死んで生まれ変わる魔法   作:トマトルテ

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13話:自分の誕生日が正しいと何故言いきれる? この世界に産み落とされた日の記憶なんて()()覚えていないのに。

 賢者エーヴィヒの正体は謎に包まれている。

 

 いつ、どこで生まれたのか?

 何年に死んだのか?

 そもそも、種族や性別は何だったのか?

 

 その全てにおいて、正確に残されている文献はない。

 

 ()()()()()()()()()では、エーヴィヒ自身は女神によってこの世界に遣わされたと言ったと書かれている。だが、また別の文献ではエーヴィヒは未来から来たと書かれているものもある。また、女神の聖典がもたらされるよりも遥かに昔だというのに、女神の言葉を理解した、天国の存在を提唱したと言われたりもしている。はたまた、エーヴィヒは世界の始まりから永遠の時を生きているという話まで存在する。

 

 だが、そのどれもが、信用性がなく話に尾ひれがついて肥大化したものの可能性が高い。

 

 特に未来から来たというのは、大魔法使いフランメが提唱した不可逆性の原理に真っ向から反するものであり、あり得ない事象だろう。

 世界が物語のように、初めから起きること全てが定められていなければな。

 とにかく、彼が生きた神代という遠い過去から時間が経った今では、こうした与太話が溢れかえっており、彼の正確な姿を知る者は今となっては誰も居ない。学会ではエーヴィヒは魔族だったと大真面目に語る学者すらいたりする。

 

 だが、こうした不正確な情報の中でも1つだけ確かだとされるものがある。

 それは―――彼が人知を超えた魔法の使い手であったということだ。

 

 

 

 

 

『―――死んで生まれ変わる魔法(リインカーネーション)

 

 あり得ない声を聞いた。

 確かに、エーヴィヒは黄金化したはずだ。

 万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)を解除する術はない。

 そのはずだった。

 

「なんだ、マハト。貴様の魔法も随分と使えんな。初めから私の魔法を使えばよかったのだ」

 

 黄金化から逃れて、生まれ変わったエーヴィヒ。

 その事実に衝撃を受ける七崩賢達。だが、狼狽えるだけの弱者とは彼らは違う。

 黄金化が解けたから何だとばかりに、今度はベーゼの結界魔法でエーヴィヒを捕らえる。

 不死なるベーゼの結界魔法は人類では、いや例え魔族だとしても決して破れない。

 そうしたイメージで作られた魔法だ。故に、逃げ道はどこにもない。

 

「このまま死ぬまで結界内に閉じ込めておけば十分だ。まったく、貴様らのせいで無駄な時間を――」

「悪いが、俺にはやることがあるんでね。こんな所でお昼寝をする時間はないんだ」

 

 はずだった。

 

「な…!? あ、ぁあ…ッ」

「自分の魔法を解除された程度で、そんなに狼狽えていて大丈夫か?」

 

 だが、現実は非情だった。

 まるで、暖簾をくぐるかのような気楽さで、解除された己の結界魔法に言葉を失うベーゼ。

 そんな彼に対して、エーヴィヒは煽るように話しかける。

 

「ベーゼの魔法を解除しただと……まさか、俺の万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)も」

「ああ、黄金化を解除して、後は普通に死なせてもらったよ。元々致命傷だったからなぁ」

「人類どころか、魔族相手でも解除させない自信はあったのだがな……」

「悪いなぁ、マハト。俺はお前達の魔法は全て―――()()()()()()()()()()()

 

 葬送のフリーレンを見たからな。

 そう、声を出さずに呟きエーヴィヒはアウラとグラオザームに目で牽制を送る。

 お前達の魔法も解除できるぞと。

 

「知っているだと? 例えイメージ出来たとしても、俺の魔法をただ一度見ただけで解除するだと? 黄金化するまでの僅かな時間で解析を完了して? ……不可能だ」

 

 あり得ないと口にするマハト。

 それは自分の魔法への絶対的な自信であり、また客観的に考えた結果だった。

 だが。

 

()()()()。それが俺の生み出した魔法だ」

 

 目の前に居るのは不可能を可能に変えた存在だ。

 常識の範囲で判断していい存在ではない。

 そう認識を改め、マハトはここに来て初めて戦闘態勢に入る。

 

「……もっとも、マハト、お前の言う通り時間は足りなかった」

「ならば、どうやって?」

「ああ、時間が無いから――」

 

