免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く 作:アルトリア・ブラック(Main)
槙島さんに案内されて見に来たのは王陵璃華子の加工場だった。
遺体を綺麗に飾り付けしている彼女を見つめながら、残酷だなぁと思いつつも怖いと感じない自分が怖くて仕方なかった。
「今度はどこに飾るんだい?」
「そうですね、人目につく賑やかな公園なんてどうかしら」
そう言った時の王陵璃華子の興奮したような表情と相反し、槙島さんの表情は何を考えているか分からないような表情だった。
(…似てるなぁ、あの美術家の飾り方に)
「帰るよ、雪絵」
「あ、はい」
槙島さん達の後ろに着いて行く、ドアから出る間際、彼女を一度見てから退出する
チェグソン、槙島さんと一緒に帰りながらいろいろ考えていた。
歪んでいるかもしれないが、自分は犯罪者の心理を読み考えて行くのが好きだ。
過去に起こった凄惨な殺人事件の犯人の過去、どうしてそんな人格になったのか
(…生まれた時からの異常者は時たまにいるけど…そういう行動をする原点は必ずある…)
親からの暴力、過干渉、金銭へのトラブルなど、人間はそういうのを間近で見れば見るほど、それに強烈な嫌悪感を抱くが、生まれた時から見ているものから離れられない状態にある。
親から虐待された子供が、自分の子供にそうしないよう心がけても無意識に手を上げてしまうことだってあるように
「あの現場を見て、どう思う?雪絵」
槙島さんから声をかけられてハッとなる。
「どう、とは…作品への感想ですか?それとも、警察に見つかる可能性の話ですか?」
7歳の喋り方とは到底思えないだろうが、今更、この二人に隠し事をしたって意味なんてない。
「作品と警察関係かな」
「王陵牢一の作品そのままで、作品から見えるのは父親しか見ていないと思います。舞台設定に芸がない」
「ほぅ」
珍しく嬉しそうな顔をする槙島さん
「前も公園で今回も公園。藤間幸三郎さんの時はいろいろ場所も変えてたんですよね、その時と違って人目につけば良いだけだから精神的に幼いと警察は判断するんじゃないですか?」
「…7歳の子供に精神性の有無言われちゃあ笑えないですねぇ」
(…それは理解してる)
「それに、殺しの対象はみんな近くの学生。少なくとも警察は犯人をあの学園の生徒だと断定するはずですし、王陵牢一の美術品と似てたら芋づる式に出されると思います。そこで犯罪係数を測定されたら一発アウトじゃないですか?…絶対犯罪係数高いでしょうし、あのタイプ」
「そうだね、逆に言えば僕や君みたいな可能性はないかい?」
そう言って槙島さんがモニターを目の前に出してくる
《槙島聖護、犯罪係数0》《白澤雪絵、犯罪係数5》
「…ないんじゃないですか、その可能性、だってあの人興奮してたし、槙島さん、ああいうの見たって感動も興奮もしてなかったですし、チェグソンさんは引いてましたけど…」
「むしろ、アレ見て引かない二人が凄いんですよ」
話していると、槙島さんが怖いぐらい笑顔で「やっぱり雪絵といると楽しいね」と後ろに移動してくる
「…どうも」
(…槙島さんの表情が一番読めない…)
その翌日も学校に行き、槙島さんの帰りを応接室で待っていた
子供がいても特に何も言われないのは、私の学校が臨時休学中だから来ているという嘘まみれの内容をそのまま信じた校長のおかげだ。
(…偽りの履歴でも警察でなけば、疑わない、というより…)
この世界で『疑う』なんて行為はサイコパスの悪化に繋がりかねないだろう。
万が一、違和感を感じたとしてもこの世界の人間は怪しむという段階にも行かない。
ただそこにあるのを信じる、程度のことしかしない。
そんな中にも公安刑事になれる人間がいるのだろう
翌日…
「王陵璃華子、期待外れだったよ」
家に帰って来た槙島さんが子供みたいに不貞腐れながら言われる。
(…死んだな、あの人…)
まぁ、ほぼほぼ死んでいるだろうが生死に関しては気になった。
「死んだんですか?」
「死んだよ」
「あ、そうですか」
サラッと返すと槙島さんが『反応うっすいね』と言われる
槙島さんとの付き合いで生き死にに関してはあまり気にしない方が良い、というか深入りは厳禁だ。
某少年漫画の小学生探偵と違って神様都合で生存出来る可能性なんて無いのだから
それに、槙島さんは人への関心が凄い反面、飽きるとオモチャを壊すタイプだ。
(…そう考えれば私もいつ死ぬか分からないなぁ、今の内に警察へ行くべきなんだろうけど…)
バットで兄を殴り殺した時を思い出しため息をつく
「学生を選んだから失敗したんじゃないですか」
そう言ってハイとコーヒーを渡すと「ありがとう」と受け取ってくれる
