免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く   作:アルトリア・ブラック(Main)

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本は良いですよ、私が私でいられなくて済む世界なので


第2話『異常者と異端者・下』

王陵璃華子の件から数日後、私立桜霜学園の教職員に事情を聞いていると

 

「柴田先生、妹さんを連れて来てました」

 

「妹?」

 

校長はうーんと考えながら

 

「柴田先生と全然似てないなぁと思ったのが印象的で、でも、目の色はそっくりだったのと、読んでた本も柴田先生と同じで知的な本ばかり読んでたので本当に似たもの兄妹だなぁと感心しました」

 

「妹さんの名前、なんて言ってましたか?」

 

「雪絵って名前でした」

 

 

2日後…

 

 

唐之杜がモニターに向き合っていた。

 

「女子トイレ前のカメラにその雪絵ちゃん、映ってたわよ」

 

そう言って出す

 

「彼女の名前は白澤雪絵、3ヶ月前にあった一家殺人事件の行方不明になってた女の子」

 

「この事件って…」

 

「犯人の兄が姉を強姦したって事件だろ」

 

狡噛の言葉に口を塞ぐ常守

 

「しかも、兄は強姦中に何者かにより撲殺。現場には小さい子供の足跡と成人男性の足跡が二つ。この事件に槙島が絡んでいたとしたら…」

 

「加害者の男性を槙島が撲殺して被害者を連れ去った…?」

 

「撲殺した凶器が見つからない以上、その可能性はあると思ったんだけど…」

 

加害者が撲殺された頭蓋骨を写す

 

「加害者の死因は出血死、打撲による即死じゃない。普通成人男性が殴打したら頭蓋骨は割れると思うんだけど」

 

「…それって…」

 

槙島が殴打したのではなく、少女・白澤雪絵が兄を殴り殺したという可能性が湧き起こる

 

「被害者の白澤江美さんに少しだけ伺えましたけど…誰が殴ったのかと聞いたら錯乱気味でしたが…女って言ってました」

 

「…女、もしかして…」

 

「ガキが兄を撲殺した可能性が高いな、結構昔の事件じゃ子供が子供を殺すなんて事件普通に合ったし」

 

征陸の言葉に常守は『ありえない…』と呟きつつハッとなる

 

「正当防衛とはいえ、家族を殺そうとする明確な殺意があんのに外にあるスキャナーには引っ掛からなかった。てことは…」

 

『君は僕を失望させた。なら罰を与えなければならない。己の無力さを後悔し、絶望するがいい』

 

槙島が友人を殺した時を思い出し、拳を握り締める

 

「今回もスキャナーの誤作動だと思ったんだけど…槙島聖護がなんらかのことをした可能性は高いわ」

 

 

 

ー局長室ー

 

「両親の凄惨な死体を見、兄を撲殺してもなお、犯罪係数は上昇しなかった…聖護君。君は新しい存在でも見つけたのかな、彼女が免罪体質なら我々にとってもかなり嬉しいことに他ならない。面が割れないようにね聖護君」

 

ルービックキューブを回しながら嗤う

 

「しかし、免罪体質者は惹かれ合うという理屈は割りかしあるかもしれないね、聖護くんが特別なのかもしれないけどね」

 

呟くように言うとコンコンとノックされる

 

「宜野座です」

 

「入りたまえ」

 

入って来た宜野座が槙島聖護についての話になる。

 

その流れで行方知らずとなった藤間幸三郎の話になったが、自分で自分の話題を捌くほどめんどくさいものはなかった。

 

幸いにも会話している監視官は『疑う』と言うことはしても本人だとは思わない。そういうような思考の持ち主だろう。

 

(…あの獰猛な犬ならば勘づくだろうが、執行官として堕ちている以上永遠に僕の正体に気づく事はないだろう)

 

「話は以上だ、持ち場に戻りたまえ」

 

「……はい」

 

不満そうに戻って行く宜野座

 

完全にいなくなったのを見て

 

「…アレもそろそろ落ち目だな」

 

何もない空虚な空間に向かって話す

 

 

ー槙島宅ー

 

 

自宅で槙島さんが借りてきたサイコホラー映画を見ていた。

 

「…槙島さん、こういうのどこで手に入れてるの?」

 

そう聞くと槙島さんは笑いながら『チェグソンから買ってるよ、最近はネットにしかないみたいだし』

 

違法か…と思いつつ、この映画を見ながらだろうなと思っていた。

 

「…まぁ、確かにこんなの見てたらサイコパス普通に真っ黒になって殺されるでしょうしね」

 

「残酷すぎるが、物語としての構成は最高じゃないか、今の世界はこういう娯楽でさえ制限されるなんて悲しいじゃないか」

 

(…こういうの見て平気なのって私たちか違法で入ってきたチェグソンさんだけだと思うけど…)

 

女性警察官の一人が猟奇犯罪者にヒントを仰ぎながら捜査している話だった。

 

女性警察官の主人公を捕まえた猟奇犯は主人公を連れ去り、その目の前で主人公に嫌味ばかり言っていた上司の脳みそを目の前で焼きながら本人に食べさせるという超絶グロ映像が流れる

 

チェグソンはフィッと顔を逸らし、自分は槙島さんを見ると槙島さんは真剣な顔をしていた。

 

物語は佳境に入り、主人公が猟奇犯に拳銃を向けて発砲出来ず幕が閉じる

 

「あー、面白かったね、グソン」

 

「グロ描写以外は楽しめましたよ、こっちも」

 

「雪絵は?」

 

