雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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怨みの結末

 

 わたしは唖然とした。

 時雨たちがここに来たからじゃない。

 後ろで深海棲艦に襲われている提督を、助けもしないで見てる夕立と白露にでもない。

 未だに沈んでいない提督たちにでもない。

 わたしは時雨の言葉の意味が分からなくて、唖然とした。

 

 時雨を信頼してない? 

 わたしが? 

 いや、そこじゃないでしょ。

 

「あのね、わたしが聞きたいのはどうして今ここに来たのか? なんだけど。後で帰ればいいよね!」

 

「今来ないとダメな気がした」

 

「いやいやいや、今来たら一番ダメなんだって」

 

「ねぇ雪。いや、陽炎型の雪風。僕はね、少しだけ怒っているんだ」

 

「何に!?」

 

 時雨が怒る理由が分からない。

 わたしはこれにどう反論すればいいの?

 

「そもそも信頼ってなに! どこからわたしが時雨を信頼してないって話になるの!?」

 

「これは僕が向き合う問題でもある。なのに置いて行かれた。雪は深海棲艦の提督である前に、ひとりの艦娘、陽炎型の雪風だって約束したのに!」

 

 時雨がわたしから目線を外す。

 訳が分からない。

 視線の先にいるのは悪雨? 

 悪雨はわたしの目に気づいていながらも、時雨に親指を立てて見せた。

 さては悪雨、ここに来る前に何か吹き込んだ? 

 まさかここまでうちの深海棲艦が時雨に肩入れするなんて。

 

 だとしても、わたしはこの意見を捻じ曲げない。

 だって、誰が見ても鎮守府襲撃の責任は深海棲艦に負わせた方が良い。

 悪いのはわたしだけでいい。時雨たちが背負う必要ない。

 

「全部ひとりで背負って。相談も無しで自分で判断して。僕を信頼してくれていないじゃないか!」

 

「そ、そう深海棲艦の提督だからだよ! わたしは本来悪い提督なんだよ!」

 

「だったらブラック鎮守府だよね! 艦娘を信頼してあげられない、酷い提督だよね!」

 

「深海棲艦なら信頼するよ!」

 

 わたしは時雨から目を逸らす。まっすぐとした目を見ていられなくて。

 そう、わたしは深海棲艦の提督だから。

 艦娘なんて信頼できない。艦娘と深くなれあっちゃいけない。

 例え嘘でも、いや時雨たちを守る嘘だからこそ貫かないといけない。

 シロコがわたしに言う。

 

「少ナクトモ、私ハ置イテカレテ悲シカッタ」

 

「それはごめん。シロコなら、みんなを守ってくれるって信じてたから」

 

「ソウヨネ。悪雨ハ艦娘ヲ攻撃シヨウトシテイタカラ、心配ダッタンデショ?」

 

 シロコの言葉がわたしの臓をグサリと突き刺す。

 喉が締め付けられる思い。罪悪感から奥歯を噛み締める。

 

 悪雨は最初時雨を攻撃しようとしてた。

 演習も沈める気で行くみたいなこと言ってたから。

 そもそも悪雨は出会って初めに時雨に砲身を向けたから。

 悪雨は普通の深海棲艦と違う。姫級。

 だったら……なんて、心の中で言い訳してさらに胸が痛くなる。

 

 反論しようにもわたしは言葉を紡げないでいた。

 だって、この状況で何を言っても、艦載機を飛ばせるシロコを置いていくのは悪手だって言われるだけだから。

 

 わたしの反応を見て悪雨がかったるそうに口を開く。

 

「マッ、ソンナコッタロウトハ思ッテタゼ」

 

「頼ッテクレルノハ嬉シイケド。信頼シナイノハ悪雨チャンガ可哀想ヨ?」

 

「ドウセ、イ級モコノ戦イニハツイテコレナイトカ判断シタンダロ。一番下ッ端ダモンナ!」

 

 悪雨の物言いにイ級が頭を突き出して抗議する。

 悪雨はそんなイ級に「悪イ悪イ」と悪びれた様子もなく謝ってる。

 

 わたしは数回目を瞬かせる。

 そうだよね。

 本当に防衛のためだけなら、シロコだけでも良かったと思う。

 なんであの時、わたしはイ級を置いていったのだろ。

 