対面に座ると、ココアを置いて読みかけの本を開く
「雪絵はソレ好きだね」
そう言って読んでる本を指さしてくる
『向日葵の咲かない夏』
槙島さんの家の本棚の下に埋もれていた有害指定された本だ
「…面白いですよ、特に最後が、別の本を読んでから読み直したらまた別の視点になれますし」
ペラっと本を捲る。
「ソレ、本当に幸せだと思うかい?その主人公」
その言葉に一度本を置く
「…ビターエンドというよりメリーバッドエンドに近いんじゃないですか?なんであれ、主人公が笑っていれば」
「雪絵はそう取るんだね」
槙島さんは笑う、本を閉じて本棚の方へ向かうと着いてくる。
元あった位置に戻すと
「雪絵は本も漫画も読むよね?どうして?」
そう唐突に聞かれ『楽しいからですよ』と返す
「じゃあ、どうして様々な小説を読むの?青春系の小説はあんまり読んでないけど、一回読んだ本をまたいろんな小説を介してから再読してるの良く見るけど、それって面白いかい?」
槙島さんほどの読書家はいないだろうにそんな質問をしてくる。
デッドエンドでも踏んでしまうのだろうか?とふむと考える、このタイプはまぁ、平気だろう。
「面白いですよ、さっき言ったように別の観点から物事を見れるようになるから、この時は理解出来なくても他の小説を読んで価値観が広がってまた再読したら違った意味で理解出来て面白いんです。"この時の主人公は"こう思ってたんじゃないか"と」
見方が変われば価値観も変わる。正義と悪の役割も一律ではない。
登る為の台を持って来て本を取ろうと背伸びする
「コレかい?」
そう言って本を渡してくれる
「ありがとうございます」
手に取った本を持って椅子に向かって行く
「雪絵はジョージ・オーウェル好きだね『シビュラの目』も良いだろうに」
読んでくれないの?と不貞腐れる槙島さんに
「…コレ読んだら読みます」
本を少し読んで閉じ、ココアを飲むと
「君はどう思う?この社会に対して」
「農場にいるみたいです」
「へぇ」
「とは言っても支配者じゃなくて管理者だから一人の指導者で崩れ去るような社会でもないですし、まぁ、パノプティコンよりかは遥かに良いんじゃないですかね」
動物農場の世界というよりアンドロイドは電気羊の夢を見るの方の世界に近いだろう。
せめてもの救いはあれらよりも環境は整っている。
「人間はシビュラの命令の通りにしか動かないという所は最悪だと思わないかい?」
コーヒーにガムシロップを混ぜながら言う
(…この人は、旧社会も大して変わらないというの知らないだろうけど…まぁ、私が知ってたら尚おかしいんだろうけど)
「カカシかロボットの違いと思ってます」
そう言って本を手に取る
「今の社会の方が社会全体は幸せだと思います」
大多数の幸福のために少数が犠牲になる世界でも、まだ世界に目を向けてシビュラシステムを押し付けようなんて思ってないからまだマシだ。
「……」
そういうと槙島さんは
「…そうか、君は…」
少しだけ何故か笑っていた
「?」
泉宮寺豊久は最近、槙島がお気に入りの少女と暮らし始めたと聞いた
「話を聞く限り、その女の子は本当に七歳なのかね」
そう槙島に聞くと微笑みながら『戸籍上は』と返す
「話を聞くに、天才というのを遥かに凌駕しているように思えるが、まさに神様のような思考の持ち主じゃないか」
猟銃を整備しながら言う
「そうかもしれませんね、この世界に生まれ落ちた小さな神様。彼女と話をしていると議論が出来て凄く楽しい」
「一度会ってみたかったが、その子と会うのは狡噛慎也を狩り殺してから頼んでも良いかな?」
そう聞かれ、槙島は読んでいた本を閉じ笑いかけ『無論、連れて来ますよ』と笑いかける
「それでは準備しましょうか」
「あぁそうだな」
テーブルに置いた本をひとなでする『神様ゲーム』
【引用図書・参考図書】
『向日葵の咲かない夏』
作者・道尾秀介
出版社・新潮社
発売日・2008.7.29
私の最もオススメする本。ただ、読むのは自己責任ハピエンかメリバかバッドかみなさまの目でお確かめください
『神様ゲーム』
作者・麻耶 雄嵩
出版社・講談社 (2015/7/15)
発売日・2015/7/15
『あらすじ』
自分を「神様」と名乗り、猫殺し事件の犯人を告げる謎の転校生の正体とは? 神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか謎の転校生・鈴木太郎が事件の犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。そして、鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか?