雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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大型建造

 

 PT小鬼に大型建造を頼んでから、家の隣には徐々にコンテナらしき建物が建てられていった。

 途中気になって入ろうとしたら、PT小鬼にダメだと念を押されて断念していた。

 しかし今、大型建造地が完成した。そのコンテナにわたしと時雨は足を踏み入れる。

 

 そこでわたしは、ある一つの物体に目線を吸い込まれた。

 禍々しい赤光と黒曜の台座。

 この島に電気は通っていない。

 なのに爛々と輝き続ける赤光。深海棲艦の消えぬ怨念を想起させる。

 東西南北には黒い石柱、まるで封印を施すかのよう。

 PT小鬼はキャッキャッと楽しそうに駆け回り、わたしに大型建造地を見せつけてきた。

 

「どう反応(はんのー)すればいいんでしょー」

 

 わたしはぼそりと本音を溢す。

 予想していた何倍ものやばい物がそこにはあった。

 わたしは本当に、大型艦建造をしていいのだろうか。

 隣に居る時雨なんて、「深海棲艦の誕生を見過ごして良いのかな」とうわ言を呟いている。

 

「戦艦か空母って作れますか?」

 

「本当にやるの雪?」

 

「この艦隊にはわたし含めても駆逐と軽巡しかいないから!」

 

「今ならぼくだけでも殲滅できそうだもんね、雪の艦隊」

 

 面子が一面以下だもんね! 

 PT小鬼に言われるがままにわたしは資材を渡す。

 大型建造の割に必要資材、千以下ってほんとですか!? 

 もっと早くに大型建造できるようにすればよかった! 

 早くに気づいていれば会話できる相手を作れたのに! 

 

 深海棲艦の大型建造にPT小鬼は必要ないらしい。

 資材を渡したらPT小鬼はそれらを赤光の中にぶん投げる。柱の上でうつらうつらと船を漕ぎ始めた。

 完全な運ですね。

 

「……何しているの?」

 

 隣で手を組んで唸り続けているわたしに、時雨は疑問符を浮かべてくる。

 

「戦艦か空母が出るよう祈ってます。ガチャの女神様お願いします!」

 

「ガチャの女神?」

 

 お願いします。戦艦か空母をお願いします! 

 わたしは雪風の幸運を全力で込めるように祈り続ける。

 そういえば深海棲艦の建造時間ってどれくらいなんだろうか。

 PT小鬼が作ってくれた時はすぐに終わりましたが。

 なんて考える早々に赤光は深海色へと変化していく。

 もう建造は終わったのだろうか。

 あんまりにも早すぎやしないだろうか。

 

 光の中から誰かが出てくる。

 ……足が無かった。

 ホバー移動しているのだろう。プカプカと床の上を浮いている。

 頭には角の生えたベレー帽のようなものを被る。その服は……時雨の制服深海棲艦版みたいな感じです。

 わたしでも分かる。

 だから、どうしてですか! 

 光の先から出てきた彼女に、時雨はぼそりと言葉を漏らす。

 

「……春雨?」

 

「ハルサメ、ッテ誰ダヨ」

 

 新しく建造された深海棲艦、駆逐棲姫は嫌悪感を剥き出しにして時雨を睨みつけた。

 わたしはすぐに二人の間に割って入る。

 

「待って待って! 駆逐棲姫、止めて! 時雨は仲間!」

 

「アァ? アンタガテートクカ。アンタ、艦娘カ?」

 

「そう、雪風です! 艦娘でしれぇです! よろしくお願いします!」

 

「良イゼ良イゼ! キヒヒッ、ソウイウノモ面白ソウダ! ヨロシクナ、雪風テートク!」

 

 駆逐棲姫は楽しそうに拳を伸ばす。

 恐る恐るわたしも同じように拳を伸ばすと、コツンと合わせてくれた。

 春雨の見た目なのにまったく春雨じゃない。

 どちらかというと天龍っぽい? 

 大人しそうなギャップから繰り出される荒々しさ。

 時雨も現実を受け入れきれないのか絶句している。

 

「デ、コノ駆逐棲姫ニ何シテ欲シインダ?」

 

「鎮守府を潰す戦力です! 今は準備段階ですので、隣の家で待っててください! 暴れないでくださいね?」

 

「ハイヨ、夜戦スンナラ呼ンデクレ! キヒヒッ!」

 

 そう言って、ホバーから降りて大人しく大型建造地から出ていく駆逐棲姫。

 それ外れるの!? 

