雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして? 作:氷水メルク
「それで、何か言い訳はある? 悪雨」
わたしの前で悪雨がバツの悪そうな顔で正座をしてた。
その後ろで緊張を顔に貼り付けた様子の白露と夕立。
時雨は相変わらず表情が死んでるので何を考えてるのか分からない。
時津風と睦月はイゴーに連れられて、雪月と一緒に島の探検しに行ってる。
悪雨の罪状、資材の無断使用及び艦娘への無断攻撃。
「許可シテクレタダロウガ」
「うん! でもどっちも許可する前にもやったよね?」
「スマン」
わたしが許可したのはあくまであれ以降だけだから。
あれ以前の艦娘に対しての攻撃及び資材の使用について許した覚えはない。
「深海の提督さん」
止めに入ろうとした夕立を白露は首を振って制す。
悪雨への罰。
……特に何か思いつかない。
うーん? 何があるんだろ。
こういう時って大体掃除とかだけど。
その辺りPT小鬼がやってくれるから。
というか鎮守府に比べて、わたしの家はPT小鬼だけでも十分手の届く範囲しかないから。
設備とかも充実してるわけじゃないし。
営倉行き?
そんなのあったらまず間違いなく先にわたしが入れられてる。
……あっ、そう言えば前に時雨とその話をしたときに。
少し考えてからわたしは悪雨の前で膝を折る。
「えっとね、悪雨。わたしからも話して良ーかな」
「マタ何カヤラカシタノカ?」
「察し良ーね」
何とも情けない話なのだけど、わたしは時雨たちの鎮守府でやらかしたことを話し始める。
あちらに着任し始めたばかりの提督と遭遇、必要なこととはいえ過度に接触してしまったこと。
今も実は人探しのためにと理由を付けて抜け出してること。
言い訳にしかならないけど、提督が着任するのは数日後と聞いてたから。
今日は平気かなと高を括ってたこと。
でもすぐにバレて結局帰るに帰れなかったこと。
それら含めて悪雨が強く出れない今の状態にかこつけて謝る。
ほんと酷いなわたし、指導者に向いてなさすぎる。
雷が冷えた目で見捨てるレベルだと思う。
悪雨は少しばかし考えてから口を開く。
「ナンデ怒ル必要アンダ?」
「怒らないの?」
「テートクガ鎮守府ニ遊ビニ行クノヲ見逃シテタノハ悪雨サンタチダシナ。アッチノテートクガ来ルカドウカ把握シテナカッタ悪雨サンタチモ悪イ」
「睦月と時津風を連れてきたことは?」
「言ッテルコトトヤッテルコトガチゲェノハ、イツモノコトダ。状況的ニショーガネェンジャネ? ムシロ行カネェ方ガアッチノテートク視点不自然ダ」
あるえー、てっきり怒られるかと思ったんだけど。
なんか拍子抜けというかなんというか。
いやちょっと待って。
わたしには覚えがある。
何度怒られても改善しなかった結果、遂にはもうそういうものだと怒られなくなったあれかもしれない。
わたし、遂に仲間に見放された!?
自覚はあるけど嫌だよ! 無関心は!
わたしは悪雨の両手を掴む。
「怒っても良いんだよ!」
「テートクガ艦娘ニアメェノハモウショーガネェ。ツカ、イチイチ完璧ナ行動取レッカヨ。テートクモ早朝ニ帰ロウトシテソウナッタンダロ。ドノミチ結果論ダ。言ッタロ? 悪雨サンタチモ悪イッテナ」
「わりゅしゃめぇ」
「タダ一言ダケ言ワセテクレ。妖精、服ノ中ニ隠シタラ誰ダッテ見エネーダローガ!!」
……あっ。
……まったく気が付かなかった。
上着のポッケに入れるとか、今ならいくらでもやりようはあったのに。
あっちが妖精を見る提督の才能が無いなら、わたしはとことん頭がよろしくないみたい。
悪雨は乱暴に後ろ頭を掻き、それからわたしの額を指で突く。
「ッタク、テートクハコンナコトニモ気ヅカネェクレーオツムガ弱ェンダカラヨ。コマケェコトハコッチニ任セロ」
「ありがとー!」
わたしはつい感極まって悪雨に抱き着きに行く。
あぁ、深海棲艦からしか取れない栄養素が一気に補充されてく。
すごい幸せ。
深海棲艦に抱き着いてるこの行為自体がもう幸せ。
白露がふと疑問を呟く。
「雪風書類仕事は出来るの?」
「出来るよ。書類仕事は」
「書類仕事は?」
「うん! 決められた手順の通りにやればいいだけだから!」
「もしかして秘書艦向き?」
「向いてないよ。わたしは人と関わることが根本的に出来ないから」
動画とかで殺人系とかのニュースがあって、みんなが犯人に対して憤る中、わたしは別に被害にあってないからなぁっていつも思う。
自分本位なんだよね、呆れるくらいに。
特に深い過去があるわけじゃなく、そういう環境にいて、そういうふうに育っただけ。
積極的に人に懐く小動物、雪風の姿してる割に正反対。
わたしはなるべく、人と関わることを避ける節がある。
そもそも高校時代教室のカビだった人が、そう簡単に人と付き合えるわけないもんね。
白露がわたしの話に対し、表情一つ変えずに言う。
「なるほどねー」
「アァ、ダカラカ」
「……そっか」
何その反応。
あたかも合点が行ったー、みたいなさ。
分かってたうえでわたしを良い子扱いしてたの?
