免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く 作:アルトリア・ブラック(Main)
端末に送られてきた宛先不明の地図にマークが付けられたモノ
しかし、その地図が廃棄区画にある精神病院の間取りと似ていたため、その場所が意味することがわかった
地下であったためか、端末が圏外になる
地下3階に向かう道中、緑色の脇が開いている患者服のようなものを着た人たちが倒れていた。
遠目から見ても死んでいるのがわかった
階段を降りていると明かりのついている部屋が見つかる
周りを警戒しながら室内に入ると…
「!!由美!!」
椅子に縛られている由美を見つける
涙を流した後がくっきりとあり、辺りを見渡すと血生臭い匂いがした
(どこにも隠れられる場所はない…)
ホラー小説やサスペンス小説では、犯人が隠れていて、襲われるシーンが多い
「由美!」
由美に駆け寄って声を掛けながら揺さぶる
なんとか猿轡を取り、縄を外していると、あたりから物音が聞こえてくる
「!!」
慌てて縄を解き由美を引っ張る
「……雪絵…?」
「早く!!」
無理やり立たせて走る
引っ張って逃げる際に銃声が聞こえてくる
(確か、もう銃は手に入らなかったんじゃなかったっけ!?)
階段を登ろうとした際に由美が転けてしまう
「ぁぁァアアア!!!」
絶叫しながら男が木製バットを振りかぶってくる
「!!」
頭を下げて避けると振りかざした男の手首をひっ掴み捻るようにして倒す
拳で殴って気絶させると、また、別の人間がナイフを振り回してくる
次々に襲ってくる人間に舌打ちしながらなんとか倒し、由美と一緒に物陰に隠れる
「…由美、近くに慎導監視官たちが来てるからその場所まで上ろう」
そう言って手を引こうとすると
「…もうダメだよ」
呟くように由美が言う
「……もう、私の…サイコパス真っ黒になっちゃったよ…元の生活なんて戻れない…」
犯罪係数を測定する機械を持ってきていないから分からないが、由美の表情を察するに色相が悪化しているのは確実だろう
「何言ってんの?サイコパスなんてどうでもいい、生きてさえいれば白にでもなんでもしてあげるから立って!」
そう言って担ぐように立つ
(…怪我してでも由美を連れて行かないと…)
出来れば歩いて欲しかったが、そんな無茶は言えない
「雪絵…って強いよね…本当に」
引っ張り上げようとしても由美は生きるのを諦めているのか地べたに座り込んでしまう
後ろから銃を構えた男が見える
「!!」
「…足手まといだからさ…置いて行っていいよ雪絵、私と違って雪絵は社会に必要とされてるんだから…」
エレベーターが動き始めていた。
引っ張れば乗れるが、銃を構えた男に目がいく
撃たれる!と思ったとき、男の体が爆発する
ドミネーターを使用した際の爆発の仕方だった
監視官たちが来たのかと思ったら…
「雪絵、犯罪者になっちゃダメだよ…」
「!」
嫌な予感がし、由美の前に立つと
「白澤先生!?何をしているんですか?!」
顔見知りじゃない執行官がそう叫ぶ
ドミネーターの形状が元に戻る
執行官の増援が後ろからくる
「っ!?」
由美にドミネーターを向けた瞬間、形状が変化する
「由美!!」
灼は雪絵が突入してしまい、その地点に向かった執行官数名と監視官1人の場所を特定し、向かう
(こんな入り組んだ場所に雪絵さん1人で入ったのか…)
炯と共に地下へ向かうと…
「!?」
血溜まりに倒れ込む執行官、叫びながら腕を押さえている監視官がいた
「何があった!」
監視官に駆け寄る炯と血を流している執行官に近づく
生きてるのを確認した灼は急いで服を破いて執行官の傷口を手当てする
(…何かで殴られたような傷跡…)
『全フロア制圧しました。対象いませんでした』
その報告に
松本雄二も逃したという報告がされる
灼はその場で起こったことをイメージする
監視官の持っていたドミネーターを足で蹴り飛ばし、執行官を椅子で殴打した瞬間
「…思い切り良すぎだなぁ…」
灼の端末に電話が入ってくる
相手は白澤雪絵だった。
「雪絵先生、大丈夫ですか?」
そう聞くと
『慎導さん、一人ですか?』
