雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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閑話:改二改装

 

 時は軽巡棲鬼がこの島へとやってきた頃より、だいぶ遡ったとある日。

 

 わたしは砂浜の上で体育座りをしながら、みんなの演習を眺めてた。

 寂しいなぁとか思いながら。

 

 白露たちが来なくなってもう結構経った。

 秋の気配を感じる今日この頃。

 スマホの画面で見ると、白露たちが来なくなってそろそろ一ヶ月は過ぎようとしてた。

 

 わたしは演習をしてる仲間に手を振ってストレッチを始める。

 

 演習の時はみんなわたしをハブるんだもんなぁ。

 マガツチもイゴーも。

 わたし自身、最近は艦娘の中に放り投げられた深海棲艦ってこんな感じなのかなと思い始めてる。

 

 わたしはひとりで自主練をするしかない。

 砲撃訓練とか投擲の命中率向上とか。

 魚雷何回普通に発射しても命中率が低くて低くて。

 ぶっちゃけ投げ槍の要領で投擲した方が良く当たる。

 のでもう、開き直ってわたしは魚雷を投げてる。

 おかしいとは思うけど、威力も大して変わらないしね。

 

 都会では街路樹の緑葉が舞う赤風も、こう海が近いと内臓を撫でられるかのような冷たさ。

 ストレッチでも何でも、身体を動かさないとやってられない。

 

 秋と言えばサンマ、秋と言えば小学、中学では運動会。

 人によってはエアコンのつけ始め。

 温かな人工の風を浴び、毛布に包まり、動画や読書に耽る。

 秋という季節は、今の年代で考えると、一年の終わりを迎える初めの季節と、何か物悲しさを感じて仕方がない。

 昔の年代で考えると長期休暇が無いことに憤りを感じる。

 そして社会的に見るとうるさい仕事だ! なんだよね。

 

 秋は夕暮れー、電車内で見ることは無いー、仕事なら会社内ー、なんて身体を動かしてると、島に近付く二つの点を発見する。

 双眼鏡を覗くと、近づいてるのは……時雨と睦月。

 時雨と睦月!? 

 意外な組み合わせかも。

 

 二人の接近に悪雨たちは手を止める。

 そして大きく「オーイ!」と手を振った。

 双眼鏡の中の時雨は、悪雨たちの歓迎に少し表情が和らいだ。

 わたしも海に飛び出て、時雨と睦月の来訪を歓迎する。

 

 挨拶もそこそこに、家へと招き入れる。

 人数も増えたことで改築した、二階の部屋へと案内。

 個数の増えたベッドの上に二人を座らせて、わたしは床に枕を置いて座る。

 それからさぁ何から話そうかと近況報告でもする直前、ドアノブが捻られて悪雨が入ってくる。

 悪雨は時雨と睦月を見かけると、気安く手を上げた。

 

「ヨッ!」

 

「君も元気そうだね」

 

「オカゲサマデナ! ワリィガ、テートクニ先報告シテェコトガアル」

 

「僕達も聞いて良いのかい?」

 

「悪雨サンタチトノ仲ダ。別ニ聞カレテ困ルモンナンカネェヨ」

 

 悪雨はそう言って時雨に笑いかける。

 そうだね。

 時雨たちに聞かれて困るようなことほとんどないよね。

 この家、機密性保持とかまるでないもんね。

 

「ンデ、報告ダガ……雪月、御潮、雪河。三隻トモ改装可能ニナッタゼ!」

 

「おぉ! 行く行くー!」

 

 ようやく、ようやくだよ。

 ここまで長かった。

 MMDとか小説とか読んでると、改二って割となるペース速いんだけどね。

 

 いかんせんゲーム準拠なせいか、はたまた演習は大抵姫級が勝つせいか。

 中々練度が上がらなくて改装できなかったんだよね。

 胸がギュッと熱くなる思いだよ。

 

 わたしはベッドからぴょんと飛び降りて、階段を下る前に振り返る。

 

「時雨たちも! 深海棲艦の改装(かいそー)は中々見られるものじゃないよ!」

 

「せっかくだから行こうかな」

 

「睦月はちょっと複雑かも……」

 

 不安そうに肩を震わせる睦月。

 そんな睦月の肩を、時雨は優しく叩いてあげてる。

 大方、分かる、みたいな感じかな。

 時雨は深海棲艦の建造にも立ちあってるもんね。

 

 大丈夫、じきに慣れる。

 やってること自体、艦娘の改二と大して変わらないしね。

 ただ敵か味方かってだけでさ。

 

 時雨、本当に回復したみたいで良かった良かった!