とにかく色んな面でわたしは上に立つ者って感じではない。
カリスマ性が無いし、指揮者のような合理性も持ってない。
感情的に動く上に一貫性もそんなにない。
わたしは絶対、誰かに指揮官を任せて現場を走り回ってた方が良いと思う。
わたしは流れを断ち切るために強引に咳払いをひとつする。
「じゃあ罰の話だけど」
「ジャアッテナンダヨ、繋ガリガネェナ」
「止めて。その言葉は深く刺さる」
といってもなぁ。
うーんと考えてわたしは結論を出す。
「悪雨、秘書艦やって!」
「ソイツハドーイウ仕事ダ?」
「書類仕事……は無いから、資材管理及び
「……イツモ通リッテコトカ?」
「違うよ! 資材管理及び
食事の準備とか仲間の体調管理とかは、大体シロコがやってくれてる。
母性の感じる温かな笑顔はまさにみんなのお母さんって感じ。
でもレ級だから怒らせると怖いんだよね。
圧が、圧がすごい。
気のせいか背後に雷公が立ってる。
そんなシロコが仲間の健康管理、体調管理もやってくれてる。
その辺りは艦娘と深海棲艦だから、中々体調崩しにくいんだけど。
一応無人島生活だからね。
火とかは使ってるものの、魚とか虫とか、寄生虫がいたらたまったものじゃない。
野菜だって食べれそうな草を逐一調べて取ってる。
専門的知識なんかないんだから、気を付けるに越したことは無い。
わたしが顔を正面に戻すと、悪雨はバツが悪そうに顔を背けてた。
なのでわたしは悪雨の頬に両手を当てて、わたしに向くよう修正する。
「分かった?」
「オッオウ、善処スルゼ」
「今度やったら大破
「ハァ!? チョット待テッテ! ドーユウコトダヨイキナリ罰重スギンダロ!」
「じゃあこの件は終わり! どっちかやったら発見次第大破ね!」
わたしは悪雨の抗議から耳を背けて次のことについて考える。
怨念の問題がね。
ふと視線を感じて目を向けると、時雨が無のまま口を開けて見てくる。
そうだよ、時雨が考えた悪雨への罰だよ。
「話聞ケテートク!! ソンナ長イ期間休ンダラ身体鈍ルシ、艦娘辺リガ攻メテキタラドウスンダ!」
「イゴーとマガツチ、シロコいるし。最悪わたしも出るから
「白露ノ姉貴! 夕立ノ姉貴!」
悪雨が助けを求めて白露と夕立に目線を送る。
悪雨が罰を受けないように説得するんだっけ。
「悪雨と演習できなくなるのはあたしたちも困る」
「夕立が頼んだことっぽい! 悪雨は悪く無いっぽい!」
うーん、まぁ時雨が回復したのは確かに悪雨のおかげだけどね。
それはそれ。これはこれ。
白露が悪雨を庇うようにわたしの前に出てくる。
「これはあたしだけじゃなく雪風も困ること! 人間について調べるなら、大本営や他鎮守府の合同演習及び海域解放とか、行けるくらいには実力を付けた方が良い!」
「シロコたちとやれば良ーと思うよ」
「駆逐艦には駆逐艦の役割がある。潜水艦も良いけど、大抵は駆逐艦が相手となる。なら駆逐艦を想定した演習をした方が良い」
「雪月と御潮がいるよ? それともイ級後期型とロ級後期型じゃ相手にならない? 二人が悪雨ひとりに劣るとでも?」
「劣らない! ……ねぇ雪風、やっぱ厳し?」
「うん。ここでしょーがないってなったら、何のために罰があるのってなるよね。わたしも何かやらかしたら、遠慮なく砲撃雷撃爆撃して良いって言ってるもん!」
「それは極端すぎ」
「同じように一度でも許しちゃったら、じゃあ二回三回同じように切り抜けようっていう前例を作っちゃう。罰は二度とやらない。前例は基本作らない」
わたしはそんなものだと最近読んだ艦これ小説と時雨から学んだ。
例えやむを得ない事情があったとしても罰は必要。
じゃないと極論、止むを得ない事情だったからの一言で殺人を正当化されてしまうんだよね。
例えば相手を殺さないと乗客全員命の危機とかなら、正当防衛や緊急避難? が適用されるかもしれないけどさ。
そんな事態って大抵起こらないんだよ。
例えば父親に奴隷同然の扱いで育てられた娘とか、裁判官ですら国が悪いと断じた心中事件だとしてもね。
情状酌量こそあれ、昔の大岡裁きみたいな、人情だけで無罪なんか無いんだよ。
まぁ他者から断罪されることで救われる、地獄の浄化みたいな側面もあるのは否めないんだけど。
「だから悪雨の罰は覆らない。どうしてもやりたいなら、雪月か御潮に頼んで!」
わたしがそう結論付けるが、それでも白露は食い下がらない。
顎に手を当てて、わたしをじっと見てくる。
なんでかな、すごい嫌な目をしてる。
ヘビとか龍とかじゃないけど、まるで起死回生かの一撃を叩きこんでやると宣言する主人公のような。
そんな冷たい目をしてる。
「ねー、雪風さ」
「どれだけ頼みこんでも無理だよ」
「仮に嘘だとしてもさ、あたしたちの大切な山風を酷く罵ってくれたよね。確か生まれた価値は無い……だっけ?」
「それは時雨を立ち直らせるためで。本気で言ったわけじゃないよ!」
「そうそこ。立ち直せるためにやった行為。悪雨は雪風と同じことをして、罰だと言われている」
へっ。
なになになになに!?
何かおかしなことあった!?
「で、あたしたちは悪雨に頼んで規則を破ってもらったじゃん」
「でもそれはわたしたちの中の規則があって」
仮にそうだとして、殺人幇助、この場合殺してほしいと頼みこむ場合。
これも罪に囚われる。
なのになにこの、背中を伝う冷たい風は。
「そうだね! でももしも、もしもだよ? もし立ち直らせる行為が罰なら、艦娘を沈めようと指示を出した、重大な規約違反の艦が、まだ裁かれてないよね?」
……あっ。
「……いやぁ、それはだってそのぉ……」
「ねー雪風? 爆雷もレーダーも積んでない駆逐艦に空母や潜水艦を差し向けたよね? しかもみんな姫級」
「わ、わたしはほらっ、しれぇだから!」
「つまり予め決めた規約をコロコロ変えて、仲間を混乱させたってこと? しかも責任は全部悪雨。情状酌量の余地も無いと。酷い提督だなー! 自分で言ったことを自分で破るなんて、信用なくすなー!」
白露の言葉にわたしの強気は完全に砕け散った。
反論できない。
世の提督はこれをどうやって切り抜けてるの!
