雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして? 作:氷水メルク
昨日は一晩中演習をやり続けて、二つ気づけたことがあった。
やはり悪雨とシロコは別格だった。
練度が低いと言っても、姫とトラウマひとり艦隊。
演習三、四、五回と重ねていくたび、時雨もまともに相手できなくなっていった。
演習六回目には、悪雨の無慈悲な雷撃無双が始まり。
悪雨の狂った笑い声響く中、わたしとシロコ以外轟沈判定を受けていくのは、流石に言葉を失った。
姫といっても駆逐艦だよね、って思っていたのを改めるきっかけだった。
そしてシロコ。
うちの艦隊で唯一艦載機を飛ばせる深海棲艦。
この時点で演習をやればどうなるかなんて、少し考えれば分かることでしょうに。
制空権。確実に取られる。
発見と同時に先制不意打ち雷撃。生き残っても爆撃の雨。これを何とか回避、もしくは耐えきったとしよう。
その場合は、爆撃の影響で波が荒れる。足元が悪い中、次の砲撃を避けないといけない。
おまけにあの子、なんであんなに速いの?
流石に駆逐艦ほどじゃないけど。たまに砲撃避けてくるのは理不尽の極み。
……レ級がトラウマって言われる理由、なんとなく分かった気がする。
いや、良いんだけどね。
これほど頼もしい味方もそういないから。
良いんだけど! 二人が強すぎて他の深海棲艦の訓練にならないんだよね!
わたしが戦うにしてもさ。それはそれで今度オワタ式の演習を、悪雨とシロコは強いられるわけで。
「君たちはちょうどいい塩梅で演習を出来ないのかい?」
っと、直球で時雨に飽きれられた。
最終的にシロコと悪雨同士で戦うよう指示したところ、これがしっくり来たようで。
声を掛けても無視して何戦と繰り広げるほど、悪雨は楽しそうにしていた。
なお大抵、発見からの雷撃次第で勝敗の七割が決まる。
二人とも雷撃値高いから。
勝手に訓練してくれるなら良いやと、時間になるまで好きにさせておくことにした。
まさかこれが、後々にあんな悲劇を生み出すとは知らずに。
イ級とロ級とホ級。
この三人? 三体? に関してはまだ時雨から教導をしてもらっている。
深海棲艦の中でも雑魚に当たる子たちだけど、ちゃんと演習を行えば強くなれると分かっただけ収穫だ。
連れて行くかどうかは置いといて。
わたしが任せたのもなんだけど、この後時雨は艦娘の輪に戻れるのかな。
今の光景、他の艦娘から見たら裏切りだよね。
時雨はわたしと違ってまっとうな艦娘だから。
ちゃんと元の生活に戻れるよう言い分を考えておかないと。
捕虜で轟沈。……うーん、弱いなぁ。わたしの場合、深海棲艦に下るくらいなら轟沈してやるって言ってたし。
適当な言い訳はいくつか考えておこう。
で、話は戻り演習ですけど、わたしはその、時雨に提督兼旗艦として演習を見学するよう言われた。
つまり、追い出された。
「
なんて、審判をしているPT小鬼群の隣で体育座りしながら呟いていた。
うちのPT小鬼群は戦闘能力が無いので、一緒に見学中。
少し、いやだいぶ寂しい。砂浜にのの字を書いてみたり。
航行練習くらい混ぜてくれませんかね。
「雪! ちゃんと見てる?」
「見てるよ! ちゃんと見てるって!」
時雨に注意されて、ちゃんとみんなの演習に意識を戻した。
さて、ようやくわたしこと、雪風の性能について考察したいと思う。
多分わたしの性能、アズレンの雪風ですよね!
連装砲は連射可能。砲撃でレ級が大破。レ級から爆撃雷撃砲撃を受けてようやく小破するかどうか。
思えば世界の意思の紙には、結婚をした艦をこの世界にあった形にしたとか言ってましたね!
わたしが結婚しているのは、アズレンの雪風と吹雪と夕立。艦これに結婚している娘はひとりとしていない。
結婚するにはリアルお金が必要だったから。
これらから推測するに、わたしは艦これの雪風だけど、性能はアズレンの雪風である。
こういう考察に行きつく。
なんというか……。
アズレンの数値やシステムをそのまま艦これに持ってきちゃダメでしょっ!
桁がいくつ違うと。
今の状況を言うと、深海棲艦のHP、駆逐艦の速度、戦艦並の火力、雷巡よりも圧倒的な雷撃、これらを併せ持つ雪風ってことになる。
夜戦になると一撃で六百ダメージとか叩き出すと思う。
……駆逐艦とは?