 

 工房へと移動してる時、ふと時雨が問いかけてくる。

 

「雪は改装した?」

 

「わたしは無いよ! 時雨はしたの?」

 

「うん、僕も改二」

 

「……わたしを取り残して、いっぱいの艦が進んでく」

 

 それもこれも演習が、っとここから先は無限ループになりそうだから止めておこっ。

 そっか、時雨も改二になったんだ。

 うーん、見た目にほとんど変化が無いから気づかなかったよ。

 

 改三とか行くと分かりやすく服装が変化するんだけどね。

 一部分物凄く自己主張激しくなるし。

 あれは一種の殺しの服装だと思う。

 分かりやすい改二はと言えば、わたしは睦月に目を向ける。

 

「睦月は改二だよね!」

 

 サイズの合ってない特徴的な青いパーカー。

 手首が袖口から出ていなくて、先っぽがブラブラしてる。

 いかにもにゃしぃって感じ。

 睦月は頭を照れくさそうに掻いた。

 

「うん、そうだよ」

 

「良いなぁー」

 

「そんなぁ! これでもまだ、雪風ちゃんには勝てないよ!」

 

 両腕の袖口をぶんぶん振り回して睦月は謙遜する。

 わたしはそんな睦月を笑い飛ばす。

 

「改二か改二じゃないかだから、実力は関係(かんけー)ないよ」

 

 実力云々の話し始めたら睦月型は……。

 MMDとかだと睦月型はわけわかんないくらい強かったりするんだけどね。

 ゲームだと消費燃料少ないから遠征に最適って感じで紹介されてるからね。

 練度の方も……。

 だから改二になれるか、なれないかだと思う。

 

 軽く雑談をしてるうちに、わたしたちは工房へと到着する。

 雪月はどうやらすでに到着してみたい。

 工房は言ったら三メートルはありそうな巨体がドンとお出迎えしてくれる。

 雪月は睦月を見ると、妙にソワソワした様子を見せてた。

 今にも飛び掛かりたい気持ちなんだろうけど、改装ということで今はその場に座り込んでる?

 わたしは雪月をPT小鬼群に任せて、時雨と睦月を近くの木箱から作った椅子に座るよう促す。

 二人が腰を降ろしたのを見てから、わたしも奥から椅子を引っ張り出して座り込んだ。

 

「白露たち最近来ないけど、秘書艦の業務(ぎょーむ)忙しーの?」

 

「うん、今は忙しいみたい。第一艦隊の旗艦もやっているから」

 

「前みたいに自由に資材を使えなくなっちゃったからしょうがないよ」

 

 時雨の言葉を補足するかのように睦月も質問に答えてくれた。

 しれぇが来る前なら使ってもバレないからいくらでも来れたんだけどね。

 やっぱりこの辺の制約とか問題よね。

 そう、資材を勝手に使うことはできないし、何かしら明確な理由が無いとここに来れないと思うんだけどね。

 わたしは身を少し乗り出して聞いて見る。

 

「じゃあどーやって来たの?」

 

 ちょっとした疑問。

 時雨と睦月が顔を見合わせる。

 

「雪風ちゃんが心配で会いたいからって言ったら通ったよ? 遠征を頑張ったおかげだね」

 

「僕はその護衛役。白露と夕立も行きたがってた」

 

「北条提督に泣きつくレベルだったよね。一緒に来たかったなぁ」

 

「最高戦力二人はダメだよ」

 

 睦月と時雨は楽しそうに語る。

 二人とも元気になってよかった。

 時雨も今は無表情以外の表情も時折見せるようになった。

 やっぱり提督の力って偉大だよ。

 わたしじゃこうはいかなかったから。

 

「笑うようになったよね、時雨ちゃん。鎮守府じゃそんな顔あまりしないのに」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 睦月も、時雨とわたしを見比べてクスクスと笑ってる。

 笑ってるかなぁ? 