提督の決定事項に逆らうとか?
でも白露の言葉は筋が通ってるから何も言えないよ!
「深海の提督さん、前の提督さんと変わらないっぽい?」
「僕はまだ許してない」
「横暴ダー! コレハブラックダブラック!」
ここぞとばかりに援護射撃が飛んでくる。
今カイジの456賽がバレたかのような空気になってる。
わたしが責め立てられる空気になってる。
これじゃあ何言ってもわたしが悪くなる。
「まぁまぁ、悪雨が資材を勝手に使用したのは言い逃れできないけどね」
「そっ、そーだよ! 悪雨は資材食いだから、他の仲間たちが出撃できなくなっちゃう。よってこれは
「この辺が限界かな。あたしも弱ってる人を突くなんて酷いことは出来ない。結果的にこの形を取っただけで、失敗は失敗だもんね」
白露が自分の胸に拳を置いてギュッと握りこむ。
この言葉で、空気が少し軟化した気がした。
そうだよね、資材の無断使用は——
「あっ、でもさっき、弱ってる相手に鎮守府の新しい提督と会ったって告白した艦も居たよね」
白露はそれ以上言葉を紡ぐことは無かった。
ただその目は何となく、お見通しだと告げてるような気がした。
そして先ほどとは打って変わって、夕立と悪雨の目が酷く冷たいものとなってた。
何の変化も無い時雨が一番怖い。友達が怖い。
わたしはただ何となく、数歩ほど後ろに下がって頭を床に付ける。
「ごめんなさいでした。悪雨の罰は取り消します。許してください」
「それだけ?」
「お願いだからこれ
「完全勝利!」
白露はわたしから離れると、悪雨に勝利のVサインを作って見せた。
なんで、なんでぇ!
「スゲーナ、白露ノ姉貴!」
「雪風は罪悪感に弱いと思ってね! けど提督なら自分の意思で決断することもあるしさ。基本、異議を唱えちゃいけないのを覚えててほしい。普通通用しないし。そして雪風は提督なら全責任を被る覚悟が必要なのを覚えてほしい」
……もう、もういいや。
提督として罰を与えようとしたら、それ以上の屁理屈ごねられて終わった。
「あまり雪を虐めないでよ」
「だって可愛いし! それに時雨も加担したじゃん!」
むしろわたしの方が弱くなった。
わたしはこの場から去るように、四つ足で御潮へと近づいてく。
「ちょっと待つっぽい! まだ山風が生きてるって──」
「地下に囚われた艦娘は居なかった。怨念も無かったから、あそこでは誰も沈んでない。それ
そうしてわたしは近くの御潮に覆いかぶさりスマホを開く。
夕立に詰め寄られた白露が「少し待って」と手を突きだす。
それから時雨と夕立と悪雨を連れて家から外へと行った。
いいや。わたしは早速、天の声に相談するかな。
はぁ、提督に向いてないわたし。
* * *
せっかく提督らしいことが出来たと思ったのに、白露に簡単に言い負かされてわたしは気分がどん底です。
全責任? 被る覚悟だったよ?
それはそれとして、罰はちゃんと与えた方が良いかなって行動したんだけど。
すべてはわたしの心が弱くて招いたもの。
メンタル鍛えなきゃ。
わたしは心の中で天の声に語り掛けてみる。
返事はあるか分からないけど。
天の声さん天の声さん。
聞こえますか?
怨念が足りません。怨念ください。怨念が倉庫におんねんって奴です。
あっ、早速スマホにメッセージが表示された。
速いなー。どれどれ。
【検討に検討を重ね、検討を加速させる方向で】
「ちゃんとした答えを返して!」
スマホの画面にがっつき、わたしはつい勢いで叫ぶ。
せめていつくらいからとか!
後回しの後回し、さらに後回しにして部下に丸投げみたいな返事しないで!?
わたしは天の声に訴えかけずにはいられない。
怨念が無いと深海棲艦動かせないので可及的速やかにお願いします。
弾撃てないし、修理できないし、動くこともできないし、おまけに建造することも出来ないのでお願いしますって!
【言い負かされてグラスフィールド。砕け散るはガラスハート】
……泣きそう。
すでに半分だけ画面が見づらい。
【怨念の入手方ですが、生物を殺す以外にも深海棲艦を多く仲間にすると、その分多く貰えるようになります】
急に普通にアドバイス送ってこないでよぉ!
今なら何言われても泣くよ!
せめて六秒待って!
一、二、三、四、五、六。
【十二支羊は何番目?】
いきなり聞かれても。
えっと、八番目。
【子丑寅と数えないとか怖ぁ】
……少しは大丈夫になってきた。
感情の高ぶりを抑えづらいなぁ。
えっと、回答の感じからして、つまり深海棲艦を増やしておけば怨念に困ることは無かったってこと?
【ザッツライト! 序盤で姫級が来るのは完全に想定外です】
そりゃ雪風と時雨の幸運だから。
二人の幸運力を計算しなかった天の声側が悪い。
【ノーコメント】
なにこの含みのあるメッセージ。
どう解釈すれば良いの?
天の声側が悪いと言われたことに怒ってるの?
