死んで生まれ変わる魔法   作:トマトルテ

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11話:束縛

「私と買い物なんて、旦那様も物好きね。あ、それとも友達が少ないだけかしら。そう言えば、旦那様は家にご友人を招いたことがないものね。でも、悲しまなくていいわ。友達の少ない旦那様には私がいるもの。私を捕まえておいて良かったわね、友人の少ない旦那様」

「……魔力を操るだけという何の面白みもない魔法」

「ちょっと路地裏に行きましょう。私、もう我慢が出来ないわ」

 

 旅に必要な物資を補給するために訪れた街で、俺とソリテールは喧嘩しながら歩いていた。

 因みに南の勇者は、関所を超えるための許可を貰いに行っている。

 俺達2人は? 魔族に許可が出るわけがないだろう。

 基本は密入国だ。

 

「さて、食料は買い込んだし、武器や防具の手入れも完了した。後は薬草とかを買いに行くか」

()()()旅1つするだけで大変ね。でも、それなのに世界の果てまで到達しているなんて本当に不思議」

「ソリテール、()()()()()()()()

「あら、ごめんなさい」

 

 ソリテールが被っている麦わら帽子を直すことで、注意を促す。

 魔族視点の話し方になっていたので、周りの人間に怪しまれかねない。

 因みに、今のソリテールは白のワンピースに麦わら帽子という格好だ。

 やたらと似合っていて腹が立つ。

 

「でも、私には食料を買い込む必要が分からないわ。現地調達はしないのかしら?」

「それもする。だが、いつでも食えるものがあるとは限らないからな。雪山なんて食料を探すだけで死にかねん」

「不便ね。でも、人は雪山も大海原も超えてその先を目指す旅に出る。どうしてかしら?」

「生きるためだよ」

 

 薬屋を探しつつ、人込みで賑わう道を歩きながらソリテールの質問に答える。

 人間に危害を与えられないようにしているが、それでも人間への興味は尽きないらしい。

 

「あら、おかしなことを言うのね。同じ場所を動かずに暮らしている方が生きるのには都合が良いはずよ」

「それは強者の考えだ。この世は所詮は椅子取りゲームだ。強者はそのまま椅子に座り続けられるが、椅子に座れない弱者は別の椅子を探しに行かないといけない。そうでないなら、死んでしまうからな」

 

 どんな生き物も何もせずに食べ物が手に入るなら、何もしない。

 だが、そんな環境などごく一部しかない。そして、その環境を奪い合う。

 結果として、弱者は破れて楽園を追い出される。

 しかしながら、弱者が弱者のままとは限らない。

 

「ソリテール、温かい場所と寒い場所。どちらの方が生物にとって生きやすい場所だと思う?」

「温かい場所ね。人間の人口は温かい南の方が多いもの」

「そうだな。温かい南の方が生きやすい。じゃあ、次の質問だ。この大陸の北部と南部。どっちの生物の方が強い?」

「強さで言えば、断然北部ね。南部だとドラゴンの群れは見ないけど、北部ではむしろ基本が群れだもの。……あら、でもおかしいわね」

 

 ソリテールが唇に指を当てて考え込む。

 

「強者なら温かい南で留まっているはず。でも、実際に強いのは追い出された弱者のはずの北側。そもそも群れるのは弱者の証。つまり、北側ではドラゴンですら弱者。圧倒的に北の方が強い」

 

 生物は寒い北に行けば行くほど、体が大きくなりそれに伴い強くなる。

 かつて、自分達を追い出した南側の生物よりも。

 

「……厳しい環境に適応するために、強く進化したのね」

「その通りだ。そして、それは人類も魔族も同じだ」

 

 生物として強いのは圧倒的に魔族だ。

 だが、魔族の拠点は北側にある。

 つまり。

 

「初めは人類の方が強かった。でも、今は進化した魔族の方が強くなっている。そういうことかしら?」

「ああ。人類はかつて高い知性で自然界の頂点に立ち、魔族を……いや魔物を北に追いやった。だが、魔物は人類の言葉を真似、容姿を真似、知性を真似て、強靭な魔物の肉体に人類の知性を持つ魔族になった」

 

 それが今のこの世界の生物の現状だ。

 元居た現代世界でも変わらない。

 だが、1つ違うとすれば。

 

「それじゃあ、今度は豊かな南を奪いに魔族が人間を侵攻しているのかしら?」

「それが違うことはお前もよく知っていると思うが?」

「フフフ、そうね。だって、私だったら豊かな土地なんて何の興味も湧かないもの」

 

 現実の人類と違って、魔族は豊かな南側の植民地(土地)など求めていない。

 魔族は生物としてのレベルが人類よりも上なのだ。

 生態系の頂点と言ってもいい。群れる必要のない圧倒的な個。

 

