雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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深海棲艦

 

「レーダーに探あり」

 

 ……もしかして艦娘じゃないだろうな? 

 イ級とかどうしようかと考えながら滑っていると、艦隊の影が見えてくる。

 数にして四。

 あれは……深海棲艦か。

 イ級とホ級とリ級かなぁ? 

 流石にそこまでは進めているので分かる。

 深海艦隊はおれを視界に捉えて、やはり何もしてこない。

 彼らは何やら手足を動かしている。

 次におれの仲間であるイ級に対しても手を動かし、イ級も身体を揺らして答えている。

 深海棲艦独自の会話をしているのだろうか。

 こちらには伝わらないけど、あちらは納得いったらしい。

 おれの前でリ級は手を動かすと、そのまま隣を通り過ぎて行った。

 

「なんだったのでしょーか? 分かりますか?」

 

 おれはイ級に問いかける。

 するとイ級は丸まった頭を上下してくれる。

 なるほど、分かるのか。

 分かるのは嬉しいんだけど、言葉を介せないから何を喋っているのか全く分からない。

 次に建造するなら人型の艦が欲しいなぁと思う今日この頃。

 

「またもレーダーに探知ありですね」

 

 そちらに行ってみればまたも深海棲艦。

 今度は人型もいる。

 下半身がとんがったイ級に似ている、那珂ちゃんっぽい女の子だ。

 MMD動画見たことがある。

 確か軽巡棲鬼だっけ? 

 さっきの深海棲艦が特殊だったって可能性もあるけど。

 ここは勇気を出して声を掛けて見るべきだろうか。

 話しかけて敵だったらぶっつけ本番の海戦になるわけで。

 どうしようかと考え込んでいたら、あちらはゆっくりと連装砲を持ち上げてきた。

 

「シズメ!」

 

 おれは反応できなかった。

 身体の芯を震わす砲声が轟いた。

 おれの頭はまたも真っ白に塗りつぶされた。

 基本的に深海棲艦には襲われないんじゃなかった? 

 

 でももう後悔は遅い。

 だってほらっ、もうすぐおれの目の前にまで砲弾が迫っていて。

 ──着弾する。

 

 一瞬の爆音を伴って海が荒れた。

 朦々と黒煙は空へと頭を伸ばし、生じた衝撃波が広がっていく。

 大波は軽巡棲鬼以外の深海棲艦を攫おうとする。

 水面を石切りのように二、三度跳ねておれは転がった。

 軽巡棲鬼が翼の捥げた鳥を甚振る猫のように、にぃーと口の端を吊り上げる。

 そしておれは、

 

「あっぶないですね! 怪我したらどーするんですか!」

 

 何事もなく飛び上がった。

 うん、身体のどこにも異常を感じない辺り、多分損傷軽微だと思う。

 小破すらしていない。

 着弾したような気がしたんだけど。

 軽巡棲鬼って火力低かったっけ? 

 鬼だから、それなりに火力はあると思うけど……。

 

「駆逐ゴトキガ、シズメェェェェ!!」

 

 軽巡棲鬼は闇雲に砲撃を撃ちまくってくる。

 あっ、今度は弾道が見える。

 回避できるけど、これだと埒が空かない。

 

「魚雷発射!」

 

 おれは雪風の身体に任せるがまま魚雷を斉射。

 魚雷は鳥の足指のように四方向へと放たれる。

 

「ソノ程度!」

 

「本めーは、こっち!」

 

 薄気味悪い軽巡棲鬼は立ち退く。

 その隙をおれは見逃さない。

 照準とかよく分からないけど、その辺は雪風の身体に丸投げ。

 おれはただ引き金を引けばいい。

 放たれた砲弾は吸い込まれるように爆炎を潜り抜け、軽巡棲鬼へと着弾する。

 

「小癪ナ!」

 

 軽巡棲鬼は黒煙を払いのける。

 見た感じ、一発では大したダメージにはならない。

 だが本命はこれではない。

 軽巡棲鬼は下を見るがもう遅い。

 ドシャーン!! っと、今日一番の水飛沫が舞い上がった。

 雨のように降り積もる海水によって濡れた服が、肌に纏わりついてくる。

 威力たけぇー……。

 駆逐艦でもこれくらいの火力出るとか、戦場に慣れるだろうか。

 

 おれは肌を少し震わせながらも、軽巡棲鬼の居た場所へと近づいていく。

 飛沫が晴れた先、軽巡棲鬼は今にも海に沈みかけていた。

 ……あれ? 

