免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く   作:アルトリア・ブラック(Main)

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やりたいことが多すぎて仕事が邪魔に思える


第5話『退屈と希望』

8歳になり、公安局のテラスから下を眺めていた。

 

「ここで本を読むの好きなのね」

 

そう声が聞こえて来て、後ろを見ると常守朱がいた。

 

この世界でたった一人、免罪体質者でないのに関わらず、シビュラシステムの正体を知りながらも犯罪係数は上昇する事はなかった人

 

そして、自分の戸籍上の保護者

 

「物思いに耽るにはちょうどいいんです」

 

そう外を、眼下の街ゆく人たちを眺めながらいう

 

「朱さんって、この世界って好きですか?」

 

そう聞くと少し考えていたのか間があり

 

「うん、好きよ、だからこそ、守らないといけないの」

 

そう言う彼女の目を見ると、その目は正義という言葉がそのまま具現化したような目だった。

 

本を置いてあったテーブルに戻ると、椅子に座り

 

「私もこの世界は好きです。でも、同時に嫌いでもあったんです」

 

「そうなの?」

 

目の前に座ってくる常守

 

「だって…私を裁けないんですよ、免罪体質なんてものだから」

 

人殺しを裁けない世界なんて異常だ

 

「雪絵ちゃんは、裁かれたいの?」

 

常守の真摯な眼差しに初めて、自分の心に疑問が湧く

 

「裁かれたい…のかもしれないですね、だって、兄を殺したのにそれが正しいってみんな言うんです。嫌悪感を露わにしながら」

 

「………」

 

「でも、槙島さんは違ったんです。返り血で汚れてる私を見て『君は間違った事をした』って、理由はなんであれ人殺しは人殺しじゃないですか」

 

あの時、槙島さんは白澤雪絵という存在を見ていてくれた気がした。

 

シビュラや他の人間が見るような例外存在、のような見方じゃなかった。

 

「…槙島のこと、家族のように思ってた?」

 

そう聞かれんーと悩みながら『まぁ、安心はしませんでしたけど、家族愛というより…友情?みたいな感覚だったかもしれません。だって趣味すごい合ったので』とキッパリ返す

 

「殺人を教唆しながら自分も人を殺してる人間に安心感はないですけど、前に言ったんです。そんなに人を殺したら絶対にロクでもない死に方するに決まってるって言ったら、槙島さん、凄く悲しそうにしながら『それもそれで良い』って言ったんです」

 

思うに槙島は寂しかったのだろう。どんな事をしようと何をやらかそうとシビュラからは無視され続け、それが正しいと言われつつも嫌悪の眼差しを向けられつつあった。

 

「はるか昔だったらそんな事はなかった、免罪体質なんてなかったから槙島さんみたいな犯罪者も生まれなかった。でも同時に、シビュラがあるから防げた犯罪も山のようにある、難しいですよね」

 

でも、この社会は恵まれている

 

少数の悲しみの裏に大多数の幸福がある。

 

「雪絵ちゃん、何を読んでたの?」

 

常守から聞かれ、本を見せる

 

「‥犯罪全集?」

 

「昭和から平成にかけてあった残忍な殺人事件の特集です」

 

常守が表紙を見ていた。普通の人間なら嫌がらせのに常守はまるで気にしていなかった。

 

「ヘビーな本読んでるわね」

 

そう言って一枚ペラっと捲る

 

「犯罪係数って、この時代の人達からしてみれば喉から手が出るほど欲しかったと思うんです」

 

「……」

 

常守がある事件のページを見て止まる

 

「事前に犯罪を起こす人間がわかれば防げたかもしれない犯罪。特にストーカー殺人とか良い例ですよね、ストーカーって思考回路が普通じゃないから、だから、この世界にシビュラシステムがあれば、きっと死ななくても良かった人間はごまんといたと思います」

 

そう言って本を捲る

 

「でも、この犯罪はシビュラシステムでも無理な気がしますけど」

 

そう言うと常守も見て来る

 

【同窓会爆破未遂事件】

 

