死んで生まれ変わる魔法   作:トマトルテ

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21話:未来

 未来を見た。

 

 人間が滅び、魔族が世界を支配する世界を見た。

 世界を支配し、そして人間(エサ)のいない世界に絶望して消えていった未来。

 そんな、滅びの未来。

 

 未来を見た。

 

 魔族が滅び、人間が世界を支配する世界を見た。

 魔族の代わりに人間同士で殺し合い、果てには自らが生み出した魔法で世界を滅ぼした未来。

 そんな、滅びの未来。

 

 未来を見た。

 

 人間が魔族に、魔族が人間になった世界を見た。

 そこに人間は居なかった。そこに魔族は居なかった。

 ただ、人間でも魔族でもない醜悪な何かが世界に存在した。

 争いはなく、人間を喰らうこともない。停滞した平和な未来。

 そうして、ただ緩やかに滅びていった未来。

 

 未来を見た。

 

 今と変わらず、魔族が人を喰らい、人間が魔族を殺す世界を見た。

 人間は争いながらも、魔族を前にすれば手を取り合う世界。

 魔族は何も変わらずに人間を喰らい、自らの存在意義を得る世界。

 殺し、殺され、どちらの種族も進化を遂げていく未来。

 唯一、滅びの道から解放される未来。

 

 そうして、私は悟った。

 

 魔族とは人間が存在しなければ成り立たない哀れな存在だと。

 人間とは外敵(まぞく)が居なければ、同士討ちで滅ぶ愚かな存在だと。

 

 私は気づいた。

 

 魔族とは魔法であり、人間が世界を滅ぼさないようにする(くさび)なのだと。

 人間とは世界に色付けし、変化を生み出すために創り出された存在なのだと。

 共存とは殺し合いの果てにあるのではなく、殺し合いの最中にあるものなのだと。

 

 そして、未来を見通せる私という存在でさえも。

 

 

 何者かの手の平の上で踊らされているにすぎないのだと。

 

 

 そう、気づかされた。

 

 

 

 

 

武道僧(モンク)のクラフトだな?」

「……人に会ったらまずは自己紹介をするのが筋というものだろう」

「そうだな、悪かった。俺は魔族エーヴィヒだ。お前に頼みがある」

 

 人影どころか、動物の影すらないような山の奥。

 そこで、俺は旅の目的であるクラフトにようやく出会えていた。

 

「魔族の言葉に俺が耳を貸すと思うのか?」

「お前なら俺が話しかけて来た時点で俺を殺せたはずだ。だが、今の俺はこうして会話が出来ている。可能性は0じゃないだろう?」

 

 魔族の姿で会っているので、クラフトは警戒を隠さない。

 だが、これはまだありがたいぐらいだ。

 フリーレンなら会話などせずに殺しに来ても全くおかしくない。

 これはクラフトが女神の教えを守り、無駄な殺生を好まないからだろう。

 広めていてよかった、女神の聖典。

 

「ならば、後ろに隠れているもう一人も出せ。そうすれば話だけは聞いてやる」

「ソリテール、出てこい。いきなり殺し合いになる可能性はなさそうだ」

「あら、すごい。完全に魔力は消していたのにどうやって気づいたの?」

 

 即座に殺し合いになると、死んで生まれ変わる魔法(リインカーネーション)を使える俺はともかく、ソリテールは死ぬ可能性があったので下がらせていたのだが、どうやらクラフトにはお見通しのようだ。

 

「お前達は魔力に頼り過ぎている。呼吸音、匂い、気配。存在を知る術はいくらでもある」

「フフフ、人類って本当に面白いわ。まだまだ調べ尽くせていないもの」

「……妙な魔族だ。死臭はしないがその目は人殺しのそれだ。しかも、特級のな」

「今は強制ダイエット中なのよ。かれこれ300年近く食べてないもの」

「たったの300年だろう? ……まあ、二言はない。用件を話せ」

 

 戦闘態勢を解き、一応の対話の姿勢を見せてくれるクラフト。

 だが、その佇まいには一部の隙も無い。

 少しでもこちらが怪しい動きを見せたら、いつでも殺せるそんな状態を維持している。

 

「単刀直入に言おう。魔王を討つのに協力してくれ」

「……俺の老いもついにここまで来たか。耳がまともに機能していないようだ」

「信じられないのは分かるけど、事実よ。旦那様は魔王様を殺すために動いている」

「権力闘争、それともクーデターか? 魔王を討ってもお前達が新たな魔王になるだけじゃないか?」

 