「楽しかったです。まぁ、あの上司さん。救急車呼ばれてたから搬送先で助かったでしょうけど、救急隊の人かわいそうですよね、本人が笑いながら自分の脳みそ食いながら『美味しいよ』って」

 

「事細かにスンッとした顔で言うの凄いですね、相変わらず」

 

やや引かれてしまったが仕方ないだろう。この映画は前世で一回見て今回も見たらそういう感想が湧く

 

「最後の主人公、犯人を撃たなかった理由、なんでだと思う?」

 

槙島から質問され「答え知ってるんです?」

 

「いや知らない」

 

笑顔で言われて「あぁまたなんか試されてんなぁ」と思っていると槙島さんが『グソンはどう思う?』と聞いていた。

 

「普通に自分も犯罪者になるのが嫌だったんだじゃないですかね?」

 

チェグソンの言うことの方が正解なのだろうが、妙に引っかかる部分があった。

 

「………」

 

主人公の行動を思い浮かべ、自分がその場にいたらと考える

 

砂嵐のような雑音が当たりに響く

 

『止まりなさい!!博士!!』

 

『君は撃てるのかぃ?その負傷した手で?それで良いのかい?ミス・レバンソン』

 

「……殺すっていう選択肢を一度でも人生に入れたらきっとその後の仕事もその選択肢が軽くなるから嫌だった、とかですかね」

 

雪絵の解説にほぅという顔をするチェグソンと槙島

 

「…銃はナイフと違って直接殺すとしても罪悪感の感じ方が違いますし…刺す時の感覚は二度と味わいたくないって言いますし、でも銃はただ人差し指を引くだけだから殺した実感は少ないでしょうし」

 

雪絵の言葉に槙島は笑いながら二人を見て

 

「相手は大量殺戮者でこれを逃したらもっと犠牲者が出たと思うけど?」

 

議論する気満々の槙島にため息をつきたくなる

 

「人を殺した人間は一生、その殺した感覚を覚えたまま過ごしますから、なんもないところで生活なんて出来ないと思いますけどね、でも、この作品の主人公は刑事で舞台設定的にアメリカかイギリスでしょうし、当時のことを考えたら射殺しない刑事は珍しいですよね」

 

バットで兄の脳天をぶん殴った時のあの感覚はいまだに手にある。

 

「そういえば時代背景的にはすぐに警官は発砲しますよね」

 

チェ・グソンの言葉に槙島も「あぁそういえば」と言う

 

「だから、殺さなかった、猟奇犯罪者を殺してその時は収まっても殺人者を捕まえる時にまた発砲、泥棒に発砲…とどんどん罪の重さ軽さを自制できなくなるんじゃないですかね?」

 

1900〜2000年代の海外も日本も射殺をした事により、犯人の罪が裁かれることなく事件を起こした理由も分からず死亡することなんてよくあった。

 

日本の場合は確か、犯人を射殺したスナイパーを叩くなんて言う謎の行為が行われたからアレ以降は射殺が行われなかった。

 

個人として、あのスナイパーは大多数のために1を殺した。なのに大多数から叩かれるのはとんでもない皮肉だ。

 

でも、結果から見ればアレ以降の事件で安易に発砲が出来なくなったと言うのもある。

 

日本とアメリカを比べるなという話だが、日本には銃を持つという重荷の感覚があった気がした。その代わりアメリカはバンバンあの当時は撃っていた気がした。

 

子供用ライフルがあるなんて知った時は驚いたものだ、相手の命を奪うかもしれない物を子供に持たせるなど、大人ですら命に責任を持てないというのに

 

「時代背景を鑑みて映画を見るのはある意味楽しいかもしれないね、雪絵は頭良いなぁ」

 

そう言ってニッコニコの笑顔で頭を撫でて来る。

 

沢山人を殺したその手で

 

別に嫌悪感なんて湧かない、私の手も何もかも兄の返り血で真っ赤なのだから

 

槙島が話そうとするとチェグソンの端末が鳴る。

 

「準備出来たのかい?」

 

話がそっちに行き、安心する

 

「えぇ、出来みたいですよ」

 

「じゃあ、行こうか」

 

二人が立ち上がったのを見て横に置いてあった本を読む。

 

「あ、雪絵、その本まだ僕は読んでないからネタバレは辞めてね」

 

「しませんよ、まだ序盤でちょっと難しいんですから」

 

軽く話すと『行って来ます』と言われる

 

「いってらっしゃい、槙島さん、グソンさん」

 

本を読みながら扉が閉まる音がする

 

「……うーん、難しいなこの本」

 

16センチぐらいしかないのに序盤から難しかったが、一度文章を読むとのめり込める世界観だ、どんな雑音も遮断する

 

(…うーん、むずい)

 

難解すぎて集中できない本と同じく難解なのに読める本があるのは何故だろうか?

 

「現代設定だからかな」

 

ゴロンと横になる。

 

お風呂が沸いたような音がしたので、一度本を閉じてそちらに向かう

 

『アリス殺し』

 

 




【参考図書】
『アリス殺し』
著者名・小林 泰三
シリーズ情報・創元推理文庫
出版社・東京創元社 
出版年月・2019.4 
『あらすじ』
最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗栖川亜理。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、大学で玉子という綽名の研究員が屋上から転落し死亡していた…。悪夢的メルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ。 

【感想】
読了しました。バカくそ面白かった。真ん中辺りで思考がんー?となるけど最後まで読み切ってなるほど!!となりました。
多分真ん中で挫折するけど、読み続ければ分かるこの面白さ!
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