雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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逃げた代償

 

「最初に約束してください。まずは何もしないで話を聞いて」

 

 わたしは家に帰る前に白露と夕立、それから軽巡棲鬼にも言っておく。

 大事な作戦会議をするので、軽巡棲鬼にも居てもらった方が良いかと思って。

 もう深海棲艦の提督だとばらされている。

 無理に隠そうとする必要は無い。

 

 軽巡棲鬼は手伝ってくれるだろうか。

 人は殺すけど艦娘は轟沈させませんって言ってるから。

 深海棲艦からすれば、艦娘を沈めない発言は受け入れがたいでしょうし。

 身内にも悪雨という、隙あらば艦娘を沈めようとする娘もいるので心配。

 時雨には絆されてくれたけど、他の艦娘相手だとどうなるか分からない。

 わたしが何とかしよ! 案外、時雨の姉妹艦だから手を出さないかもしれない!

 

「艤装は良いの?」

 

 グレた夕立、深海棲艦の軽巡棲鬼に変わって一番まともそうな白露が聞いてくる。

 

「むしろ付けていてください。でも、絶対に砲撃雷撃はしないで。軽巡棲鬼も良いですね!」

 

「ダカラ、ワタシハアナタノ艦ジャナイワァ」

 

「良ーですね!」

 

 うちには悪雨、シロコ、そしてわたしがいる。

 確か鬼より姫が強くて、その姫よりも水鬼の方が強いでしたっけ。

 ただの鬼一匹沈める程度なら問題ないでしょう。

 軽巡棲鬼はいやらしそうに笑う。

 

「アナタヲ道連レニスルノモ悪クハ無イワネェ」

 

「止めてくださいね」

 

「フフフフフ」

 

 ねっとりとした悪女の喋り方だから安心できないんですよ。

 でも、ブラック鎮守府を潰す協力はしてくれそうって妙な信用はある。

 なんでしょうね、安心できないのに信用は出来るこの不思議な感覚。

 あと、こっちの体力は異常なほどあるから多分沈まないと思う。

 アズレンの雪風はスキルもあって、体力以上に固いから。

 

 わたしは家の玄関を「ただいま」と開ける。

 途端にこちらに視線を向けるイ級、ロ級、ホ級たち。

 悪雨とシロコもいるので、ちゃんと待っていてくれたみたい。

 時雨も玄関を開けたわたしに振り向き、そしてわたしの後ろに目を吸い込まれた。

 

「お帰りゆ……き……。白露、夕立!」

 

「「時雨!」」

 

 突然の再会に感極まったのだろうか。

 白露と夕立は時雨に抱き着きに行く。

 勢いで時雨は背中から床に叩きつけられる。

 艤装を背負っていなくて良かったね。

 いつもの無表情はそのままだけど、どことなく嬉しそうだ。

 

「時雨! 心配した! 沈んだんじゃないかって!」

 

「うん、ありがとう白露」

 

「時雨、無事でよかったっぽい!」

 

「夕立も苦しいよ」

 

 おいおいと泣く時雨と姉妹たち。

 経ったの数日。でもその数日が時雨たちにとっては長かったのか。

 ブラック鎮守府で味方なのは姉妹艦のみ。お互いの心の支えになっていた。

 話で聞いただけだと良い姉妹仲としか思わなかった。

 けど、こうしてまじまじと見せられると認識の甘さを実感させられる。

 わたしもその辺り、組んであげれば良かった。

 

 もっと早く、時雨の鎮守府を潰せば良かった。 

 

 時雨が白露と夕立を見て首を傾げる。

 

「白露、夕立。春雨は?」

 

 時雨の一言は感動的な雰囲気を一転させる。

 白露はバツが悪そうに顔を背ける。夕立からは深海のオーラが飛び出ている。

 この娘、本当に艦娘でしょうか? 

 

「イツマデ茶番シテンダ? コノ悪雨サンハ……オッ、チョウドイイ鬼ガイルジャネーカ!!」

 

「誰、えっ? 春雨!?」

 

「春雨生きてたっぽい!?」

 

「……誰ダオ前ラ。コレデ四回目ダゾ。ソンナニソノ春雨ッテノト似テンノカ?」

 

 退屈そうに悪雨が頭を掻いた。

 白露と夕立は唖然としたまま動かない。

 時雨は表情こそ動かないけど「あはは」と乾いた声を出す。

 

「瓜二つ!」

 

「似ているね」

 

「全然違う!」

 

「春雨、深海棲艦になっちゃったぽい!?」

 

「ソンナ似テンナラ会ッテ見テェナ」

 

 わたし、時雨、夕立の順番で似ているを連呼する。

 白露だけが違うと発言していた。

 春雨と悪雨を別として考える。

 どっち目線で見ても良い姉だとわたしは思う。

 わたしは悪い提督だった!?

