雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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海原へ

 

 深海棲艦の提督だから、妖精ではなくPT小鬼なのね。

 妖精まで深海棲艦仕様とは恐れ入った。

 これを見た艦娘からは一斉射撃を受けそうだ。

 駆逐艦で長門に勝てるだろうか。夜戦無しで。

 

「お腹が空きました。喉も」

 

 おれは自分のお腹を擦りながら項垂れる。

 帰ってくるのは弾力ではなく固い腹筋。転生前はぶくぶくに太っていたので違和感がある。

 後ろを見ればすくすく育った雑木林。一狩り行くゲームを思い出す。

 

「やっぱり、ついて来るんですね」

 

 飲める水、それと食料。

 それらを探しに歩を進めると、イ級とPT小鬼がついてくる。

 その姿はもう不気味、怖いの一言。

 夜中(やちゅう)に遭遇したら絶叫する。

 放置したい。けど艦娘に見つかるのもなぁ。

 深海棲艦の提督です。建造できません。味方いません。というのもなぁ。

 一番嫌なのは深これだから。味方を増やす手段が建造か轟沈の二択ってとこ。

 雪風で艦娘を轟沈させろとか中々人の心無いよね。

 仕方ないのでこのまま連れて行くことにする。

 PT小鬼は頭に、イ級はまぁ、別にこのままで良いか。

 

「これは食べられそうですね。こっちは、にがー……」

 

 初期リスポーン地点、あっさりと食べ物は見つかった。

 リンゴだろうか。よく似た果実だ。

 そう言えばサバイバル系漫画で、どんぐりとか虫を食べられるとか。

 耳を澄ませてみれば水の流れる音が。

 

「川!」

 

 茂みをかき分けて進めば川があった。魚も泳いでいる。

 人は見かけないから恐らく無人島だろうけど。川あるんだな。

 飲み水も何とかなった。火は……雪風の艤装にまだ燃料って入っているかな。

 とりあえず食は何とかなりそうだ。

 後は服と住か。

 手洗いでもせっけんとか無いからなぁ。

 本格的にマインクラフトをやっている気分。スキンを雪風にして。

 

「洞窟はないですかね」

 

 無い場合は、木を切り倒して屋根にするくらいは出来そうか。

 色々と考えていると、PT小鬼がおれの頭を叩く。

 手のひらに乗せてみると、任せろと言わんばかりに自分の胸を叩いていた。

 

「できるのー?」

 

 PT小鬼はぴょんと地面に降り立つと、近くの木を指さした。

 木が必要なのだろう。

 連装砲で伐採しようとする前に、少し試しでおれは木に向かって拳をぶつけた。

 

「これ、いけますね」

 

 メキッと、拳が木にめり込んだ。

 何度も拳を叩きつける。次第に木は崩れ落ちた。

 マイクラ! 

 伐採した木はコロコロ転がす。PT小鬼の前まで持っていく。

 するとPT小鬼はひとつ頷いた。大きな上顎を持ち上げ木材をガブリ。

 

「食べた!? 美味しーですか?」

 

 自分でその疑問はどうかと思う。

 ガジガジと齧った場所から、木の表皮が剥がれ落ちる。

 滑らかなものではない。けれど材料として十分使えそうだ。

 PT小鬼はおれに向かって、指を七本立てて見せる。

 

「わ、分かりました!」

 

 どっちがしれぇなのか分かりませんね、これ。

 おれはPT小鬼に頼まれた本数分伐採していく。

 後ろから木材に齧り付く不気味な音が、何度も鼓膜を揺らす。

 

 *  *  *

 

「切りました! ……って増えてます!?」

 

 PT小鬼はプラナリアだったのか! 

 言われた本数分伐採して持ってくると、十匹以上に増えていた。

 PT小鬼は一斉におれに敬礼。深海棲艦の提督になったって感じがする。

 おれは木を抱えてPT小鬼群の近くに落とす。

 ぶっちゃけ疲れより、イ級が怖かったです。

 覇気のない真っ白い、魂みたいな目でこっち見てくるんですもん。

 ただただ純粋に怖かった。

 PT小鬼群は既に二本目の木に齧り付き始めていた。白アリみたい。

 おれを見ると、今度は指を三本立てて見せた。

 

「三本? あと三本でしょーか?」

 

 PT小鬼群が一斉に首を横に振る。

 あまりに連動していたため、ひとつの脳で繋がれているのではないかと錯覚するほど。

 

「もしかすると違うんですかね」

 

 PT小鬼は頷く。

 木を後三本という意味じゃない。

 他に三が関係しているもの。木材以外で三が関係しているもの。

 

「三日ですか?」

 

 PT小鬼はまたも頷いた。

 ……そりゃあ、そんなに早くは作れないよねぇ。

 納得のいったおれは多分、微妙な顔を浮かべていると思う。

 

「じゃあ木は七本で足りますかね?」

 

 この質問にPT小鬼は首を振って見せた。

 完成までのビジョンは見えていないってことで良いのかな。

 それじゃあまた必要になったら、必要になった分だけ木材を持ってくることにしよう。

 それより今は、増えたPT小鬼群分の食料を確保した方が良いだろう。

 

「それじゃあもっと食べ物を持ってきますね!」

 

 おれはイ級を連れて再び森の奥へと消えていった。

 

 *  *  *

 

 夜のとばり。都会では見れない煌めく星。

 無人島生活初めての夜。

 