「お前も言った通りに、同じ場所を動かずに暮らしている方が生きるのには都合が良い。圧倒的強者である魔族にはそれが許される」

「でも、魔族はわざわざ人類を侵攻している。元々、棲み分けれるのに」

「そうだ。だからこそ、魔族の侵攻を止めて棲み分けが出来れば――」

 

 ―――共存の道が開かれるかもしれない。

 

「……いや、なんでもない」

 

 喉から出かかった言葉を慌てて飲み込む。

 人類と魔族の共存。

 そんな馬鹿げた考えに脳が支配されていた。

 

 支配の石環のせいだ。

 自分で言うのも何だが、厄介なものを作ってしまったものだ。

 

「そう……あら、あんな所に露店のアクセサリー屋があるわ。行ってみましょう」

「必要か?」

「私は人間の心に疎いけど、今の発言をする人が女性にモテないのは何となく分かるわ」

「…………」

 

 今の一撃はクヴァール並の殺意だった。

 俺は何も言い返すことが出来ずに、黙ってソリテールについていく。

 ソリテールの方も完全勝利を確信したのか、それ以上は何も言わない。

 

「いらっしゃいませ。ご夫婦ですか?」

「いや……」

()()()、私あの指輪が気になるわ」

 

 店主が見当違いなことを言ってきたので、否定しようとするが何故かソリテールに腕を掴まれて黙らされてしまう。

 

「あちらの指輪ですか? ペアで買っていただけるなら割引しますよ」

「あら、嬉しい……こういう時は黙って頷いていた方がお得になるのよ、旦那様?」

「そんな処世術どこで覚えたんだ?」

「私をメイドとして雇っていたのはどこの誰かしら?」

 

 確かに雇っていたが、あれは他に置く場所が無かっただけなんだが。

 いや、確かに買い出しとかを禁じたことはないが、こうもコミュ力が高いとは。

 まあ、原作のグリュックもマハトを社交界に出していたし、魔族は元々コミュ力が高いのだろう。

 

「あー……じゃあ、それをペアでくれるか、店主」

「ありがとうございます。では、指輪のサイズを魔法で調整するので手を出していただけますか? ……はい、ありがとうございます!」

 

 そして、流れで指輪を買ってしまった。

 いや、金は王様がかなり多めにくれたし、今までの宮廷魔法使いとしての貯金もあるから余裕はあるんだが……これ、どうするんだ?

 

「はい、旦那様」

 

 唐突な事態の連続に困惑する俺を無視して、ソリテールは指輪を1つ俺に渡す。

 因みにダイヤモンドの指輪だ。宝石言葉は永遠。

 まあ、アイゼンは素手で砕けるらしいが。

 

 そんなことを考えながらしげしげと指輪を眺めていると、どういうわけかソリテールが何食わぬ顔で自分の分を左手の薬指にはめていた。

 ……え? 何これ怖い。

 

「お前……何を企んでる?」

「あら、私達は夫婦なんだから当然でしょう?」

「たった今、離婚したと思っていたんだがなぁ」

 

 ジロリと睨むと、ソリテールは残念とばかりに笑って肩をすくめてみせる。

 その後すぐに真顔になって、質問を投げかけて来る。

 

「ねえ、どうして人間の(つがい)は指輪をつけるのかしら?」

「……ああ、なんだ人類の研究か」

「そうね、()()()()()()()

 

 ソリテールの人類を知るという研究テーマ。

 これに関しては禁じていない。

 というよりも、最後に殺すというプロセスが無いのなら、むしろ人類に友好的だ。

 まるで、魔王の願う共存のように。

 

「そうだな……結婚しているという証が欲しいんじゃないか? 後は指輪を見ることで相手のことを思い出して、常に一緒にいると思えるからとか」

「そういった考えもあるのね」

 

 俺の考えを述べると、意味深な言葉を返される。

 どうやら、ソリテールの考えは違うらしい。

 

「私はね、これは()()()()()()()()だと思うわ」

「……一応理由を聞いてみようか」

 

 俺は呆れた表情をワザと顔に出しながら、ソリテールの話を促す。

 

「だって、そうでしょう? 指輪を相手につけさせているとそれだけで、自分以外の異性は近づけなくなる。それは、配偶者(これ)は自分のものだと周りに顕示しているから。これは、人間の国が行う支配と同じ。そして、指輪を四六時中つけさせることで心理的に自分(わたし)相手(きみ)の所有物だと、否応なしに理解させて自由を奪う。つまりは束縛。どう? あっているでしょう?」

