雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして?   作:氷水メルク

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信用、信頼

 

 精神までもが女の子になるってなに!? と焦燥感に駆られてしばらく。

 でも考えてみれば雪風になってから六か月近く経ってるんだよねと思い直してから、そろそろ一ヶ月を過ぎようとしてた。

 

 結論を言えば何事も無かった。

 というかこの島に男性いないから何にも分からないが答え。

 精神が艦娘に寄ってくというのも、わたしがわたしと呼んでる時点で終わってるのかも。

 雪風が日本神話を好きじゃないという情報に関しては、正直単なる個人差だとわたしは思うなぁ。

 

 そうなると今度は心が男だからこそ気になるセクハラ問題だけど。

 掲示板で教わった提督からの助言、深夜ベッドに何も言わず潜り込んでくる御潮、所かまわず抱き着いてくる雪月。

 お風呂に入れば雪河が茂みに隠れてわたしを覗いてくる。他にも裸で駆け回るイゴーをシロコは布を巻いただけの状態で抑えてる。

 マガツチなんか全裸で砂浜に立ち、高笑いをしてることもしばしば。

 そんな彼女たちを纏めてくれる悪雨。

 

 ……なんだかね、雪風ね、セクハラをね、気にするのね、馬鹿らしくね、なってきたよね。

 

 砂の城が下から一気に崩れてくかのような、そんな何とも言えない気分になったよね。

 ……悪雨さん、いつもありがとうございます。

 そんな感謝を伝えたら悪雨は自分の額とわたしの額に手を当ててた。

 熱、出してないからね? 

 普段の感謝の言葉を伝えただけだからね? 

 

 勇気を出して抱き着いてみたら、余計に体調悪いかどうか心配される程度で終わった。

 わたしの心配って、この程度で流されるんだねって。

 

 そうして今日も、床に腰を降ろして勉強のためにスマホの液晶とにらめっこ。

 

 実戦があるわけじゃない。

 勉強だって見るサイトはゲーム攻略。

 おまけに深海棲艦の運用方法なんかどこにも乗ってるわけがない。

 これ、勉強になってるのかな? 

 

 覚えようにも中々頭に入らない今日この頃。

 まるで一夜漬けを行いテストに臨んだ次の日、やった内容をもう全て忘れるかのように。

 身体でやらないから覚えようがない。

 途中、外から戻ってきた御潮に背中を預けられてた時のことだった。

 

「アナタ、ドウイウツモリナノカシラァ?」

 

 憎しみの表情を貼り付けた軽巡棲鬼がリ級と共に島へ踏み込んできたのは。

 久しぶりに会えて嬉しい! なんて言える雰囲気じゃない。

 それこそ親の仇でも見るかのような、ガチャ画面で最低保証しかくれないキャラに向けるかのような目をしてる。

 手や足で表現せず、ただ瞳にだけ感情を濃縮させてぶつけてくる。

 わたし、何かしたっけ? 

 

 うーん? 

 とりあえずお客をいつまでも外に居座らせるのは失礼なので、艤装を着用した状態で軽巡棲鬼とリ級を家に上がらせる。

 PT小鬼群作の木の椅子に座るよう促して、わたしも床に腰を降ろす。

 

 それで、何から話そう? 

 脳に単純な思考を走らせてると、軽巡棲鬼は床をダンッと踏みつけて激昂する。

 

「ヨクモ裏切ッテクレタワネェ!」

 

 怒り、いや憎悪? 

 軽巡棲鬼から向けられるのはそれに近い。

 

 ……裏切り? 