低音の声が聞こえてくる。電話越しでも分かるぐらいの殺意が伝わってくる。
「炯と二人です。今どこにいますか?怪我してませんか?」
『怪我はしてないです。ただ由美が怪我をしてて手当てをしたいんですけど、由美のサイコパス規定値を超えてます』
「!!」
周りの現状を見てなんとなく状況が理解できる
佐藤由美の犯罪係数が規定値を大幅に超えたから彼女を護ろうとして撲殺しかけたのだろう。
「大丈夫です。俺は撃つべき人間とそうではない人間は分かってるつもりです」
そう言うと雪絵が息を吐く音がする
『…今送りました。ここにいます』
そう言って場所が送られてくる。
慎導灼に場所を送ってからやってきた灼と炯の二人とやっとパニックから落ち着いた由美を保護して貰い、病院に移送する
「……」
灼の車の前でタオルを貰い、返り血だらけの手を拭く
「怪我が無くて良かったです」
灼の車に乗り、公安局に帰る道すがらそう言われる
「…慎導さん。あの監視官と執行官どうなりました?」
気分はさながら警察署に送られる殺人犯の気分だった。
初めて明確な殺意で殺そうとした。
兄の脳天を殴った時はこんなに殺意を抱いたことはなかった。ただ、兄を止めて姉を助けたかっただけなのだ
(まぁ冷静に考えて殴るって選択肢を入れる時点でおかしいんだろうけど…)
あの執行官と監視官のドミネーターに引き金にかける手の軽さに殺意が湧いた。
でも、冷静になればあの二人もなんら間違ってはいない。
更生施設にいたとき、色相が悪化した彼らを簡単に殺すボタンを押せたのも他人だから押せた
今まで向き合って来た倉田慎吾の身の上がどうなろうとどうでも良かったのは他人だったから。
でも、由美が死ぬのだけは嫌だった。
大切な友人だから死なせたくないという感覚とは違う、また別の何かな気がした。
多分由美が殺人を犯したら多分自分は冷静に審判を下せる気がした。殺人を犯した人間は友人であっても別になる。
ノイズのような音が脳裏に響く、隣に『誰か』がいるような感覚になる
考え込んでいると…
「あの二人は助かりましたよ、まぁ…二人とも犯罪係数は上昇してしまってますけど」
「そうですか…私って事件から外されますかね」
車に搭載されたサイコパスを測定する機械には《サイコパス・10》と書いてあった。
「局長からの命令では引き続き続投するように、って指示はもらってますけど、休むのも…」
「松本雄二が捕まるまで休むことは出来ないです」
ー公安局ー
「ところで、松本雄二はあの場から逃亡したんですか?」
灼からの質問に唐之杜は
「ええ、隠し通路使って逃げたみたいよ、監視官たちを襲ったのはロボトミー手術を受けた人間見たいよ、家族が先に死んだり、もう面倒見きれないからあの廃精神病院で面倒を見てたみたいよ」
「管理してたのは松本雄三なんですか?」
「そ、あの施設は松本雄三の所有物で、あの建物で色々やってた見たいよ」
「そうなんですね…」
廃棄区画にあった精神病院で行われていた恐ろしい手術
行方不明になった人間の半数がそこから発見された
「私が彼らから依頼されてロボトミー手術を施した。無論、家族からの依頼があったさ」
松本雄三からの事情を聞いていた常守
「許可があったから手術をした?」
「はい、勿論、許可なく手術はしません。現に彼らの家族から何も訴えは来ていないでしょう?」
「……」
彼らが行方不明扱いにされたのは長いことスキャナーに引っ掛からなかったから行方不明扱いになっていた。
【松本雄三 犯罪係数20】
犯罪係数が低すぎる
常守は眉を顰めながら、ロボトミー手術で精神を殺した人間たちの話をしても、松本には何も響かなかった
「ロボトミー手術はウォルター・フリーマンが起こしたから史上最悪になった。でも、今この世界に必要なのはその手術!」
「あなたがした手術は失敗し続けている。でも、やめなかったのは…」
「息子が私から引き継いだ手術を成功させたんです!本当に喜ばしい…技術も何もかも息子に委ねました。やっとこの世界の患者たちに施されると思ったのに…」
忌々しい表情をする
しばらくすると…
ガラッと開けて入ってきた雪絵を見て驚く常守
「雪絵ちゃん…?」
