死んで生まれ変わる魔法   作:トマトルテ

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22話:最後

 北部高原最北端。

 魔王軍の補給経路の心臓部であり。

 

()()()()()()……やっとついた。ここが南の勇者達が七崩賢に討ち取られた場所か」

 

 南の勇者が討ち取られた場所である。

 

「あれから数年が経っているというのに、ここには草木の一本も生えていない」

「何らかの呪いでしょうか? それか、それほどまでに戦闘が激しかったのか」

 

 辺りの凄惨な景色に目を細めながら、ヒンメルとハイターが会話をする。

 そこへ、お花を摘みに行っていたアイゼンが戻ってくる。

 

()()()村で聞いたが、南の勇者の無念の魔法が、この地を呪っているという話を聞いたぞ。何でも戦いの後に()()()が降ったとか、それで動物すら近づかないそうだ」

「アイゼン? 戻ってきたのか」

「非現実的だね。死人が呪いを残せるなら、魔族はとっくの昔に滅んでいるよ」

 

 旅の目的地、魔王城は目と鼻の先。

 そんな場所に長旅の末に辿り着いたヒンメル達勇者一行は、かつてこの地で行われた激戦に思いを馳せる。

 

「フリーレンの言うとおりだな。人間が呪いを使えるなら、()()()もっと死んでいるはずだ……魔族も人間も」

「……アイゼンの言う通りですね。それに今は女神様のおられる天国に居るはずです。戦いのことなど忘れて幸せに過ごしているはずですよ」

「そうだな」

 

 死人に口なし。残せるものなどない。

 所詮は、今を生きている人間の願望に過ぎない。

 そう結論付けて、ヒンメル達は目当てのものを探して歩く。

 

「あった。あれが南の勇者の墓だね」

 

 そうして、見つける。

 ここに来た理由を。

 

「じゃあ、早速掃除をして村の人から預かった花を供えようか」

「ええ、フリーレン。“石を綺麗にする魔法”をお願いします」

「ふふん、任せて」

 

 フリーレンがムフーと鼻を鳴らし、墓石を綺麗に掃除していく。

 ヒンメル達がこの場所を訪れたのは、近くの村からの依頼だ。

 

「『この地を魔族より解放せし、偉大なる南の勇者。ここに眠る』……か。僕達もこんな風に名前を残したいものだな」

「『魔王を討ち、世界を救いし勇者ヒンメル。ここに眠る』……こんな感じのを書きましょうか」

「いや、もっと表現力豊かに『容姿端麗、誰もが振り向くイケメン勇者ヒンメル、ここに眠る』でいこう」

「功績の部分が抜け落ちていますね」

「くだらんな、死体しか埋まっていないというのに」

 

 南の勇者が七崩賢の半数を討ち取ったと言っても、まだまだこの地は魔族の支配が強い。

 一般人が気軽に墓参りできるような場所ではない。

 だから、こうしてヒンメル達に自分達の代わりに墓参りを頼んだのだ。

 

「終わったよ」

「ありがとう、フリーレン」

「では、花を供えて……祈りましょうか」

 

 綺麗になった墓に花を供えて、ヒンメル達は祈りを捧げる。

 

(祈る意味が良く分からないけど……まあ、いいか)

 

 もっとも、約1人は内心で首を傾げているが。

 

「南の勇者、貴方の切り開いた道はちゃんと繋がっている。必ず平和な未来につなげてみせる」

「エーヴィヒさんも、あなたに救っていただいた命は無駄にはしません」

 

 死人に想いを告げる。

 その行為に意味はない。

 死者には耳がない、聞こえるわけがないのだから。

 

 だから、これは決意表明だ。

 死者ではなく、自らの内側に語り掛ける行為。

 願掛けと言い換えてもいいかもしれない。

 

「じゃあ、村に戻って物資の補充でもするか。あの村のブドウは()()()いいぶどうだった」

「……村の方が名産と言っていましたからね。これはワインも期待できるかもしれません。ヒンメル」

「ハイター……生臭坊主め。まあ、楽しみがあることは良いことだ」

 