 エーヴィヒはソリテールに、懐かしそうな視線を向けスッと合図を出す。

 

 

 

「―――()()()()()()

 

 

 

 エーヴィヒの口から告げられた真実に、七崩賢達の思考は一瞬停止する。

 あり得ないと一笑に付すことは簡単だ。

 だが、もしそれが真実だった場合は。

 

「エーヴィヒ。それが真実だとしたら……何故、過去に戻って私達を消さないのですか? 過去に戻って私達の魔法の解除法を探すよりも余程手っ取り早い」

「そうよ。過去に戻れるなら500年前にでも戻って、生まれたばかりの私を殺せばいいじゃない」

 

 今からどんな抵抗をしても無駄だ。

 過去に戻って消されれば、こちらはどうしようもないのだから。

 

「そうだな……言って分かるかどうかは、知らないが……まず俺は過去は何も変えていない。既に描かれた物語に、作者以外が何かを書き足すことは出来ないからなぁ。ただ、俺の過去には、お前達の魔法を解析した時間があるというだけの話だ」

「でしたら、なぜ?」

 

 最初から使わなかったのか。

 そう、疑問を口にするグラオザームにエーヴィヒはあっけらかんと答える。

 

「思い出したのが……記憶が戻ってきたのが、ついさっきだったからなぁ」

「何をふざけたことを……いえ、まさか、あの時の理解不能の言葉は」

 

 グラオザームは思い出す。

 エーヴィヒが黄金化する直前に唱えた、謎の言葉。

 一体何の体系の言語かも、グラオザームには分からなかったが推測があっていれば。

 

「時を遡る女神の魔法……ですか?」

「正解だ。女神の魔法には、自分の意識を過去に飛ばすものがある。まあ、女神の認識としては、過去の自分に未来の知識を持たせているだけかもしれないが」

「なるほど……過去で得た経験を持って、再び現在に意識が戻ってきたというわけですか。その時の記憶は今の貴方が持っているので、この瞬間まではその時の記憶がない……これは魔王様に急ぎ報告しなくては。この事象は危険すぎる」

 

 女神が自分達の敵になるかもしれない。

 その事態に、戦闘よりも報告の方が先だと判断を下すグラオザーム。

 しかしながら、他の七崩賢は違う。

 

「報告など必要ない。ここで、こいつを消せばそれで終わりだ」

「そうよ、このまま舐められたままなのは、ムカつくじゃない」

「黄金化の解除……もし、それが人間にも適用できるのなら」

 

 魔法を打ち破られたベーゼを筆頭に、アウラも頭に血が上っているのか戦闘に意欲的だ。

 マハトだけは別の興味からだが、ここに来て初めて七崩賢の半数以上の意見が一致する。

 もっと早くから、協力しろよと言ってはいけない。

 

「…………」

「安心しろ、グラオザーム。俺も……いや、()()()これ以上戦う気はない、なあ――」

 

 こいつらは本当に、という目をするグラオザーム。

 そんなグラオザームに対して、エーヴィヒは提案するような声色で話しかける。

 そして、意味ありげに視線を後方に向け、ある者を見る。

 

 

「―――()()()()

 

 

 南の勇者は健在だった。

 全身が傷だらけの血だらけ、だとしても確かにそこに南の勇者は立っていた。

 

「はぁ!? シュラハトの奴は何やっているのよ!」

()()()()……皆さん撤退しますよ。あの2人を相手にするのは流石に不味い」

「むぅ……やむを得んか」

 

 南の勇者の登場に、流石に不利を悟ったのかアウラ達は素直にグラオザームの意見に従う。

 それだけ、南の勇者の再登場は七崩賢達にとって衝撃だったのだろう。

 まあ、初撃で仲間が3人も葬られたのを見ていれば、無理もない。

 

()()()()()()()()、エーヴィヒ?」

「ああ、感謝するよ」

 

 立ち去る一瞬、グラオザームだけエーヴィヒに目配せをする。

 それに対して、煽るように笑顔を浮かべて感謝の言葉を返す。

 傍から見れば、皮肉を言っているように見えただろう。

 だが、実際の所は。

 

「……ソリテール、もういいぞ」

「結構自信があったのだけど、流石にグラオザームは()()()騙されないわね」

「他の奴らも南の勇者を警戒してなかったら気づいていたと思うぞ」

「人の魔法にケチをつける人は友達が出来ないわよ」

 