 わたしは友達の顔をじっと覗き込んでみる。

 じーっと。

 顔を近づけるわたしから時雨は首を逸らした。

 

「わたしにはあんまり変わってるよーには見えないかな」

 

 そんなわたしの様子にやっぱり睦月は笑う。

 もうちょっとこう、って感じで時雨の口角を手で上げてあげたいけど、わたしがやったらセクハラだしね。

 止めておこっ。

 

 少し肩を落とした様子の時雨をよそに、ガシャンと雪月の入ってった扉が開いた。

 どうやら改装が終わったみたい。

 タッタッタと駆け足気味に、闇の中から現れたのはひとりの人型。

 

 わたしの耳にハッと息を飲む声が届いた。

 その声はわたしの物? それとも別の誰か? もしかしたら全員の声かもしれない。

 

 三日月型のバッジ。

 それは紛れもなく睦月型の証。

 その証を人型の深海棲艦は、パーカーの胸近くに付けてた。

 

 腰まで届きそうなくらいの白い髪、頭から白黒ストライプの反りかえった角。

 その子はピンク色の髪飾りに手を当てて微調整。

 それから小首を傾げてわたしたちを不思議そうな顔で眺めてくる。

 

「オヨヨ? 雪月ノ顔ニ何カツイテルカニャ?」

 

 うそ。

 だってその顔、その姿は、だって。

 

「如月ちゃん!」

 

 睦月がわたしの言葉を代弁するかのように叫ぶ。

 けれど、目の前の雪月を名乗る深海如月は目を点にして口をポカンと開ける。

 

「如月ッテ、誰カニャ? 雪月ハ雪月ダヨ、睦月チャン!」

 

 いや待って待って待って。

 冗談きついって。

 え、わたし何してるの? 

 なんで姉妹失った睦月に改二改装した、姉妹そっくりの深海棲艦見せて尊厳破壊してるの? 

 流石に罪悪感で胸抉れるレベルだよ。

 

 今思えば雪月が妙に睦月に懐いてたのってそういう。

 

 無邪気に睦月にへと抱き着きに行く雪月とは対照的に、膝をがくがくと笑わせてる睦月。

 わたしは勢いで近くの時雨の肩を掴んで助けを求める。

 

「時雨、どーしたらいい? 時雨?」

 

「姫級ってこんな感じで生まれる? でも、悪雨たちは悪雨の状態で生まれてきた」

 

「こーゆーときしれぇはどーしたら良ーかな!? 流石に如月の姿になるなんてわからないよ!?」

 

「えっ。う、うん。とりあえず落ち着こう。深呼吸してみて」

 

 すぅーはぁーと時雨に言われた通り深呼吸をする。

 でも中々心臓の鼓動がうるさい。

 時雨がわたしの手に手を重ねてくれる。

 確かな温もりを感じて少し心が楽になってくる。

 でも、どうしよう。

 

「司令官殿、サァユックリ、ユックリト我ガ手ノ中デ息絶エルニャシィ」

 

 なんで如月の方がにゃしぃ化してるのかも全然わからないよ!? 

 わたしのところに居る深海棲艦ってみんなそう! 

 なんか元の艦娘と性格違うんだよぉ! 

 どうして! どうしてその姿でにゃしぃ睦月みたいなことを言うの!? 

