死んで生まれ変わる魔法   作:トマトルテ

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6話:魔王討伐

 

「ちゃんと言いきかせますんで!」

「靴舐めましょうか?」

 

 今日は新たな勇者パーティーが魔王討伐へ旅立つめでたい日。

 だったはずなのだが、その勇者ヒンメルと戦士アイゼンがギロチンにかけられ、今まさに処刑されようとしていた。

 このままでは、始まりどころか終わりの日である。

 

「あの2人は田舎者で言葉遣いを知らないだけなんです! 決して、決して! 王様を侮辱しようなどと考えていたわけではないんです!」

「しっかり教育します! 何なら今から土下座で謝らせますから!」

 

 それに対して、必死に謝るのは残された僧侶ハイターと魔法使いフリーレン。

 だが、王とは権威の象徴。それが舐められたとあっては国が治められない。

 ということで。

 

「やれ、まずは戦士の方からだ」

 

 処刑は免れず、王の裁定は変わらない。

 土下座して必死に懇願するハイターの努力もむなしく、ギロチンの刃は容赦なくアイゼンの首に襲い掛かり――

 

「随分と手入れのされていないギロチンを使っているな。これじゃあ、罪人が苦しむだけだろう」

 

 あっけなく砕け散っていた。

 そして、対するアイゼンは大して表情も変化させずに、そんなことをのたまうだけだ。

 これには土下座していたハイターもドン引きである。

 

「……ゆ、勇者の方をやれ!」

「ま、待ってくれ! 僕はアイゼンみたいに硬くはないんだ!? それとどうせ死ぬならカッコいいポーズで死なせて欲し――」

 

 想定外の事態に一瞬呆気にとられる王だったが、すぐに気を取り直してヒンメルの処刑を命じる。

 それに対してヒンメルは泣きながら、命乞いをするが処刑人は無情にギロチンを落とす。

 断罪の刃は、真っすぐにヒンメルの首へと向かって落ちていき――

 

 

「……やっぱり、手入れがされていないギロチンだな」

 

 

 首を寸断するすんでの所で止まっていた。

 

「た、助かった……」

「どうなっている…?」

 

 涙を流して、自分が生きていることを喜ぶヒンメル。

 何が起きているのか分からずに、困惑する王様。

 そんな、混乱する場の中に。

 

「流石は陛下、見事な采配です」

 

 人を安心させる穏やかな声が聞こえてくる。

 

「エーヴィヒ…!」

「陛下への侮辱は死罪となるのは当然。ですが、我らが国王陛下は慈悲深く情け深い。刑を施行せねばならないが、いたずらに命を奪いたくない。そこで、ワザと古いギロチンを使い、刑を施行しつつ勇者達を脅すだけに終わらせたのですな?」

「う、うむ」

 

 現れたのはエーヴィヒと呼ばれた年老いた宮廷魔法使い。

 エーヴィヒは国王の采配に心底感服したとばかりに拍手を送る。

 それにつられて、他の配下もそうだったのかと国王の方を見るものだから王は頷くしかない。

 

「なんという懐の大きさでしょう。さあ、あなた達も王の寛大さに感謝しなさい」

「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません! ほら、ヒンメルとアイゼンも!」

「ありがとうございます、王様。王様に救われた命で必ず魔王を討ち果たします!!」

「……感謝します」

 

 そこへ、ハイターが空気を読んでヒンメルとアイゼンを促して謝罪がなされる。

 もう、ここまで来たらやっぱり処刑とは言えない。

 そんなことをしたら、逆に王の方が顰蹙を買ってしまうだろう。

 ということで、国王はこれも予定通りといった表情で頷く。

 為政者にとって空気を読む力は必須なのだ。

 

「うむ、その者達の拘束を解け。勇者ヒンメル達よ、必ずや魔王を討ち果たしてくるのだぞ」

「はい! 王に救われた命に懸けて!!」

 

 感涙の涙を流しながら、魔王の討伐を誓うヒンメル。

 相も変わらずの無表情のままのアイゼン。

 ほっと、胸を撫で下ろしこれも女神様の助けと、祈りを捧げるハイター。

 そして。

 

