免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く   作:アルトリア・ブラック(Main)

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最終回です。次回は番外編


第28話『孤独を求める』

世界は灰色だった。脳をいじられてから見ている世界は灰が落ちて来る世界だった。

 

怒りも悲しみも喜びも楽しみも何も感じなくなった。

 

喜ぶ顔をするのは苦手だった、怒る表情を作るのは不可能だった。

 

『最近、息子の色相が濁って来ているんです。どこか良い施設ありませんか?』

 

『良い、カウンセラーを探してください』

 

そう話すカカシ達の言葉を聞き、良い所を探す。

 

カカシとロボットに満たされた世界、その世界を当たり前だと思っていた。

 

初仕事で色相が濁って行く男の元に挨拶に行った。

 

その男は凄く感情があった。人間だった

 

カカシとロボットのこの世界で唯一の人間だった、怒りながらモノを投げて来る男は実に人間らしく色彩があった。

 

そんな男の脳を自分と同じにすることに勿体なさを感じたが、依頼であるから仕方なく、科学技術省で行っているロボトミーで感情を摘出した。

 

もったいなかった

 

だから、残した

 

「綺麗ですねぇ」

 

部屋の壁一面に棚を作り、そこに飾る脳みその入った大きめの瓶

 

『君のこと別に理解しようとは思ってないけど、これは大概怖いよ』

 

そう言ったのは私にロボトミーの研究を教えてくれた安藤さんだった。

 

人でありながら人扱いされない人。どれだけ感情を露わにしても色相が濁ることは愚か、サイコパスが悪化することがない人

 

『人はそれを免罪体質と呼ぶ』

 

そう話してくれる安藤さん

 

『免罪体質者は何をしでかしても何をやらかしてもシビュラシステムからは見向きもされない最悪な存在』

 

そういたずらした子供のように笑う安藤さん。

 

彼は何をやらかしてもその色相が濁ることはなく、シビュラシステムから見向きもされなかった。

 

その特異体質を活かしてロボトミーを復活したのも、こんなイかれた研究をやればシビュラが流石に気づくということ。

 

『まぁ今は別にどうでも良いんだけどね、親として愛していた母親がある瞬間、なんでもない事で嫌いになるように、もうどうでも良いんだけどねシビュラなんて』

 

そう言って脳みその入った瓶の近くに寄り

 

『色相が全く濁らない免罪体質者を色相悪化させたら君の勝ちだよ、君の父親が崇拝して止まない殺人鬼よりも』

 

そう言って嗤う安藤さん

 

 

 

中央省庁近くにあるビルの屋上にて、タバコを吸いながら眼下を眺める

 

「人間は、理解する事をやめたとき、真に終わるというのに、この世界は心底終わっている」

 

動画の中では、白澤雪絵に関しての話が持ち上がっていた。

 

公安局が向かって来る様子と同時に一人の男が階段を登って近づいて来る様子が映像に流れる。それを消す

 

「…でもまぁ」

 

本を手すりに置き撫でながら

 

「この世界よりはるかに幸せな未来なのは認めますけどね」

 

 

 

 

松本雄二の事情聴取のために更生施設に向かったのだが、その更生施設がとんでもないことになっており、執行官達は息を呑む

 

松本雄二が正面から堂々と出て行ったと中にいた潜在犯が話していた。

 

「吐きそう…」

 

如月真緒がそう言って表に出て行く

 

正面脇に投げ捨てられていたロボットのようなモノを黙って見ていた雪絵と顔を背ける炯

 

「まさにドライブスルーロボトミーですね」

 

そう言って放心状態になっていた看護師を見る

 

松本雄二によってロボトミーを受けた看護師数名は呆然としており、誰だか不明なロボット

 

おそらく、シビュラの義体なのだろうが

 

「唐之杜さん、逃亡ルートは分かりましたか?」

 

炯の言葉に『正面から堂々と、車に乗って出て行ったみたいよ』と動画を見せてくれる。

 

「車の方向は?」

 

『中央省庁へ向かったみたいよ』

 

雪絵は義体から離れると炯の元に行き

 

「炯さん、コレ見てください」

 

そう言って執行官達を含めた人間達に映像を見せる

 

「犯罪係数を下げる特効薬…7分で終わる色相浄化術!?」

 

動画のタイトルを読んでハァ?!となる入江

 

松本雄二の手術を受けて色相がクリアになり、サイコパスが悪化しない健康的な生活を送れていると叫ぶ動画が上がっていた。

 

松本雄二を犯罪者として捕まえていた公安局への不満を殺意に近いような言葉を並べて言っている女

 

「松本雄二自体、犯罪係数が常に0を出しているのに更生施設に入れるなんて頭がおかしいとかギャンギャン喚いてますね、自分達もその手術を受けたいと言ってます」

 

「感情を失うんだぞ」

 

入江の言葉に雪絵は『感情を失うという言葉は分かっても、それがどういう事になるか分からないんでしょう』と言う

 

この世界は心底歪んでいる

 

まるで、1984年の世界観のように、彼らのように根拠のないモノを盲目的に信じる世界になっている。

 

『こんな世界にならなくてよかったと思うじゃん』

 

由美の声が脳裏に浮かぶ

 

「"脳みそを弄られるより、白澤先生のセラピーを受けた方が絶対に良い"?」

 

灼が映像の上に流れてきたコメントを読む

 

「"外科手術より、セラピーの方が絶対に良い""でも最近は予約取れないし、公安局に取られたって話じゃん"」

 

雪絵先生のことも話題に上げられてますよと灼が見せて来る

 

「…勝手に上げられてる…」

 