 嘘をつくのならもう少しましなものにしろ。

 そう言外に告げながら、クラフトが俺の方を睨む。

 だが、事実なので俺は肩をすくめることしか出来ない。

 

「悪いが、協力することは出来ない。お前達を信用できない」

 

 交渉の結果は早々と出る。

 決裂だ。まあ、魔族相手に話をしてもらえただけ上出来だ。

 

「クラフト、俺はお前を納得させる言葉を持っていない。どれだけ言葉を尽くそうとも魔族という一点が全てを台無しにする」

「……そこまで自分達を客観視している魔族を見るのは初めてだな」

「無駄に長く生きているからなぁ。ところでクラフト、お前はどうして魔王を討たないんだ? ()()()()()()()()()お前が人類を脅かす魔王を放置する理由はなんだ」

 

 俺の言葉に心底驚いた表情を浮かべるクラフト。

 

「俺を知っているのか?」

「世界を救ったという伝承だけな。具体的に何をしたのかまでは知らない」

「そう…か……」

 

 クラフトが深く目を閉じる。

 まるで、もう戻ってこない遠い日を思い出す様に。

 

「クラフト、もしかして俗世から離れすぎて、魔王の存在を知らないのか?」

「何を馬鹿な。流石の俺も魔王の存在は知っている。エルフは別に野生児じゃないんだ。一生森の中で自給自足しているわけじゃない」

「じゃあ、なぜだ? かつて世界を救った男が魔王を討とうとしない理由は?」

 

 クラフトに問いかける。

 世界を救うなんて、自己犠牲の塊のような行為をした男が。

 野盗の命さえ、無駄な殺生はするべきでないという男が。

 魔王という巨悪を放置するのはどういう理屈だ。

 

「……勇者の剣を知っているか?」

「女神が授けた……と、()()()()()()()剣だな」

「そうだな。そう伝えられている……まあ、嘘だが」

「だろうな」

 

 クラフトの告白にだろうなと肯定する。

 何せ、俺はあの剣を授けた記憶はないからなぁ。

 ゼーリエの時代には影も形もなかったし。

 

「あら、そうだったの? 道理で魔族の間でも噂にならないわけだわ」

「あの剣は確かに魔物への特効能力があるが、それは()()()がそういう魔法を付与しただけだ。強力な武器であることは間違いないが、別に世界の危機にだけ抜けるというものではない」

 

 あいつ、とどことなく柔らかい表情を浮かべながら話すクラフト。

 きっと、仲間の僧侶のことを思い出しているのだろう。

 

「でも、それならどうして他の人間には抜けないのかしら? 勇者にしか抜けないなんて縛りはないのよね」

「確かにそういった縛りはないし、後世の人間に遺そうという話にもなった。だが、俺とあいつが作った剣だ。生半可な奴にはやれない。そこでだ、過去の俺の全力を込めて抜けないようにあそこに突き刺したんだ。俺と同じぐらい強い人間じゃないと抜けないようにな」

「……傍迷惑ね」

 

 ただ単に剣を刺しただけ。

 だというのに、何人もの勇者を失望させてきたのだ。

 ソリテールの言うように傍迷惑でしかない。

 

「待て、言い訳になるだろうが、俺は別に伝説の武器という立ち位置にする気はなかったんだ。そもそもあそこは雪山の奥だぞ? 俺達が剣を置いた時は無人の山だったんだ。結界も張って誰の迷惑にもならないようにした。むしろ、山から魔物を出さないように引き寄せる道具として使えるようにもした」

「……それが気づいた時には集落が出来て勇者の剣と祭り上げられていたと」

「正直、人間の環境適応力を舐めていた。人間の底力はあいつで知っていたはずなのにな」

 

 心底バツが悪そうに頬を掻くクラフト。

 まあ、ちょっとした思い付きで1000年単位で人間の人生を狂わせるとは思わなかったのだろう。正直、少しだけ親近感が湧くのであまり強くは言えない。

 というか、今更ネタバラシされても集落の方も困るだろう。

 

「それで、その勇者の剣と魔王を討とうとしない関連性は何なんだ?」

 

 まあ、残酷な事実は一先ず置いておいて、今は魔王関連だ。

 別に、普通の剣が勇者の剣になっていたとしてもクラフトには特に問題はないはずだ。

 

