免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く 作:アルトリア・ブラック(Main)
『両親は即死、白澤江美さんは更生施設へ移送、白澤義和は頭を殴られてはいたものの、死んでいなかったから病院に送られることになったけど…』
「…犯罪係数によっては即執行されてもおかしくない、か」
宜野座執行官の言葉に唐之杜は「えぇ」と言う
『両親を殺害したのは間違いなく白澤義和ね、両親二人を滅多刺しにする際に馬乗りになったんでしょうね、彼の指紋しか取れなかったわ、で…問題なのが…』
「…白澤雪絵の犯罪係数が上昇していない、ということか」
現在、常守と一緒にいる10歳の白澤雪絵は兄をバットで殴り飛ばしたのに、犯罪係数が0というあり得ない数値を叩き出した。
『目の前で両親の遺体を見て、なおかつ、兄を殴っているのだから普通なら即執行されてもおかしくはないんでしょうけど…彼女、数年間、色相が全く濁らない優等生と医師からの診察結果にもあったわね。彼女の両親と兄はよく喧嘩していたみたいで…白澤江美さんの色相はここ数年落ち込む傾向があったけど、彼女は一切なし…。しかも、時々犯罪係数0を出してたみたいよ』
「…槙島聖護のような体質の人間が現れたということか」
槙島聖護による事件が幕を引いてから数ヶ月。
それまで免罪体質者は現れなかったが、今回、また同じ体質の少女が現れた。
宜野座執行官は常守と一緒に救急車に乗っている少女を見る。
やって来た人たちに姉が気絶させられ、兄は病院へ搬送されたのち、正式に犯罪係数を計測するらしい。
詳しい理由は聞かされなかったが…
(…人殴ったのに、犯罪係数が上がらなかったら逮捕もされないんだ…)
生まれ変わる前の社会だったら、逮捕はなかったかもしれないが、警察に連れて行かれていろいろ聞かれてから裁判とやらがあるだろう。
しかし、この世界には一切そういうのがなかった。
犯罪係数が閾値を下回っていれば公安局の人間に保護されるだけで、叔母夫婦のところに引き取られるだろうみたいな話を先ほど聞いた。
「これで大丈夫よ、怪我してない?」
黒髪ロングの女の人に聞かれ、頷く。
「お姉さんを襲ってるお兄さんを止めようとバットで倒そうとしたの?」
黒髪短髪の女性がそう聞いて来る。
「…うん。ごめんなさい」
賢くないことをした自覚はあった。
でも、こうして兄を殴ったのに、現実味を帯びていない。
漠然と映画を見ているような感覚に陥る。
「…お姉さんのことなんだけどね」
女性から声をかけられ見上げる。
黒髪ロングの女性が離れて行き、短髪の女性と二人きりになる。
「これから病院に行って処置した後、更生施設に送られることになるわ。面会は明日になると思うから、今日は公安局専用の施設に移ることになるわ」
「はい」
「とりあえず、私の車に乗ってくれるかしら?」
「………」
スーツを着て、公安局だと名乗っているから大丈夫だろう。
しかし、内心、赤の他人の車に乗るのは少し気が引けた。
不安に思っているのが伝わったのか、屈んでくる。
「私の名前は常守朱、公安局刑事課の刑事よ。何かあったら絶対に守るから」
そう笑顔で言われ頷く。
翌日…
常守は少女を連れて更生施設に向かう。
白澤江美さんは腹部と髪を掴まれた以外、特に大きな傷はなかった。
「…良かった、お姉ちゃん」
そう言う少女の顔には安堵の表情が見えた
更生施設の中にやって来たのは、常守と、異例だが執行官である宜野座執行官も一緒だった。
シビュラシステムである局長からは『随時サイコパスを測るように』と命令が来ていた。その事が何を意味しているか理解している常守は少女の行く末を案じていた。
「怪我なくて良かった。サイコパスが良くなれば…『どうして…アンタは色相真っ白なの…?』」
白沢江美のサイコパスは138と下降傾向にあるが、それでも上昇したり下降したりと不安定だった。
それに比べて雪絵ちゃんの色相は0〜90と決してそれ以上行く事は無かった。
「…どうして、どうして、アンタはいつも色相真っ白で、私が真っ白くならないの…!どうして、アイツを殴り飛ばしたアンタのサイコパスが0なの?!」
ダンッ!!とガラスに手を付ける
《色相が変化しました。色相が変化しました。ダークイエローです》
警告音が響き渡り、看護師達が駆け付けて来る。
「………」
雪絵ちゃんは連れて行かれる姉をまっすぐ見ていた。
後ろにいた宜野座執行官を見ると、ドミネーターを構えていたが、犯罪係数が上がらなかったのか首を振る。
更生施設の外に出ると、雪絵ちゃんは下を向きながら呟く。
「…常守さん」
「どうしたの?」
雪絵ちゃんはこっちを見上げ
「…どうしたら、色相って濁るんですか…?」
彼女の瞳は、自分が周りとは違う疎外感を感じてるような瞳だった。
サイコパスが上昇しない事を嫌だと思っているようだった。
数年後…
兄が両親を殺害してから数年経ち、私は20歳になった。
兄は現在、サイコパスが200〜290を行ったり来たりしているらしく、下手したら300になり処分されるかもしれないとの事だ。
姉はサイコパスが安定せず、更生施設の人間によれば、あの施設で生を終えるかもしれないぐらい不安定とのことだった。
私自身は叔母夫妻に引き取られて生活している。