 祈りを終え、男達3人でワイワイガヤガヤと騒ぐ中。

 紅一点である、フリーレンは墓参りと言う行動に早々に飽きていたのか、辺りの解析を行っていた。

 

「どうしたんだ、フリーレン? 早く村に戻ろう」

「……そうだね、早く戻った方がいい」

 

 ヒンメルの声に答えて、フリーレンは足早にこの地を後にしようとする。

 

(南の勇者の呪いなんて馬鹿馬鹿しいけど……多分ここは何かに汚染されている。まったく解析できないから七崩賢の呪いかな? 何にせよ、長時間は居ない方が良さそうだ)

 

 この地を蝕む魔法の痕跡から逃げるように。

 南の勇者が残した1000年後の魔法の解析を諦めて。

 

「ねえ、ヒンメル。ヒンメルは南の勇者が呪いなんて残すと思う?」

「え? いや、勇者が呪いなんて残すわけないだろう」

「そうだね、ヒンメルならそう言う」

 

 決して開いてはいけない核分裂する魔法(パンドラの箱)を無視して。

 彼女達はこの地を後にするのだった。

 

 

 

「それで、いつまで隠れているんだ?」

「……やはり、貴方は気づきますか。勇者ヒンメル」

「え…? 七崩賢のグラオザーム…!」

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。

 ヒンメルが何もない空間に声をかけると、その空間が揺らぎ幻術が解かれる。

 そして姿を現したのは、1人の大魔族。

 

 奇跡のグラオザーム。

 

「魔力探知には全く引っかからなかった……いや、居ることに気づかなかった。今ですら魔力探知を()()()()()()()()()

「フリーレン。あいつの相手は僕がやる。あいつは魔法は欺けるが、人間の感覚は欺けない」

「……前に戦ったことがあるの?」

 

 その登場に、動揺するフリーレン。

 反対に、以前の交戦経験を覚えているヒンメルは落ち着いた対応を見せる。

 

「そう言えば以前の貴方は……いえ、自己紹介がまだでしたね。私は魔王直下七崩賢。奇跡のグラオザーム。以後、お見知りおきを」

「悪いけど、今日死ぬ奴を覚えていられる程、私は記憶力は良くないんだ」

「それは残念です。私はあなた方が死ぬこの日を記念日として覚えておくつもりなのですが」

 

 スッと自然に、それでいて傲慢な仕草で構えるグラオザーム。

 

「魔王軍勝利の記念日として。勇者ヒンメルが死ねば魔王軍の勝利は揺らがない」

 

 そこには以前の戦いではあった、ヒンメル達への見下しはない。

 グラオザームは目の前の人間を敵として見ていない。

 敵ではなく、自らを喰らう捕食者として認識している。

 自分が喰らわれる弱者だと、認識を改めているのだ。

 

「みんな、油断するなよ。あいつは奥の手を隠し持っている。それに仲間も居るかもしれない」

「ええ、分かっています。以前のように情けない目にはあいません」

「よくよく考えてみれば、七崩賢を3()()()()()()守った土地だ。魔王が俺達を素通りさせるわけも無いか……」

(みんな何の話をしているんだろう……いや、今は目の前の敵に集中しないと)

 

 対するヒンメル達も、以前に勝ったという傲りはない。

 いつも通り、怖れ、恐怖し、そして仲間への信頼を胸に堂々と立っている。

 まあ、約1名以前の記憶を未来の自分に持っていかれているフリーレンだけは、内心で疑問が渦巻いているが。

 

「私が1人か、それとも仲間が隠れているのか、貴方方の素晴らしい感覚なら分かるのではないでしょうか?」

「悪いけど、僕達は自分の感覚を100%信じられる程勇敢じゃないんだ」

「貴方ほどの勇者が勇敢でないなら、一体誰が勇敢になるのでしょうか」

 

 自分は臆病者だと告げるヒンメルに、グラオザームが不思議そうに首を捻る。

 誰も自分を守ってくれないのに、世界のために魔王を討ちに行く勇者。

 そんな人間が勇敢でなければ、勇敢という言葉は不可能と同義になってしまうと。

 

「グラオザーム、1つ忠告しておこう」

 

 そんなグラオザームに。

 否、魔族にヒンメルが少しばかり同情を込めた声で告げる。

 