 如月の姿をしてるのに如月じゃないんだよぉ。

 

「……雪風ちゃん、如月……雪月ちゃんと遊びに行ってきても良いかな?」

 

 いつの間にか睦月がわたしの隣に立ってた。

 顔が沈んでて表情は読み取れない。

 

「ど、どーぞ?」

 

 わたしは辛うじてその言葉しか捻りだせなくて。

 

「ありがとう」

 

「オヨヨ? マタネ、司令官!」

 

 睦月は雪月の手を取って、工房から出て行った。

 だ、大丈夫かな。

 映画的に、映画的に考えれば大丈夫だと思うけど。

 これはもう、わたしじゃなくて睦月に任せるしかないような気もする。

 どうしよう、安易に艦娘に深海棲艦の改装姿を見せるの怖くなってきたかも。

 

「雪、次は御潮」

 

「う、うん」

 

 時雨の言葉に頷いて、わたしは御潮を改装部屋に送った。

 深海棲艦って改二改装すると人型になるんだ。

 ……流石に御潮まで見知った姉妹艦……だったりしないよね。

 でも白露型はほらっ、悪雨が居るし。

 

 そうなると誰かな? 

 わたし基準で陽炎型とか? 

 でも、わたし自身が陽炎型に対する冒涜みたいな感じするし。

 時雨がわたしの背中を優しく擦ってくれる。

 

「あまり気にしちゃダメだよ。僕から見て、大丈夫だと思うから」

 

「そーなのかな?」

 

「深海棲艦のイ級と同じく、艦娘にも同じ艦種はいる。僕以外にも、白露型の時雨という艦娘は存在している」

 

「そー……だね。そーだよね。たまたま被っただけだよね。わたし以外にも、陽炎型の雪風は居る」

 

「うん。だから気にしちゃダメだよ」

 

 友達に慰められると心が楽になったような気もする。

 確か深海棲艦にも戦艦水鬼と空母棲姫二人、みたいな編成があるってどこかで聞いたことあるし。

 それと同じようなものだよね。

 わたし以外の雪風かぁ。

 時雨は淡々とした口調で言う。

 

「実はこの前、雪とは別の雪風に会ってきたんだ」

 

「そーなの? どーだった?」

 

「君よりずっと子どもっぽくて、君よりずっと責任感も無くて、そして君よりずっと艦娘らしかった」

 

「艦娘らしいわたしかぁ……。深海棲艦を沈めてるのかな」

 

「うん。それで夕立が雪風に対して、深海の提督さんなんて言うもんだから。提督に深海棲艦の提督と間違えるなんて、って怒られてたよ」

 

「それは……わたしが悪いですね。夕立にごめんねと伝えてもらっていー?」

 

「分かった、夕立に伝えておくよ」

 

 なんて会話をしてると、改装部屋の扉が開いて御潮がコツコツと足音を立てて現れる。

 

 腰まで長い白い髪にあの服装は……。

 えっと、あの服なんて言うの? 

 なんかどこかの国の町娘みたいな感じの服。

 ボタンが六つ付いてる。

 

 ごめん、誰が深海棲艦化したのか自体分からない。

 

 御潮は長い髪を手の甲でかき上げると、わたしたちに目もくれず工房から出て行こうとする。

 

「ちょっと待ってちょっと待って!」

 

 もう少しだけ考えさせてほしい。

 御潮の腕をわたしはがっしりと握り締める。

 じぃっと、言葉もなくわたしに不機嫌そうな目を向けてくる御潮。

 美人なのもあって、印象はかなりきつい。

 壁に立ってもらえると言ってみたところ、御潮は後ろ手を組んで指示通り壁まで来てくれる。

 ……うーん? これ本当に誰なんだろ? 

 

 わたしは目の前の御潮を見ながらスマホで検索を掛けてみると、とある艦種がヒットする。

 

「朝潮型?」

 

 うん、朝潮型の改二と同じ服装をしてる。

 確か朝潮と言えば委員長タイプの犬だよね。

 御潮はどことなく猫っぽいし、朝潮が反転した感じなのかな? 

 ……うん? 

 うーん? 

 

 なにかこう、違和感があるような? 

 気のせいかな? 