 南の勇者はソリテールの生み出した幻影であった。

 

「死せる南の勇者、生きる七崩賢を走らせる……か」

「あら、何かのことわざ?」

「……独り言だ、気にするな」

 

 南の勇者の幻影が消えた後、エーヴィヒは寂しそうに笑い歩き出す。

 先程の南の勇者は幻影だった。

 それはつまり。

 

「……話がついているのなら、殺し合う必要もなかったんじゃないのか?」

「それでは、疑われてしまうだろう。だからこそ」

「殺し合う必要があったわけだ……エーヴィヒ」

 

 南の勇者は、もう立ち上がれない。

 シュラハトと相打ちになる形で地面に倒れ伏している。

 対するシュラハトも、心臓を剣で貫かれ今にも魔力の塵となろうとしている。

 

「それよりも、()()()()()()()?」

 

 息も絶え絶え。

 死んでない方が疑問に感じる傷を負っているにも関わらず、南の勇者は普段のように話しかけて来る。

 

「ああ……思い出したよ。まったく、ここまではお前達の掌の上というわけか」

「悪く思わないでくれ。人類を、世界を、滅亡の危機から救うためだ」

 

 ニヒルな笑みを浮かべる南の勇者。

 

「シュラハト、これが本当に1000年後の魔族のためになるのか?」

「そうだ。魔族と人類のバランスを保つこと。それが両者の繁栄に繋がる。……()()()()()()()()()()()()……」

 

 自らの死すら既に見たと言わんばかりに無表情のシュラハト。

 

「そうか……この世界に生きるお前達が羨ましいよ」

 

 迷子の子供のように、泣きそうな顔になるエーヴィヒ。

 だが、それも一瞬だった。

 すぐに軽く頬を叩き、覚悟を決めた表情に戻る。

 

「よし、じゃあ()()()()お別れだな。南の勇者、シュラハト」

「後のことは……ヒンメルのことは任せたよ」

「魔王様は私の理解など到底及ばない領域に居る、心してかかれ。こうなることすら、魔王様は知った上で泳がせているのかもしれない」

 

 命の灯火が消えゆく瞬間。

 人も魔族にも平等に訪れる死。

 死者の魂がいずれ辿り着く安らぎの地。

 両者が本当の意味で対等になれる場所。

 

「ああ、了解した。……安らかに眠っていてくれ」

 

 人はその場所を。

 

 

 例え、1万年の時を過ごしていたとしても。

 その記憶を全て失っていれば。

『―――魂の眠る魔法(anulus lucis)

 それに気づける人間は誰も居ない。

 ましてや、時代が全く違う異世界に来た直後なら、尚更に。

 

 

 ヒンメル(天国)と呼ぶ。

 

 

 

 

 

「フリーレン。女神の石碑には、何が書かれているんだい?」

 

 ヒンメルが隣を歩くフリーレンに話しかける。

 

「知らない」

「えー……じゃあ、何で石碑に向かっているんだ?」

「もしかして、女神の石碑の解読に挑むつもりですか、フリーレン」

「知っているのか? ハイター」

 

 知らないと、無表情で答えるフリーレン。

 そんな、フリーレンも素敵だと思いながらも困惑の表情を浮かべるヒンメル。

 そこへ、ハイターが助け舟を出してくる。

 

「女神の石碑は天地創造の女神様が、この大陸に残したとされる十の石碑のことを言います。何でも、その石碑には女神様自らが込めた魔法が今でも眠っているらしいですよ」

「それはどんな魔法なんだい? ハイター」

「一説によると、()()()()()()()や、不老不死の魔法、天国に行く魔法など夢のような魔法が載っていると言われていますが、ハッキリ言うとまるで分かりません」

 

 聖典を撫でながらハイターが首を横に振る。

 

「今まで数多の魔法使いや僧侶が解読に挑んできましたが、有史以来解読されたことはありません。書かれている()()()()が暗号なのか言語なのかも分かっていません。ですので、フリーレンはその解読に挑むつもりなんでしょう」

「そういうこと。ヒンメルが受けた討伐の依頼の魔物の出現地と一緒だったから、ついでに寄ってみようかなって」

 

 ハイターの説明にフリーレンも頷き、ヒンメルは納得したと笑う。

 だが、話はここでは終わらない。

 

