雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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雪風の名付けセンス

 

 外に出たわたしは悪雨たちを連れて隣の工房に向かう。

 わたしの家は新しい仲間を迎え入れるためにも、現在改築中。

 元々わたしの家は一階だけでも大きめなビルのエントランス程度の広さがある。

 

 部屋は無い。

 だだっ広いひとつの部屋で、深海棲艦たちはみんな集まって一階で雑魚寝をしてる。

 これはイ級とロ級とホ級が縦横幅をとにかく取るため。

 リビング、台所、お風呂場、なんてお部屋を作っていたら入れないのである。

 玄関のドアも三人が通れるようにしないといけないので結構でかい。

 天井も相応に高くしないとイ級たちの大きさで崩れる。

 部屋を広く取らないと家として機能しないんだよね。

 

 それで今回新しい仲間を迎え入れる。

 確か駆逐艦には他にハ級だっけ?

 建造されたらまた家が狭くなる。

 

 他にもわたしだけ部屋があるのも不公平。

 悪雨やシロコたちにも部屋を当ててあげたい。

 そこで目を付けたのが二階。

 せっかくスペースがあるけど、わたし以外誰も使ってないから。

 実質だだっ広いひと部屋に、わたしのベッドがぽつんと置かれてるくらい。

 

 そしてその部屋もほとんど使ってない。

 寝るときは大体ロ級の上に寝転がってる。決して寂しいわけではない。

 たまにホ級の上で洗濯物のように寝てる。

 一度だけ、白露に「初めて見たら何事って思うよね」と呆れられた。

 深海棲艦の上で艦娘が危機感なく寝てるのってそんなにおかしい? おかしいね。

 

 で、誰も二階を使ってないのは、イ級たちじゃサイズがでかすぎて二階に上がれないから。

 料理はお外で、お風呂もお外で、船渠はドックで、仲間と交流するのは一階で。

 そんな風に暮らしてたら、いつの間にか誰も使わなくなってた。

 

 でもせっかくあるのに使わないのは勿体ないよね、ってことで悪雨たちのお部屋を作成中。

 イ級たちにはごめんだけど。

 また、改装に当たって一階にあった前のわたしの部屋は壊した。

 二階に作るから必要ないし、やっぱりイ級とロ級とホ級たちが動きにくそうだったしね。

 

 大丈夫、うちのPT小鬼はマインクラフター。

 頼めば数日程でやってくれる。

 由緒正しき豆腐建築を。

 

「時雨はまだ引き籠ってるの?」

 

「うん。また明日でも良いから、遊びに来て」

 

「美味しいご飯にも手を付けてないっぽい」

 

 なんて白露たちと会話をしながら移動する。

 そっか。

 今度魚でも取りに行ってあげようかな。

 いつも果実や虫だけだと飽きるだろうし。

 悪雨が会いに行くとまずいからね。

 

 由緒正しき豆腐建築の隣に建てられてるのが、今回の大型建造地となる工房。

 わたしたちが工房前に行くと、PT小鬼たちは一斉に動き出す。

 分厚い鉄扉はゆっくりと少し耳に響く音を立てて開かれる。

 工房内に日の光が差し込んでく。

 そして光は、四つの黒曜柱の中心で輝く異界の門を照らす。

 

 赤い渦潮。

 柱の中心部でうねる怨念の集合体は、悪魔召喚魔法陣の如く禍々しくも人を引き付ける魅力があった。

 今すぐにでも異界の存在が、その小さな扉から二つの腕を伸ばして這い出て来そう。

 そんな門に工房内にある資材を投げいれる。

 すると扉は資材を飲み込み、異界から深海棲艦を呼び落とす。

 

 みたいな演出で建造される。

 

「なにあれ……。あんなのがこの世界にあるなんて」

 

「見るからに深海棲艦が生まれるって感じっぽい」

 

 戦慄きながらも白露が庇うように腕を広げて夕立の前に出る。

 対して夕立の反応は意外にも乏しかった。

 あっけらかんとしてる。

 

 俗的に言えばただのガチャだし。

 こんな見た目だけど資材を投げ入れて建造しないと何も出てこないからね。

 鎮守府にあると思われる建造装置と変わらない変わらない。

 

「スゲェダロ! 姉貴タチ!」

 