「やはりお前は人の心が分からないらしいな」

 

 告げられた答えは、流石は魔族と呼べるものだった。

 指輪が支配と束縛の象徴なんて、世の夫婦に聞かれたら何と言われるだろうか。

 愛の象徴が支配と束縛の象徴など、悪趣味に過ぎる。

 

「あら、かなり正解に近いと思ったのだけど。どうして、否定するのかしら?」

「そんなもののどこに愛がある?」

 

 なるほど。どうやら魔族には悪意や罪悪感だけでなく、愛という感情もないらしい。

 マハトに殺された神父が、可哀そうにと同情するわけだ。

 

「愛……素敵な言葉ね。どうか私に愛というものを御教授してくださるかしら?」

「いいか、愛っていうのは……愛っていうのは……」

 

 ソリテールに説明しようとして、言葉に詰まる。

 愛というものは定義が広すぎる。

 

 まず、自己愛と他者愛という大まかな2つに分けるのでも大変だ。

 情け容赦なく他人を害する血も涙も無い者であっても、自分を大切にする自己愛を持つ。

 逆に全身全霊をもって他者への奉仕を行う者は、他者愛はあっても自己愛が足りない。

 

 困ったなぁ。決まりきった答えがない。

 

「因みに君は結婚したことはあるかしら?」

「ないが?」

「ああ、旦那様はモテないものね」

「モテないからじゃない。地位はあるんだ。求婚されたことぐらいはある。俺が結婚しなかったのは……」

 

 ―――相手を幸せにできないからだ。

 

 ソリテールの挑発に乗ってしまった結果、思わぬところで答えに辿り着く。

 

「ああ、そうか……愛というのは、相手の幸福を願うことだ。仮にも自分を愛する相手を幸せにできないのは、()()()()()()()。だから、俺は結婚しないんだ」

「相手の幸福を願う……なるほど、どこまで行っても個人主義な魔族(私達)には難しい概念ね」

 

 魔族にも自己愛はあるのだろう。

 死にたくないという思いがまさしくそれだ。

 だが、個人主義で家族という概念の無い奴らには、相手のために犠牲になるという行為は出来ない。

 それが他者愛の欠如だ。

 

「分かったのなら、馬鹿な話はこれで終わりだ。南の勇者との待ち合わせ時間に遅れる」

「ねえ、旦那様」

「なんだ?」

 

 どこか、今までにない喜悦に富んだ声でソリテールが俺を呼ぶ。

 そして、振り返った俺に対して、満面の笑みで告げるのだった。

 

「私―――エーヴィヒという人間を最も苦しめる方法が分かったわ」

 

 俺への復讐宣言を。

 

「そうか、楽しみにしてるぞ」

「ええ、楽しみにしていて頂戴。私の()()()

 

 

 

 

 

「さて、この旅路の目的を改めて話しておこうか」

 

 月の光も届かない夜の森の中、焚火を囲いながら南の勇者の言葉を聞く。

 

「今現在私達は、魔王により王都まで推し進められた魔王軍の戦線を押し返している所だ」

「私と旦那様は大して手伝っていないのに、ほぼ1人で北部高原まで押し返すなんて大魔族の私から見ても異常よ」

「君達魔族が人類を甘く見ているだけだよ」

「ええ、肝に銘じるわ」

 

 旅に出てもう少しで1年が経過する。

 ヒンメル達が魔王討伐に出て帰るまでの10分の1だ。

 だが、帰りのことなど考えていない俺達の進軍速度は、ヒンメル達よりもはるかに速い。

 もう少しで北部高原最北端に到達する。

 

「話を戻そう。君達も良く知っているように北部高原の最北端は魔王軍の補給経路の心臓部だ。ここを落とせば魔王軍に大ダメージを与えられる」

「だからこそ、ここだけは絶対に落とせない。全戦力を集中させてもね」

「ああ、そこで待ち構えているのは、全知のシュラハトと全七崩賢だ。そこで私の旅は終わりを迎える。まあ、ここまで進めれば()()()の時間稼ぎには十分だろう」

「シュラハトと七崩賢3人を道連れにしての成果で、ヒンメル達の時間稼ぎか。贅沢なものだなぁ」

 

 改めて戦績を上げてみても、どちらが化け物か分からない。

 シュラハトは低く見積もっても、七崩賢最強のマハトと同格。

 それに加えて、アウラやグラオザームのような搦手を使える奴も複数いる。

 それを3人討ち取ってシュラハトと道連れとか、どうやるんだ?