 わたしは……あの時……確かに。

 イ級が沈むと思って。

 それは悪雨の言葉通り、わたしがイ級を信頼してないからじゃ。

 だから、艦隊は六人組めるのに、わたし、悪雨、ロ級、ホ級で出撃した。

 例え軽巡棲鬼を入れたとしても五人だ。六人には到達しない。

 

「キヒヒッ、クソテートクハ変ニ抱エ込ム上ニ手前勝手ダカラナ。悪雨ッテ名前、半強制的ニ付ケラレタノ、忘レテネーカラナ?」

 

 先ほどから時雨を援護するかのように、悪雨たちが話題を振ってくる。

 時雨に抱いていた烈火は、今じゃ見る影もなく鎮火した。

 シロコが「ハイハイ」と手を上げて割り込む。

 

「ナラ私モ、時雨サンガ助ケテクレナカッタラ変ナ名前付ケラレソウニナッタワ!」

 

「ドウ呼バレタイ? ジャナクテ、ドレガイイ? ダシナ」

 

「ソレニ、私タチニ名前付ケテオイテ、イ級、ロ級、ホ級ニハ付ケテナイノモドウカト思ウワ、司令官!」

 

 あっ、いや。そのー……。

 正直言うと、その子たちには付けなくても良いかなぁ……とか思ってました。

 シロコよりよっぽどいる深海棲艦なのに。付けなくても良いかなー……って。

 

 ……そう……だね。

 正直になる。

 多分わたしは、心のどこかで沈む可能性が高いから付けなかったのかもしれない。

 あっても意味が無いとか。

 もしくは言葉を発しないから、ペットのような存在だと。

 

 悪雨の件もそう。

 今はそうでもない。

 ちゃんと鎮守府の艦娘を助け出してくれたみたいだから信頼できる。

 けどあの時確かに、わたしは悪雨を信頼しきれていなかった。

 わたしがいない状態で時雨、白露、夕立の輪に残すのは……その、怖かった。

 帰ってきて沈めたりしないかなって。

 だから艦載機を飛ばせるシロコを置いて、悪雨を連れ出した。

 

 ……わたし、相当のクソ提督だ。

 悪雨に反論できない。

 

「悪雨って強制的に付けられたの!? 可哀想」

 

「嫌がっているのにその名で呼ぶなんて、良い提督さんと思ったのに幻滅っぽい!」

 

「分カッテクレテ嬉シイゼ。白露ノ姉貴ト夕立ノ姉貴!」

 

 白露と夕立は悪雨の味方をする。

 悪雨はというと、はしゃぎながら白露と夕立に正面から抱き着いた。

 ……。

 それでも、わたしはなけなしの力で握り拳を作る。

 

「で、でも、時雨は別だからね!」

 

「分かっているよ。艦娘のことを考えてくれるのは嬉しい。でもね、勝手に決めつけてくるのも君の悪い癖だよ」

 

「……だから、しょーがないじゃん! 分かってるよ! でも、深海棲艦を率いてるってだけでも人類の敵! そんな艦娘の近くに居たら、時雨がどうなるかなんてわからない!」

 

「だからそれが決めつけなの! 僕が証明する! 雪は艦娘の味方だから。深海棲艦で艦娘を轟沈させなかった。今もほらっ、まだ提督と憲兵は生きてる」

 

 時雨の言葉通り、小型漁船に乗った提督たちは未だしぶとく生きてた。

 深海棲艦に追われてるのに。この場にいる艦娘は誰も止めようとしてないのに。

 それなのに。まだ生きてる。

 なんで? どうして? 