常守が何をしようとしたのか見ようとしたので

 

「いじめられた人が復讐のために人生を費やして生きて同窓会を開いて自分をいじめた人間を全員爆殺しようとしたんです。まぁ事件は既で母親に止められましたけど」

 

そう言うと常守は『シビュラシステムでも復讐しようと考えたら色相が濁ると思うけれど』と言われる

 

「そのいじめられてた人が免罪体質だったら?槙島さんみたいな人だったらシビュラは裁けますか?」

 

そう言うと常守はビクッとしたのか黙る。

 

「絶対に無理ですよね?それに、いじめはこの世界じゃ色相浄化の一環になってます。私、兄を撲殺する前にいじめられてたんですよ、だって暴力を加えても相手の色相は悪化しないし、自分の色相は綺麗になる。すっごい体の良いサンドバッグでしょうね」

 

ダラけながらジュースを飲む

 

「……雪絵ちゃんは、そのいじめた人達に復讐したいの?」

 

そう常守が言う、彼女の目は実に悪を知らない正義そのものだった。

 

「ぶっちゃけて言えばどうでもいいです。興味ないです」

 

そう言って椅子から降りる

 

「そういうことでしかストレス発散できないなら、そういう人たちはいずれ犯罪を犯します。いや…この世界じゃ大人になったら色相が悪化して施設送りかな」

 

独り言のように呟く

 

 

 

 

雪絵ちゃんが読んでいた本はとても8歳の子供が見るような話題ではなかった。

 

シビュラはいった『免罪体質者とは従来の規範に収まらないイレギュラーな存在』だと、それは単なる精神異常者を指す言葉ではなく、何かが致命的に欠けている代わりに何かが突出して秀でている者達のことを指すと

 

(…雪絵ちゃんは子供らしさを欠いているってことかな…)

 

IQが異常に高い雪絵ちゃんは、きっと普通の子供が理解する物の倍以上は物事を理解し、それを俯瞰して見えている。

 

「いわゆる過去から現れた神仏みたいだな」

 

雑賀先生にその事を相談するとそう返してくる

 

「彼女の話し方やデータを見させて貰ったが、コレは知能が高いというだけで済むような話題じゃあないな」

 

メガネを掛け直し真剣な眼差しでデータを見ていた。

 

「済む話じゃない…?」

 

「普通人間っていうのは社会全般をなんとなく見ているもんだ。社会のルール、そうあるべきという空気、しかし、彼女の場合は違う、こう、なんというか…外側から物事を俯瞰している状態、今の社会と過去の社会の良い所悪い所を照らし合わせ、今の社会を裁定している。要は支配者的資質というべきか」

 

雑賀先生はコーヒーを飲みながらうーんと考える

 

「槙島が犯罪を犯す事で人間の魂の在り方を模索している人間だとしたら、彼女は過去を振り返り今の人間の魂を俯瞰し裁定している。要は過去を見る彼女と未来を見ている槙島、まぁ、なんだ、常人には理解出来ないな」

 

あの雑賀先生がお手上げとキッパリ言う

 

雑賀先生と別れた後、ふぅと深呼吸をする。

 

彼女と話していると色相が濁りそうだった。

 

でも彼女のいうことは一理ある。完璧な社会なんて過去にも存在してないのだから

 

 

 

ー半年後ー

 

 

9歳になった自分の元にシビュラから適正判定が出たと常守さんが言っていた。

 

提示されたのは最年少の公安局総合分析室の分析官として推薦してきた。

 

しかし、年齢的にはイレギュラーな存在で、公には公開されていなかった。

 

(…鳥籠に囲って外に出ないようにしているみたい…)

 

幼い頃に正当防衛とはいえ人を殺し、免罪体質者の犯罪者に保護され、犯罪の事を何より理解している自分に他の仕事が向いていると言われたらありえないだろう。

 

そもそも、上からしてみても犯罪の知識がある人間を野放しには出来ないだろう。

 

同じ公安局総合分析室にいる唐之杜さんは自分のそんなところには気にも止めず、可愛がってくれる。

 