 PT小鬼のいる周辺には簡素な屋根が作られていた。

 屋根といっても強い風が吹けば飛んでいきそうなもの。

 今日は雨が降っているわけではないので外で寝る。

 虫のざわめき。肌を撫でる冷たい夜風。

 ……うるさくて仕方がない。

 体制を変えて寝転がれば、イ級とPT小鬼に挟まれている。

 水を飲もうと川まで向かえば、明かりが無くて少し迷子になる。

 

「雨風凌げる家が欲しーです」

 

 欲を言うなら布団とかも。

 木の葉とか集めたらそれっぽくなるだろうか。

 

 *  *  *

 

 朝から耳元で起床のラッパを吹かれて目が覚める。

 すごい耳がキーンとする。

 外はまだ少しほの暗く、朝の陽ざしなどない。五時くらいだろうか。

 もう少し寝かせろと二度寝をしようとすれば、再び耳元ラッパ。

 

「分かりました! 起きますから!」

 

 おれが上半身を上げてみる。

 すると、ラッパを手にしたPT小鬼はある方向を指差した。

 昨日と同じ木箱。

 紙も一緒に添えられている。読んでみれば昨日今日分の資源を届けに来たとのこと。

 そういえば艦これって資源の自動回復がありましたね。

 中身は弾薬、鉄、ボーキサイトに赤黒い怨念、それと燃料。

 昨日よりも量が多いですね。

 これだけあれば建造できそうですかね。

 PT小鬼群は赤黒い怨念を取り出す。

 砂浜の上に着地すると、イ級たちと一緒に食べ始めた。怨念食べるんだ。

 

 当分、海にでる予定は無かったけど……。

 練度の確認も兼ねて、今日は海に出てみるとしよう。

 資源はどうせ一定数溜まったら、それ以上回復しない……と思う。

 余った分の資源はPT小鬼群に押し付けると、ビシッと敬礼された。

 

「任せました」

 

 おれも敬礼を返す。艤装を手にして水面へとジャンプ。

 滑り方は……あれ、これ難しい!? 

 上手く立とうにも足の重心がズレる! 移動しようにも推進力を制御できない。

 膝に力が掛かって上手く曲げられない! 乱暴に腕を振り回してしまい! 

 わわわ!? 

 おれはバランスを崩し、その場で尻もちをついた。

 

「びしょびしょです」

 

 この感覚、スケート靴を思い出す。

 もう一度立ってみようとして、また同じことしてパンツを濡らす。

 塩水に浸かるとか最悪だ。

 アニメの吹雪さんもこんな感じだったなぁ。

 イ級に手すりになってもらい再度挑戦。

 十回ほど着水してようやく滑走できるようになる。

 コツを掴んだ、というよりかは思い出してきたの方が正しい。

 段々と身体の方からこうすれば良い、というのが浮かんできて。

 それに従って身体を動かしてみたところ滑走できた。

 

 実際にその場で加速と減速を繰り返す。

 急カーブして直角に、身体の赴くままに砲撃してみる。

 ドカーン! っと光に当てられ、水飛沫が空を舞う。

 おれは改めて自分の手のひらを見る。

 

「雪風の経験ですかね」

 

 ソフトウェアをインストールされた機械の気分とでも言えばいいか。

 まるで元々知っていたかのように。

 不思議な気分だなと考えていると、とあることを思い出した。

 前に変なスマホに雪風の身体について記載されていた。

 どうもこの身体は、ゲームの雪風をこの世界にあった姿にしたものらしい。

 その雪風の脳におれの思考やら記憶やらを入れたもの。

 経験値や培ってきた力は、雪風の身体に宿っていると。

 つまるところ、悟空ブラック。この一言に限る。

 それにしては初めて体験したような感覚だった。

 

 ともかく、これなら遠征や出撃できる。

 イ級はカモの子みたいに後ろをついてくる。

 攻撃を行えることにちょい興奮した。

 けど、この姿を艦娘に見られたらどう思われるか。

 そう考えると、冷や水をぶっかけられた気分になる。

 

 さて、海原に漕ぎだしたところでおれにはひとつ問題があった。

 割とよく迷子になるのである。

 北と言われれば、上だなと考える程度に地図を読めない。

 スマホを見てみれば、東西南北を示した大海原の地図が映る。

 PT小鬼に羅針盤とか作ってもらえばよかった。

 よく考えずに海に出るほど知識ないのに、やっていけるのだろうか。

 なんて滑っていると、鼓膜を叩く異音に気づく。

 あれは艦載機? 

 艦娘が使うような飛行機型の。

 

「イ級、潜水開始!」

 

 深海棲艦なら潜水艦でなくとも潜れるのではないか? 

 海底から変性するし。

 イ級は慌てた様子で首を横に振る。

 潜れないのかよ!? 

 艦載機たちは無慈悲にも爆撃が零れる。

 狙いはイ級。

 あちらから見れば、艦娘が深海棲艦に襲われている風にしか見えないもんね! 

 

 マジでこういう時は……そう機銃! 

 機銃どれっすか!? 

 パニックったおれの思考とは正反対に、身体は自然な動きでハンドルを握る。

 

 それを上空へと向けて連射。

 マシンガンみたいに弾丸が飛び出していき、艦娘の艦載機を撃墜させた。

 

「危なかったです」

 

 口ではそう言うも、内心めちゃくちゃビビっている。

 うちのイ級ってば運が良いのか、爆撃を回避できている。

 良かった良かったと安堵する。

 いやよくないよ! さらっと艦娘の艦載機撃ってるよ!? 

 あっちからしてみれば、助けようとしたら逆に撃たれる意味不明な状況だよ! 

 ごめん中にいる妖精さん! 

 

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