 軽巡棲鬼が忌々しそうに顔を歪める。

 

「何遊ンデイルノカシラァ? ヨッポド、アノ子タチハアノ提督ニ恨ミガアルミタイネェ」

 

「恨みがある……。もしかしてあの深海棲艦たちは」

 

「ソウヨォ、アノ深海棲艦タチハ元々コノ鎮守府ノ艦娘達ヨォ」

 

 あぁ、道理で。

 道理で生かされてるわけ。

 どこぞの復讐者風に言うならば、怨讐の炎を燃え上がらせてるって奴。

 殺すには惜しい。殺すには惜しい。

 もっと、もっと、もっともっともっと長く深い苦しみを与えないと。

 こんなものじゃない。こんなものじゃない。

 わたしたちが受けた苦痛はこの程度じゃすまされない。

 

 そんな怨念が真の意味で艦娘を深海棲艦へと変えたのだろう。

 しかしやんぬるかな。

 その復讐心が、あの提督たちに希望を持たせてしまった。

 だって、攻撃するだけして当たらないのだもの。

 余裕は出てくる。

 小型漁船は艦娘でいう、小破程度で済んでる。

 

 一歩間違えてたら、わたしもあんな風になってたのかな。

 

「あれが艦娘……嘘……。じゃああの中に春雨もいるってこと!?」

 

「そんなの嘘っぽい! 艦娘が深海棲艦になるなんて嘘っぽい!」

 

 取り乱した様相で軽巡棲鬼に掴み掛かる白露と夕立。

 そんな二人に軽巡棲鬼は口を歪んだ三日月のように吊り上げた。

 時雨は意外にも動じていない。

 最初から分かってたような顔で悪雨を見て、それから深海棲艦たちを睥睨する。

 

「今までありがとう、雪。でも僕は行くよ」

 

「行くって……どこに」

 

「僕だってあの提督のことは憎んでる。そのまま沈んでしまえってくらいに。でも、本当に死んだらそれこそ雪は深海棲艦側になっちゃうから」

 

「待って! わたしは、時雨たち、艦娘が無事ならそれで良いから!」

 

「ここ一週間と少し、僕は楽しかったよ。雪の作る場所は心地よかった。深海棲艦と艦娘、互いにいがみ合う二つの存在が、手を取り合って生活する。こんな光景を作りだせる艦娘の雪だからこそ、僕は君に人間と敵対してほしくない。深海棲艦側に立って欲しくない!」

 

 時雨の中のわたし像が何を望んでるか分からないけど。

 わたしは人間との共存など望んでない。

 諦めたわけじゃない。元々持ってない。

 

 それに、とわたしは軽巡棲鬼を見る。

 軽巡棲鬼はもう既に多くの山賊を殺してる。

 だったらわたしが殺したも同然。時雨が今踏ん張っても意味なんか……。

 軽巡棲鬼がおかしそうに笑う。

 

「ソウネェ、アナタト私ハ手ヲ組ンデイルモノォ。今更艦娘側ニ寝返ルナンテデキヤシナイワァ。ムシロ、ソコノ無能ヲ思ウナラ水底ヘト沈メタ方ガ良イワァ」

 

「それでも艦娘だから! 僕は雪のために、人間を助けるんだ!」

 

 時雨が走ってしまう。

 待ってと伸ばした手は空を切る。その背中はどんどん遠ざかって。

 数百を超える深海棲艦を相手に、主砲と魚雷を手に時雨が立ち向かう。

 

「時雨がそうするんだったらしょーがない! お姉ちゃんも一番に加勢するよ!」

 

「悪雨ともっと話したいけど、しょうがないっぽい?」

 

 白露と夕立までもが滑走してく。

 未だに完全回復してない艤装で。

 怨念満ちた赤い海を滑り、さらに傷ついた艤装で。

 時雨の後を追う。

 

「待って!」

 

 艦娘を助けるのはわたしのエゴに過ぎなくて!

 悪雨は「頑張レー」と手を振るだけで何もしない。

 シロコも動こうとしない。イ級もロ級もホ級も。

 

 あんな状態で出撃したら間違いなく沈む。

 百以上の数をたった三人で挑もうと言う。

 それもこれも全て、人間のためじゃない。

 望んでないわたしのために。

 

「止めないと時雨たちが!」

 

「オイオイ、悪雨サンタチハ深海棲艦側ナンダロ? ソウ言ッタノハ他デモナイクソテートクダゼ?」

 

「違う! わたしは深海棲艦の提督で、艦娘の味方。人間なんてどうでも良い!」

 