 とりあえず暫定朝潮の深海棲艦化と考えておこう。

 

 スマホの画面の前でうんうんと唸るわたしに飽きたのか、御潮は髪を再びかき上げて工房から出て行った。

 御潮は相変わらず感が強いなー。

 わたしも時雨のところに戻って御潮について話してみる。

 

「朝潮なのかな?」

 

「なのかな」

 

「時雨もそー思う?」

 

 何かこう引っ掛かるんだよね。

 その何かが分からない。

 分からないけどひとまず雪河を改装部屋に送り出す。

 

 朝潮だろうとそうでなかろうと、わたしの中では御潮だしね。

 ……そういえばあの子、角生えてなかったよね。

 深海吹雪然り、深海如月然り、角は生えてるものだと思うけど。

 でも鬼や姫級が必ず角生えてるわけじゃないし、それと同じようなものかな。

 改装部屋が閉じると時雨が口を開いてくる。

 

「雪河は誰だろう」

 

「多分北上さんかなぁ」

 

「北上さん? それはまたどうして」

 

「雪河を連れてるとき、大井が北上さん!? って反応(はんのー)してたからかな」

 

 その大井の反応と、雪河はかなり直球的に駆逐艦好きだからかな。

 深海棲艦の今までの逆となると、駆逐艦うざいという北上さんがかなり当てはまる。

 ホ級は軽巡だけど、もともと北上さんたちも軽巡だしね。

 恐らく今回の改装で雷巡に変わるんだと思う。

 甲標的とか持っといた方が良かったかな。

 そっちの開発はほとんどしてないもん。

 時雨が少し迷い込む表情を見せる。

 

「後で雪月、御潮たちと演習してもいい?」

 

「良ーよ!」

 

「ありがとう」

 

「でも、演習(えんしゅー)するなら誰かひとり、深海棲艦を味方に付けた状態(じょーたい)でやってね。悪雨でもイゴーでも良ーから」

 

「了解、雪提督」

 

「わたしは時雨のしれぇじゃないよ!?」

 

「でもここはさ」

 

 時雨はわたしの服に手を伸ばした。

 よれた皺を伸ばし、裾も戻してくれる。

 それからわたしの腕を取って敬礼の形へ。

 ピトリと時雨の手がわたしの顔に触れる。

 少し熱のある手でわたしの眉や頬を弄り、頷いた。

 

「こんな感じで、ね」

 

「いやー、あんまり形式ばった物は好きじゃなくて」

 

「雪ならそう言うよね」

 

 たははとすぐに敬礼を崩すわたしに、時雨も少し口角を上げて返してくれる。

 やっぱり、時雨は柔らかくなったねぇ。

 わたしは嬉しくてにんまりと笑みを浮かべ返す。

 でももう少しこうとやっぱり時雨に手を伸ばそうかと考えたところで、改装部屋が開く。

 

 ギリギリと音を鳴らし、二メートルはありそうなホ級が現れた。

 ……えっ、改二なのにまったく変化ないんだけど。

 人の部分も黒い鉄の部分も、まるで変化が無い。

 いつもの雪河。

 ここに来て何の変化も無し? 

 なんて一瞬困惑してると、時雨に肩を叩かれて後ろから指さされる。

 

 何かあるの? 

 

 指された方向に目をやる。

 そこにはひとりの深海棲艦が洗濯物のように干されてた。

 その姿は正しく深海棲艦化した北上さん。

 何ともまぁ、まるで戦艦棲姫。

 艤装と人型が同時に居る存在になってる。

 

 というか、今更ながらに思うけど。

 雪河の形状ってどちらかというと戦車だよね、

 

「ヨイショットー」

 

 雪河はホ級? それとも雪河本体? からジャンプして飛び降りる。

 そしてわたしと時雨二人に飛び上がるように抱き着いた。

 

「提督ト時雨ッチ! チッチャクッテ、良イ匂イスル」

 

「雪河……どっちが本体なの?」

 

「ウン? コノ私ノ方ガ本体ダヨー。ナンダカ眠タイカラマタネー」

 

 そう言って、雪河はもう一度わたしと時雨の間に鼻先を突っ込む。

 北上さんの逆? 