「君は僕を欠片も侮ってはいない。君から感じる殺意と怖れからそれは分かる。でも、君は人間そのものは侮っているだろう? 僕より弱い人間を食料だと思っているだろう? 今自分に敵わない存在に恐怖を抱かないだろう?」

「何を言っているのですか……そんな当たり前のことを」

 

 対するグラオザームは困惑した表情を見せる。

 それもそうだろう。ヒンメルの言っていることは魔族にとっての常識なのだから。

 人間は殺すべき対象でしかないし、基本は魔族より弱い。

 まれに強い個体が出てくるが、そうでない弱い個体に恐れを抱くことなどない。

 

「君は、君達魔族は、これだけ長く争っているのに、未だに人類というものを理解していない。これが戦争ではなく、個人と個人の戦いだと思っている」

「結局何が言いたいのですか…?」

 

 グラオザームはヒンメルが言いたいことが分からずに、若干の苛立ちの籠った声で問いただす。

 それに対して、ヒンメルは力強い声で言い切る。

 

 

「勇者は不滅だってことさ。南の勇者の後に僕が続いたように。僕が死んでも次の勇者が現れる」

 

 

 人類が滅びない限り、何度だって勇者は立ちあがるのだと。

 

「だから、僕はこうして命を懸けられる。僕の後ろに続く人がいると知っているから」

「……理解できません。貴方方人間も、それを理解しようとする魔王様も……私には理解できません」

 

 どこまでも個人主義の魔族には理解できない。

 自らの滅びの後にも継承される意思の力を。

 憎悪の力を、悪意の力を、愛の力を。

 

「南の勇者も死んだ。そして、貴方も死ねば人類に魔族に勝てる存在は居なくなる」

「僕だって昔は子供だった。それこそ、君なら指一本も使わずに殺せるほどに弱い存在だった。でも、今はこうして君と正面から戦える。人間は成長するんだ」

 

 人間は成長する。

 勇者に憧れて勇者になる子供がいる。

 故郷を滅ぼされ、魔族を殺す魔法使いになる子供がいる。

 根絶やしにされない限り、人間は必ず這い上がってくる。

 

「……それを私に教えて何がしたいのですか? あなたの忠告を聞いた以上、私はこれからは赤ん坊の一人も残さずに殺していきますよ」

「分からないのかい、グラオザーム? 僕は忠告しているんじゃない、宣告しているんだ。こんな話をした以上――」

 

 ヒンメルが剣を構える。

 そして、勢いよく振るう。

 

 

「―――君を二度も逃がすつもりはないってね」

 

 

 隣に立っているアイゼンの首に向かって。

 

「え?」

 

 舞い上がる血しぶき。

 ヒンメルの突然の凶行に、ポカンとした表情を浮かべるフリーレン。

 やけに落ち着いているハイター。

 そして。

 

「やっぱり、偽物か」

「グラオザーム様!?」

 

 幻術が解かれ、アイゼンの姿から元の姿に戻るグラオザーム。

 グラオザームの姿のまま、焦燥の声を上げるグラオザームの配下。

 分かり切っていたとばかりに、追撃に向かうヒンメル。

 

「くッ!?」

「浅いか……」

「グラオザーム様! こちらへ!!」

 

 ヒンメルの勇者の剣が、グラオザームの首を完全に両断するすんでの所で、グラオザームは何とか身をひるがえして躱す。そして、人類は追って来ることのできない空中という安全圏へと逃げ出す。

 

「……いつから気づいていたのですか?」

「君が僕達にアイゼンの姿で合流してきた段階で怪しんではいた。この近くにすぐに寄れるような村はないからね」

「確信したのは甘いブドウを良いと言った所ですね。アイゼンはブドウはすっぱければ酸っぱい程、良いという男です」

 

 傷を押さえながら、なぜ気づいたと問うグラオザーム。

 それに対して、ヒンメルとハイターはスラスラと答えてみせる。

 これが仲間の絆というやつである。

 

(……全然気づかなかった)

 

 まあ、約1名は平然とした顔の下で冷や汗を流しているが。

 別に、アイゼンの好物を覚えていなかったわけではない。

 ただ単に、気づけなかっただけである。

 