【他にも変色海域で手に入るよ】
露骨すぎる。
あれでも入手できるんだ。
海の水でも汲んでろ過すれば手に入るのかな。
この辺りに変色海域あったかなあ。
軽巡棲鬼が変色海域を引き起こしてたけど。
鬼や姫級を探しに行かなきゃ。
【怨念は天からしても厳しいのよ。だって怨念よ怨念。ゲームで言ったら天じゃなくて魔王がくれるもんでしょ。それに感情の物質化だしさ】
神霊と怨霊、光と闇、和魂と荒魂、みたいな感じかな。
よく怨念に塗れた神社とかネット掲示板で話を聞くもんね。
だから量が少なかったわけね。
そもそも神様って存在自体が感情の塊みたいなとこあるしね。
自然の驚異や未知の物に神として名前を付けることで、昔の人々は存在を普遍化した。
そうすることで未知という恐怖を克服してきたわけで。
もしもこれが機械だったら、恐怖や畏敬が存在せず、神様という存在は生まれない。
デウスエクスマキナは演劇に登場する機械仕掛けの神であって、実際の神ってわけじゃない。
神様というのは人々の感情、国々の文化文明から生まれた産物と言える。
だからこそ人間の負の感情である怨念は、神様視点特効も良いところなんだと思う。
思えばどこぞの白い獣だって、希望から絶望へと転じる時に生じる感情エネルギーがエントロピーを凌駕するって説明だもんね。
よくある怖い話でも、怨念が渦巻いてるって説明とかで、目で見て、手で触れるような代物じゃない。
荒魂、和魂。神ですら二面性を持つのだから、感情を物質化、自在に操るのは難しいのかもしれない。
【あんまり分かった気になってうんちく垂れても】
だって誰でも知ってることを考えてるだけだし。
でも分からないこともある。
深海棲艦を多く仲間にすると、その分もらえる怨念の量が増える。
これってつまりどういうこと?
【質問、あなたの深海棲艦と他の深海棲艦はどこが違う?】
自分の深海棲艦と、他の深海棲艦。
わたしが居なくても艦娘と敵対してないとか?
言葉が通じるとか、怨念で動く割に負の感情とかあんまり感じないよね。
あっ、優しい! そして可愛い!
じゃあ次の、なんで深海棲艦の提督にしたの……はもう答え出てるか。
艦娘のイメージダウン及び、深海棲艦の仕業と擦り付けられた、かな。
そういえばこの世界艦娘だと人間を攻撃できないんだよね。
もしわたしの艦隊が艦娘だったら、その時点で詰んでるのか。
そのような世界にした天の声サイドにも問題が。
【ヒント、八百万。イザナギとイザナミの国生み物語】
答えだよね。
要するにこの世界を作った神と、天の声の人は違うってことだよね。
イザナギとイザナミの物語は違うような気がするけど。
でも遠く間違ってるわけじゃない。
あれは国を生む物語であって、世界を作った神は別にいるって話だもんね。
世界を作った神は序盤一行程度に出て終わったけど。
白紙の巻物があったとして、あの二柱はその中身を書いてるだけ。
中身を描くための巻物自体は、別の誰かが作ってる。
ポケモンで置き換えるなら、グラードンとカイオーガ。
いや、ミュウ?
せっかくだから今できる質問をしていこ。
わたしは深海棲艦なの? それとも艦娘なの?
【ドイツ人とイタリア人が日本で子どもを産みました。その子は生涯が尽きるまで日本で、日本人の義両親と過ごしました。さぁ、その子はどこの国の何人なのでしょう?】
なんでドイツ人とイタリア人って名指し?
アメリカとか中国、ロシア、イギリス辺りとかでも良くない?
日本と何か関係あったっけ?
【売国奴め】
売国奴にしたのはあなたでしょうに。
そりゃ日本人?
ハーフなのに環境も何もかもが違う。
この場合日本人とは断言できるけど、人間として考えると何人になるのだろう?
一概にハーフと言っても、瞳や髪、肌の色、種としての食文化や性格等、何が血による影響で、何が環境による影響なのか分からない。
そんなの時雨と白露を見れば良く分かる。
あの二人、艦これ本家的にはあんな性格じゃないでしょ。
少なくとも白露はあんなじゃない。
あんなじゃない。
……そういうこと。
確かに何者でもないね。
日本人の血が入ってなくても日本の環境に居て、その血はドイツとイタリアの物だもんね。
戸籍上は日本だけど、血で見れば日本人じゃない。
どれを名乗ろうと本人次第ってことね。
元々深海棲艦の性質を持ってるから、沈んでも偏りようがないってことかな。
もしくは、人間の魂だから和魂にも荒魂にも成れないってことなのかも。
てっきり沈んだら許さないみたいな脅しなのかと。
次、この世界の艦娘と深海棲艦って何?
【ノーコメント】
あなたは何を司ってる神なの?
わたし転生を司ってる神とか、異世界物以外で聞いたこと無いけど。
【ノーコメント】
じゃあ次、この世界の艦娘は何?
【ノーコメント】
ノーコメントばっか過ぎる。
世界の本質については語れない。
もしくは知らないということなのかも?
日本の神様に全知全能神はいないから。
オモイカネ、全知の神はいるけど。
個人的には全知より全智感ある。
じゃあ人間の野望についてもっと深く教えて。
わたし自身言い続けてるけどふわっとしすぎてて、何を目的に人間の野望を何とかした方が良いのか分からないんだよね。
いんや、何を根拠に人間の野望を止めなきゃいけないのかが分からない。
こちらはいきなり上から、なんか世界やばいことになってて、それ止めてきて、って言われてるようなものだから。
まだ魔王いると世界は暗黒世界に閉ざされるから、勇者の血を引くあなたに討伐してきてもらいたいと言われた方が納得いくよ。
【艦娘及び深海棲艦の研究から人間が神の座に到達すると、世界中から人間、艦娘、深海棲艦が絶滅します】
はい?
えっ、何その。
えっ?
どこかの物語の話?
神様がこの世で一番いらない生物について聞いたのは人間だけじゃなくて、全生物に聞いた結果みたいな話?
【もし世界から神が居なくなるって言われたらどうしますか? 突然、あなたたち人類は神様になりました。もう神の存在は必要ないと言われたら?】
えっ、特にどうもしないけど。
別に人間という種族が神になっただけじゃあねぇ。
二部五章の話? としか思わないけど。
【あなたは危機感足りなさすぎる。宗教家たちはどうなりますか? 神様に救いを求めてきた信者たちは?】
自身が完成された者になったら、この世界から未練なんてものが無くなるんじゃない?