 

「ソレヨリ、イツマデコノ会話続ケルノカシラァ? 私ハ姉妹ノ団欒ヲ見ニキタワケジャナイノダケドォ?」

 

 っと、そうでしたそうでした。

 わたしは時雨たちの鎮守府を潰す準備のために、話をしに来たのでした。

 まさか軽巡棲鬼に話を戻されるとは。

 

「白露たち、よく聞いて——」

 

「あれ、レ級いるー!?」

 

「深海棲艦いっぱい! ここは魔窟っぽい!?」

 

 今度はシロコに反応する白露たち。

 等のシロコは困った笑顔でわたしを見る。

 時雨は砲撃準備をしようとする夕立に腕を回して止めて。

 あぁもう!

 

「良いからまずはわたしの話を聞いて!」

 

 *  *  *

 

 シロコや悪雨問題で手間を取ってしまったけど、何とか話を戻すことが出来た。

 わたしは深海棲艦をこの場に集め、白露たちにもわたしの目的を共有する。

 ブラック鎮守府を潰すこと。艦娘は出来る限り助けること。

 自爆特攻等で、自分が沈みそうだと判断した場合のみ、艦娘の轟沈を許すこと。

 

 終始軽巡棲鬼は面白くなさそうにしていた。

 人間を潰すのと艦娘を沈ませるのがイコールで繋がっている人なのかも。

 深海棲艦側からしたらそうですよね。

 人間を滅ぼそうとしているのに、人間を守る艦娘を殺すなと言ってるから。

 協力を要請するのは難しいかもしれない。

 そういえば深海棲艦の目的って、人間を滅ぼすことなんですかね?

 あと、悪雨。提督の話はつまんないかもだけど、あくびしないで。

 

「というわけで、辛いかもだけどわたしは時雨たちの鎮守府を潰すために行動(こーどー)するよ!」

 

「良いよ良いよ。あのクソ提督に一泡吹かせられるってことでしょ! 協力する!」

 

「みんなの想い。春雨を轟沈させた恨み。思い知るっぽい!」

 

 なんか思っていたのと違う反応帰ってきた。

 むしろヤるき満々っぽい!?

 もっと、それでも艦娘としてみたいな。人間を守るみたいな。

 

「あんな艦娘を物としか思わない奴、助ける必要ない!」

 

「山風の分もきっちり払わせるっぽい!」

 

 ……深海棲艦より嫌われる人間の図。

 艦娘MMDでも中々見たことが無い。

 深海棲艦そっちのけで何かしまくっている人たちはよく目にするけど。

 

「ねぇ、今春雨が轟沈したって。どういうこと! さっきも悪雨を見て、生きてたって。ねぇ、夕立!」

 

 時雨が夕立の肩に掴み掛かる。

 そこ、わたしも気になった。

 春雨が轟沈した? 

 時雨の言葉を聞いてから、夕立は自分の失言に気が付いたようだ。

 視線を時雨から逃げるように彷徨わせる。瞼をぎゅっと震わせて、掠れる言葉を呟いて顔を落とした。

 

「夕立。嘘だよね? 春雨が轟沈したって」

 

「時雨、その……。うん、そうだよ。春雨はもう限界だった。なのに、提督から海を戻してくるよう言われて」

 

「白露……そんな……。僕がもっと早く」

 

「違うんだよ時雨! 違うの! 春雨が沈んだのは、時雨を逃がした次の日だった! だから……だから……」

 

 白露の告白に時雨が膝から崩れ落ちた。

 夕立の背中に回した腕が力なく垂れさがる。

 ……。

 軽巡棲鬼が愉快そうに手を叩く。

 

「イイワネイイワネェ! マタヒトツ、深海ヘト堕チテキタ! 祝福シテアゲナキャネェ!」

 

「ンダヨ、結局春雨ニハ会エネーッテカ。ハァ、会ッテミタカッタンダガヨ!」

 

 鬼はともかくうちの姫は空気読め。

 深海棲艦としては正しい反応なのかもしれませんけど。

 いや、よくよく考えてみると別に変なことは言ってない……かも? 

 会えなかった、残念だってだけだし。

 でももうちょっと言い方を考えて欲しい!