 

「最悪、面白クモナイ。タダノ駆逐ニ。タダノ一撃デ……」

 

 軽巡棲鬼は薄気味悪い笑みを貼り付けて嘲笑う。

 負け惜しみだろうか? 

 多分、この言葉を受けて本来の艦隊は進むのだろう。

 敵の恨み言を受けて、進み続けるしかないのだろう。

 だが、その前に。

 

「マタ……イツカ……」

 

「イ級! あれを軽巡棲鬼に」

 

 後方にイ級に声を掛けて、おれは軽巡棲鬼を指さす。

 イ級が口から吐き出した怨念を見て、軽巡棲鬼は一瞬目を丸くする。

 深海棲艦の入渠はこれであっていたのだろう。

 怨念を与えられた軽巡棲鬼は、徐々に身体を水面へと浮上させていった。

 

「ドウイウツモリ?」

 

「それはこっちの台詞です! いきなり砲撃しないでください!」

 

 戦うつもりないのに戦わされる羽目になったんだが? 

 なんで話せば分かるって言っているのに、話をしてくれないのか。

 

「アナタ艦娘ジャナイノ?」

 

「それは陽炎型駆逐艦8番艦の雪風。艦娘ですけど」

 

「ヤッパリ艦娘ジャナイノ」

 

「艦娘が深海棲艦を連れてますか!」

 

「ソレモソウ。アナタ、不思議ナ気配スルワネ。提督?」

 

「そうです。わたし雪風は艦娘でありしれぇ! ……深海棲艦の」

 

「……ナンデ?」

 

 それはこっちが聞きたいのです。

 世界の意思よ。なんで雪風に転生、深海棲艦の提督なんて意味不明なことに? 

 

「勧誘シニ来タノ?」

 

「目的はわたし自身の訓練ですかね。深海棲艦に襲われないので訓練になりませんでした」

 

「……ソウ。イイ訓練デキタワネ」

 

「ですね。これからも通って良ーですか?」

 

「コナイデ。暇ジャナイノ」

 

 心底嫌そうに顔を歪める軽巡棲鬼。

 相手は軽巡、こっちは駆逐。良い演習相手になりそうだったのに、残念だ。

 

「最後に良ーですか? もしですよ? わたしが艦娘のいる鎮守府を襲撃(しゅーげき)するのに協力して! って言ったらどうします? 人間は全て殺しますって言ったら?」

 

「フフフッ、ソレハ実ニ面白イ質問ネェ! イイワヨォ! ソレナラ協力シテアゲル! 信ジタ兵器ニ滅ボサレルナンテ見物ダモノォ」

 

 楽しそうに邪悪に笑う軽巡棲鬼。

 人に悪意を持っているのが丸分かりである。

 同時に最初の出会いこそあれだけど、軽巡棲鬼は案外理性があるというか。

 話をできる深海棲艦からは、基本襲われないが適用されないのだろう。

 おれは頭を下げる。

 

「色々と教えてくれてありがとーございます!」

 

「鎮守府襲撃、楽シミニ待ッテイルワァ。艦娘ニハ気ヲツケナサイネェ」

 

「わたしも艦娘なんですけどねぇ……」

 

 そうなんだけど、そうじゃない感。

 おれは今度こそ軽巡棲鬼にお礼を言い、イ級を引き連れてこの場を去る。

 一応背中を撃たれないよう注意して。

 海での収穫はこの辺りにして、今日はもう島に戻るとしよう。

 そういえば艦娘には一度として会わなかったけど……、ここは危険海域だったりするのだろうか。

 海赤いし。プランクトンでも大量発生しているのだろうか? 

 この後、赤い海を三十分ほど航走した。

 特に何の損傷もなく帰りましたけど。

 

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