免罪体質者がPSYCHO-PASSの世界を行く   作:アルトリア・ブラック(Main)

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何を信じるかは本人次第。しかし、私は宗教そのものが大嫌いです。


第4話『錯乱』

 

シビュラシステムの統治下の下、多くの人間が抱えているのはストレスへの恐怖

 

色相の悪化、他者の色相悪化に影響を受け自分の色相が悪化するのを嫌い、どんな親しい関係でも色相を優先し、簡単に友情を捨てられる

 

「先日も、色相が悪化してて…このまま行ったら次の定期検診じゃ…」

 

自分に相談に来る生徒の悩みの浅さにため息が出そうになるが、堪える。

 

この世界の人間のストレス値は低すぎて、豆腐レベルだ

 

「大丈夫ですよ、須藤さん。考えすぎるのもアレだからいつでも私に相談しにきてください」

 

「ありがとうございます」

 

そう言って頬を赤らめて居なくなる生徒

 

離れたのを確認し、タバコを吸おうとすると…

 

「露骨に顔に出過ぎだと思いますけど、雪絵さん」

 

隣に立っていた男ー八神和彦が教科書を持って立っていた。

 

「…何が」

 

「相談が終わった後、残念そうにする顔です。もっと濃い悩みを聞きたいと思ってます?」

 

「…逆に聞くけど、濃い悩みって何」

 

「帰ってきてない息子が殺人犯かもしれないとか」

 

「…そこまで行くと事件だよ」

 

カウンセラーとして働いていた時代と公安局の犯罪心理学者として事件に関わってた頃の事を思い出す。

 

一度公安局の仕事をしてしまえば、前のような椅子に座って淡々と人の悩みを聞くだけの仕事には戻れない。

 

酒や煙草と言ったような感じだ、刺激的な事件を体験してしまえば、もう後戻りすることなんて出来ない。

 

『白澤雪絵先生こそ私たちを導く指導者なり』

 

慎導監視官から言われたことを思い出す。

 

まるでどこぞの新興宗教のようなフレーズ、勝手に指導者となっている自分。

 

「どうしました?」

 

胡散臭い笑顔で話しかけて来る八神

 

「…私ってそんな魅力的に見える?」

 

「すごい自信ですねぇ」

 

揶揄うように笑う八神に『聞くんじゃなかった…』と呟くと

 

「魅力的に見えるか否かと言われたら、大勢の人からは魅力的に見えるんじゃないですか?貴女がかつて、更生施設で数多くの潜在犯の色相をクリアにし続けたように、側から見れば貴女はこの世界にとって代えのきかない存在です」

 

メガネを上げ、私から目を離さない八神

 

「しかしまぁ、一部の人からは異端扱いされるんじゃないですか?絶滅したに等しい紙の本を読み続ける貴女を知ればきっとイカれてると思うに違いないですよ」

 

「それ自分にぶっ刺さってるよ」

 

「知ってます」

 

悪い笑みで笑う八神

 

このシビュラシステムに支配された世界で紙の本を読む人間はゼロに近い。

 

伊藤 計劃の『ハーモニー』だったか、本は《デッドメディア》と呼ばれている。

 

「この世界で色相を悪化させる原因になりかねない本は疎遠されている。教育学本とかそういうのなら普通に今も読まれてますけど『殺戮に至る病』や『向日葵の咲かない夏』を読む人なんていませんからね」

 

「………」

 

ジョージ・オーウェルやフリップ・K・ディック、あさのあつこや伊藤 計劃、中山七里などと言った多くの文豪たちの作品はこの世界では有害図書判定されている。

 

少しでも過激な要素があれば問答無用で消される。それは色相の悪化に繋がる原因でウィルスのような扱いをされるから

 

「そういう有害図書から知識を吸収し、害のない方法としてこの世界の人間を救っている。そんな貴女は落ちた人間からしてみれば女神のように見える一方、一部の人間からは忌避される。自分とは全く違う異物だから」

 

八神の笑い方は時々悪魔のような邪悪そうな笑い方になる。

 

彼の人生について知りたいと思う時もあれば、触らぬ神に祟りなしと言うように知らない方が幸せなことだってある。

 

だが…

 

「今日はえらく口が回るね、八神」

 

「えぇ、まぁ、死んだ本のことについて語り合えるのは雪絵さんしかいないので」

 

にこやかに笑うその表情に一体何人の人間が騙されているのか

 

「まぁ、有害図書について話せるのはあなたしかいないけど」

 

隣にいたはずの由美を思い出す。

 

「八神先生ー!少し良いですかー?」

 

遠くから女校長が声をかけて来る。

 

「はい、今行きます」

 

そう言ってそちらを見る八神

 

「貴方は…いつだってクリアカラーで色相の心配なんてしてなくて、悩みもないし、話していて楽しくはあるよ」

 

そう言うと

 

「ありがとうございます」

 

「でもその悪魔みたいな笑い方は胡散臭いよ。先生」

 

そう言って背中を向けて逆方向の職員室に向かう

 

 

「…悪魔みたい…ですか」

 

そう言って八神は窓ガラスに反射した自分の表情を見つめ

 