 いやこれ、だいぶ元々のまんまじゃないかな? 

 二次界隈では駆逐艦好きの北上さんも大して珍しくないし。

 ゲーム界隈だと……駆逐艦ウザいって口では言ってるけど、本心では違う感じするし。

 となると、駆逐艦好きと表面上言ってるだけで、内心ではマジで嫌いなタイプとか? 

 いやいやいや、そうだとして内心駆逐艦嫌いがわたしと時雨を強く抱きしめるなんてことしなさそうだし。

 提督駆逐艦だし。

 

 ……普通の北上さんだ。

 シロコと似たようなタイプだ。

 

「流石はハイパー北上さん!」

 

「雪も大井さんっぽくなっているよ」

 

 北上さんは北上さんだし。

 多分、大抵の提督は長門とか陸奥とか大和って呼び捨てにすると思うけど。

 北上さんだけは北上さんだと思う。

 雷撃最高! 

 

「北上ッテ何サー?」

 

 雪月と同じで分かってなさそうに呼吸をする雪河。

 キタカミというのはDLCで行く里のことだよ。

 そこの鬼様がまた馬鹿みたいに強いんだよ。

 冗談はさておき。

 

「ソレジャ、年長者ハオ昼寝行ッテクルネー」

 

「晩御飯までに帰ってきてね」

 

「ハイナー」

 

 雪河はわたしと時雨から離れると、下の部分を工房の片隅にへと押しやる。

 それから工房の奥へと、工具片手に引っ込んでった。

 そっちでお昼寝するんだ。

 雪河が一番改装後に変化したような。

 性格とか諸々。

 ……そう言えば雪河って演習以外だとあんまり姿を見せないんだよね。

 昔は良く家に居たのに。

 

「それじゃ雪、僕は演習に行ってくるよ。それと後で良いんだけど、教えて欲しいところがあって」

 

「教えて欲しいところ?」

 

「神様って言ったら分かりやすいかな」

 

「あぁー! うん、良いよ!」

 

 わたしがオーケーを出すと、時雨は工房のドアノブに手を掛け、そのまま外へと飛び出してった。

 

 時雨も日本の神について興味が出てきたようで良かった! 

 好きな物を共有できるって最高だね。

 でも時雨、どうしていきなり日本の神について気になりだしたんだろ? 

 

 *  *  *

 

 そう言えば昔の日本って歴史として、古事記を学ぶ習慣あったね。

 古事記と言っても、最初期のイザナギイザナミの国生みの神話じゃなくて、どちらかと言えば風土記の方だと思うけど。

 戻ってきた睦月に確認したわたしは、工房で時雨が戻るのを待ちながらスマホで風土記について復習してた。

 

 ゲーム系で日本神話の神様について調べることはあったけど。

 流石に風土記までは守備範囲外なんだよ。

 いやね、読んだことはあるよ。

 日本書記の地続きとしてね。買ってせっかくだからって読んだよ? 

 でもどうにも気分が乗らなくてあんまり覚えてはいないんだよね。

 

 スマホポチポチ。

 古事記は無料で読めるけど、日本書記は読めないんだよね。

 日本の歴史を記述するなら古事記の方が役割っぽいのに。

 教えるならちゃんと読んでおかないと。

 

 なんせ睦月までもが教えて欲しいと頼みこんできたのだから。

 責任重大すぎるよ。

 責任と言えば、雪月は睦月の中で如月だけど自分のところに居た如月ではないって結論になったみたい。

 

「雪月ちゃんはその、性格と雰囲気もだけど、睦月の知ってる如月ちゃんとは違うってはっきり言えるよ!」

 

 とのこと。

 時雨から教わった通り、如月ではあるけど別個体の如月だった、って感じなんだろうね。

 それなら良かった! 

 良かったって言えるかは分からないけど、本人たちが納得してるならそれで良いかな! 