 頭に手を回し、「キヒヒッ」とガキ大将のような笑い方をする悪雨。

 わたしはあの頃を思い出しながら悪雨に顔を向ける。

 今思えば時雨が居たから駆逐棲姫だった可能性もあるよね。

 白露型を触媒としてさ。

 確か艦これの建造でも、秘書官によって建造できる人がいるって話だよね。

 星の内海で鍛えられたエクスカリバーとかこの世界に無いかな。

 

「レシピは?」

 

「悪雨サン的ニハ軽巡ト空母辺リデ良イト思ウゼ」

 

「軽巡って強いの? 未だに駆逐艦の強化(きょーか)版ってイメージ」

 

 あと天龍龍田幼稚園とか。

 スーパー北上様とか。

 軽巡って印象が薄いというか、MMDでも小説でもそんなに騒がれない印象。

 どうしよう、アニメでも川内型くらいしか記憶にない。あと瑞雲。

 最上だっけ? どうしても師匠の瑞雲の方が印象強い。

 

「アレガ強化? ナイナイ、悪雨サンノ方ガ強イネ」

 

「悪雨は姫だよね。深海棲艦は基本艦種詐欺」

 

「ソレ、一番艦種詐欺シテルテートクガ言ウカ?」

 

 まぁ、わたしは艦これの数値じゃないから。

 ポケモンカードで遊戯王カードを持ってくるかのような性能をしてるだけだから。

 サンダーボルト撃たれたら勝ち目ないじゃん?

 ポケモンカードって特殊勝利メタあったっけ?

 

 それ抜きにしても、雪風と島風って普通に軽巡の代わりに入れない?

 駆逐艦の中で別格なわけだし。

 

 わたしは工房内にいるPT小鬼たちに頼んで、先に軽巡のレシピをお願いする。

 

 PT小鬼群の手によって、異界の扉に資材が投げ込まれる。

 すると扉に変化が訪れた。

 赤い渦潮の中心部。

 百鬼夜行を収めた空亡の如き黒い恒星が、電灯みたく白色光に輝きだした。

 深海棲艦の建造が始まった。

 軽巡が生まれてほしいなという思いを込めて、わたしは新しい命の誕生に歌でもうたう。

 

「ソンナニ建造ガ楽シミナラモット頻度ヲ増ヤシタラドウダ?」

 

 悪雨の考えなしでふざけた言動に、わたしは目から光を失わせる。

 そのまま悪雨に顔を向けて、海水のように冷たい言葉を浴びせる。

 

「そーだね」

 

「コワッ!」

 

 悪雨が悪いわけじゃないんだけどね。

 一番の大食らいはシロコだけど、基本的に戦いが好きな娘じゃないから。

 指示しない限り演習をしないから鎮守府のお財布事情に優しいんだよね。

 ねっ、二番目の悪雨? 

 この鎮守府内で一番資材を消費してるの、悪雨なんだよ? 

 

 食う母じゃないんだからさ、もうちょっと抑えられない? 

 そりゃ深海棲艦である以上燃料の代わりに怨念で動いてるけどさ。

 深海棲艦の建造には燃料じゃなくて、怨念の方が必要なんだよ?

 弾丸も鋼材も怨念を混ぜないと深海棲艦は使えないんだよ?

 建造に使う資材も怨念弾丸、怨念鋼材じゃないと出来ないんだよ?

 

 燃料、弾丸、鋼材をそのまま消費できるという意味では、この鎮守府内で一番コスパ良いのわたしなんだよ?

 怨念だけいくらあっても足りないんだよ?

 時雨たちの鎮守府にお裾分けできてるの、怨念と他資材の消費量が一定じゃないのも理由のひとつなんだよ。

 

 普段わたしの頭をバカスカ叩いてくる悪雨が珍しく怯えてる。

 なんか新鮮だけど、白露がわたしの肩を突いて助け舟になる。

 

「ね、ねぇ雪風。もしかして深海棲艦の建造って艦娘と変わらない?」

 

「……変わらないよ。資材を投げて出来上がるのを待つだけ。少なくともわたしのとこはそーかな。艦娘を沈めたくないし」

 

「そうなんだ……。やっぱり、艦娘を沈めると深海棲艦になっちゃうんだ」

 