唐之杜さんがモニターの方を向いて仕事する中、自分はソファーの方に座ってモニターを見ていた。

 

カメラに映る彼らはカカシのようで、見ているだけでつまらなかった。

 

「公安局監視官、霜月美佳です」

 

そう言って入って来た彼女と目が合う

 

「…子供?」

 

その反応は何十回も見てるから飽きていた

 

「あら、いらっしゃい」

 

一係は大掛かりな人員補充がされていた。

 

新たな監視官である霜月美佳にメンバーを紹介していた常守

 

「私は公安局総合分析室の分析官の唐之杜至恩よ、この子は史上最年少監視官の槙島雪絵ちゃん!今年で9歳」

 

テンション高めに一緒に紹介してくれる

 

「9歳の監視官?!」

 

霜月美佳が露骨に驚き、常守さんも苦笑いする

 

雪絵は霜月の表情を見ていつも見ているような監視官で興味はなかった。

 

雪絵も一係のメンバーに紹介されるのは初めてではあった(宜野座執行官とは知り合い)

 

須藤執行官と雛河執行官から挨拶される。まぁ二人は子供だからという先入観があるからか低姿勢で挨拶される

 

たった一人、雪絵からしてみても不気味なんか執行官がいた。

 

「………」

↑唐之杜の後ろに隠れて威嚇する雪絵

 

「珍しいわね、東金執行官は嫌い?」

 

「ハハハ、私は嫌われたようですね」

 

(…絶対ロクでもない)

 

表情はやや危なそうな強面の執行官というそぶりを見せているが、何より目がやばい

 

ブラックホールみたいな目をしている

 

渡されていたドミネーターを東金執行官の後ろ姿に向ける

 

「……うわぁ…」

 

余りにもドス黒くて思わずそう声を出す

 

ドミネーターを持ってささっと部屋に引っ込む

 

(…今でもいるんだなぁ、あんな係数の人、ぜっったい碌でもない思考回路してる…)

 

彼が常守監視官に向ける眼差しを考えればなんとなく思考が分かったような分からないような感じになる。

 

(…邪魔に思ってるような顔だけど…なんだろ、この違和感)

 

そう思いつつ部屋に帰る

 

 

 

 

 

関係ない話だが、自分は免罪体質であるということ、そして、分析官としての地位は与えられた一方、シビュラからは要監視されている。

 

特にシビュラの義体とはよく話している。向こうがどんなつもりなのか分からないが、よく接触してくる

 

今回も壬生局長が接触してくるが、中身が女である事と東金美沙子という名前を聞いて大方把握してしまう。

 

「41歳の超絶マザコンを創るとは流石シビュラシステム」

 

「…皮肉も大概にしたまえ」

 

まぁ否定はしないのか、頭を抑えながら言われる

 

「…私にそれを明かしたって事は、これから彼がやる事を黙認してくれと」

 

「そうだ、常守朱は今後邪魔な存在になっていく」

 

そう言う東金美沙子は目の前でコーヒーのカップを用意していた。

 

「………なるほどね」

 

飲もうとしたココアを置き、立ち上がる

 

「まぁ、私は静観しますけど…」

 

そのまま退出する

 

「………アレは駄目だなぁ」

 

思いっきり私情を挟んでいる。その事にため息をつく

 

カムイの存在は東金美沙子にとっては邪魔な存在に他ならないだろう。

 

分析室からハッキングして東金財団の情報を閲覧する

 

東金執行官の誕生した理由、後天的に作り出された免罪体質であるということ、全ての事が詰まっていた。

 

免罪体質の喪失、その言葉だけが自分の脳内に駆け巡る

 

(…もし、誰かと出会っていたら変わってたのかな)

 

自分はきっと、この後も何も変わらないだろう。

 

そうして行き着くのはあの脳髄プールに他ならない。

 

今日も変わらない街並みを眺めながらそう感じる

 

(…でもまぁ、あんな人達に引き摺り下ろされるような人には思えないけど)




まだ続きます
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