「うーん。雪絵さんは目を見て来るから厄介だなぁ、まぁ、今更直せないんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

一方…公安局の元に、政府公認の薬局に立て籠もり人質を取っているという通報が入る

 

「また…立て籠もり事件か…」

 

一係ではない執行官がそう呟く

 

『中にいる犯人は人質達に何か話してるみたいよ』

 

モニターに映った唐乃杜からの言葉に「話?」と聞く炯

 

『それが詳しい内容を聞こうとすると、監視カメラが破壊されてるのか一切聞こえないのよ…』

 

「犯人の犯罪係数は?」

 

『それがね、銃を突きつけているのに犯罪係数は期待値を超えてない』

 

「サイコパスがクリアな犯人…」

 

その言葉に常守や霜月が担当した事件…『カムイによる事件』を思い出す灼

 

あの事件は秘匿事件として隠されていたが、灼は『カムイ』のしていたことはある程度知っている。

 

カムイの方は薬学と独自の心理操作で対象の色相を浄化していた。

 

雪絵に関して灼が知っていることは浅くしか知らない

 

灼が少し考え込んでいると、閉じられた扉が開かれ、裸の男女が逃げ惑っていた。

 

「!撃つな!」

 

炯の大声にドミネーターを構えていた執行官達が炯の方を怪訝な表情で見ていたが、ドミネーターを放つことはなかった。

 

逃げて来た男女の群れの後ろ、一人の女子に拳銃を突き付けてやって来た犯人にドミネーターを構える

 

【犯罪係数アンダー76執行対象ではありません。トリガーをロックします】

 

ドミネーターから告げられる犯罪係数に炯が舌打ちすふ

 

「その子供を離せ!!」

 

「私は…この世界が心底気持ち悪くて仕方ない。なぜ、あなた方はシステムが作り出したものだけを信じる?なぜ、機械のデータを信じる!私は潜在犯ではない!もう二度とあのような部屋になど行きたくないっ!」

 

警告を無視して支離滅裂な事を話す犯人。

 

錯乱しているというのにその犯罪係数の低さは異常だった。

 

「っ!」

 

炯が犯人を取り押さえる。

 

泣き喚く女児を救出し、女性の監視官に引き渡す

 

「おとなしくしろ」

 

そう言って炯が手錠をかける

 

「あぁ、私はこの世に未練がないというのに…私は、私は死ぬ勇気すらないっ…神様、貴女が死んでくれと言ってくださるなら…勇気を与えてくださるなら…」

 

そううわ言のように呟く男

 

「間違いないこいつは…」

 

灼にモニターを見せる

 

「…【真如絡仔苑】元信徒…」

 

 

 

 

 

 

公安局に戻って来た灼は雪絵に連絡を取ろうと思ったが、オフラインにしてるのか、仕事中なのか連絡に出ない雪絵にハァとため息をつく

 

『白澤先生は…こうなんというか、話していてたまに別人になるんです。潜在犯一人一人に向き合って…話し方も変わるし…』

 

『二人の人がいるんじゃないかと思ったこともありますし、一部の人は白澤先生と話すのは苦手って言ってる人もいましたけど、私はあの先生のこと好きでした。だって、凄く話が面白くて一緒にいたいと思える人なんです』

 

『白澤先生と八神先生は友情適性がないのに楽しそうにしてましたね、美男美女カップルでしたね、まぁ、白澤先生と話してる時の八神先生はまぁ怖い顔してましたけど』

 

更生施設にいた看護師達は雪絵の事をかなり好印象に捉えるものがいる一方、かなり苦手意識を持っている看護師もいた。

 

一方八神和彦については雪絵とセットで出て来る事が多い、シビュラの適性診断では相性がないに等しい二人が仲良くしてる二人を見てお似合いのカップルだと思っていたらしい。

 

『八神先生に関してですか?あの人はまぁ、掴みどころがないというか、八神先生の方が背丈が高いので私はいつも胸辺りを見る感じで話すんですけど、白澤先生と出会ってから本当に楽しい毎日だって言ってました』

 

失踪事件とは何の関係もない話題。

 

八神和彦の身辺で失踪者に似た人間がいないか、更生施設から出て行った者の中に該当者がいないか聞き込みしたが、更生施設の職員は潜在犯の顔なんて覚えておらず、データ上で見てもどんな会話をしたかなんても微塵も覚えていなかった。

 

「遅くなりました」

 

灼が分析室に入ると「灼君も来たし、事情聴取の報告始めるわよ」と唐乃杜が映像を見せる

 

《この世界は現人神によって正しくなる、私たちはそうなると信じている》

 

そう呟く犯人は定まらない目で執行官を見ていた




【参考文献】

『ハーモニー』
作者・伊藤 計劃

『No.6』
作者・あさのあつこ

二つともディストピア系小説。ハーモニーの方がPSYCHO-PASSの世界観に近く、No.6はジョージ・オーウェルの世界に少しだけ近いが、あそこまで支配的ではないが、PSYCHO-PASSの世界観と1984年の世界のちょうど中間当たりのような世界観。
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