 鎮守府襲撃の時にいた大量の深海棲艦たちね。

 そうだね。

 軽巡棲鬼の話だと、あれは元々時雨たちのいる鎮守府所属の深海棲艦たちだったみたいだね。

 でも、不思議なんだよね。

 わたしが知る限り艦娘が深海棲艦に堕ちた時、その記憶は引き継げなかったはずなんだけど。

 なんであそこにいた深海棲艦たちは、みんな艦娘の時の記憶があったんだろうね。

 

 個人的には軽巡棲鬼のブラフ説を推したい。

 深海棲艦っていつでも仕留められる獲物には、舌鼓を打つ個体が多いらしいから。

 少なくともわたしの読んだラノベでは、そういう慢心をする深海棲艦が多かった。

 いつでも仕留めきれる相手をわざわざ甚振り、その結果増援で負ける人たちっていうさ。

 

 多分だけどわたしに対しても、元艦娘ってだけで躊躇するって考えたのかもしれない。

 実際、あの時のわたしは元艦娘って聞いて思考を引っ張られちゃったからね。

 でも、深海棲艦に立ち向かった時雨たちほとんど無傷だったんだよね。

 うーん? わたしが艦娘には攻撃しないでってお願いしたからなのかな?

 その辺りはいくら考えても仕方ないので一旦置いておこう。

 

 色々と考えた末に、これだけは言える。

 沈んだ艦娘は深海棲艦に変貌する。

 ラノベでも、艦娘を深海棲艦にしようと深海で手をこまねいてるって表現があった。

 人の数だけ艦これの世界があるから、確証は無い。

 艦これ二期とか沈んだけどみんな転生? してたし。

 艦これ二期の世界って、ワンちゃん陽炎抜錨のような世界観だったりするのかな。

 

「逆に深海棲艦を沈めると艦娘になると思う」

 

「そうなの? じゃあさじゃあさ、悪雨を沈めると」

 

「ならないし沈ませない!」

 

 白露の言葉に夕立はびくりと身体を震わせる。

 言葉の意味を咀嚼するかのように、何か期待を込めた目で悪雨を見定める。

 

 ならないとは言ったけど多分違う。

 悪雨を沈めると高確率で春雨になるんだよ。

 だってわたしは深海棲艦になれないけど、悪雨たちが艦娘になれないとは言われてないからね。

 

 わたしは悪雨の腕を掴んで自分の元に抱き寄せる。

 ……悪雨の腕、結構冷たい。

 

「ンッ? ナンダナンダ、悪雨サンハ人気者ダナ!」

 

 白露たちと悪雨の間に、壁になるようわたしは入る。

 まるで百合の間に挟まる男みたいな構図だけど、これは譲れないよ。

 白露は夕立の腕を引き、頭を掻いて笑う。

 

「冗談だってば。そんな本気にしないでって。あっほらっ、またなんか色変わったよ!」

 

 白露が異界の扉を指さす、

 怨念の集合体は、太陽から空亡へと姿を戻してた。

 確かに建造が終わったみたい。

 でも建造を始めてから三十分も経ってないような? 

 それこそ二十分近くだけど。

 

 異界の扉から人型が降りてくる。

 どうやら当たりみたい。

 深海棲艦は人に近付くほど強くなる。

 どうしてかは艦これ初心者のわたしには分からないけど。

 でも鬼や姫、水鬼やレ級は確かに強い印象。

 

「小さいっぽい」

 

 ガコンと着地して現れたのは、白く幼い少女。

 イ級らしき深海棲艦。まず初めに下半身がそれに埋まってるのに目を惹かれた。

 強く握れば痣が出来そうなほど華奢な腕に、見た目にそぐわない魚雷をぬいぐるみのように抱いてた。

 鮮やかな陰のある薄緑色の瞳。わたしたちをその瞳に映して、ひとつ瞬きをした。

 

 北方棲姫? いや、違う。

 深これで実装されてるし、出ないわけではないと思う。

 けどこの子は違う。

 触覚のように頭から伸びた二つのアホ毛。

 外見からは儚い印象を感じさせる。

 

 瞬間、記憶の金庫が開かれる。言葉を連想するかのように、ある艦娘が脳を過ぎる。

 潜水艦の艦娘。あのなんか、改装すると二重人格化と思うくらい性格が両極端のでっち。

 でっちだけど、でちのほうじゃないでっち。

 確かそう、ユーとかローとかですってとか言われてる娘。

 あの……、ロシア艦? なのかな。髪が白いけどそんな感じの。

 

 そんな艦娘に似てる娘がイ級型の乗り物から、両手をついて下船する。

 悪雨の時も思ったけど、普通に足あるんだよね。

 一見足が無いように見えてもさ。

 たどたどしそうにこちらに歩いて、

 

「イタッ」

 

「こけた」

 

「こけたっぽい」

 

 二歩三歩進んだところでこけた。

 顔から行ったよね、あれ。

 工房は固い地面だから痛いよね。泣いてないかな?