あれは救いを求めた人たちの場所だから。
よくゲームで、宗教は考えることを放棄した人たちの集いだとか耳にするけど。
わたし的には依存することの何が悪いのかなとは思うよ。
【じゃああなたが神になったらどうしますか?】
なんの神? 雪と風とか?
【龍神ですか。死……いや、とにかく神として】
死?
死神ってこと?
死神と言えばイザナミが変異したヨモツオオカミとか、生死を司る神で一部神話では最高神なんだっけ。
三途の船を漕ぐ役割とか、在り方はそれぞれだけど。
【そのメンタルは強すぎる】
わたしのメンタルはガラスだよ。
……まぁ自由に振舞うのかな。
極論を言えば何をしても良いってとこはある。
でも別に、全人類が神になったとして、人間という今いる土台が神になるだけで、本質は何にも変わらないような気もする。
【その本質的な部分が問題です。人間が悪しき心や邪毒を持っていても許されるのは、あくまで人間だからに他ならない。異能力はまだ許容できる。けど魂や神の力を持つのは許容を超えている】
少し考えさせて。
いじめ問題とかそのまま位が上がるってこと。
紛争や戦争とか。
それで、それらが神様レベルの次元で行われるようになる。
……いや、待って。
でも別にほらっ、神様ってことは欲求が叶うわけで。
欲求は……贅沢を知ったもの、その上の贅沢を目指すようになる。
欲に際限などほとんどない。
それに感情もそう。
悪しき心や自分勝手な心を持ってる人が。
でもことはそう上手くいかないはず。
確か現代に置いて神は肉体を持たない。
人の魂から神に昇華されるのであって、今の時代で現人神なんて存在は生まれない。
理由は簡単。その人を神として崇める文化なんて、少数で行われる物でしかない。
神であるならば全人類と言わずとも、県や国単位で神として崇められなければいけない。
それこそ日本の……みたいな。
それ以外だと天草四郎時貞、神仏を焼き討ちした織田信長とか。
なのに今この世、生まれるような物なら……それこそ……人類を……。
【艦娘の役割は深海棲艦、神の悪しき魂を鎮めること】
……ねぇこれ艦これの話だよね?
艦隊これくしょん。
艦の魂を受け継いだ女の子たちが、海からの災厄深海棲艦を倒す世界観だよね?
【かつて戦場を疾駆し、人々のために戦い続けた艦の魂から零れ落ちた者。艦娘はまさに艦の落とし子、分霊ともいえる存在。世界の危機とはつまるところ、艦娘や深海棲艦から魂の存在を何らかの方法で確立し、同一とすること。要するに、全人類があなたみたいに艦娘の魂と融合することを防いでくださいって話です】
うん?
でもそれ陽炎抜錨だよね。
人間が艦娘になる世界ならば、艦娘の魂を受け取った人間はある種、神に他ならないんじゃない?
そもそも艦娘の力程度じゃ深海棲艦を沈めるくらいしかできないと思う。
別世界から人間を呼び出すだとか、人間自体が絶滅するだとか、そんな事態には繋がらないんじゃない?
異能力は許容される。
アヂスキタカヒコネやホノイカヅチみたいに、神の象徴ともされる電気を操る艦娘がいる世界とかもあるわけじゃない?
神様ってそう簡単に倒されないし、そもそも神霊だから姿を現さないわけで。
【馬鹿のくせに妙なところで鋭い。人が人で無くなった時点で世界は続かない。生を超越した生物は生物と言えるのか、死ねるからこそ尾を引く存在が、いつまでもいつまでも終わらない物語を続けるのか】
やっぱりフェイトの話してます?
オリュンポスと妖精国の。
というか、神にだって寿命はあるでしょ。
スサノオなんて、母親を追って黄泉の国へと旅立ったわけだしさ。
日本神話関連で言えば、神はみんな肉体を失い、神霊となる。
神霊は神主とか巫女の力を借りないと、言葉や力を行使できないくらい弱まってるじゃん。
だから陽炎抜錨みたいな世界は、その行使できない神霊をその身に宿した巫女が、深海棲艦を祓うわけだしさ。
そもそも生があるから人間は美しいと言われても、実際意識すると滅茶苦茶怖い。
そういう生を楽しもうって言えるのは、ある種悟りを開いてると私は思う。
だって死ぬの怖いし。
ただいつまでも古い考え方が世に蔓延るのも良く無いとは思う。
なんかさっきから話を聞いてると、天の声の事情に聞こえるけど。
【人付き合い苦手とか言ってませんでした?】
これ、人付き合いじゃないので。
画面に映るメッセージに応えてるだけなので。
知ってる? 陰キャってね、画面向こうの相手には強いんだよ!
【……認めます、全部神様都合。でもこれ、人間のためを思ってもいます。弱肉強食。弱いものはより強い存在に淘汰される】
建御雷、フツヌシが葦原中国の悪神を斬りはらった逸話とか有名だもんね。
個人的には藤の枝で鉄の輪っかに勝った話とか好き。
【人間が神になると、まず艦娘が助けなくなる。それから神が人間を見放す。意味が無いから。そして最悪のシナリオは、神様自体が人を悪神として滅ぼしに来ること。これが、人間、艦娘、深海棲艦の全滅に繋がります】
そこが一番良く分からない。
守るべき対象が強くなってるから艦娘が助けてくれなくなるは分かる。
今のわたしのように、艦娘を守るために艦娘を出動するのと同じ。
それはおかしいよねってなる。
神が人間を見放す……も何となくわかる。
というか今も大して変わらないし。
問題の神様が人を悪神として滅ぼしに来る。
これは、人間が自分に過ぎた力を持ってしまったから滅ぼしに来るってことかな。
でも異能力は人間に過ぎた力じゃない。
問題なのは、異能力を使うことじゃなく神に近付くことかな。
異能力や時間停止、時間移動を人の身で行うことは問題じゃない。
同様に陽炎抜錨で言えば、魂を艦娘側から渡すか、人間側から特定して奪い取るかの違いもある。
なるほど。
どっちが悪神なのか、分からないね、これ。
【なので艦娘を売りさばくブラック鎮守府を殲滅してほしいわけです】
なるほどねー。
……いやさ、なんて命運わたしに任せてるの?