 正直、この戦力相手なら上手いこと()()()()()()()()だと思っている俺には、想像もできない。

 

「無論、気合いだ。と、いうのは半分冗談で、もちろん策はある。シュラハト殿は半分こちらの味方のようなものだ。それに、討ち取る七崩賢は特に人間への危害が大きいものだけだ。全員討ち取るよりは楽だよ」

 

 半分は気合なのか。

 まあ、アイゼンもそう言ってたしなぁ。

 

「あら、全員を討ち取れないとは言わないのね?」

「各個撃破をすればそれが出来る未来もあった。ただ、シュラハト殿にそれは流石に不味いと潰されただけさ。流石に魔族と人類の戦力のバランスが崩れすぎるらしい」

「……未来視同士の争いはスケールが大きいわね」

 

 そう言えば、ここまで七崩賢と出会っていないのは、そういう理由か。

 今まで通りに大陸の要所に散らばっていたら、南の勇者に各個撃破されるのもあってシュラハトは全員を集めたんだろう。

 マハトの記憶でも、散らばっている七崩賢をシュラハトが直々に集めていたように見えたなぁ。

 ……待てよ、マハトと言えば。

 

「なあ、ソリテール。マハトとは会ったことがあるか?」

「黄金郷のマハト? いいえ、ここ200年はどこかの誰かの隣にずっといるもの」

「そうか……と、なると」

 

 ソリテールの皮肉を無視しながら考える。

 描写的には、ソリテールの下にマハトが訪れたのは原作開始の100年前以内。

 つまり、マハトがソリテールに人間の魔法を教わる機会を逃している。

 いや、そこはどうでもいい。重要なのは、以前会った時とは違いマハトは。

 

「マハトが人間に好意を抱いている状況か」

 

 上手くやれば、こちらに寝返らせることが出来るかもしれない。

 

「あら、魔王様以外に私の同好の士が居るなんて初耳だわ。良ければ、詳しく聞かせてくれないかしら」

 

 ソリテールがマハトに興味を持ったようなので、俺はチラリと南の勇者の方を見る。

 それに対して、南の勇者は問題は無いと頷く。

 どうやら、ソリテールとマハトが出会ってもそこまで問題はないらしい。

 まあ、原作でもフリーレンに討伐されていたしなぁ。

 

「マハトは罪悪感や悪意という感情を知るために、人間との共存を願っている魔族だ」

「そう……たった今興味が失せたわ」

 

 瞳から光を消し、つまらないといった表情になるソリテール。

 共存を望まないのは知っていたが、ここまでの反応は正直予想外だ。

 

「罪悪感なんてものがあったら、私達魔族はとうの昔に滅びてる」

「どうしてそう思うのかね?」

「だって、人間を欺く度に一々胸を痛めていたら生存に不都合でしょう? 生存に不都合なものは排除する。それが進化の基本よ。()()()()()()()()()。夢物語が叶うのは絵本の中だけ」

 

 魔法で本を取り出して、もうこれ以上話すことは無いと言った態度を取るソリテール。

 それに対して、南の勇者はふとした疑問をこぼす。

 

「ソリテール殿。やけに断言するが……もしや、共存について調べたことがあるのかね?」

「…………」

 

 ソリテールは何も答えない。

 ただ、南の勇者には勝てないと分かっているにも関わらず、僅かに滲ませた殺意が答えだった。

 

「失言だったね。この話は忘れよう」

「ああ、それでシュラハトとの戦いで俺はどう動けばいいんだ? 南の勇者」

 

 マハトの話題から話を逸らして、決戦ではどう動くべきかを尋ねる。

 原作では、フリーレンには見せられない何かがあるらしいが、ここでもそうだとは限らない。

 

「君にやって欲しいことは以前から伝えていた、私の死体の確保。可能なら討ち取る予定の七崩賢を支配の石環で捕らえること。後は……」

 

 南の勇者が俺の方をジッと見つめながら、何かを言い淀むようにしている。

 全く、俺は元々魔族だって言うのに何を気にしているんだろうか。

 

「問題ない。分かっている。要するに俺みたいに魔王に生まれ変わらせれないようにすればいいんだろう?」

 

 魔王が自在に死者蘇生の魔法を使えるということは、死んだが最後魔王の支配下に入るということに他ならない。

 単なる魔族ならともかく、七崩賢がリポップするのはきつい。

 まあ、魔王の夢が共存なので元のまま復活させるかは微妙だが、用心するに越したことはない。

 だからこそ、俺が封印するのだ。

 

「ああ。君に頼みたいのは、この決戦で死ぬ()()()()()―――封印だ」

 

 俺を含めて誰も生き返らせることが出来ないように。

 

 




13巻読んでたら遅くなりました。
ランユベの破壊力高すぎだろ……。
俺の心のザインが何度コップをテーブルに叩きつけたことか。
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