 

大丈夫(だいじょーぶ)?」

 

 わたしは声を掛けて女の子の元に駆け寄る。

 痣とか作ってないと良いんだけど。

 

「立てる?」

 

 片膝を付いて手を伸ばし──、わたしの服の裾が捲れ上がった。

 わたしのパンツが白日の下に晒された。

 ……んんっ? 

 新しく建造された女の子が両手を上げてた。

 逃げるように立ち上がり、わたしからすぐに距離を取る。

 

「ヤーイ、引ッ掛カッタ引ッ掛カッタ!」

 

 腰に両手を当てて、女の子は見た目にそぐわないほど呵々大笑をする。

 えっと、スカート捲り? 

 雪風の制服はスカート無いからよく分からないけど。

 えっと、スカート捲りをされたときの反応は……。

 そもそもこの場に男性はいない、雪風のパンツは普通に見えるでGGだね。

 

「深海の提督さん大丈夫っぽい?」

 

「キヒヒッ、見事ニヤラレタナ、テートク!」

 

 心配をしてくれる夕立にわたしは「大丈夫(だいじょーぶ)」と手を付いて立ち上がる。

 わたしがほとんど無反応だったからかな。

 当の犯人は面白くなさそうにぷくぅーと頬を膨らませた。可愛い。

 

「スカート捲りとは、また古い手に」

 

「白露、後ろ後ろ」

 

 わたしの言葉、というより感触で気づいたのかも。

 他人ごとのように笑って見せてた白露が振り返る。

 そこでは女の子が「水玉パンツ」と、馬鹿にした顔で白露のスカートを捲ってた。

 

「へっ、きゃっ!」

 

 白露が振り向きと同時にスカートを抑える。

 

「マダ水玉パンツナンダァ! 恥ズカシクナイノ?」

 

「こらー! このエロガキ!」

 

 ぷぷぷと口元に手を当てて笑いを堪える女の子を、白露が追いかけ始める。

 別にパンツに関してはいくつになっても好きな物を穿けばいいと思うよ。

 元男視点の意見です。……セクハラか。

 

 白露から「逃ゲロー!」と笑って走ってる辺り、楽しいんだね。

 本当なら放置させて好きに遊ばせてあげたいところだけど……。

 

 建造された女の子が燃料ドラム缶の上を跳び箱のようにジャンプする。

 小さな身体を使った軽やかな動き。

 だけど白露はそうじゃない。

 危うく衝突しそうになり、ドラム缶に手を付いて身をよじる。

 グラグラと揺れるドラム缶。倒れて燃料が外に漏れたらと思うとハラハラする。

 

工房(こーぼー)内で暴れないで! 燃料(ねんりょー)とかあるんだから! やるなら外!」

 

 わたしの叫びに白露は止まってくれた。

 追いかけっこを止めて、あっははと乾いた笑顔で頭を掻きながら戻ってくる。

 

「ごめんごめん! つい?」

 

「白露、子どもっぽい」

 

 夕立の小言に白露は腰を低くする。

 良いんだけどね、こちらとしても遊んでくれるのは嬉しいし。

 工房でやるのだけは止めて。洒落にならないから。

 そして建造された女の子も膨れっ面で戻ってきた。

 すごい目に抗議の意思を宿してぶつけてくる。

 

「今後、この場所でああいう追いかけっこはしないでね」

 

「ナンデナンデー! 遊ベヨー! 遊バナイトコウスルゾー!」

 

 ドラム缶の方へと掛けてく女の子。

 何をしようとするのか容易に想像できる。

 だからわたしは、

 

「悪雨、お願い」

 

 悪雨に頼んで女の子を確保してもらう。

 悪雨は「アイヨ!」と指示を請け負い、瞬く間に女の子を捕獲した。

 流石に一歩の大きさが違い過ぎるから。

 