ちょっとちょっと、スケール。
艦これ二次創作って元々艦これを逸脱してるって思ったことは幾度となくあったけど、今回の話は格段に逸脱してるって。
結局、わたしが介入することに艦娘と深海棲艦の戦いは関係ないってことじゃん。
そういうの、良くあるけどね。
艦これMMDとか途中から深海棲艦ほっぽり出して人間VS人間とかするし。
【元を言えば艦娘と深海棲艦の戦いから始まってるので、完全に関係ないわけではないです】
じゃあ艦娘と深海棲艦を神様が何とかしてって言うのは野暮な話だよね。
ちなみにこれ確定じゃない辺り予言だったりする?
【とあるウサギの予言です】
それほんとに信用できるの!?
サメだかワニだか騙して岸まで渡ろうとする瞬間に、なーんてうっそぴょーん! って言った神だよね!?
まぁ、予言を行った神ではあるけど。
どちらかというと縁結びだし。
急に信憑性薄くなったんだけど。
せめてオモイカネ辺りの予言なら……。
あと確か妙にクソ長ったらしい神託の神とか。
【そんな最上のお方と話せるわけないでしょ、末端の私が!】
ごめん。
【最後に、この問題はあなたの仲間、家族にまで影響を及ぼす可能性がある。そうならないよう、こちらでも動く。それと、君の他にこの世界にはもう二人転生者がいる。頭脳には期待してないから、力だけは蓄えておいて】
スマホの画面が黒く塗りつぶされた。
……はぁ、そのために建造させるとか意地が悪すぎるんじゃないかなぁ?
それ言われたら、意地でも頑張らないとって思うじゃん。
毎度思うんだけど、どうして艦これ世界の人間及び明石はオーバーテクノロジーを持ってるのだろう。
いったいどこから持ってきたのだろう。
最後のは特大の地雷すぎる。
というか掲示板の世界は繋がってない話どこに行ったんだろ。
あぁ、別にひとりしかいないとは言われてないか。
他にも聞きたいことはあったんだけどなぁ。
わたしが選ばれた理由とか、どうして人間をこの神は気にかけるのかとかさ。
* * *
深海棲艦の方が何かと都合良いと言っても、本人ですら扱いきれない存在を使うのって、やっぱりって思うよね。
この世界を作った神はいったい何を思ってこんな世界を作ったのか。
きっとTRPGみたいなノリなのかな。
そして作ったら作ったで収拾がつかなくなって苦しむことになる。
筋書きに無い設定や余計な後付けって、ほんと作品飛び出して作者を苦しめるよね。
オベロンって妖精王がそう言ってた。
ゴロンとわたしは御潮の上で寝返りを打つ。
やろうと思えば時雨たちの鎮守府に潜入出来る状態ではある。
でもわたしという存在と、鎮守府という存在は、非常に相性が悪い。
支援や心のケアならいくらでも出来るし、したい。
なんて色々と考えてると服を濡らした時雨たちが戻ってくる。
夕立と悪雨、二人とも快晴の空みたいに清々しい顔をしてる。
どうやら相当派手な水遊びをしてたみたい。
倉庫が広がるね!
いや、演習弾使う分には怨念消費しないし、ペイント弾だから入渠の必要も無いけど。
切り替えようとわたしはもう一度その場で寝返りを打つ。
「ソウイヤ、コッチノテートク預カッテクンネ? テートクトシテアマリニ未熟スギンダヨ、アレ」
ほどなくして悪雨はそう言ってわたしを指さした。
白露がすかさず言う。
「迷惑だから止めて」
本気だね。表情が語ってるもん。
真顔だもん。
「夕立は嬉しいっぽい!」
「白露に同意するよ」
そう言って時雨がわたしに目線を送ってくる。
何さ。
わたしは深海棲艦の養分を得るために、御潮の上でグデーッとしてるだけなのに。
この黒くて固くて深海棲艦らしい無機質な感じが溜まらない。
そしてベッドがわりに使ってたからこそのこの寝心地。
はぁ、落ち着くー。
すんごい固くて首とかやられそうなくらい金属の塊だけど。
動かないから御潮は落ち着くー。しゅきー。
その姿に白露と時雨は何とも言えない目を向けてくる。
「雪風ってばあたしらの鎮守府に来ても深海棲艦バンザイとか、深海棲艦は至高! とか。鎮守府は深海棲艦を讃える場所じゃない!」
「あの姿見ると、雪には厳しいと思う」
「雪風には感謝してる! 感謝してるけど。もしも鎮守府のみんなが、深海棲艦は話せば分かるなんて考え方したら、命がいくつあっても足りない!」
そりゃね。
駆逐艦が何の警戒心も無く空母や戦艦に近付いて行ったら。
白露と夕立が深海棲艦は危険な存在です、を続けてられるのって、ここに来るまでに他深海棲艦に襲われるからかな。
わたしの深海棲艦に対するノリで他深海棲艦に接したら、冗談抜きで沈むよ?
「話ハ聞カセテモラッタ!」
バンと扉を強く開いてイゴーが登場する。
後を追うように時津風、睦月、雪月が入場する。
壊さないでよ、木材は有限なんだから。
とは言いつつ、鎮守府及び家のドアを破壊して入ってくるのってある種の様式美だよねとも思う。
つまりノルマ達成。
こういうの黙認してるからシロコと悪雨に口酸っぱく言われる。
「雪風ちゃん、ずっと帰りたい帰りたいって言ってたもん」
雪月の上に正座で座り込んだ睦月が言う。
そこだけ聞くとなんか劇場版の深海吹雪みたい。
でも本当にそう。
深海棲艦沈められないし、襲われないし、資材自然回復するし。
出来ない理由を探せばキリが無い。
あと、君たち本当に仲良くなったね。
「時津風は雪風ともっと遊びたい! 遊びたい!」
「時津風と睦月をこの島に入れるのは今回限りだからね」
「なんで!? 白露も夕立も時雨だけずーるーいー!!」
「それには色々とね。ほらっ、大人の事情が」
フッと白露と悪雨が顔を背けて噴き出した。
「雪風が……大人の事情……」
「テートクガ大人ハ無理アンダロ」
ついでとばかりにお腹を抱えこんでるし。悪雨は床叩かないで。
ちょっとそこの二人、わたしが大人の事情を語ったらおかしいの!?