 いや、足あるの!? 

 時雨は精神世界から復帰したようで、僅かに動いて再起動を果たす。

 生まれて早々に夜戦したがるとか……。

 駆逐艦川内だ……。

 

「……春雨なのに江風」

 

「かわかぜ? 陽炎型?」

 

「ううん、白露型。僕の妹」

 

 ごめんね、白露型ではっきりと覚えているの春雨までなの。

 嘘、実は村雨も知らない。

 しかしまさか姫が出るとは。

 わたし、姫の出る海域まで行ったことありませんが。

 姫って戦艦とか空母よりも火力を出す、深海棲艦のボス。

 嬉しいですよ。えぇ、とても嬉しいです。けど。

 駆逐棲姫。

 名前の通り駆逐艦……で良いんだよね? 

 制空権確保してくれる人、わたしの鎮守府にいない! 

 あと強いのか弱いのか分からない! 

 

 資材的にもあと一回が限度。

 やり過ぎて装備、補給を出来なくなるのは避けたい。

 今まで遠征とか一度として行ったことないし。

 

 見る人によっては今のわたしの資材状況、かなりグロイと思う。

 もう燃料、弾薬、鉄は二万も無い。

 資材の多くが家具やら家やら暖やらお風呂で吹き飛んでいる。

 空母いないせいで無駄に余るボーキサイトはある意味怖い。

 

 最後の一回、頼みますとわたしは大型建造を回す。

 

「お願いします! 制空(せーくー)権を取れて潜水艦を相手できる戦艦来てください!」

 

「……来たらいいね」

 

「時雨も! ほらっ! お願いしますって念を込めましょー! いっしょに!」

 

「えっ……でも……僕は」

 

「この時間も楽しーものですよ!」

 

 深海棲艦の誕生ということで、乗り気でない様子の時雨。

 それでもみんなを助けるためならと考えたのでしょう。

 最終的に手を合わせるのに協力してくれた。

 二人でお願いしますと念を込める。

 気分はRTAをしているときみたい。

 時間にして五分。

 泣いても笑ってもこれが最後! 

 

 光の向こうから歩いてきたのは、完全に人型の姿をしていた。

 黒いカッパ姿で、胸元を大きく開いた。

 そこまで見たわたしは一直線に駆け出していった。

 

「戦艦レ──」

 

「レ級!!」

 

「嘘でしょ。海の悪魔が……」

 

 腕を横に広げて敬礼をするレ級にわたしは飛びついた。

 そのままの勢いでレ級は後ろに倒れ込む。

 

「ドウシタノ?」

 

「やった! やりました! ……超弩級(ちょうどきゅう)重雷装(じゅうらいそう)航空(こうくう)巡洋(じゅんよう)戦艦(せんかん)です!」

 

「司令官大丈夫カ?」

 

 レ級はわたしの頭を撫でてくる。

 くすぐったい。撫で方が優しい。

 撫でられているだけなのに、妙に幸せな気持ちになってくる。

 

「何ガアッタ」

 

 深海棲艦にしては珍しく、時雨に敵意なく言葉を掛けている。

 

「……駆逐、軽巡しかいない場所に君が来た、かな」

 

「ナルホドナ。全ク、司令官ナラシッカリシナイトダメヨ」

 

 レ級はわたしの頭を軽く叩いてくる。

 そうは言っても、本当に逆転劇が過ぎた!

 二人分の幸運が繋いでくれたんですね!

 戦艦と空母と潜水艦がネックなのに、それを一艦で相手できる深海棲艦が来てくれた。

 この感動をなんといえばいいでしょうか! 

 ひとり連合艦隊万歳! 

 

 *  *  *

 

「と、言うわけで雪風しれぇは時雨の鎮守府を滅ぼし、艦娘を助けるわけですけど」

 

 レ級が出たことの感動から落ち着いた後、わたしはみんなを集めて音頭を取る。

 

「ンッ、イイネイイネ! 夜戦カ!」

 

「シ……ズ……メ……?」

 

「任セテ!」

 

 みんなやる気満々で良いことなんだけど……。

 わたしは一呼吸を置いてから重要なことを口にする。

 

「この場にいる全員(ぜーいん)、練度1です!」

 

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