 悪雨の腕の中で「ハーナーセー!」と手足をばたつかせて暴れる女の子。

 そんな女の子の頬を突いて悪雨は遊んでる。

 わたしはスマホで建造された女の子について調べてみる。

 

「潜水新棲姫?」

 

 名前の通り艦首は潜水艦。

 高い命中率と高い先制雷撃で戦艦だろうと大破に追い込んでくる。

 道中で出て来られると回避こそできるものの、高い命中率のせいで撤退を余儀なくされることが多い。

 これらのことから多くの提督から【クソガキ】という名前で親しまれてる。

 

 ……安直というかなんというか。

 北方棲姫はあんなに愛されてるのに。

 あと、クソガキは普通に酷くない?

 元気で明るいのは良いことだよ。子どもだからこそ我儘に振舞うべきだと思う。

 

 以上、艦これやってた期間の短い奴の言葉。

 

「あっ、次に空母の建造(けんぞー)をお願い!」

 

 空母の建造には時間が掛かるので、今のうちにみんなの改装と名前決めの方をしよう。

 わたしは悪雨を手で呼び出し女の子を受け取る。

 悪雨よりもわたしは身長が低いので、ちょうど女の子のじたばたがわたしの顔と足に来る。

 可愛いけどちょっと痛いから自重しようか。

 わたしは女の子を降ろし、脇の下をくすぐって遊ぶ。こしょこしょーっと。

 

「悪雨、イ級から順番に改装(かいそー)をしてくるように伝えて。終わったらみんなに名前を贈る!」

 

「止メ、止メロー! アッハハハ!! 止メロッテ言ッテルダロ! アハハハハハ!!」

 

 うん、絶対に変な名前にはしないよ。

 そんなバカげた名前やキラキラネームを付ける気は無いんだよ。

 だからさ、悪雨。

 そんなジトっとした信用ならない目でわたしを見ないでくれるかな。

 挙句、「シロコー!」なんて言って、誘導係を変わってもらおうとしないでくれるかなぁ!? 

 

「ホラッ、クソテートク。早ク名前ヲ付ケテヤレヨ」

 

「納得いかない」

 

 結局シロコに誘導係を変わってもらった悪雨が、名前決めに参戦してくる。

 ねぇ、わたしそんなに信用ない? 

 シロコも変わってもらう訳を聞いた途端、目の色を変えて了承したんだけど。

 普段なんでも肯定してくれるシロコすら、わたしのネーミングセンスを酷いと思ってるの? 

 自覚はあるけどそんなでも無いと思うんだけどなぁ。

 

 なんか納得いかないけど、名前決めだもんね。

 とりあえずわたしは思いつく限り名前をリストアップしてく。

 

「伊5679、ホオリ、イザナギ、シホツ──」

 

「ハイストップ、止マレクソテートク」

 

 額に手を置いて疲れた様子の悪雨が、わたしの口を手で塞いでくる。

 結構良い名前だと思うんだけどなぁ。

 悪雨は白露と夕立で輪を作り始めた。

 

「ドウヨ、アレガテートクノセンスナンダガ?」

 

「酷いっぽい。潜水艦はいつからそんなに増えたっぽい?」

 

「イザナギって神だよね? シホツ……は分からないけど」

 

 わたしのネーミングセンスそんな酷いかなぁ? 

 光宙とか付けてないからマシだと思うんだけど。

 あと、シホツチね。

 

「艦娘だって大和とか伊勢、天龍とか名前付いてるのに。カグツチとか別名愛宕様だよ」

 

 あえてその辺りの名前は避けてるんだよ、わたし。

 扶桑は確か日本の異名だっけ?