まったく……。
……あぁでも今更か。
深く悩んだのちにわたしは結論を出す。
「いーよ。来ても。この島に来れるなら」
「行くー!」
「この島に、わたしやイゴーたちの助けを借りずに、鎮守府にいるしれぇを誤魔化して来れるならね」
「じゃあ時津風ここに住む!」
「ダメ」
「やだやだ人間こわい! 雪風の方がマシ!」
時津風が駄々をこね始めてしまった。
マシってなにさ! マシって!
時津風の中では深海棲艦より人間の方が怖いの!?
あっ、違う。
これが多分白露の危惧してる現象なのかも。
確かに、これはまずいね。
鎮守府としての役割が意味をなさなくなる。
「ソンナワガママバッカ言ッテット、海ニ沈メンゾ?」
悪雨が床でじたばたする時津風に、真上から眼を飛ばす。
人間、というか生物というのは上から睨まれると恐怖を抱くらしい。
時津風もすっかり縮こまってしまった。
ここは悪雨に任せよう。
「たすけて、雪風ぇ」
「わたしは悪者だから、頑張ってねー
「フフン!」
イゴーは腰に手を当ててふんぞり返る。
あっ、話は聞いてたけど何にも考えてない奴だね。
可愛いからイゴーの頭を撫で撫でする。
情報は白露たちが探ってきてくれるらしいから、わたしたちはその支援を続けよう。
自分のことなのに人任せ。胸が痛い。
わたしがもう少し潜入をするのに適した性格をしてたらなぁ。
でも情報が入ってきたらすぐにでも動く方針で。
「白露たちはわたしたちからしてもらいたいことってある?」
わたしが話を振ってみると、白露はうーんと顎に手を当てて考え出す。
「それじゃ深海棲艦について、何か分かった情報があったらちょうだい! それとこれからも演習に行きたい!」
「良ーけど、今後は悪雨にお見送りさせないよ」
「山風に酷いこと言った。悪雨に罪を――」
「無理なものは無理! お願いだから!」
「ちぇー」
白露に弱みを握られた。
絶対向こう何ヶ月かこのネタを擦られそう。
わたしは御潮から起き上がって、手をパンと叩く。
「そろそろ帰った方が良ーんじゃないかな! あのしれぇのことだしきっと心配してるよ!」
「その提督は信用できるの?」
「鎮守府内で艤装を背負うの許可してくれた人だし。何より……前の提督のような
「雪風は騙されやすいからなぁ」
「ひどっ!」
確かに、確かにわたしの言葉は信用できないかもだけど!
時雨が白露の肩を叩く。
「白露」
「分かってる分かってる!」
「ごめんね、雪」
大丈夫、全部わたしが未熟だから引き起こしたことだし。
もう誰も信じられない。
冗談はこの辺にして。
「何かあったら、いつでも相談して! 全力で滅ぼしに行く」
「その時はまた頼らせてもらうよ!」
まぁ百聞は一見に如かずと言うし。
見てくると良いよ。
少なくともわたしよりはよっぽどちゃんとした提督してるから。
* * *
鎮守府に新しい提督が着任してからも、ちょくちょく白露たちはわたしたちとの情報収集がてら様子を見に来てくれた。
その度に演習や資材について、北条さんの提督としての力量等を聞かされる。
あの後、わたしが帰らなかったことに関して特に何も言われなかったみたい。
白露曰はく、報告を受けた北条さんはただ「そうか」と提督帽子を深く被ったのだとか。
鎮守府には余所から逃げてきた艦娘や、逸れの艦娘を保護する義務や責任はあるらしい。
わたしの場合は逸れの艦娘に当たる。
心配だから今すぐ探しに行って保護するみたいな話も出たみたい。
だけどそこは白露が、何とか話を通したとか。
もう既に家があって、鎮守府の暮らしには慣れなかった。
沈んでも自己責任だからと本人が言ってたと、無理くり通したみたい。
北条さんはそれでも個人の感情ではなく、軍としてはで粘ったみたいだけど。
名簿にも記録にも無い艦娘は居ると断定できない。
言ったところで言うことを聞きそうにない。
あの雪風は二度と鎮守府の敷地を跨がせないということで、折れてくれたみたい。
沈んだことにすれば大体が話通るんだけどね。
時津風に知られたのが良くなかった。
わたしと同じ。
演技が出来そうにない。
傍から見て仲良さげなのに、雪風が沈んでも悲しんでなかったら、怪しいもんね。
ブラック鎮守府で心が病んだとかでも良いと思うけど、どのみち深海棲艦の提督である以上、他の艦娘にも沈んでないことはバレる。
これも白露曰く、着任早々艦娘が沈んだなんて、提督の精神にはよろしくないと。
まるで艦これの仕様が分からなくて、初日で大破進軍して轟沈させてしまわないよう提督を気遣う、そんな表情だった。
わたしですら初日は雪月を大切に接してた。
もし転生初日に雪月を失ってたらと思うと……。
今だから嫌だって思えるけど、転生初日だとどうしてもイ級としか見れなかったのが。
ソシャゲ初めてこれがあなたの最初の仲間ですって言われて、異形渡されても初日じゃ愛着持てないよね。
今やとあるゲームの星1自爆アーチャーくらい愛してますけどー。
そんなこんなで情報共有及び、鎮守府が新体制となるのに一か月。
出撃、遠征等鎮守府が機能するようになって、また一か月。
初めの三ヶ月、四ヶ月くらいは白露たちも遊びに来てくれるようになったけど。
五月と続くにつれて顔を見せることも少なくなってた。
鎮守府の暮らしが忙しいのかな。
ブラック鎮守府に関しては無い。
