雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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転生しました

 

 拝啓、両親へ。

 今日おれは頭から隕石を受けて死にました。そして艦娘の雪風に転生しました。

 

「シズメ?」

 

 続いて深海棲艦の提督になりました。

 決して沈んだわけではないのです。

 なんか艦娘の雪風に転生したと同時に、深海提督になったようです。

 

「これからどうしましょうか」

 

 晴れる青空。照らすお日様、熱する砂浜、光る海原。

 波の木霊、塩の辛さ。

 後ろに広がる暗い森。

 

「無人島、ですかね?」

 

 艦これで無人島スタート。

 おかしな話ではない。ドロップ艦とかいるから、決しておかしな話ではない。

 ではないのだけど、今まさに目の前のホ級に手を傾げられ、見逃されている状況。

 どう思われるだろうか。

 

「あぁ、これ完全に雪風ですね」

 

 おれは海の水面に顔を映す。

 短く切り揃えられた茶色い髪。首から下げられた望遠鏡に、あの特徴的な前歯。

 スカートの無いセーラー服を見るに、完全に雪風である。

 

 この姿を見て、おれは今までのことを転生前のことを思い出す。

 

  *  *  *

 

 おれの物語が始まったのは、おれの人生が今まさに幕を閉じた時であった。

 

「あなた、不幸の度合いを超えていません?」

 

 真っ白とした世界で女性の声が広がる。

 その声音は明らかにドン引きを隠しきれていない。

 

「たまたま落ちていた空き瓶を踏んで、滑って転んで偶然開いていたマンホールに突っ込んで、下水道に流されて、飛び出した先でたまたま来ていたドラム缶コンクリートの下敷き、意識ない中抜け出した先でトラックに撥ねられる。ピタゴラスイッチですか」

 

 朧気ながら自分がここに居る原因を思い出した。

 そうだ、確かにおれはマンホールに落ちて下水道に流された。

 意識はそこで止まっているのだけど……、あの後そんなことが起きていたのか。

 隕石を頭に受けたところからしか記憶にない。

 

 昔から不幸の人生。

 コンビニに行けば好きな物が連続で三回も売り切られていたり、会社での案件はなんか毎回ドタキャンされるわ、痴漢と間違われて彼氏らしき男に殴られてから冤罪だと発覚したり、帰り道で転んだり。

 際立ちすぎてもう笑うしかない。

 そうか、遂に死んだか。

 不幸を通り過ぎてもはや幸運なのでは。

 

「で、なにか御用でしょうか? 神様」

 

「話題の異世界転生、詳細は現地でするのでよろ~」

 

「もうちょい話してくれませんかね?」

 

 なんて、おれの異議申し立ては完全無視。

 真っ白な世界がさらに光り輝いていく。

 有無を言わせない所業。

 まるで8の付く人の手口のようだ。

 

  *  *  *

 

 ……そういえば、現地で説明するとか。

 するとこのタイミングで、木箱が砂浜へ落ちてきた。

 木箱の上には紙。知らないキャラの絵がてへぺろをしている。

 

「ごめーん。やっぱり世界の意思が直接世界に介入(かいにゅー)するのは色々と不都合が起きる。だから紙で説明(せつめー)するねテヘペロ……。適当(てきとー)すぎですね、世界の意思」

 

 読んだ紙におれは呆れかえる。

 世界が直接介入するほどのこととは。

 いったい何をやらされるのだろうか。

 もしや英霊エミヤルート……じゃないよね? 流石に。

 抑止力は一回だけという契約を破って、何度も呼びだしてくるらしいからな。

 沖田オルタがそう言っていた。

 

「何々? 私が雪風なのはゲームで結婚してて、一番強い艦だったから? あと、不幸(ふこー)を消すために幸運(こーうん)艦にした」

 

 ラッキー! クッキー! もんじゃ焼き! ってところかな。

 しっかしゲームで結婚(仮)をしている?

 おれ、艦これでは誰ひとりとも結婚はしていないのだが。

 別のゲーム、アズールレーン……なら……。

 アズレンなら吹雪と雪風、あと夕立としているわ。

 あぁ、それでか。

 そしておれがこの世界に飛ばされた理由についてだが。

 

「ひとつ、ブラック鎮守府の消滅(しょーめつ)。二つ、危険因子の排除。三つ、人間の野望(やぼー)を止めろ。やり方は問いません。どういうことでしよー?」

 

 ブラック鎮守府の消滅はまだ分かります。

 危険因子の排除も。

 しかし人間の野望とは?

 やり方を問わないのなら、こちらとしてもありがたい限りだけど。

 

「今のままだと人間が自滅するのも分かりませんね」

 

 深海棲艦によって全滅するとか?

 それとも人間同士が殺し合って自滅するのか。

 はたまた別の要因があるのか分からない。。

 

「最後に、陽炎型駆逐艦8番艦の雪風を提督(てーとく)として任命(にんめー)する。艦隊の指揮に入るボーナスチェストを授ける……。私がしれぇなの!?」

 

 おれってば艦これプレイ歴一か月なんだけど。

 MMDとか小説が面白かったから、原作も面白いのかなと試しにプレイして挫折した側なんだけど。

 あとボーナスチェストってなに! マイクラか何か!