 戦艦と重巡は山関係が多いよね。

 

「それに伊5679は悪意の神。ぴったりだと思ったんだけどなぁ」

 

 これひとつだけ日本神話から取ってないので場違い感はぬぐえないけどね。

 ちなみにホオリは火の神だよ。

 兄から貸してもらった釣り針を探すために、海に潜るから潜水艦にはぴったりかなって。

 あっでも、海幸系なら我儘を言ったホデリの方が良いのかも。

 どっちにせよ、火ではあるけどね。

 一応ホオリは山幸系で逆なんだよね。

 

 通じない悲しみを背負いぼそりと溢せば、わたしの手にいる少女がピクリと反応する。

 

「悪意ノ神! ナニソレカッケェ!」

 

「でしょでしょ! 底知れぬ悪意を司り、残虐な悪意ある人間をさらに堕落させる神の名前だよ! どう、カッコいーでしょー!」

 

「カッコイー! 伊5679! 伊5679! 今日カラアタイハ伊5679!」

 

 両腕を伸ばして全身で喜びを表現する女の子、もとい伊5679。

 長いから今後はイゴーと呼ぶことにしよう。

 まぁ、それはそれとして。

 何やら言葉もなく口を開けてる白露型の二人とそのそっくりさんひとり。

 なになにー? 

 あれだけ酷い酷い言ってたみたいだけどさ。

 わたしの名前の方が良いってさ! 

 

 そりゃ酷いのはそうだけどさ。言うほどじゃないって証明されたね! 

 

「艦娘モ深海棲艦モ沈メナイトカホザイタ奴が付ケル名前ジャネェーナ」

 

「伊5679、悪意の神。どこかで聞いたことがあるようなっぽい?」

 

「……あっ! あぁ……。確かにぴったりな名前かも。悪意の神、聞こえは良いんだけどね。あれの考える悪意って確か……」

 

 えっ、待って白露。そこで止めないで? 気になるじゃん! 

 わたしクトゥルフ神話はそんなに詳しくないから! 

 腕の中でゴローが「伊5679! 伊5679!」と楽しそうにはしゃいでる。

 悪意の神と聞いてたけど、その実態を深く知らないわたしは背中が冷たくなるのを感じてた。

 

 *  *  *

 

 イゴーに名前を付け終わったタイミングで、改装を終えたイ級が戻ってくる。

 改装前は黒いメタリックなボディ。しかし今では口から下辺り、白い未発達な手足のようなものを露わにしてる。

 中途半端に人の形に寄せてる分、前よりも和風ホラー感が上がってる。

 多分、深夜に徘徊してるところを見たら、わたしは間違いなく悲鳴を上げると思う。

 

 改装を終えたイ級はわたしの姿を白い眼に捉えると、水を得た魚のようにその場で飛び跳ねる。

 その姿、正しくホラーゲームでプレイヤーを見つけて真っ先に襲ってくる化け物のよう。

 白露と夕立がさりげなくわたしから距離を取る。

 イゴーは固まったわたしの隙をついて腕から離れ、悪雨の元へと避難する。

 イ級は……イ級が……弾丸のようにこっちに向かってくる!? 

 

「待って! 止まって! 嬉しーのは分かったからその巨体でこっちに来ないで!」

 

 イ級のジャンピングプレスに、わたしはそのまま押しつぶされる。

 イ級としては主人にじゃれる子犬のような面持ちなのだろうけど、わたしからしてみれば今絶賛化け物から身動きを取れない気分。

 しかも未発達な手足がわたしの身体を不規則に撫でてくる。

 さらにわたしの上で飛び跳ねてくる凶悪さ。

 イ級の愛情表現に、わたしは骨が砕けて内臓までも飛び出る思い!

 嬉しいけど重い……。

 

 確かイ級後期型だったよね。

 イ級のくせに妙に強いからよく記憶に残ってる。

 

「その髪飾り……如月ちゃんのっぽい?」

 

 今の声は夕立かな? 

 その前に、助けてぇ……。

 

「ほんとだ! 如月ちゃんのだ!」

 

「ハイハイ、二人ノ姉貴タチ。少シドイテクレ」

 

 悪雨の声が聞こえる。そのすぐ、わたしの元に光が差し込んでくる。

 悪雨がイ級の身体を片手で持ち上げて、わたしに手を差し伸べてた。

 

「立テルカ?」

 

「悪雨ぇ! ありがとー!」

 

「イイッテコトヨ!」

 

 イ級から救出されたわたしは、抱き着くように悪雨の手を奪う。

 ほんと、死ぬかと思った! 

 こうなるくらいなら艤装を背負っておけばよかった。

 わたしの艤装固いから押しつぶされてもストッパーになってくれるんだよね! 

 多分、耐久力が桁違いだからそんなことになってるのだと思うけど! 