 もしくはシロコみたいに口を閉じていてほしかった。

 

「シロコは白露と夕立の護衛(ごえー)をして。艤装の入渠させるの手伝ってきて。その後はお風呂にでも案内してあげて」

 

「任サレタワ!」

 

「良いの!? 初めて入渠できる!」

 

「その上お風呂も入れるっぽい!? 深海棲艦の提督、私たちの提督より優しいっぽい?」

 

 時雨の時も思ったけどさ。

 何を。いや本当に何を。何を! しているんだろうね、人間の提督は。

 まさか、全部の提督がこれとか……言わないよね?

 疑問に思っても、世界の意思は答えてくれない。

 いや、流石にそれは無い。

 全員が全員艦娘を雑に扱う提督なら、今頃人間たちは滅んでいる。

 指示の内容的にも、わざわざブラック鎮守府とは言わないだろうし。

 やっぱり一部の鎮守府がおかしいだけだよね。

 

 世界の意思の指示。人間たちの野望も気になる。

 MMDみたいに大本営と一部の人間で分裂が起きているとか?

 そのうち深海棲艦を操って国家転覆を企む人間たちもいるかもしれない。

 ……色々考えたって、わたしの頭は良くないから。

 今は目の前のことに集中しよっ!

 

 指示を受諾したシロコは白露と夕立を隣の大型建造施設に連れて行く。

 普通に付いていきましたね。

 あちら側からしたら、海の悪魔でしょうに。

 信用してくれるのはありがたい。 

 時雨が姉妹たちを目で追う。

 わたしも白露と夕立を見送った後、手を付いて立ち上がる。

 

「悪雨、ロ級、ホ級、出撃準備! 時雨、鎮守府の場所を教えて。今のうちに鎮守府を墜とします!」

 

「えっ……白露たちは」

 

「置いていく。もちろん、時雨も。はっきり言って邪魔です。艦娘なんかには任せません! 軽巡棲鬼も良い?」

 

「エェ、良イワヨォ。ヨウヤク、退屈シナサソウネェ!」

 

 シロコを置いていくのは不安だけど、今回ばかりは仕方ない。

 悪雨がいるから何とかなると信じたい。

 時雨がわたしに食って掛かる。

 

「待ってよ! 僕も行く! みんなを——」

 

 それ以上の言葉を紡ぐ前に、わたしは時雨の顔の連装砲を向ける。

 かちゃりと鉄音が鳴る。

 弾数は確認した。

 ちゃんと入っている。

 後は引き金を引くだけ。

 それだけで艤装を背負っていない時雨の顔は吹き飛ぶ。

 ……怖いですね。これで本当に沈んでしまうと思うと。

 震えそうな手に力を籠める。時雨にバレないように、そっと吐く。

 大丈夫。大丈夫。

 覚悟が決まったなら、手の震えはもう収まっているはずだから。

 

「もう一度言います。邪魔です。今まで仲良くしてきましたが、わたしは深海棲艦の提督。艦娘とは敵です。鎮守府の場所だけ教えてください。後は何もしません」

 

「でも」

 

 わたしは引き金を少し引く。

 時雨はじっとわたしを見つめて。

 それからわたしの連装砲の砲身を握った。

 びっくりしたわたしは指に入れた力を抜く。

 

「雪は前に地図を読めないって言ってなかった?」

 

「悪雨か軽巡棲鬼が読めるはずです」

 

 よく覚えていましたね。

 でも、わたしにはスマホがある。

 これでいつでも自宅に帰ることは可能だ。

 

「途中までついていく。じゃダメかな?」

 

「……ダメです。時雨はここで姉妹たちとお風呂でも入って待っててください。自分たちの鎮守府が、深海棲艦に墜とされるのを。何も知らずに。帰ってから膝を落としてください」

 

 時雨の手から力が抜けた。ゆっくりと立ち上がった。わたしを見下ろして。

 

「やっぱり、雪は雪だね。分かった。待ってるよ」

 

 わたしはその言葉を聞いて、ようやく連装砲を降ろす。

 これで良い。

 時雨は艦娘。深海棲艦の仲間ではない。

 仲間と一緒に人間にどれだけ虐げられようと、深海棲艦に捕まろうと、艦娘の誇りを見失わずに戦い続けた。

 深海棲艦を引き連れて鎮守府に帰らなかった。反逆なんてしなかった。

 それで良い。

 深海棲艦に与している艦娘はわたしだけで十分だ。

 わたしだけが悪者になればそれで良い。

 

 そうすれば、時雨たちは艦娘側で居られるはずだから。

 

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