 順当に行けばこの木箱に入っているってこと?

 

 木箱は普通に蓋が付いているようだ。

 おれは木箱を開けてみる。

 

「雪風の艤装と、何ですかねこの変な形状(けーじょー)のスマホは。あとこの赤黒いのは」

 

 雪風の艤装を背負ってみる。

 その時、おれの中でパチンと電源の付く感覚がした。

 湧き上がる力。足りない物が、急に供給されてくるこの感じ。

 木箱の縁を片手で捻ってみる。するとバキッと木粉を巻いて縁が取れた。

 ここまでの力が出るようになるとは、艦娘って恐ろしい。

 

 んで、こっちの変な形状をしているスマホ。

 反応が無い?

 適当に弄っていると画面がつき、今後の目標と書かれた欄が出てくる。

 艤装に慣れる、艤装の練習。自分の力の把握。それと鎮守府を建てる。

 最後だけなんかおかしくない?

 他にはレシピとか素材を検索できる。

 電池は無限なのかな? 分からないから、今は節約する方針で。

 それと、この赤黒いのは何なのか。

 少し触れて——世界が砕けた。

 

「頭が痛い! 割れる! 孤独。後悔。冷たい。暗い。苦しい」

 

 途端に襲ってくる強烈な妄執。

 息苦しい。水底へと引きずり込まれる。

 これはまるで深淵。艦これでいうなら深海か。

 自分の感情で押さえようにも離れない。段々と自分が自分じゃなくなる感覚。

 

「ッ!」

 

 なんとか今の自分の力を発揮して怨念を放り投げる。

 途端に頭に響いていたノイズも消え失せる。

 熱された砂浜の上、汗ダラダラで膝をつく。

 

「なんであんなものが。ボーナスチェストに即死トラップを入れないでほしーです」

 

 何回か荒く呼吸をしていると、段々と楽になってくる。

 おれは一息ついて、他に何かないか探してみる。

 弾薬、ボーキサイト、鉄。

 ……ボーキサイト?

 後は資源ですかね。

 まぁこんなものですかと安心していると、最後に木箱から飛び出した。

 頭にかぶり物を付けた白い生物。サメのような黒い帽子。手のひらに乗るほど小さなその身体。

 深海色のその瞳

 

「これ、PT小鬼群ですかね?」

 

 アニメで見たものより随分と小さいみたいだけど。

 まるで艦これの妖精のよう。

 艦これの……妖精のよう……。

 ワ級に手を振られていたよな? おれ、さっき深海棲艦に襲われなかったよな。

 

 PT小鬼群、もとい一匹しかいない小鬼。

 おれにびしっと敬礼をした後、さらに紙を渡してくる。

 

「あっ、てーとくと言っても、深海棲艦のだからね。君は艦娘だけど、基本的には艦娘の敵だから」

 

 攻撃をしなければ深海棲艦には襲われない。

 この文章に、おれはこめかみを抑えて空を見上げる。

 なんだこれは。なんなのだこれは。

 どうしてわざわざハードモードにするんだ、あの世界の意思は。

 というか、それなら深海棲艦にすればよかったじゃん! レ級辺りに転生させてくれたら文句なかったよ!

 どうして艦娘に転生させた!? いっそ、深海棲艦に堕ちてやろうか。

 ダメだ、この紙に君は深海棲艦になれないって書かれている。物騒なことにそのまま死ぬとも書かれている。

 ハードコアじゃん。

 PT小鬼群はおれから離れる。

 先ほど投げ捨てた赤黒い怨念と鉄、弾薬とボーキサイトを集めた。

 何かを作り始めた?

 

「もしかして……建造(けんぞー)ですか?」

 

 よく見ようと、おれはしゃがんでみる。

 それは何というか、謎の光にすべてを任せた建造だった。

 ガチャガチャゴンゴン変な音が鳴り続け、やがてそれは青い光を発し始める。

 青く、海の奥底でのみ観測できる深海の光。

 次第に光が収まると、目の前に居たのは想像通りの存在。

 魚雷に目と口を付けたかのような怪物。

 駆逐イ級。

 うん、間違いない。

 

「艦これかと思ったら深これでした!?」

 

 深これ、それは深海棲艦を指揮して艦娘と戦う指揮官の物語。

 いわば艦これの深海棲艦版。

 コンセプトは艦娘を倒せ!

 主な遊び方は深海棲艦を建造し、艦娘を轟沈させて深海棲艦に引き入れて、深海棲艦娘と遊ぶもの。

 あれ、北方棲姫とかレ級とかヲ級とか、普段見れない一面が見れて可愛い。

 そしてその深海棲艦を愛でられる、深これ……なんだけど。

 

「やっぱりマイクラです!」

 

 艦これではなく、マイクラ改造コンテンツのひとつであった。

 回想終了。

 

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