「…………」

 

 ジッとヒンメルが囚われていた処刑台を見つめるフリーレンだった。

 

 

 

 

 

「まったく、肝が冷えましたよ。反省してくださいね、ヒンメル、アイゼン」

「ああ、今度から偉い人には言葉遣いを気をつけるよ」

「俺も気をつけるとしよう」

 

 城下に降りて、ハイターには珍しいガチトーンの説教を受けるヒンメルとアイゼン。

 そんな3人を横目に見ながら、フリーレンは考え込む。

 

「おや、フリーレンどうしましたか? そんな考え事をして」

「……ねえ、ハイター。ヒンメルのギロチンだけど」

「……ええ、魔法で細工がされていましたね」

 

 そんなフリーレンにハイターが話しかけ、フリーレンが疑問を口にする。

 それに対して、ハイターは自分達の話が誰にも聞かれないように辺りを見渡し、小声で頷く。

 

「あの宮廷魔法使いだね」

「ええ、エーヴィヒ様には助けられました」

「エーヴィヒ? 聞き覚えがあるような」

 

 どこかで聞いたことがある名前だとフリーレンが言うと、ハイターは笑いながら答える。

 

「おや、もしかして神代の賢者エーヴィヒと会ったことがあるのですか?」

「流石にそこまで長生きはしていないよ。でも、同じ名前だね。良くある名前なの?」

「ええ、歴史上彼にあやかった名前をつける人間は多くいましたからね。彼もその1人でしょう」

「俺の生まれ故郷にも1人いたぞ」

 

 ということは、自分を助けるために死んだあの人間も。

 そう考えて、一瞬暗い顔をするフリーレンだったが、すぐに思考を切り替える。

 死んだ人間のことなど考えてもしょうがないと、無理やり記憶に蓋をして。

 

「つまり、僕達はその人に救われたってことなのか? お礼を言いに行った方がいいかな」

「いえ、明らかにこっそりやってましたので、このことは黙っておいた方が良いでしょう」

 

 お礼を言いに行こうとするヒンメルに対し、ハイターがそれを止める。

 王の命令に反する行動をとったことがバレれば、宮廷魔法使いと言えどただではすまないだろうからと。

 

「てっきり、俺達のギロチンがぼろいだけだと思ってたが、そうか魔法が使われていたのか」

「因みにアイゼンの方には、魔法をかけられた形跡はありませんでした……なんで、生きてるんですか?」

「手入れが悪かっただけだろう」

「いや、切れ味が悪くても、普通の人間は鉄の塊を首に落とされたら死にますよ」

「戦士ならこれが普通だ」

「ええ……」

 

 因みに、細工がされていたのはヒンメルの方だけで、アイゼンの方はノータッチである。

 これにはさしものハイターもドン引きである。

 

(そう……アイゼンの方には魔法が使われていなかった)

 

 そんなやり取りを無表情で眺めながらフリーレンは考える。

 

(まるで、アイゼンがその程度じゃ死なないことを()()()()()()()()()()

 

 エーヴィヒがヒンメル達を助けるつもりだったのなら、アイゼンだけ何もしないのはおかしい。

 普通なら、両方のギロチンに細工をするはずだ。

 だが、実際にはヒンメルの方だけ。

 まるで、アイゼンがギロチン程度で死ぬわけがないだろうと言っているかのように。

 

「エーヴィヒ……何者?」

 

「あ、見てください! 酒屋がありますよ。私達の旅立ちを祝して一杯やっていきましょう!」

「僧侶の発言とは思えないな」

「生臭坊主め」

 

 フリーレンの呟きは、仲間の喧騒の中にかき消えていったのだった。

 

 

 

 

 

「何とか、処刑は免れたな。これで、一安心という所か」

 

 遠見の魔法でヒンメル達が酒場の中に消えていくのを見送りながら、俺は自宅で1人呟く。

 これで、最大の懸念点であった旅立ちの日の処刑は乗り越えた。

 因みに俺がわざわざ宮廷魔法使いになどなっていたのは、王への諫言、もしくは細工を行うためである。

 

(さて、これでこの体は用無しだ。自由に動けるようにどこかの戦場で華々しく戦死でもしてくるか)

 

 ヒンメルの旅立ち、つまりは魔王が討たれるまでのカウントが始まったということだ。

 原作では過去の出来事なので、詳しくは語られていない4人の旅路。

 出来る限り手助けをしたいのだが、そのためにはこの宮廷魔法使いの地位は邪魔だ。

 

(いや、それとも適当な政敵に討たれたように見せかけて姿を消すか?)