 わたしは言いようの無いぐちゃぐちゃな感情に見舞われる。

 ここまでされて、ようやくわたしは時雨にやったことを自覚させられる。

 同じだ。

 わたしは今の時雨と同じように、時雨の意思を無視して行動した。

 相談もしないで、それが時雨のためだと決めつけた。

 

 でもそれは、信頼とは少し違うような気もする。

 わたしは時雨を信じてたから。

 どういう方面で信じてたかはともかくとして、鎮守府で待っててくれる方に信じてたから。

 だからまぁ、要するに。

 わたしはポツリと一言噛み締めるように言う。

 

「余計なお世話」

 

 言葉にしてようやく気付く。

 わたしは軽巡棲鬼の正面に出る。

 

「ごめん、やっぱりさっきの無し!」

 

「ホント酷イ提督ネェ。人間ヲ皆殺シニスルッテ話ハドウスルノヨォ?」

 

「人間はどうだっていい。でも、人間を助けないと時雨たちが沈む! 艦娘は助ける。そういう約束でもあるよね!」

 

「ドウシヨウモナイ時ハ、沈メテモイインジャナカッタカシラァ?」

 

「時雨たちを止めれる手段があるなら、それはどうしようもない時じゃない!」

 

 時雨め。

 わたしに対して自分自身を人質にして。残った人間を助けようって!? 

 結果的にそうなった感はある。

 でも、その結果がわたしにとっては何よりも効く。

 どうせ人間を沈めても自爆特攻とかする。

 それじゃあ真の意味で艦娘を助けられない。

 

 軽巡棲鬼が舌打ちをひとつ。

 

「面倒ネェ。少シ時間ヲ頂戴。三分……一分デイイワヨォ」

 

 軽巡棲鬼はわたしの目を見て時間を変えた。

 三分も待ってられない。

 そう意思を込めたからでしょうか。

 

「イイワァ。タダシ、アナタノトコロニアル怨念、ソノ七割ヲ貰ウワァ」

 

「多すぎ。せめて四割」

 

「イヤヨォ。私タチハアナタガ、鎮守府ヲ滅ボスノニ協力シテッテ言ウカラ、ツイテキタノヨォ。ナノニ最低最悪ナ提督ヨネェ。人間ヲ皆殺シニスル、私タチノ約束ヲフイニスルノダモノォ。最低六割ハ欲シイワァ」

 

 軽巡棲鬼の言い分は最も。

 むしろ無理を言ってるのはわたし側。軽巡棲鬼の言葉にこそ理がある。

 

 別に受けなくても軽巡棲鬼側に損はない。

 なんせわたしの前には壊滅寸前の鎮守府がある。

 陸地に上がってしまえば、いくらでも人間はいる。

 ここを拠点として、地上を蹂躙しつくせる可能性が高い。

 そんなチャンスを前にして、わたしは軽巡棲鬼に、この鎮守府から手を引けと言ってる。

 

 でも軽巡棲鬼は警戒を緩めない。

 なんでか? 

 この千載一遇のチャンスに、軽巡棲鬼はわたしに対して最大の警戒色を見せてる。

 

 当然。

 現在、軽巡棲鬼にとって、一番の脅威がわたしだ。

 答えをひとつ間違うだけでわたしと、深海棲艦の姫とレ級が敵に周る。

 初めて出会ったあの時すでに、軽巡棲鬼がわたしを脅威として見るのは十分だった。

 軽巡棲鬼はどうしても避けたいのでしょう。

 わたしたちと交戦をするのを。

 

 だから、こうして交渉に応じてくれてる。

 

 わたしはひとつ息を吐く。

 ため息ではない。ちゃんとした、提督としてあるために。

 しゃきっとした態度で軽巡棲鬼を見据える。

 

「分かりました。七割で良ーです。精神(せーしん)苦痛(くつー)も含めて賠償(ばいしょー)します」

 

「アラァ、気前良イノネェ。契約、チャント覚エテオキナサイネェ?」

 

 軽巡棲鬼が手を差し出す。変わらない薄気味悪い笑みを顔に貼り付けて。

 わたしは手を掴み返す。

 軽巡棲鬼の手はこの世の者とは思えないほど冷たかった。

 

「深海棲艦タチ! 戦イハ終ワリ! 帰ルワヨォ!」

 

「……!」

 