 

「イ級! わたしとあなたじゃ体格違うんだよ! ほんとに死ぬかと思ったよ!」

 

「同意見ダ。次カラハ気ヲツケロヨ、コンナンデモ悪雨サンタチノテートクナンダカラ」

 

「そう、こんなんでもわたしはイ級たち深海棲艦のしれぇ、だからね!」

 

 白露がぼそりと「こんなのは認めるんだ」とツッコミを入れる。

 バシバシと遠慮なくわたしの頭を叩く悪雨。

 シュンとした様子でイ級は顔を落とす。

 表情はまったく分からないけどね。

 多分、わたしが良くロ級の上に乗ってるから愛情表現で真似したのかもしれない。

 わたしも今度から気を付けよ。

 

 それで、如月だっけ? 

 確かにイ級の黒い頭に、前とは違ってピンクの花びらの形状をした髪飾りが付けられてる。

 如月。

 改めて思い返してみると難しいので、スマホで検索を掛けてみる。

 ……ほんとにそっくり。というか、瓜二つじゃん!? 

 

 よりにもよって如月の髪飾りを付けたイ級。

 もしかしてこのイ級、元の艦娘は如月だったりする? 

 

 確かあの鎮守府で如月は沈んでたよね。

 ……たまたまだよね。

 

「それで、イ級にも名前を付けるんでしょ? どんな名前にするの?」

 

「えっ、はい! そーですね……」

 

 白露に促されてわたしは考える。

 えっと、イ級の名前。イ級の名前! 

 如月、睦月、弥生、卯月。確か月の名前だよね。

 月と言えば十二支や星座。十二ある中で爪弾きにされた存在と言えば……。

 

(じゅー)三番目の(じゅー)二支と言えばついたちで有名(ゆーめー)なイタチ、星座(せーざ)でいえばアスクレピオス」

 

 スマホで調べてみるとオフィウクスとか出てきた。

 ヘビ使い座って英語でオフィウクスって言うんだ。

 

 でもさ、イ級にアスクレピオスなんて名前を付けるのはこう、名前負けしてるような気がする。

 多分わたし、イ級にアスクレピオスなんて名前を付けてる人いたら少し引くと思う。

 だって、イ級にヘラクレスって名前を付けるようなものだよ? 

 十二の難行を乗り越え、その末に神として昇華された人間。

 そのヘラクレスの名をイ級が冠してたら多分笑うと思う。

 大爆笑すると思う。

 イ級の名前を鑑定してヘラクレスとか付いてたら腹筋崩壊すると思う。

 

 他に月関係と言えば、イタチがあるよね。

 神様の連絡が遅れて十二支の競争に参加できなかったイタチ。

 不憫に思った神様が月初めに一日を、イタチの日にする。

 このことから、ついたちと呼ばれるようになった例のあれ。

 普通に十二支の競争をやり直しにした方が良いって思う。

 不憫に思うも何も、非は連絡しなかった神様にあると思うんだけどね、あれ。

 

 いやまぁ、十二支競争を一日遅れで伝えたネズミもいるし、ある意味では今更感ある。

 神様は競争するよって、全員平等に伝えたわけじゃないっぽいのよね、あれ。

 

 騙されたのはネコだったよね。

 艦これで置き換えると子日が多摩を騙したって感じなのかな。

 その辺調べてみたらビーバーは海狸って出てきた。

 げっ歯類だし、ネズミなのかなと思ったのだけど。

 

 まぁ、どうして急にビーバーについて調べたのかとか、そんな細かい事情は置いといて。

 山より低く海より高い理由でしかないし。

 だからと言ってイタチで良い名前が出てこないのも事実。

 むしろイタチで調べると暁が検索に引っかかる。

 それ違う暁だろうに。

 

 そもそも長月って9月だけど、菊月も9月とする説あるんだよね。

 途中で三日月とか出てくるし。望月は満月だっけ。

 満月って別の娘いなかったっけ?

