくださいって言ったんですよ、そうしたらお母様が泣きながら『少しでも早く良くなって色相が白くなって普通に生活して欲しいのに』って」
「『僕は今幸せかは分からない』」
そう言う灼のイヤホンを耳から取る
これ以上、メンタルトレースしても無意味だろう。
彼は明らかに黒だ、ロボトミーを普通に実行したのだろう。
「…人の脳みそをいじくり回すのは犯罪です」
「どう犯罪だと?彼らの色相は白くなり、シビュラにとっての健康的な人間になった。家族は幸せそうでしたよ、今この時代こそ『ロボトミー手術』は必要じゃないですか?まぁ無論、あんな杜撰なやり方はしませんよ、きちんとした場所できちんとした手術を行えば良いと思ってます」
入江が松本にドミネーターを向ける
《犯罪係数0 執行対象ではありません。トリガーをロックします》
「ッチ…」
入江が舌打ちする
「松本部長、少し来て貰って良いですか?」
そう言った松本は笑顔で我に返った灼が「少し休憩しましょう。松本さん、必ず戻って来てください」と言う
灼が一度報告に行くと言って玄関の方に向かう
入江執行官は松本雄二が逃げないか見張っていた。
「………」
ロボトミー手術、その手術は当時かなり人気を博していた。
それがかなり昔の話で、2000年代ではあり得ない手術と言われているのは、その手術の杜撰さと、環境のせいもあった。
【精神病患者が山のようにいて施設がパンパンだった。その当時の精神病院はかなり劣悪で人が暮らすような施設じゃなかった】
増える潜在犯と精神病患者。精神病患者は特に周りから見れば『同じ人間だから守られて然るべき』という考えになるだろうが、身内からしてみれば人間とかそういうのは関係なく、自分の人生に枷を付けてくる厄介な人間に他ならないだろう。
『私はおかしいの?どうして雪絵は白いままなの?どうして、あんな目にあわなきゃダメだったの?』
実の兄に強姦されそうになった姉のサイコパスは悪化の一途を辿っている。
「………」
椅子に深く寄りかかり天井を眺める
姉が殺処分領域ー300ーに行かないのは奇跡に近く、雪絵が繰り返し会いに行って、何度も色相を下げようと努力していたからだ。
でも兄の方はどうだ?脱獄して、また同じことを起こして、雪絵は正直、どうでも良かった
実の兄だろうと獣のように落ちて行ってしまった兄にもう興味なんて持てなかった。
私にとってはどうでもよくても、他がそうとは限らない。
家族だから捨てられない、そういう家族を何人も見てきたではないか
「失礼しまーす…あ、雪絵だけ…?今仕事中?」
ひょっこりとのぞいて来る由美
「……」
考え込んで気づいていない雪絵を見て横まで歩み寄り、耳元で『ゆーきーえ!』とそこそこ大きな声を出す
ガタガタッ
椅子から転げ落ちた雪絵が『ゆ、由美…?』と聞く
「ごめんごめん。雪絵今仕事中?」
「…えっと、休憩かな」
「そっか、ちょうど雪絵が来てたから本返すね?ハイ」
そう言って本を手渡して来る。
「あ、ありがとう」
そう言って本を横脇に置く
「仕事中だから言えなくても良いんだけど…松本部長何か疑われてるの?」
由美の言葉に「守秘義務があって言えないこと多いけど…」と切り出しつつ
「松本部長が取り組んでいる技術知ってる?」
「あぁ、松本部長が研究しているのって確か、人の脳を観察して感情をある程度抑えられるかって研究だったよ?確か、新作のストレスケア薬剤も出せそうだって話してたし」
由美が腕を組んでふむふむと言った顔をする
「…ありがとう。由美」
そう言うと我に返った由美が
「この世界のストレスケアって少し過剰だってアンタは言ってたじゃん?私もそうは思ってるよ、人間はある程度ストレスは大事だって、過度なストレスケア薬剤の服用は将来『ユーストレス欠乏性脳梗塞』に陥りやすいって、ネットとか他の人達はそれを都市伝説にしてるけど、私も松本部長もそれは都市伝説じゃないって思ってるわけ」
「………」
由美が語り始める
「潜在犯を感染症みたいに例える人達は正直世間知らず過ぎるし、潜在犯更生施設で働いたことある雪絵にもわかるでしょ?潜在犯なんて付いてるけど、彼らは立派な人間だって、生きる価値のない人間なんかじゃない。300オーバーは殺処分対象なんてホロコーストのようなこと、このシビュラシステムの世界でやっちゃいけないって松本部長も言ってたよ」
由美の言葉に更生施設を思い出す。
300オーバーした潜在犯達を殺処分した時、彼らは狂っていた。
単に脳の中で『人をバラバラにしてみたい』とか『殺してみたい』と言ったようなやばい思考の持ち主だっているかもしれない。
(…だからって、人が人の脳を勝手にいじって感情を抜き取るのなんて許される行為…?)
悶々と悩んでいると灼が入って来る
「雪絵先生、一度公安局に…」
そう言おうとして隣にいた由美を見る
由美はハッとなり「失礼しましたー!」と言ってその場から離れる。
「?あ、雪絵先生、とりあえず公安局に松本雄二を連れて行って事情を聞きます」
「あ、はい、わかりました」
そう言って立ち上がる雪絵、返して貰った本を横に持つと、灼が興味深々に見て来る
「それ、返して貰った本ですか?」
「あ、はい。『ロボトミスト』って本です。最高に気持ち悪くなりますよ」
そう言うと苦笑いを浮かべる灼
「雪絵先生ってそういう本いっぱい読んでるみたいなんですけど、どうしてそういう本いっぱい読むんですか?」
そう聞かれ、雪絵は窓の外を一回見て
「忘れちゃいけないことだからですよ、ロボトミーもアヘンも優生学思想も全部人間が犯した過ちですから、人間は過去の禍いを忘れてしまったら同じことを繰り返しますから、絶対無かったことにしちゃいけないことだと思うんです」
一応自分でも確認しながら投稿しました。それでもおかしい箇所があるかもしれません。本当にごめんなさい(日本語ダメで…)