初めは兄を殴った私を毛嫌いし、色相が濁ると言っていたが、公安局の常守さんが何回か訪れて話をするようになった。
『おはようございます〜!!今日の白澤雪絵さんのサイコパス色相はホワイトカラー!今日も健康的な生活をしましょう!』
アバターの声と共に起き、アバターが今日の予定を見せてくれる。
椅子にかけてあった服を着つつ、読みかけだった本を本棚に戻す。
「…紙の本ってあるんだなぁ」
全部がシビュラにより電子化したわけではないのか、紙の本を手に入れようと思えば手に入れられた。
どこに行ってもシビュラに認識されず、手に入れたフィリップ・K・ディックの本を学校の同級生に見せたらあっという間に色相が悪化し、大騒ぎになった。
幸い、本は没収されなくて済んだが、そうなっても私の色相は濁ることはなかった。
友人と会う為に喫茶店に向かう。
「雪絵って知識を蓄えるのに貪欲すぎると思うんだよねぇ」
友人の由美が言って来る。
彼女は唯一、私と話が合うとシビュラが診断し、色相が濁りにくい優等生との話だった。
「そういうものかな」
「そうそう。だって、今の知識じゃ満足しないから過去の事まで調べて、紙の本なんて取り寄せてるんでしょ?それで色相濁らないんだから恵まれてる方だと思うよ」
由美はコーヒーを飲みながら言う。
「でも、由美は…私が貸した本見ても色相悪くならないよね」
「…まぁ、アンタの本ってちょっと過激すぎるというか、刺激的すぎるというか、まぁ、でも?映画見てるみたいで楽しいじゃん?」
二人で喫茶店で過ごしていると…
「後もう少しで私の人生も決まるかぁー…良いところ行ければ良いなぁ」
そう呟きながら端末を見る由美。
シビュラによる適性診断が後数秒で出る。
「由美のサイコパス良いから良いところ決まるんじゃない?」
「…サイコパスはねぇ。でも、致命的なのはスコアなのよ…試験あんまり上手く行かなかった」
落ち込む由美はバッと見つめて来る。
「雪絵はサイコパスに関しては一切心配なし!試験に関しても全く不安に思ってないし、神様不公平過ぎる…なんでアンタ、そんな不安に思わないの?」
「…なんでだろう。あれかな、現実味がないのかな?」
あれからも生きてる感覚というか、相変わらずこの世界を一歩引いた立場から見ている感覚は無くならない。
悪く言えば人を殴っても何も心が動かなかった。
すると、端末が鳴り、シビュラから通知が来る。
「あ、来た!A判定だけど…全部偏ってるわぁ…雪絵は?」
端末を見せると
「うわっ!公安局の適性すごっ!科学省の適性も出てるね〜。身体動かす仕事ないじゃん、こんな適性珍しいよ」
そう言って由美の適性結果も見せて来る。
「中央総省全部に適性出てるじゃない」
「公安局はないのよね…」
そう呟く由美。
「で?アンタはどうするの?公安局から推薦来てるじゃない、行くの?」
「………」
測られたように公安局の数値だけは異常に高い。
画面をスクロールし、ある適性欄を見て『これにしようかな』と言うと由美が見て来る。
「え?!更生施設のカウンセラー!?」
「うん、公安は良いや」
「かぁ、公安からの推薦を蹴るなんて!」
羨ましそうな眼差しで見られる。
更生施設のカウンセラーとして働き始める前は大変だろうと思っていたが、更生施設の医師達は薬を処方して行くだけ。
(…まるで実験動物にでもなってるような場所…)
室内にいた少年を見てデータを見る。
【倉田 慎吾。犯罪係数200、現在はストレスケア薬剤を拒否し続けている。処分までもう少しか?】と言った内容だった。
彼は今年で10歳になり、色相が悪化。家族から引き離されるようにここに送致されたらしい。
「失礼します、倉田慎吾さん?」
そう言って入ると、慎吾は分かりやすく警戒心を強め、色相が上がって行ったのか【ダークイエローです】と警告が入るが、シビュラから遮るように少年の前に立つと…
【色相基準値に低下、犯罪係数アンダー39】
「お姉さんもしかして…」
「はい、どんなに頑張っても色相が濁らない雪絵です。隣に入っている義和の妹かな」
微笑みながら用意した椅子に座る。
「ストレスケア薬剤をどうして拒否してるの?」
私の言葉に倉田慎吾くんは「そんな実験動物みたいに飲んでたまるか!俺は健康なんだ!」
悔しそうに拳を握り締める。
かつての兄の姿がチラつく。
みんな色相悪化に怯え、どんな正しい行動も起こさなくなっている。
「えぇ、倉田くんは不健康なんかじゃないわ」
「え?」
ストレスケア薬剤を見て
「薬はね、一回頼ると辞められなくなるの。麻薬みたいに」
私の知っている時代の向精神薬はこんなに強くなかったが、それでも一回でも飲めば気持ちが軽くなり、もっともっととなってしまう。
「倉田くんの色相が悪化した理由、よかったら教えてくれない?」
そう聞くと唖然としていた倉田くんが我に返り
「そ、そんなことしたら、お姉さんの色相が悪化するよ…?家族もみんなアンタの考えなんて聞きたくないとか言ってるのに…」
俯く倉田くんに微笑みながら自分のサイコパスをモニターに出し
「大丈夫、私ね、全く色相が濁らないの、どれだけ足掻いても…どれだけシビュラを否定してもね」
【サイコパス0です。問題ありません】と表記される。
人間は自分とは違う人間を嫌う生き物だ。
理解できないものを理解しない。
「実は…」
加筆して描こうと思ったらすごい長くなった…