勇者ヒンメル生誕の200年前。
「初めまして、私は大魔族のソリテール。よろしくね、ドワーフのお兄さん」
「……エーヴィヒだ。村の南端で魔道具屋を営んでいる」
よりによってお前かよ。
そう口に出したいのをグッと我慢して、ドワーフの俺は今生の自己紹介をする。
もう、かれこれ100年以上はドワーフをやっているので、すらすらと話せる。
「魔道具屋! 素敵ね、一体どんなものを売っているのかしら?」
「防具やアクセサリー、後はその修理で生計を立てている」
「なるほどね。後で、拝見させてもらってもいいかしら。魔道具と言うからには、防護魔法をかけているのよね? 私、人類の魔法を調べるのが趣味なの」
「なら、ついて来い。家に案内してやる」
時間稼ぎに会話に応じてみる。
すると、気持ちが悪い程にポンポンと会話が成立する。
よし、出来るだけ会話をして
「ふふふ、君は賢いね。どうすれば、自分の寿命が延びるかが分かっている。他のドワーフの人達はみんな勇敢だったけど、私との実力差を理解できなかった。だから、簡単に死んじゃった。まだまだ、お話したいことがいっぱいあったのに、残念」
「…………」
「その点、君は臆病で優秀な戦士だ。勝てない相手とは戦わない。時には逃げることを選択肢に入れるのが優秀な戦士の特徴だって、
それは殺した戦士からか?
そう、嫌味を口にしたいが、ソリテールの怒りを買わない方が時間を稼げる。
魔力を消して移動されたら、まず見つけられないのでここに釘付けにする必要がある。
てっきり、アイゼンの村を襲ったのはリヴァーレや将軍タイプの魔族だと思っていたのだが、ソリテールというのは予想外だった。おかげで魔力探知に引っかからずに侵入されて、他の村人を多く殺されてしまった。
原作アイゼンは良くこいつから逃げれたものだ。
まあ、襲われた魔族が原作と変わっている可能性もあるが。
「臆病か……よく言われるよ」
「気にしないで、私は君を褒めているのよ。現に君はこの村で一番長生きしているもの」
この村で一番長生き。
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
どうやら、ソリテールはアイゼンが逃げ出したことに気づいていないようだ。
ソリテールは出会った人間を皆殺しにする。
気づかれていたら、間違いなくアイゼンを追うだろう。
「いえ、厳密には―――さっき両親を見捨てて逃げた子が一番長生きするかしら」
ソリテールの言葉にピタリと脚を止める。
「うふふ、やっぱり人間って面白い。自分の命よりも子供の命を優先するんだもの。他の人達だってそう、自分以外を逃がすためにみんな私に挑んで来た。本当に不思議」
「魔族に家族は居ないものなぁ」
「へぇ、魔族にも詳しいんだ。やっぱり、君は面白いね。殺すのが惜しいくらい」
ダメだ。ソリテールは気づいている。
ここで、止めなければアイゼンが殺される。
「武器は、斧? 剣? それとも杖だったり? 興味があるから取ってくるまで待っていてあげるわ」
「いや、その必要は無い」
「もしかして素手? 素手で魔族に挑む人間は初めて見るわ、男らしくて素敵ね」
仕方ない。
魔道具屋の仕事は中々に楽しかったのだが、ここいらで店仕舞いとしよう。
幸い、この村にはもう生きている人間はいない。
これからの行動に巻き込むことはないはずだ。
中々に楽しいドワーフ生だったが、悔いはない。
「1つ聞きたいことがある、ソリテール」
「あら、何かしら?」
「お前は―――魔王の願う、魔族と人類との共存をどう思う?」
「!? なんで、それを――」
『
勢いよく自爆を行い、辺り一帯を消し飛ばす。
普通なら大魔族と言えど、無事ではいられない威力だ。
だが。
「……驚いた、自爆魔法なんて初めて見るわ」
ソリテールはとっさに自身の魔力を鎧に変えることで、俺の攻撃を防いでいた。
だてに今まで殺されてはいないと言うべきか。
「本当に素敵……でも、妙ね」
ソリテールが爆炎の中で、物思いにふける。
まるで、論文を書き連ねる学者のように。
「自爆魔法が珍しい理由は簡単。誰だって、死にたくないから最終手段としてしか使われないから。そもそも、自爆なんて練習が出来ないから鍛えようのない魔法。なのに、今の魔法からは――」
「確かな、研鑽を感じた。か? ソリテール」
『
再度出現し、もう一度自爆をかます。
それに対して、今度は余裕をもって防御するソリテール。
だが、行動とは裏腹にその表情には余裕の欠片もなかった。
恐らくは俺の仕掛けに気づいたのだろう。
「まさか……ただのおとぎ話だと思っていたわ。“死者蘇生の魔法”なんて、まるっきり神の奇跡ね」
「一目で確信するとは、流石だなぁ。普通はあり得ないと判断して、別の魔法だと考える」
『
もう一度自爆をかます。
『
そして、死んだことをトリガーに転生を果たす。
やることは単純。自爆して蘇り、また自爆する。それだけの話だ。
「自分の自爆で空気中にまき散らした魔力を集めて蘇り、その魔力でまた自爆する。死者蘇生どころか永久機関まで完成させているの? でたらめね」