 

 幸い、今は魔王軍と人類の戦いが激化している。

 宮廷魔法使いと言えど戦場に出ることは多い。

 さらに言えば、権力闘争も激しいので俺を消して地位を奪いたい奴はごまんといる。

 そいつらにワザと隙を見せるのも1つの手か。

 

「旦那様」

「どうした?」

「お客様です」

「そうか、通してくれ」

 

 そんなことを考えていると、仕方なく1人だけ置いているメイドが俺の下に訪れる。

 どうやら、誰かが俺の下に訪ねて来たらしい。

 

「やあ、元気そうで何より」

「南の勇者? てっきり、既に旅だったと思っていたんだが」

「予定ではね。だが、決まりきった未来など存在しない。いい意味でも悪い意味でもね」

 

 そう言って、案内された席に座る南の勇者。

 何か面倒ごとかと思うが、余りにも余裕のある振る舞いに緊急事態ではないと判断して、メイドを下がらせて来客用の紅茶を入れる。

 

「おや、()()淹れるのかね?」

「情報は信用できる者にしか明かさない方が良い。どうせ、良い話じゃないんだろう?」

「ふむ、君がそう言うなら構わないよ。もっとも、この街の人間全員が知ることになるだろうが」

「……今から何が起きるんだ。せっかく、今日はヒンメル達が旅に出るというめでたい日だというのに」

 

 優雅に紅茶の匂いを楽しむ南の勇者とは反対に、俺は紅茶を淹れたカップに手も付けずに南の勇者の方を見る。

 

「まあ、その前に最後の打ち合わせでもしようか。今からおおよそ1年後、私はシュラハト殿と相打ちになる」

「そして、その際に必ず魔王討伐の障害となるであろう七崩賢を3人葬る。もちろん、理解している。3人を“支配の石環”で味方化出来ないのは残念だが……まあ、重要なのはその後か」

「ああ、私の()()()()()は君に任せるよ」

 

 サラッと、自分が死ぬ未来を話す南の勇者。

 俺も自分の死には無頓着にはなっているが、こうもあっさりとは話せない。

 自分の死ぬ未来を見過ぎたせいか、それとも。

 

「覚悟か……お前は死の運命が見えてもいつも堂々としているなぁ」

「自らの死の果てでも、私が作った道を続く者達が居る。恐れることなど何もないよ」

 

 自分が死んでも、必ずヒンメル達が世界を救ってくれる。

 それが分かっているのなら、例え死の未来だとしても恐れることは何もない。

 そう告げる南の勇者が余りにも眩しくて、俺はそっと目を逸らす。

 やはり、彼は勇者だ。俺のようなただ死ぬことが怖かっただけの存在とは違う。

 

「そうか……」

「ふむ……未来視のある私から君に諫言を1つあげよう」

「なんだ?」

「君は未来が恐ろしいものだと思って不安がっているようだが、あまり難しく考えなくていい」

 

 どこか、昔の自分を思い出すような表情をしながら南の勇者が語る。

 

「来るものは来る。その時に受け止めればいい」

 

 なに、明日の不安は明日の自分が背負ってくれるさ。

 そう言って、南の勇者はニヒルな笑みを浮かべてみせる。

 

「さてと、後は何を話すつもりだったかな。未来視があると既に話したような気分になって困るよ」

 

 忘れていたと、苦笑しながら紅茶を一口すする南の勇者。

 やはり、彼の姿はどこまでいっても自然体で、これから死の運命が待ち受けているのを知っているようには思えない。

 来るものは来るか……羨ましい考えだ。

 