「……先ほども言った通り、あれは俺の剣だ。当然、俺は魔王を討つためにあの剣を抜きに行った」

「そこで、集落が出来て剣が祭り上げられているのを見たのね」

「その話は今は置いておいてくれ。ともかく、俺はあの剣の下に行った。そこで引き抜こうとしたが」

「が?」

 

 クラフトが神妙な顔で自分の手の平を見つめる。

 まるで、年を取り衰えた老人のように。

 そういうことか。

 

「……抜けなかった。昔の俺なら確かに抜けたはずの剣を、俺は抜くことが出来なかった」

「衰えか……エルフも衰えるんだな」

 

 コクリと静かにクラフトが頷く。

 確かにエルフは長寿だ。

 だが、不死でもないし不老でもない。

 

「俺が武道僧(モンク)なんてものをやっているのも、もう得物を振るえないからだ」

 

 盛者必衰の理。

 かつての英雄も衰えるのだ。

 斧を振るえなくなったアイゼンのように。

 

「魔王はそこら辺の魔物を討伐するのとは訳が違う。俺は魔王を討とうとしないんじゃない。討てないんだ」

「そうか……悪いな、邪魔をした。行くぞ、ソリテール」

「残念ね、旦那様」

 

 これ以上は交渉しても意味はないだろう。

 そう判断して、俺はソリテールと共にクラフトに背を向ける。

 

「待て」

 

 そんな俺達をクラフトが呼び止める。

 

「どうした? 魔族を見逃せないというのなら、ほんの少しの抵抗はさせてもらうぞ」

「殺すつもりなら声などかけない。ただ、お前達から魔王を討つ理由を聞きたいだけだ」

 

 なるほど。確かに、俺達が魔王を殺そうとする理由は言っていない。

 クラフトからすれば魔王を討つ魔族など、理解できないのだろう。

 

「自分の蒔いた種は自分で摘み取らないといけない。そう思っているだけだ」

「蒔いた種だと…? 結局、お前は何者だ? お前からは人殺しの匂いはしない。だが、殺人を恐れている顔でもない。そして、俺達エルフ以上に命に諦観した空気を纏っている。大魔族でもそれだけ長く生きている奴は見たことがない」

 

 不自然だ。

 はっきりと、そう告げられ思わず笑ってしまう。

 まあ、そうだろう。俺以上にこの世界で不自然な存在はいない。

 到底、この世界で生きているとは呼べないのだから。

 

永遠(エーヴィヒ)だよ、俺は。今も、これまでも、これからも、永遠に」

「……賢者エーヴィヒ。神話の時代の人間だと思っていたが、まさか生きているとはな」

「分かるのか? 驚いた。これまで誰にもバレたことがないのになぁ」

「人間には無理だろう。生きているという発想がまず出てこない。だが、俺達エルフにとっては神話の時代から生きているのは現実的なラインだ。まあ、それでもカマかけのつもりだったんだがな」

 

 クラフトが俺の正体に辿り着いたので、思わず拍手をしてしまう。

 今まで、答えに辿り着いたやつはいなかったので素直に感心する。

 いや、ただ単に俺がその時の記憶を失っていたからかもしれないが。

 

「私の墓を暴いた者は、私でも抑えきれぬ厄災を解き放つだろう」

「…………」

「お前の墓に刻まれていた言葉だ。抑えきれぬ厄災とは魔王の事か」

「ご名答」

 

 クラフトの言うように、俺の墓の封印が解けた時に魔王も解き放たれた。

 そして、その際に俺もまた死んで生まれ変わる魔法(リインカーネーション)で復活した。

 つまりだ。

 

「……分かっていたな。自分の墓が暴かれ、魔王が出てくることを」

「ああ。返す言葉もない」

 

 俺は魔王を解き放つことを前提に計画を組んでいた。

 復活の時間を遅らせただけだ。

 今も魔王は元気に人類との共存を目指している。

 

「封印を延長することは出来なかったのか?」

「出来た」

「魔王が人類の敵になることを知っていなかったのか?」

「知っていた」

「多くの人間が殺されることを知っていたな?」

「もちろん」

 

 ゆらりとクラフトの体の周りに闘気が立ち上る。

 ああ、それはきっと怒りだろう。

 今まで魔族に、魔王に殺された人間のための怒り。

 至極当然で当たり前の感情。

 俺が失って久しい感情だ。

 