 その時点で月に関して言えば、細かい事情はガン無視しても良いと思う。

 

 今のイ級を改めてみると、やっぱり手足が不気味で奇形。

 それにイ級はエビとも称される。

 確かこれにちょうど当てはまる神様の名前があったよね。

 良しっ。

 

雪月(せつげつ)風月(ふーげつ)、ミカボシ、ヒルコ。わたしから出せるのはこれくらいだよ」

 

「ナンダナンダ? ホントニテートクカ? ヒルコ以外、随分ト風情アルジャネーカ。ヒルコモ名前トシチャ、ソンナオカシナ部分ハ無イシヨ」

 

「ヒルコはね。イザナミとイザナギの間に最初に生まれた神の名前だよ。蛭子、手足が異形(いぎょー)の姿をしてるらしくてね。イ級にはぴったりかと思って」

 

「イヤ、ヤッパ酷カッタワ」

 

「でもね、ヒルコはあのえびすさんと同一(どーいつ)視される説もあるんだよ。福の神。さらにヒルコは日る子とも書いて、日の神としての意味も。えびすさんもほらっ、イ級だけにえびすさん」

 

「重イ重イ重イ!! イ級ダゾ! テートク、イ級ダカラナ!? 駆逐イ級! イ級ニソノ名前ハ重スギルカラナ!」

 

「そうかな? そうかも」

 

 そもそもヒルコってわたしの記憶通りなら、確かヒルなんだよね。血を吸う方の。

 どっちかというと、ギィギ? 

 怨念を食らうという意味なら間違ってはいない気もする。

 

 うーんなら、ミカボシもアウトだよね。アマツミカボシ、星の神様だもん。

 改めて考えてみるとイ級にえびすさんの名前を付けるの、中々に罰当たりのような気もしてきた。

 さっきヘラクレスがどうとか言ってたのに。

 

「無難に雪月で良んじゃない? 提督が雪風だし。雪お揃いってことでさ」

 

 白露はそっち派かぁ。

 名前決めとなると小一時間ほど悩み始めちゃうんだよね。

 一生に一度の貴重な機会だから。

 

新月(しんげつ)、はもういるんだよね、確か。斬月、月影、うーちゃん、みかァ!」

 

「おっと、途中から睦月型」

 

「ダークライ……、ダメ。映画ではカッコいーのに、色んな意味でネタ感が。他だとH120、A70、B110、C75、D120、S85……」

 

 H95、A65、B110、C60、D130、S65。

 HP137、A113、B89、C137、D107、S97。

 

「うん、何かの暗号?」

 

「ここはイ級に聞こう!」

 

 どれが良いかな? とわたしはイ級に聞いてみる。

 あくまでわたしは提案しただけ。

 他に呼ばれたい名前があるならそれにするよとも付け加えて。

 イ級はぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。

 跳ね具合からしてこれは良いと判断して良いのかな? 

 こういう時は。

 

「悪雨、通訳(つーやく)お願い」

 

「ハイヨッ」

 

 悪雨は二つ返事でイ級の通訳を引き受けてくれる。

 深海棲艦同士なら、テレパシーでの交流が出来るらしい。

 脳による思念波で行ってるものらしい。

 所謂特定の周波数のみを受け取るテレビだとか、イルカやコウモリのような、お互いにしか通じない超音波を発してるのだろうと、わたしは勝手に解釈をしてる。

 わたしは深海棲艦の提督であるけど、厳密艦娘? なのでこのテレパシーを行えない。

 深海棲艦の提督なのに、部下と交流できないほんと不便。

 

「雪月デオ願イ、司令官殿! ダソウダ」

 

「雪月ですね、分かった……。司令官殿!?」

 

「オヨッ? 雪月何カオカシナコト言ッタカニャー? ダソウダ」

 

「やっぱり深海睦月にする? 名前」

 

 分からなかったけどイ級そんな言葉遣いしてたの!? 

 えっ、でも如月だよね? 

 髪飾りどう見ても如月だよね? 

 この見た目で如月じゃないとかありえるの? 

 実は魔王様でしたー! とかあるの? 

 

「ドーシタ? テートク」

 

「ああいえ、何でもないです。それじゃあイ級はこれから雪月ってことで!」

 

 これで雪月は大丈夫。

 次の改造はロ級かな。

 今のうちにロ級の名前について候補をいくつか考えておこ。

 イゴーの両手首を掴んで、イゴーに構ってた夕立が手を上げる。

 

「深海の提督さんって悪雨の時にも独特な名前を出してたっぽい?」

 

「あっ、それあたしも聞きたい! 聞かせて聞かせて!」

 

「アンマ思イ出シタカネーケド、イイゼイイゼ!」

 

 三姉妹? の会話を音楽に、わたしは次なる名前決めに向けて考えに耽る。

 ロ級は何が良いかな。

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