「永久じゃないさ。流石に俺の気力が切れたら終わる。もっとも、お前の魔力が切れる方がずっと早いだろうが」
『
『
ソリテールの魔力の防御はそう簡単には破れない。
だが、そんなことは何の問題にもならない。
破れないのなら、魔力切れまで続けるだけだ。
「さて、改めて自己紹介しようか、ソリテール。
俺はエーヴィヒ。悠久の時を生きる大魔族にして―――魔王の敵だ」
悪いが、ソリテール。
お前が
勇者ヒンメル生誕の年。
「ここがヒンメルの生まれた村か」
シュラハトから得た情報をもとに、俺は中央諸国のとある村を訪れていた。
今の俺の姿は人間。因みに、国王に仕える宮廷魔法使いの地位についている。
理由としては、最悪の事態を避けるための事前準備としか言えないが、とにかくそこそこ偉い人間であることに間違いはない。
つまり、
貧困からまともな衣服すら身につけられない、この村の住人に比べて。
「おい、あんた。金目のものを置いてけ。じゃないと、痛い目に合うぜ」
「食いもんでも良いぜ、こっちは腹が減って死にそうなんだよ」
なので、こうして盗賊に絡まれる羽目になったのだった。
うーん、一応は村の中に居るのに盗賊に絡まれるのは想定外だなぁ。
盗賊団がこの村の主な生業なのか、それとも村の自治をする力が残っていないのか。
もしくは、その両方か。まあ、今は置いておこう。
「すまない、少し聞きたいことがあるんだが、この村にヒンメルと言う名の少年、もしくは赤ん坊はいないか?」
「あんた、自分の立場が分かってんのか!? ああンッ!」
「もういいめんどくせえ! 殺して身ぐるみはがしてやるよ!!」
一縷の希望を込めて、ヒンメルの所在を聞いてみるが答えは返ってこない。
仕方ない。他を当たるとしよう。
と、その前に。
「少し頭を下げた方が良い。でないと、
「あ? 何言って――」
俺達を餌にしようとする鳥型の魔物を始末しないとな。
『
盗賊の男の首を鋭いカギ爪で、刈り取ろうとしていた魔物を雷で消し飛ばす。
自爆に比べたら威力は低いが、まあこの程度の相手なら十分過ぎる。
「ヒィッ!? 魔物!」
「ずいぶんと数が多いなぁ。もしかして、この辺りに巣でもあるのか?」
「そ、そうだよ。巣が出来たせいで、物流は全滅。農作物も荒らされ放題。逃げようにも空から襲われたらどうしようもない! もう、俺達はここで飢えて死ぬしかないんだよ!」
なるほど。道理でここまで村が荒れ果てていたわけだ。
本来なら、軍や冒険者が何とかしないといけないんだが、最近は魔王軍の攻勢が激しくこういったことに戦力を割けていない。
「……よし、俺が魔物の巣を潰して来よう」
「……え? で、でも俺達には、もう金も」
「報酬なら、さっき聞いたヒンメルという男の子の情報でいい」
まあ、今の俺は仮にも人間側の魔法使いなのだから、人助けでもするとしよう。
宮廷魔法使いが人助けをすれば、まあ若干なりとも王様の覚えも良くなるだろう。
今のうちに好感度を上げておいて、将来の糧とするのだ。
「あんた……なんで見ず知らずの俺達の…しかも襲い掛かった奴を助けてくれるんだ?」
「理由か、そうだな。」
魔力探知で巣の位置を割り出していた所に、盗賊の1人が尋ねて来る。
なんで、か……よくよく考えると普段の自分ならやらないであろう行動だ。
でも、やりたいと思ったのはきっと。
「勇者ヒンメルなら、そうした……ってとこかなぁ」
「は?」
「いや、何でもない」
ヒンメルの生まれた村に来て、感傷にふけってしまったからだろう。
「夕方には片付けて帰ってくるから、情報はそれまでに頼むよ」
さて、討伐クエストといきますか。
「ヤバい、ヤバイ! 早くヒンメルを見つけ出さないと!」
月の明かりもささない森の上を、魔力探知を全開にしながら飛び回る。
この時代の人間には飛行魔法は使えないので、見つかったら魔族だとバレるだろうが気にしている場合じゃない。
このままだと、
「赤ん坊をこんな山の中に
ヒンメルの情報を聞いて分かったことは残酷なことだった。
ヒンメルは飢饉に耐えかねた母親に、口減らしとして捨てられたらしい。
その是非を問うことは俺には出来ないが、とにもかくにもヒンメルを見つけるしかない。
「だが、赤ん坊の魔力なんて、小動物と変わらないものをどうやって見つける? クソ、シュラハトにもっと詳しく聞いておけばよかった」
神経を研ぎ澄ませてみるが、赤ん坊の魔力量など高が知れている。
分からない。せめて、泣き声でも聞こえればと、聴覚を強化する魔法を使った所で――
『
そして、次の瞬間には弾丸のような魔力の塊が俺の目の前に迫り。
「……防御魔法は使いたくなかったんだがな」
俺の防御魔法に阻まれた。
一般攻撃魔法、防御魔法、ついでに俺の飛行魔法。
全て、人間が使えるようになるのは
「ふむ、やはり防がれたか。ということは
「一応聞いておくが、クヴァールじゃないよなぁ?」
聞こえてきたのは若い男の声、10代半ばぐらいか?