嫌そうな顔をしつつ、籍を置いていた更生施設の潜在犯が雪絵がいた時代は軒並み回復し、出戻りしてくるケースがなかったことを指摘する記事まであった。

 

「…当事者を無視して議論しあってる…」

 

「なぁ、エリアストレス上昇したんだけど…」

 

「!!」

 

入江の言葉に雪絵がハッとなる。

 

 

 

痛みを伴う世界へ

 

 

この世界は私の知っている世界よりマシな世界だ。

 

確かに欠点は多くある。

 

ぶっちゃけ、どの世界にも完璧な世界なんてものはない。粗を探そうと思えばいくらでも探せるのが国家であり、政権だ

 

公安局が松本雄二がいるであろうビルに入ったのを見計らって雪絵は別のビルに登る

 

刑事でない雪絵は車の中で待機を言われたし、なんならここに来れるのもお門違いなのだが

 

「貴女は絶対にこっちに来ると思いましたよ」

 

ビルの屋上の手すりのところに寄りかかり、笑っていた松本雄二

 

「公安局を騙すのは正直、かなりハラハラしましたが」

 

「…ロボトミー手術に関してどう思ってますか?」

 

その言葉に松本雄二は笑いながら空を仰ぎ

 

「この世界でこそ輝く手術だと思っています」

 

「人の感情を奪って幸せですか?」

 

「感じなくなるのは幸せでしょう」

 

「人の脳みそをいじくり回すのはしてはいけない事です。貴方だって、奪われたのに」

 

その言葉に松本雄二は笑いながら

 

「奪われたからこそ、私は理解出来ない、悔しい・苦しい・嬉しい全ての感情が抜け落ちました。どれだけ悪い事をしてもシビュラは私を見ない、人を殺して進んでも人を殴ってもそれが健康的な人間として認識された」

 

松本雄二は手を広げ

 

「コレが健康的な人間なのでしょう?彼らが求める健康的な存在。貴女も私も」

 

そう意味深に言う彼に

 

「私は少なくとも思考停止はしていないけど、考える事をやめるのは愚者の所業」

 

「貴女のようにすぐ切り替えられる人間なんて早々居ないと思いますよ?ご友人を殺した監視官達を恨む事なく、今こうして黒幕である私を追い詰めているのだから」

 

愉快そうに両手を広げて笑いつつ

 

「私を殺しますか?」

 

「なぜ?」

 

「貴女の友人を殺した存在だから」

 

「死者は戻らない。Anotherじゃあるまいし」

 

灼から連絡が入るのが分かる

 

「残念、私は貴女に…」

 

バンッ!!と銃声が響き渡る

 

松本雄二の心臓に銃弾が当たる

 

「!!」

 

真後ろにいた男に反応し、肘鉄を顔面にお見舞いし、怯んだ男を一本背負いする

 

「雪絵先生!!」

 

灼が走って来る

 

「慎導監視官!!」

 

「!!」

 

灼が手錠を持って男を取り押さえる

 

「お、俺は…おかしくない…俺はどこも悪くない!たまたまストレスが溜まっちゃっただけなのに!!」

 

そう叫ぶ男を一瞥し、松本雄二の方へ行く

 

「出来るなら貴女に殺されたかったんですよ…私」

 

松本雄二は笑いながら見上げて来る

 

「…殺す事は誰にだって出来る。私はあなたを捕まえて罪を償わせたかった」

 

そう言うと松本雄二は目を瞑りつつ自嘲気味に笑い

 

「…私は、羨ましかった、ストレスを感じる人間が、色相が濁る人間が、変われる機能が備わっているのに…感情が無くなってしまえば立ち止まるしかないというのに」

 

「………」

 

松本雄二は雪絵を見て何か囁く

 

「…貴女は誰よりも素質があるのに」

 

「?」

 

後半が聞こえず屈むと、どこにそんな力があるのか、グイッと胸ぐらを掴み、耳元で

 

「ーーーーーーが」

 

そう言って力尽きる松本雄二

 

息をしていない彼を一瞥し、灼の方を見る

 

 

 

 

松本雄二の死を持って『ロボトミー事件』は幕を閉じた

 

そして、更生施設のカウンセラーとして戻っても良いというお達しが公安局から下される事に関しては意外だった。

 

シビュラの存在を公表しないか不安に思わないのか、シビュラの義体に問い掛ければ『興味ないだろう?』と返される

 

(…まぁ、興味ないけど…)

 

公表して国民は少なくとも衝撃を受け、最悪、今の世界が崩壊しかねないだろうが

 

「…正直に言えば、今の世界は過去の世界よりマシだと思ってはいますよ、監視社会だけど、少なくともコレよりかは良い」

 

そう言ってシビュラの義体の一つに本を貸す

 

「こんな世界にならないように我々も気をつけなければな」

 

受け取ったシビュラ…免罪体質者は本を持ち、タワーの方へ歩いて行く

 

「バン」

 

手で銃の形を作り撃つ真似をする

 

 

タバコに火をつけ反対方向へ歩きながら松本雄二から言われた言葉を思い出し嗤う

 

「それもそれで楽しそうだけど」

 

松本雄二はエガス・モニスと同じ結末を迎えた。ウォルター・フリーマンやエガス・モニスと違うのは、彼は奪われた人間だという事

 

彼の人生に何もなさなかったこと

 

もう1人、彼には共犯者がいたが彼の存在はその内公から消されるだろう。

 

(…由美を殺した理由なんて別にどうでも良いか)

 

一人で歩きながらそう思う。

 

自分の冷たい感情に少しだけため息をつきながら

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