 

 同一の艦娘が世界に存在してる世界となると、山風とかどうなるんだろ。

 だってあの鎮守府に居た山風とは別の山風が存在してるわけだし。

 それとも白露たちなら判別付くのかな。

 まぁでも、本人たちしか知らない記憶とかあれば判別つくよね。

 それこそ睦月が雪月と如月は違うと判別した時のように。

 

 気になったわたしは演習から戻ってきて、勉強のノートを取り出した時雨と睦月に聞いてみた。

 

「うーん、見分け方かー。少なくとも雪は判別つきやすいかな」

 

「深海棲艦に対してどう思ってる? って聞けば一発だもんね!」

 

 時雨と睦月に同時に言われて、まぁそうなるね、としかわたしは言えない。

 その神様の覚え方はこう、その神様はこの偉業をしたよ、なんてことを説明してく。

 

 風土記外の日本神話も勉強の範囲内なんだ……。

 

 わたしが言うのもなんだけど、日本神話ってだいぶトンチキだよ。

 ヤマトタケルとかヤマトタケルとかヤマトタケルとか。

 いや別に、そこにトンチキ要素が固まってるわけじゃないんだけどね。

 ツッコミどころは? って聞かれたら真っ先にヤマトタケルが浮かぶ。

 日本の名前を冠してるのにね。

 

「コノハ何とかの夫の名前が覚えにくいよ」

 

「ニニギノミコトだね。兄弟のニギハヤヒと勘違いしやすくて、わたしも少し前まで同一もしくは混ざった状態で覚えちゃってた。だからコノハナサクヤビメと結婚した方、主に農業を司ってるって覚えた方が良いかも。他にもニギハヤヒの方は物部の祖先とも言われてるよ。こっちも豊穣を司ってるけど、太陽神の名を冠してるって覚えればいいかも」

 

 確かニニギノミコトも太陽神ではあったはずだけどね。

 まぁ神話なんて解釈でいくらでも神格は付与できるものだし。

 津とか日とか稲とか火とか一文字入ってるだけで解釈されるからね。

 いるからね、山の神であり海の神でもある神様。

 海と山を繋ぐ綿月豊姫かな?

 

「なんでアマテラスとスサノオは姉弟と子ども作ってるの?」

 

「簡単に言えば儀式だからかな。スサノオが高天原に暴れるために来たわけじゃない。それを証明するってことで。子を産むという行為は、夫と妻で一種の結びつきを生み出すためのもの。今回は指切りげんまんの意味合いの方が強いかもね」

 

 元々姉と弟みたいなものだし。

 まぁこの理論で言えば、イザナギが黄泉から帰った後に生まれた神は、他にもいっぱいいるんだけどね。

 そしてせっかく野心は無いと証明したのに、暴れまわって追放されたスサノオの図ね。

 その後英雄的行為を繰り返すのだから、なんとなく映画版ジャイアンみたいなものを感じるね。

 ふとしたきっかけで変わる虐めっ子とかよくある話だしね。

 

 なお子どもを作るだけど神話として伝わってる方法なのか、人間と同じ方法なのかはお好みで判断してほしい。

 

「そう言えばもうひとつ、判別する方法があった」

 

「……あっ、ほんとだ! ふふっ」

 

 時雨がふと思い出したかのように呟き、睦月も同じように思い出し笑いをする。

 

「何々?」

 

 と尋ねるわたしに「深海棲艦の提督には内緒」と口元に指を立てる時雨。

 わたしは身を乗り出して時雨に詰め寄る。

 

「ずるい! 約束だよね! 何か分かったことがあったら教えるって!」

 

「雪の考えることについてとは無関係だから」

 

「それを判断するのは時雨じゃなくてわたしだよ!」

 

「ほんとに関係ないから」

 

 じりじりと歩み寄るわたしに、時雨は表情を少しだけ崩す。

 わたしだって関係ないだろうことは分かってるよ。

 でもね、わざわざ深海棲艦の提督って言い方されて、秘密って言い方されたら気になるじゃん! 

 睦月がクスクスと笑う。

 

「もうひとりの雪風ちゃんは逃げ出したんだよ」

 

「……逃げ出した? 何から?」

 

 わたしの問いに睦月が古事記の書かれた教科書を指さす。

 教科書? 