あくまで推測。だけど、わたしに砲撃が必ずしも当たらないわけじゃない。当たるときは当たる。砲撃が外れるときもある。
MMDの幸運で全部片付く因果逆転特性持ち雪風、みたいなことにはなっていない。
そして……もうひとつ。
悪雨とシロコは、異常に燃費が悪い。
気づいた時にはもう後の祭り。
悪雨ってば弾薬と怨念が軽く千単位で飛んでいく。
シロコはこれにボーキサイトが五百単位で飛ぶ。
しかもたった一度の演習で。
時間になって呼びに行って、言われて倉庫を見に行ったらビックリ。
……こんもりあった資材が無くなっていました。
いったい、何百戦したのでしょうね。身震いする思いとでも言うんでしょうか。
マジですか、この人たちって気分です。
唖然と棒立ちをするわたしに、悪雨が「楽シカッタゼ! クソテートク!」と笑ってきたのは記憶に新しい。
「ゴメンナサイ、一度言ッタ方ガ提案シタノ。ダケド」
「何モ言ワレテネーシ、艦隊ノ為ニナンダロ? クソテートクモ勉強シテイタミタイダシ。悪イト思ッテナ!」
「コンナ感ジデ……」
「ナンダヨ! シロコモ同罪! 共犯ダ、共犯!」
こんなことなら演習ではなく、即刻鎮守府攻めに行けばよかった。
空母を演習に出さない話も、どこかで耳に入れた記憶があります。
普通の提督は、艦娘が勝手に資材を三割近く使っていたらどんな反応をするのでしょうか。
三割といっても今日までずっと仕送りは続いていたので、その分を考えると五万、六万、なんてものじゃないんですよね。
下手したら十万、いや三十万は吹っ飛んでるかも。
時雨はイ級の影に隠れて怯えだした。
わたしは目元をぎゅっと握り、できるだけ笑顔で対応する。
「その、今回はネーミングの件で
「ダロ? クソテートクナラ、コンクライ許シテクレルッテヨッ!」
「あくまで、今回だけ特別ですからね! 次やったら、一か月間入渠禁止! 一週間食事抜きにします!」
ぱっと思いつく刑罰を並べて見るも、悪雨に堪えた様子はない。
むしろその程度軽い軽いと言わんばかり、どこ吹く風。
やっぱり、この艦隊に悪雨しか姫がいないは問題ですね。
唯一シロコだけが「アリガトウ! 次カラハ気ヲ付ケルワ!」と言ってくれた。
なお、時雨は信じられない目で、「深海棲艦の方が待遇良い」と呟いていた。
時雨の鎮守府が酷すぎるだけだと、わたしは思うなぁ。
「雪、悪雨は一年間出撃と演習禁止の方が良いと思うよ」
「確かに!」
「ソレハ勘弁シテクレ! 時雨姉貴トクソテートク!」
だったらまずクソテートクを止めてくださいよ。
* * *
演習三日目。
三日目となると、もう慣れたものですね。
わたしは玄関を開けて外に出る。
……違う。
いつもと空気が違う。
空が真っ赤に染まっている?
まるでブラッドムーン。大災害の予兆とでも言えばいいのでしょうか。
コウモリや妖怪が騒ぎだしそうなほど、空は怨念に包まれている。
艦これって空まで赤くなりましたっけ?
わたしが少し不思議な現象に頭を捻らせていた時である。
遠くで爆裂音が鳴り響いたのは。
今の音は明らかに砲撃。
ここまで聞こえるということは、かなりでかい。
「何!?」
わたしは急いで家にバック。
艤装を背負ってから音のする発生源へと飛び出す。
そしてわたしは目の前に広がっていた海の有様に息を飲む。
「これはあの時の赤潮?」
赤い。一面、トマト色の海。
けど、海水に指を突っ込んでみても何にもない。
何でしょうか、これ。
もう一度でかい爆裂音が鳴り響く。今度は黒煙が上空へと立ち昇っていくのが見えた。
何が起こっているのか分からない。
分からないけどここはひとまず確認の方をした方が良いだろう。
「雪!」
今しがた起きてきたのだろう。
呼吸を少し乱した時雨が砂浜に立っていた。
「攻めるのは明日って話じゃ……」
「そうだよ! だからわたしも何が起こっているのか分からなくて」
「違うの?」
「はい、違います。むしろ時雨はこれが何か分かる?」
「原因は雪じゃない?」
時雨は明らかに狼狽した顔で、二歩、三歩、後ずさった。
赤い海、赤い空。艦これのどこかで聞き覚えがあるような……。
確かそう、映画!