「常守さん。少し話していいですか?」
雪絵の表情を見て『大丈夫?』と聞いてくる
「大丈夫ですよ、必ず自供させますから」
そう言う雪絵に少し躊躇っていたが、松本雄三の方を見て『もし、何か問題があったら止めるわよ』と言って席を代わる
「ありがとうございます」
そう言って席に座る雪絵は深呼吸をする
「初めまして松本雄三さん。どうしてここにいるかわかりますか?」
「私が行ったロボトミー手術が非人道的すぎるということから逮捕されたのでしょう?全く、私が逮捕されるのはわかりますが、息子まで指名手配されるなんて納得いきません!白澤先生も思いませんか?潜在犯が増え続けるこの世界、色相やサイコパスの悪化を恐れ、ストレスケア薬剤を飲み続ける人生!それが人間らしいと言えますか?」
まるで、権威を持った人間のように饒舌に語り始める
松本雄二、彼の息子と違って松本雄三は170㎝はあるが小太りで笑った時に見える歯は木の色と見間違えるぐらい汚かった。髪の毛もボサボサでどう見ても不健康そうだった。
ただ、声だけ、低音で落ち着いた声色をしていた
彼の息子は180㎝はゆうに超える身長で俗に言うイケメンに分類されるぐらいの美形だった。松本雄三の息子だと言われても誰も信じないぐらいの違いだった。ただ唯一似通っている所と言えば己の価値観が世界の価値観といったような独善的な感覚だろう。
「それが今の社会の『人間らしい』と言えるんじゃないですか?貴方は2000年代を生きている人間なんですか?」
何も言わないと思っていたのか、松本雄三はハッとする
「ロボトミーが何故、禁忌とされたか分かりますか?博識であるあなたなら分かりますよね?」
ノイズが走り、テーブルの横に槙島が現れるが、完全にトレースできていないのかVHS(ビデオカセットテープ)のノイズのように走る
「……」
冷や汗を流しているのか目がこちらを向かない
「非人道的で、人の精神を変容させるから、人の感情を変えていいのは神だけ。人は神ではない。猿から進化しただけのモノでしかない。過去に禁忌とされたものをいかに正当化したところでやっていいことなんてない。貴方はロボトミーを自分の発案かのように語っているが、貴方はウォルター・フリーマンの代理者でしかない」
「私は…間違っていないだろう!潜在犯となる前にサイコパスを下げれることができるならそれで越したことはないだろう?現に受けさせてほしいという患者と家族は山のようにいた!それでも私は間違っていると言うのか!」
興奮している松本雄三の犯罪係数が上昇していく
「間違っている」
ハッキリと言う雪絵に松本雄三は狼狽える
「何故、この世界の人間が手術を受けるって言ったと思う?それは『知らない』から。知らないからこそ受け入れる。分からないから医師の話した言葉を全部信じる。潜在犯が増え続けているからそれを事前に対処する?潜在犯は病気じゃない」
ノイズが止まり、トレースが止まる
「更生施設で勤めた貴女なら分かるでしょう!近年の潜在犯は増加傾向にある。家族は潜在犯にさせたくないからあの手この手でやっているのでしょう!本当に必要ないならば私に依頼なんて出さないでしょう」
「そうですね、確かに問題があるから貴方に依頼を出し、ロボトミーの手術を頼んだ。この社会は欠陥的な社会です。数世紀前は普通だったことがこの世界では異常とされる。刑事がこの社会では『潜在犯』とされるのも何もかも異端だ」
「!!」
シビュラシステムを否定するような発現に松本雄三はビクつき、何かを理解したような感じを見せる
【松本雄三 犯罪係数210】と相対して犯罪係数が0のままの雪絵に呟くように『槙島さん…?』と呟く
「貴方は息子と違って失敗しすぎてる。そんな貴方に価値はあるのだろうか?」
「あ、あぁ…」
狼狽しているのかと思ったら、男の顔が紅潮し始める
「あなたにまた、会えるなんて!」
下手したら靴を舐め始めようとする松本雄三に思わず『ヒェ』となる
(気持ち悪ッツ…)
「そうです。私は貴方のためにたくさんの所を買いました!」
「!買った場所は?」
気持ち悪いが、最後まで聞かなければ意味がない
「そこは…」
佐藤由美は今ここで死ぬべきではない