 勉強からならわたしも逃げ出すけど。

 

「あっちの雪風は歴史って聞いてすぐに逃げ出したんだよ」

 

 と、時雨から補足が。

 歴史から逃げ出した? 

 それは随分と勿体ないことを。

 

「教えてもらおうとした夕立ちゃんの方が詳しかったよね」

 

「夕立の基準が雪だからね」

 

「アマテラス、スサノオ、ツクヨミがやっと出てきたくらいだったし」

 

「はい雪、最初に出てきた三柱は誰?」

 

 時雨に急に振られたわたしはぱっと神の名前を羅列する。

 

「アメノミナカヌシノカミ、タカミムスヒノカミ、カミムスヒノカミの三柱! 始まりも始まり、序盤一ページの一瞬にしか出てこない、別天津神の神様だよ! 造化の神様って括りの方が分かりやすいね!」

 

「「ねっ」」

 

 睦月と時雨が顔を見合わせまったく同じタイミングで口にする。

 これくらいはね。

 

 何だそんなこと。

 歴史に詳しくないから、わたしかどうか判別付きやすいってことね。

 それはまぁ、言えてるね。

 歴史とは過去から学ぶものだけど、過去ばかり見るのはね。

 だったら未来を見てる方が良いし、子どもの雪風ならそっちの方が良いと思う。

 

 *  *  *

 

 子ども時代に戻りたいって思ったことは何度かあるけど、考えてみたら勉学が付きまとってくるんだよね。

 まぁ、責任感ある大人の仕事よりかはマシだけど。

 お小遣いとかもらえないなら、飛んだブラックなんじゃないかなとふと思う。

 まぁそこは家庭によって違うので何とも言えないけどさ。

 

 時雨と睦月も帰り、もう今日という一日が終わる。

 もぞもぞとベッドに潜ったわたしは目を閉じる。

 

 どさりと何かがわたしの上に乗ってくる。

 重い。

 これは金縛り。

 うっそらと瞼を開けてみると、わたしの上に御潮が跨ってた。

 

 ……えっ、御潮!? 

 なんで御潮わたしの上に居るの!? 

 御潮はわたしが目を覚ましたことに気が付くと、にぃと妖艶な笑みを浮かべた。

 そしてわたしの顔ごと全身をホールドしてくる。

 えっ、何々!?

 顔を上げると御潮の美人な顔が目に飛び込む。

 でも体制としては御潮が上でわたしが下。

 

 この構図は前までわたしが御潮にやってたのと同じ。 

 動けない。

 こうも密着してると御潮のにおいが鼻に入ってくる。

 御潮の体温を直に感じ取れる。

 御潮の息も当たってくるし。

 意趣返しなの? 

 わたしがいつも上に乗ってたからそのやり返しなの?

 ……まっ、これはこれで役得だよね。

 わたしの方からも御潮に腕を伸ばした状態で目を瞑り。

 

「チャージ──」

 

「ぶはっ!?」

 

 寝ようとしたわたしは御潮の歌声に咳き込む。

 それわたしが普段御潮の上で歌ってるやつ!?

 御潮はわたしを抑え付けながら、延々とチャージマンのOPを歌い続ける。

 しかも透き通る良い声で。

 意識を手放そうとする直前で脇腹とかを擽ってくるので余計に眠れない。

 

 なにこれ拷問!?

 ちょっ、止めて! 寝られないから!

 その曲を朝まで耐久されるとわたしの精神が持たないから!

 

 そうして次の朝まで、わたしは今まで御潮の上で歌ってた曲のレパートリーを聞かされ続けた。

 もう人の上で歌わない。

 キラキラした御潮をよそに、わたしは寝不足と戦いながらそう思った。

 

 でもこの後、御潮に二時間添い寝させてもらったので、結局御潮はいたずらをしたかっただけなのかなとか思ったり。

 ずっと寝顔を観察してくるのだけは止めて欲しかったけど。

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