なりゆきで秘書艦になった白露が、愚痴を吐いてたことが何度かあったから。
それにしたって艦娘遣いについてとかで。
鎮守府の運営方針や艦娘の起用の仕方については、嬉しい悲鳴って感じの印象だった。
今まで出会った提督の中で一番に来るレベルで優しいのだとか。
わたしは三番目らしい。
友達として一緒にいる分には楽しいけど、提督としてはちょっとみたいな評価とか。
知ってた。
さて、長年一緒に居た幼馴染の女の子に異性と思えないと切られるが如くの、白露たちの近況報告はこの辺りにして。
わたしの方はというと……、まぁそれなりに変化あった。
色々とね。
深海棲艦にも来るよう伝えてるんだけどね。
えぇー、誰ひとりとして来ませんでした。
必死に伝えてみたんだけど、誰も来ない。
島に近付く深海棲艦はいれど、通訳者の悪雨が言うには近くを通っただけらしく。
そういう深海棲艦も、もれなく通り過ぎてった。
「アンマ気ニスンナ。ウチノ奴ラ以外、基本的ニャ自我トイウモノガネェ。虫ヤ魚ミテェナモンダ」
とは悪雨の弁。
結局のところ、艦娘と深海棲艦は分かり合うことが出来ないって結論をより強固にする結果となった。
分かってたけどさ。
分かってたけど、深海棲艦が島から離れるたびに、どこかで艦娘に沈められるのかなって思うと、哀愁めいたものを感じるんだよね。
身勝手だね。
他にもベッドを増やしたり、食事の種類を増やしたり。
暮らしの環境を整えるために、わたしは雪月や御潮、雪河を連れて遠征に出たこともあった。
その度に、睦月や時津風と遭遇することも少なくなく。
その時は新しく入った新人と思しき駆逐艦や軽巡を連れてて。
基本的に深海棲艦を連れてるときは避けてるけど、いないときは良く話してる。
たまに大井が「北上さん!?」って反応してくるの怖い。
そういう時決まって毎回連れてるの雪河なんだけど……まさかね。
みんな元気そうで安心した。
こういう僅かな会話からも、ブラック鎮守府ではないって確証を得られるから。
本当に忙しいだけなのだと、心から安心できる。
でも虐げられた時はいつでも言って、滅ぼしに行くからとも言っておいた。
そうそう、夕立だけじゃなく、白露も第一艦隊として活躍してるらしい。
なんでも一度も被弾することなく、深海棲艦を殲滅してるとか。
相手が空爆を行おうものなら全て撃墜させ、相手が潜水してても的確に撃破数を稼ぐ。
なんか鎮守府の艦娘からは、深海棲艦を駆逐する艦として評判とか。
そのくせ二人的には、例え相手が鬼であっても物足りないらしい。
練度が低い時点で鬼も姫も大したことない。
真に怖いのは回避行動や想定外な動きをしてくる奴ら!
特に膝蹴りしてきたり、艦載機で野球を始めたり、潜水艦なのに潜らず魚雷投げてくる奴らとのこと。
いったい何悪雨たちのことだろーねー。
わたしはその話を聞いて、乾いた笑いしか出なかった。
それと時雨がまた、何か様子がおかしいみたい。
前みたいに塞ぎこんでるわけじゃないし、白露や夕立の代わりに新人艦娘の教導艦をしてるみたいだけど。
時折ボーっとどこかを見てるとか。
メリハリはきちんとしてるし、危なっかしい部分は無いから気のせいかもって言われてるけど。
まぁ今度はそんな深い理由じゃないと思う。
大方北条さんを好いてるとか、多分そういうことじゃないかな。
他にはあまりある資材と物々交換をするなりして、わたしは島暮らしを豊かな物にしていった。
あと、偶に秋刀魚釣りに同行させられた。
漁船の近くでぼーっと深海棲艦避けに突っ立ってるときは、畑に突き刺さった案山子の気持ちだった。
でも大量の時は分け前で何尾かもらった。
みんなで食べた。美味しかった。以上、小学生並の感想。
そうしてそろそろ六月と過ぎ、息も凍りそうな冬の候。
「アナタ、ドウイウツモリナノカシラァ?」
憎しみの表情を貼り付けた軽巡棲鬼がリ級と共に島へやってきた。
夕立「罰と言えば、夕立たちの元提督の方がよっぽど重いっぽい」
白露「地獄行きよ地獄行き!」
雪風「六道、八大地獄とか有名だね! 八大地獄に則ると、一番軽い罪でも1兆6653億1250万年。これは蚊や蟻とか、虫を殺傷した場合でも当てはまるよ!」
夕立「うわぁ……ぽい」
白露「それあたしらも行くってことじゃ」
雪風「後悔してれば大丈夫みたいだよ。それで確かゴミしれぇだっけ。あの人は下から二番目、43京6551兆6800億年の刑になるね!」
夕立「途方もないっぽいぃ」
白露「現実味無いなー」
夕立「夕立たちもこれくらいの罰を受けるっぽい!?」
白露「地獄の前に深海棲艦化するよ」
夕立「後悔しながら生きるのも、深海棲艦になるのも嫌っぽい!」
白露「それ! 死んだ後何てその時で良い! 今を向いて生きていたい!」
雪風「わたしもそー思う! ちなみに、もしわたしが死んだ場合は下から三番目の地獄だよ! なんの罪かは想像に任せるよ!」
夕立・白露「……えっ?」
*罪状、××。
~売国奴の意味~
天の声との会話から少し経った後
雪風「どーしてドイツ人とイタリア人じゃないとダメだったんでしょー」
~雪風検索中~
雪風「あれ、同盟はイギリスじゃなかったっけ?」
~雪風検索中~
雪風「えっ、あれ? アメリカと中国とイギリスは」
~雪風思考中~
雪風「これ言わない方が良いかも」