 別にこの近くに村があると思っていたわけではない。

 単純に、興味が無かったからである。

 

 だから別に、仲間との絆が薄いというわけではない。

 ないったらないのである。

 

「詰めが甘かったですね……彼からは記憶も奪うべきでした。ですが、それだけでよく殺すような真似が出来ましたね。実際の身長が違うから、致命傷を免れたものの、本物だったら首と胴体が泣き別れをしていますよ」

 

 そんな約1名の内心など知らずに、グラオザームは心底感心したように問いかけて来る。

 

「それこそまさかだよ。本物のアイゼンがあの程度の攻撃で死ぬわけがない」

「ギロチンだって歯が立ちませんよ」

「ダイヤモンドも砕けるからね、アイゼンは」

 

 本物だったらどうする。

 そんな問いかけに、今度こそ勇者パーティーの心は一致する。

 

 アイゼンがその程度で死ぬわけがないだろうと。

 

「どうやら、私は勇者である貴方ばかりを警戒し過ぎたようだ」

「フッ、確かに僕はパーティー1のイケメンだけど、他のみんなも僕以上にすごい美点を持っているのさ」

「なるほど……いいチームワークですね」

 

 おちゃらけた話をしながらも、目は油断なくグラオザームとその部下を睨んでいるヒンメル。

 すぐに追撃に動かないのには理由がある。

 1つは相手が空中に居るので、取れる手段が限られていること。

 そして2つ目は。

 

「ですが、そんな良き仲間も今は私の手のうちです」

 

 アイゼンが人質に取られているからだ。

 

「君の魔法で捕らえているのかい?」

「もちろん。貴方の時とは同じ失態は犯さない。今回は最初から貴方にかけたものよりも強く、深い、幻影に捕えています。そして、何より貴方方の持たざる者の感覚がどれだけ優れていようと関係はない。物理的に拘束させてもらっていますので」

「そうか……アイゼンが生きているのは間違いなさそうだ」

「ええ、貴方方人間にはこれが一番効く。下手に殺せば仇討と言って、余計に攻撃的になりますからね」

 

 人質とは生きて存在するからこそ役に立つ。

 悪意ではなく、経験上から判断したグラオザームがそう断言する。

 

 これが人間ならば、悪意を持って殺していたかもしれない。

 だが、魔族には悪意はない。自らが不利になるような行為はしない。

 故に、殺すと言ったら殺すが、捕らえると言ったら捕らえるだけだ。

 

「フリーレン、今の間に何もしていなかったわけじゃないだろう?」

「うん、()()()()

「なら、任せた」

「任せて」

 

 だから、アイゼンは必ず生きている。

 その確信を得てからのヒンメルの行動は早かった。

 

 フリーレンに指示を出し、即座にアイゼンの下へ向かわせる。

 

「魔力探知で仲間の位置を探し当てましたか。しかし、いいのですか?」

「何がだい?」

「私の精神魔法で、仲間の位置を誤認させられているとは思わないのですか?」

 

 だが、そんなヒンメル達にグラオザームは動揺させるような言葉をかける。

 今探し当てたアイゼンの場所ですら、自らが生み出した幻影かもしれないと。

 

「フリーレンは任せてと言った。なら僕はフリーレンを信じる、それだけさ」

「そうですか……まあ、私にはどちらでもいいことです。これで2対2。数で引けを取ることはありません」

 

 フリーレンを信じる。

 そう言い切ったヒンメルに、グラオザームは何とも言えぬ顔を見せた後に首を振る。

 まるで逃れられぬ運命を振り払うように。

 

「貴方方に様子見などということはしません」

 

 グラオザームは見た。

 未来から来たフリーレンの記憶を。

 

「どうか、私を恨まないでください。勇者ヒンメルと僧侶ハイター」

 

 グラオザームは知っている。

 魔王が敗北した後の世界を。

 

 

「これが―――貴方方との最後の戦いです」

 

 

 これが自らにとっての最後の戦いになることを。

 

 




勇者の剣(贋作)「本物のアイゼン相手だったら多分こっちが死んでた」
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