「ハァ? 時間内ニ仕留メキレナカッタ、アナタタチガ悪イノデショォ? オマケニ、三隻ノ駆逐艦ニ食イ止メラレテ。恥ズカシイッタラアリャシナイワァ」

 

「……」

 

「ソレ以上言ウナラ、アナタタチガアソコニイル艦娘ト戦ウ? 私ハ嫌ヨォ。私ヲ一撃デ轟沈寸前マデ追イ込ンダ駆逐艦ト戦ウナンテ。オマケニelite化の姫トレ級マデ」

 

「……!?」

 

「分カッタラ帰ルワヨォ」

 

 軽巡棲鬼の言葉で深海棲艦たちが攻撃の手を止める。

 提督たちに背を向けて、海の向こうへと消えて……。

 

 そのうちのハ級が小型漁船へと突撃した。

 咄嗟の出来事に時雨たちも反応できなかった。

 堰を切ったかのように他の深海棲艦も、時雨たちを無視して小型漁船へと突撃。

 百の深海棲艦を三人で抑えることは難しい。

 餌に群がる魚のように。

 一瞬にして、小型漁船ごと提督と山賊たちは水底へと引きずり込まれていった。

 後に浮かぶ真っ赤な水は、果たして変色した海色かそれとも。

 

 彼女たちの恨みは、言われて止まるものじゃなかった。

 

 軽巡棲鬼は最後にわたしの方へと振り向く。

 

「賠償ハ、ヤッパリイイワァ」

 

「……いいえ、せめて四割は受け取ってください」

 

「イヤヨォ! サッキノ時点デ私トアナタノ同盟ハ切レタ。コレ以上慣レアウツモリハナイワァ!」

 

 軽巡棲鬼はこの場にいるすべての艦娘に、聞こえるよう吐き捨てた。

 なんで最後の言葉だけ怒気を強めたの? 

 そんなにわたしが……まぁ、憎いでしょうね。

 言い分を一々コロコロ変えるのだから。

 最後に軽巡棲鬼がわたしに告げる。

 

「コノ鎮守府ハトカゲノ尻尾ヨォ。最近、人間ガ深海棲艦ヲ使ッテ何カシテイルミタイヨォ。アナタガ標的ニナルノヲ愉シミニシテイルワァ!」

 

 軽巡棲鬼が時雨の隣を通り過ぎる。

 その時一言、二言ずつ何やら言葉を交わしてた。

 ここからだと聞こえない。

 とりあえず。

 

「わたし達も、……鎮守府の怨念掃除(そーじ)しましょーか。軽巡棲鬼と約束しちゃったから」

 

「ウン、時雨サンガ暮ラセル環境ニシマショ!」

 

「クソテートクハ手伝ワナイ奴ジャネーカ」

 

 わたしが怨念に触れるとでも?

 そのまま死ねるよ。

 それともうひとつ、悪雨に言っておきたいことがある。

 

「悪雨」

 

「ナンダ、クソテートク! 時雨姉貴ヲ連レテキタ礼ナラ、一日百回演習権デイイゼ!」

 

「……一か月出撃禁止」

 

「チョッ、ソレハ無イダロ! 待ッテクレヨ!」

 

「三ヶ月出撃禁止? しょーがないですねー。特別サービス──」

 

「スンマセンデシタ。一カ月デ勘弁シテクレ」

 

 ……嘘ですよ。

 過程はどうあれ、結果的に時雨を連れてきてくれたことに感謝してます。

 わたしの落ち度の方が大きすぎますし。一日だけなら、演習百回をさせても良いかもです。

 もっとも、軽巡棲鬼たちに対する賠償で怨念が吹き飛びますけど。

 またしばらく、仕送りを溜めるしかないですね。

 

 ここがトカゲのしっぽに過ぎない。

 そんなのは分かり切ってますよ。

 人間が何をしようとしてるかは分かりません。

 けど、何かを企むのならわたしたちはそれを潰すだけ。

 もっと、多くの力を付けないと。

 

 悪雨の抗議を無視して、わたしは時雨たちの元へと急いだ。

 

 どれだけ相手が救えないクズだとしても。

 人が目の前で死ぬというのは結構堪えますね。

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