「思い出した。君は女神の聖典は知っているかい?」

「? ああ、それは勿論。女神の魔法を使うために必要なもので、内容自体は神話の時代の物語と女神の戒律をまとめたもので、それ自体が長大な暗号文になっている()()()()ぁ」

「では、聖典が成立したのはいつか知っているかね?」

「1500年前だろう? 女神がもたらしたとかなんとか」

「さらに質問だ。女神がこの地上に降り立ったのはいつか知っているかね?」

「それは神話の時代で、それを最後に女神は歴史上一度も姿を現して……」

 

 ふと、疑問に思う。

 神話の時代は1500年前よりも前だ。

 賢者エーヴィヒやゼーリエが生まれた時代。

 人間が誕生していたかも怪しい時代。

 

 だというのに、聖典がもたらされたというのは1500年前。

 本当にそれは、女神自身がもたらしたものなのか?

 

 内容自体は神話の時代の物語と女神の戒律をまとめたもの。

 なら、別に女神以外がまとめて編纂することも可能だ。

 もちろん、女神の魔法全てを把握していることが前提だが。

 

 だが、それさえクリアすれば、それこそ()()()()()()()()()()()

 

「では、最後の質問だ。君は―――女神の聖典を読んだことはあるかね?」

「………ない。一度も。1000年以上生きているのに」

 

 おかしい。

 言われるまで気づかなかったが、俺は女神の聖典を読んだことがない。

 “葬送のフリーレン”の読者だったというのに、不自然なまでに一度も。

 まるで――

 

「―――そう、決められていたかのように」

 

 南の勇者の言葉に、ゴクリと唾を飲みこむ。

 喉がカラカラに乾いて唾液が出てこない。

 俺は今まで手をつけてこなかったカップを手に取り、口に近づける。

 

 頭に過るのは、初めて転生した時。

 俺はあのとき誰に会った? 俺はあのとき何を話した? 俺はあのとき何と言われ――

 

 

 

 

 ―――ピシリ。

 

 

 

 

 不意に、持っていたカップに罅が入る。

 

「……ふむ、タイミングが悪いな。どうやら、この街の結界が破られているようだ」

「ッ! 結界が…? すぐに修復に……いや、待て。お前なら事前に防げたはずだ。どうして、放置したんだ?」

 

 思考の海に沈んでいた意識を覚醒させ、南の勇者を問い詰める。

 まさかと思うが、裏切りなんてことはないだろうな。

 

「確かに私は未来が読める。しかしだ、それは全知全能ということとイコールではない。時間が足りない場合、1人では出来ない場合、あるいは純粋に―――相手が強すぎる場合がある」

 

 ―――ピシリ、ピシリ。

 

「強すぎる? それで俺の所に協力を貰いに来たのか。相手は誰だ? シュラハトは“支配の石環”で俺を欺くことは出来ない。なら、七崩賢最強のマハトか? いや、それでもお前なら勝てる。だとしたら、まさか七崩賢が複数人、もしくは全員か?」

 

 ―――ピシリ、ピシリ、ピシリ。

 

「いや……敵はもっと強い」

「七崩賢全員よりも…? おいおい、そんな存在、それこそ――」

 

 ―――パキッ。

 

 

 

「―――()()()()()()()()()()

 

 

 

 ―――■■■■

 

 カップ(結界)が砕け散る酷くもの悲し気な音が響く。

 続いて襲ってくるのは、それ自体が攻撃と錯覚するような馬鹿げた魔力の圧。

 

 知っている…俺は知っている…!

 1000年経った程度で忘れるものか!!

 この悍ましく神々しい魔力を!?

 

「………冗談だろ?」

「悪いが、これは現在進行形での現実だ」

 

 呆然と呟く俺を置いて、南の勇者は立ち上がる。

 そして、客間の窓を大きく開けて、睨みつける。

 空に浮かぶ存在を――

 

「今日は若き勇者が旅立つ特別な日だ。我々にとっても、そして―――魔王にとってもね」

 

 ―――始まりの街に降臨した魔王を。

 

 




魔王「来ちゃった(^^)」
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