だとすれば、ゾルトラークの制作者であるクヴァールでもないし、ましてやシュラハトでもない。
「もちろん。君と違って私は純粋な人間だよ」
「俺のことを調べたのか? いや、見たんだな未来を――」
だとしたら、該当する存在は1人しかいない。
シュラハト以外に唯一、未来視が出来る人間。
今から16年後に七崩賢を3人討ち取り、シュラハトと相打ちになる存在。
「―――南の勇者」
過去・現在・未来において、人類最強の勇者。
「自己紹介は不要なようだね。だが、その様子だと私がここに来た理由はシュラハト殿には教えられなかったようだ」
「シュラハトと面識があるのか?」
「いや、今まで一度たりとも会ってはいないよ。だが、未来では嫌という程に顔を合わせているよ、お互いにね」
一応は対話の姿勢を見せる南の勇者を信用するか迷った末に、森の中に降りていく。
そうして、マジマジと彼の容姿を観察する。
俺の知っている姿では、南の勇者は髭を生やしたイケオジだったが、流石に今の姿は若い。
いかにも、好青年といった感じの容姿だ。
だが、俺がもっとも関心を寄せているのは、南の勇者ではなく彼が抱きかかえている――
「……ヒンメルを助けに来たのか?」
「もちろん。この子は未来の希望だ。決して死なせる訳にはいかない。……例え、私が死んだとしても」
赤ん坊。ヒンメルに俺の視線は釘付けになった。
あどけない顔で、自分が捨てられたとも知らずに、スヤスヤと眠るヒンメル。
なるほど、確かに将来はイケメンになりそうな顔立ちをしている。
「なら、俺達の意見は同じはずだ。俺にお前と争う気はない」
「ああ、それは知っているさ。ただ、未来はいつも決まっているわけじゃない。君以外の魔族の可能性もあったから、撃ったまでだ」
「そうか、そいつは賢明な判断だなぁ」
嘘つけ、さっき
どうせ、
なんでそう思うのか? 俺だって使える機会があるなら使ってみたいからだよ。
クヴァールは天才だ。あんな使い勝手のいい魔法、俺でも中々作れないからなぁ。
「さて、それじゃあヒンメルのことはお前に任せるよ。お前ならどこに預けるのが正解かも分かっているんだろう?」
「ふむ、その言い方……シュラハト殿は、まだ言っていないのだな。ということは、私も今頼むわけにはいかないな」
何やら思案顔で頷く南の勇者。
一体何を考えているのか。
「……何の話だ?」
「私達は
「要領を得ないな」
「いずれ分かる。では、寝た子が起きる前に私は行くよ」
そう言って、ヒンメルを起こさないように、ゆったりとした足取りで去って行く南の勇者。
その背を見送りながら考える。
シュラハトと南の勇者が何かを共同で隠している?
シュラハトなら、“支配の石環”で縛っているので無理やりでも聞き出すことが出来るが……。
「まあ、南の勇者も一枚噛んでいるなら大丈夫か」
たまには、ヒンメル達みたいに人を信じてみよう。
そう、らしくもない感傷に浸り、俺もヒンメルの生まれ故郷を後にする。
未来になった時に、早めに聞いておけば良かったと少し後悔することも知らず。
勇者ヒンメル生誕から16年。
この日、ある一組のパーティーが魔王討伐へ旅立とうとしていた。
勇者ヒンメル。
僧侶ハイター。
戦士アイゼン。
魔法使いフリーレン。
以上の4名が王の前で、自らの心意気を誓い――
「魔王討伐は、このイケメンの僕に任せろ! 王様!」
「お前が王か、旅立ちの資金が銅貨10枚はちょっと少なくないか?」
「不敬なり、この2人を処刑しろ」
「「え?」」
何故か、2名程処刑寸前になっていた。
ヒンメルの生まれはオリジナルです。
まあ、孤児院出身の時点で親が居ないのは確定だと思っていますが。
次回は明後日に投稿予定です。