「それにしても、ハイターは詳しいね。まるで敬虔な僧侶みたいだ」

「敬虔な僧侶ですよ」

「敬虔?」

「二日酔いでいつも苦しんでる人間が?」

「失礼な。いつもではないですよ。せいぜい2日に一回程度です」

「それって、ほぼ毎日じゃん」

 

 フリーレンの天然ボケが炸裂し、ヒンメルとアイゼンがそれに乗る。

 このパーティーでは、そんな流れが定着しつつある。

 和気あいあいとした、くだらなくて楽しい旅路。

 だが。

 

「……しかし、このままでいいのか?」

 

 何の不安もないわけではない。

 

「アイゼン? どういうことだい?」

「俺達は……いや、ヒンメルお前は魔王を打ち倒す勇者だ。こんな所で、時間を使わずにさっさと魔王城に向かうべきなんじゃないか?」

 

 魔王を打ち倒す宿命を宿した勇者、ヒンメル。

 その噂は最初は小さなものだったが、ヒンメル達が旅を続け功績をあげる度に大きくなっていく。

 今では人類の希望と呼ぶ者も少なくはない。

 だからこそ、地道な依頼や趣味は捨てるべきじゃないのかと、アイゼンは問うたのだ。

 

「確かに……アイゼンの言うとおりに、すぐにでも魔王城に行くべきなのかもしれない」

「ヒンメル……」

「でも、アイゼン。ここで僕達が魔物を無視したら村の人達が困るだろう?」

 

 それに対して、ヒンメルは屈託のない笑顔で答える。

 

「それは……そうだが……」

「アイゼン、フリーレン、ハイター……は、知ってるか。僕はね、魔王が倒したくて勇者になったんじゃないんだ。自分の故郷を守りたいから勇者になったんだ」

 

 ヒンメルは思い出す。

 自分の育った故郷を。

 美しい思い出を。

 そして、それが魔物や魔族に荒らされて消える苦痛を。

 

「魔王を倒すのが真の目的じゃない。魔王を倒した先にある平和な世界が僕の目的なんだ。だから、魔王を倒したけどそこに誰も居ない世界じゃ意味がない。目の前の困っている人を助けていって最後に魔王を打ち倒せたら、それが1番じゃないか」

 

 魔王を倒す名誉が欲しいのではない。

 魔王に脅かされない平和な世界が欲しいから、魔王を討ちに行くのだ。

 

「……出来るのか?」

「僕一人じゃ逆立ちしても無理だろうね。でも、僕には君達が居る。頼りにしてるぞ、みんな」

「……調子の良い奴だ」

 

 その覚悟に、アイゼンはフッと笑い頷く。

 全く自分はとんでもない男について来てしまったものだと。

 

「とか言って、自分が色々と依頼を受けたいからじゃないの?」

「バレたか……」

「まあ、ほどほどの寄り道なら女神様もお目溢ししてくださるでしょう」

「そうだな。でないと、ここにいる生臭坊主が五体満足で生きている理由が分からん」

「さっきから私への当たりが強くありませんか?」

 

 仲間と笑い合いながらヒンメルは思い出す。

 旅立ちの日、魔王と出会ったことを。

 そして、その日に出会ったもう1人の勇者のことを。

 

 

 ―――道は必ずこの私が切り開く。だから君は迷うことなく君の道を進め。

 

 

 不思議な人だった。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい感じがした勇者。

 今の自分よりも遥か高みに居る人類最強。

 そんな人が迷うなと言ってくれたのだ。

 なら、何も心配はいらない。

 

「ヒンメル、前方に大きな魔力反応がある。多分、依頼の魔物だ」

「よし、まずはアイゼンが正面から行って注意を引く。その後に僕が側面から攻撃を仕掛けて、攪乱したところでフリーレンとハイターの魔法でとどめを刺すぞ」

「おう!」

「任せてください」

 

 レプリカの勇者の剣を握り締める。

 この足取りに間違いなんてない。

 全てが繋がっている。

 僕達の為す行為が全て。

 

「さあ! 世界をまた1つ平和にしよう!」

 

 勇者だ。

 

 

 

 

 

 7日後、人類最強の南の勇者が、七崩賢によって討たれたというニュースが大陸全土を駆け巡るのだった。

 




謎言語(女神の言葉)はラテン語を使用しています。
ラテン語の理由は、ルターがドイツ語に翻訳する前は聖書がラテン語のみで書かれていたからです。
後、フリーレンが目指している女神の石碑は原作のとは別物です。
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