思い出した。
深海棲艦は海を赤く染める力を持っている!
それで、この海域を走ると敵から攻撃を受けてなくても艤装が壊れていくとか。
おかしいですね。わたしが前に出た時は何にもなかったのですが。
今も赤い海の上にいるけど、艤装には何の変調も訪れない。
変わらずタービンは回り続けている。
時雨が起きてきたのは良いタイミングだったかもしれない。
「わたしが見てきます。時雨はみんなを説得してください。悪雨辺りは出てきそうだから」
「分かったよ! 雪も気を付けて」
わたしは海に飛び出して滑走する。
音の強弱からして爆心地はかなり近い。
硝煙特有の鼻に残る刺激臭にわたしは顔をしかめた。
しばらく進んでいると煙の向こう、激しく戦いを繰り広げる三人の姿が見えてきた。
煙が晴れていって、わたしは正しく理解する。
違う。
これは戦いなんて生易しいものじゃない。
これは、一方的な虐殺だ。
わたしは目の前の状況を把握すると同時に飛び出した。
「沈ミナサイ? 海ノ底ニィ」
三人の内ひとりは軽巡棲鬼だ。
相変わらず不気味で邪悪な笑みを顔に貼り付けて、目の前のネズミを見下している。
後ろには深海棲艦の群れ。今回の赤い海の首謀者だろうか?
そして残りの二人は。
「……」
「……まだまだぁ!」
水に濡れ、火に覆われ、噴射口からは黒煙の上がる鉄の塊。
目に見えて大破だと分かる艤装を背負い、それでもなお瞳に闇を映す二人の艦娘。
白露と夕立。
時雨の姉妹艦。
「無駄ナ足掻キヨォ。無念ト後悔デ沈ミナサイ?」
「白露型は沈まない! 沈むとしてもあたしが一番! その一番が一番沈まない!」
不敵な笑みを浮かべながらも白露は折れ曲がった砲塔を構える。
軽巡棲鬼は翼の捥がれた鳥を甚振る猫のように口角を吊り上げて。
「その
わたしは何とか軽巡棲鬼と白露たちの間に割って入った。
急カーブと同時に腕を広げて、両者を見やる。
ギリギリセーフ!
あと少し遅かったら白露と夕立が轟沈していた。
服はボロボロ、艤装は苦しみもがくかのように火を噴いて震えている。
魚雷は無い。砲塔の先も折れている。あれでは砲撃も出来ない。
今日ばかりは本当に運が良い。
「今サラ何カシラァ? 私ハアンタノ艦ジャナインダケドォ?」
わたしの姿を見て、不快そうに口を曲げたのは軽巡棲鬼だ。
後ろ頭を掻きながら、最初のころと違って理性をはっきりと携えた目で睨みつけてくる。
「だから少し待ってください! こちらからあの時の質問を頼みたかったんです!」
「……少シダケヨォ、深海棲艦ノ提督サン?」
軽巡棲鬼は愉快そうに口元を歪める。
こいつ、よりにもよって艦娘の前でなんてことを……。
どうしようか。
今のわたし、深海棲艦カラーの制服を着ているんだよね。
悪雨と同じカラーリングの。
そんな服を着てきたわたしが悪いのは分かっていたんだけどさ。
PT小鬼群はこれしか作ってくれないんだもん! 時雨はちゃんと艦娘色なのに。
時雨の服の時しか言うこと聞いてくれないんだよね。
「深海棲艦の……提督……。でも理性はあるし、どう見ても艦娘。服は深海棲艦だけど、髪も肌も白くない。でも、さっき深海棲艦に指示を出していた。あれ?」
そのせいで分かっていたことだけど、白露から砲身を向けられる。
ただ、わたしが雪風なのもあって困惑している様子。
わたしはすぐにでも訂正を計る。
「そうです! わたしは陽炎型駆逐艦8艦の雪風です! 今は味方です!」
「信用できないっぽい」
随分とやさぐれた夕立が白露より前に出る。
夕立ってもっと明るい感じの子じゃなかった!?
目に隈が出来ているし、目つき悪いし、何より嫌悪が前面に出過ぎている。
うちの深海棲艦より深海棲艦をしている。
もしかして時雨を逃がしてくれた白露たちだろうか。
春雨がいないのは気になるけど、少し質問してみよう。
「山風はまだ元気ですか?」
「……お前! なぜそれを知ってるっぽい!?」
「時雨に聞きました! 今はわたしのところに住んでるので来てください」
アズレン 雪風
耐久2409
火力73
雷装562
対空173
対潜225
回避262