「やめておけ、クラフト。お前に俺は殺せない」

「答えろ。お前は何を知っている?」

 

 返答を間違えれば、その瞬間にクラフトは俺を殺しに来るだろう。

 まあ、非魔法使いの攻撃である以上、死んでも復活するだけなのだが。

 それでも、誠意を込めて答えておくべきだろう。

 信頼は何物にも代えがたい価値があるのだから。

 

 

「魔王が討たれ、世界が救われた先の未来を」

 

 

 “葬送のフリーレン”の物語を始めさせること。

 それが、俺の目的であり使命だ。

 

「……魔王の側近には未来を見通す魔族が居たというが」

「生憎それは俺じゃない。俺は未来を知っているだけだ」

「お前の言う未来は必ず来るのか?」

「必ず来させるために、今この時に魔王を討たないといけないんだ」

 

 魔王は勇者に討たれ、世界は平和にならなければならない。

 そうならなければ、物語は始まらない。

 “葬送のフリーレン”のために、“ヒンメルの冒険”を完結させないといけないのだ。

 

「……お前は危険だ」

「野放しには出来ない。その気持ちは良く分かるが……どうすれば良いと思う?」

 

 クラフトの鋭い眼光は、それだけで命を奪われると錯覚するほどだ。

 だが、俺には意味のない行為だ。

 ()()()()は死なない、死ねない、殺せない。

 かくあれかしと作られたのだから。

 

「……前言は撤回だ。俺もお前達についていこう」

「監視か? いいのか、ここで殺さなくて」

 

 ついていく。そう告げるクラフトにワザとらしく手を上げて隙を見せる。

 その気になれば、いつでもクラフトが俺を殺せるように。

 

「疑わしきは罰せず。女神の言葉に従うだけだ」

「魔族相手に悠長だな。疑わしきは殺せが、対魔族の基本だろう?」

「お前達についていって死ぬのは俺だけだ。なら、大したリスクじゃあない」

「……大した、自己犠牲精神だな」

「昔はよく言われたよ」

 

 自分の命よりも他人のことを思う精神。

 やはり、クラフトもまた英雄なのだろう。

 南の勇者のように、ヒンメルのように。

 

 死にたくないと願うことしか出来なかったどこかの人間とは違って。

 

「これからよろしく頼む。エーヴィヒ、それと……」

 

 内心は警戒心しかないのだろうが、あくまでも友好的な態度で手を差し出してくるクラフト。

 俺はその手を握り返し、ソリテールを呼ぶ。

 

「ソリテールだ」

「よろしくね、クラフト。因みに私は旦那様の妻よ」

「最近の魔族は結婚もするのか」

 

 ソリテールの自己紹介に目を丸くするクラフト。

 それに対して慌てて俺は訂正を入れる。

 

「こいつが勝手に言っているだけだ」

「あら、でも私は旦那様から指輪を貰っているわよ。おまけに何百年も隣に居るし」

「それは……お前が強請(ねだ)ったからだろう。隣に居るのは……まあ、事実だが」

「クラフト、君は武道僧(モンク)なのよね? これでも人間は婚姻が成立していないと言うの?」

 

 クラフトを巻き込み、関係を認めさせようとしてくるソリテール。

 そんなソリテールの態度にクラフトも目を白黒させているが、そこは英雄。

 すぐに落ち着きを取り戻して、女神に仕える者らしく答える。

 

「魔族の婚姻については何とも言えないが……人間の婚姻は女神様に誓う必要がある」

「へえ、じゃあ魔族(私達)は魔王様にでも誓えばいいのかしら」

「一刻も早く、魔王をあの世に送らないといけない理由が出来たな」

 

 魔王の下で、ソリテールと永遠の愛を誓いあうなんて冗談じゃない。

 ヒンメルには一刻も早く、魔王を討ち取って欲しいものだ。

 

「ゴホン、それでお前達についていくことにはなったが、これからどうする? 魔王城に直接乗り込むのか?」

 

 話が逸れていた所をクラフトが軌道修正してくれる。

 そうだな。戦力的にはこれ以上は望めないと思うのだが、結局の所。

 

「勇者ヒンメル達が今どこにいるか。それ次第だな」

 

 ヒンメル達の旅の進み具合で全てが決まる。

 

 

 




ダイヤの指輪を贈って、ずっと一緒にいる男女。
これをなんというんでしょう?
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