 そりゃあの鎮守府襲撃の時に裏切ったけど、あれから何ヶ月と経ってるし。

 今糾弾されるようなことは無いと思うんだけど。

 

 拳を握り締める軽巡棲鬼に、感情の無い顔をしたリ級が何やら耳打ちする。

 何を話してるのかは聞こえてこない。

 でも明らかに軽巡棲鬼の表情がほんのちょっぴりだけ、ハバネロが一味唐辛子の辛さに変わる程度には和らいだような気がする。

 先ほどとは打って変わって声に落ち着きが戻る。

 

「アノガラクタ三体ノコトヨォ」

 

「ガラクタ? 三体?」

 

「アノ茶髪ト金髪ト黒髪ヨォ!」

 

「茶髪と金髪と黒髪?」

 

「ナンデ伝ワラナイノヨォ!」

 

 ガラクタ……は、艦娘のことで。

 それで軽巡棲鬼の知ってる艦娘で茶髪と金髪と黒髪と。

 そうなると……、なんて考えてる最中、不意に誰かがわたしを押しのけて隣に座り込む。

 

「選手交代ダ。ソッチモコッチノ方ガ話シヤスイダロ」

 

「エェ、馬鹿ハ嫌イダワァ」

 

 悪雨? 

 悪雨はわたしに手のひらで退けと伝えてくる。

 言葉じゃなく仕草で。わたし提督なんだけどなぁ……。

 せめて相手が画面の向こうに居れば、考えてから書くという工程を出来るのだけど。

 対面での会話には弱いのは事実。

 眉間を指で抑える軽巡棲鬼に、疑問符を浮かべながらわたしは少し左にずれる。

 隣で軽巡棲鬼の話に集中することにする。

 

「デ、改メテ何ノ話シヲシニキタンダ?」

 

「アノ三体ノセイデ、私ノ仲間タチガ沈メラレタワァ。アレ鍛エタノ、アナタタチデショォ?」

 

「ソンナン知ッタコトジャネェ。コッチハ元ヨリ傍観勢ジャネェ。部下ガ勝手ナ行動デ沈ンダトシテ、オ前ハ上司ヲ糾弾スルノカ?」

 

 強気の姿勢を崩さず、悪雨は相手の話に強気の姿勢。

 悪雨、それは糾弾されると思うよ。

 包丁での殺人が起きた際、その包丁を作った人を糾弾するの? って意味なら納得できるよ? 

 なんて口を挟むとややこしいことになりそうなので、素直にお口チャックで。

 今そこ大事じゃないし。

 

 軽巡棲鬼は忌々しそうに悪雨をにらめつける。

 でも悪雨はどこ吹く風って顔してる。

 何言われても動じないと思う。

 そうして軽巡棲鬼は一度大きく息を吐いた。

 

「裏切者」

 

「同盟ハ切レタ。慣レ合ウツモリハナイツッタノ、ドコノドノ鬼ダッタッケナァ?」

 

「……」

 

「単ナル艦娘ニ何百ト沈メラレテ海域奪ワレテソノ腹イセニ悪雨サンタチヲ糾弾? オイオイ、攻メル相手ガ違ウンジャネェカ? ソウイウ時ハ、弱イ私デゴメンナサイ、ッテ言ウンダゼ?」

 

 語気を強めに悪雨は煽る。

 戦いたいだけだよね。

 悪雨って体育会系のダメな部類だから。

 マガツチの時もそうだったけど、文句あるなら表でろってタイプの。

 その末路は幾度となく繰り返された歴史が証明してる。

 そりゃ、言葉も通じない動物相手なら良いと思うけど。

 

 わたしは隣から悪雨の肩をポンと軽めにタップする。

 

「喧嘩を売らない」

 

「売ッテネェヨ」

 

「最後の言葉は余計(よけー)だよ」

 

 悪雨は「フン」と鼻息を鳴らし、わたしから視線を軽巡棲鬼に戻す。

 

「ンデ、恨ミゴトヲ言イニ来タダケカ?」

 

「マサカ」

 

 否定の言葉を口にした軽巡棲鬼は一呼吸を置いてから、言いたくなさそうに再度口を開く。

 

「保護下ニ入リタイッテ言イニ来タノヨォ」

 

 保護下? 

 保護下って言うと……あの保護下? 

 わたしは首を傾げてはてなマークを浮かべる。

 

「保護下に入るって?」

 

「ダカラ、仲間ニナルカラアノガラクタ共カラ守ッテッテ言イニ来タノヨォ! 人ヲオチョクッテ楽シイノカシラァ?」

 

 軽巡棲鬼が。

 あの軽巡棲鬼が? 

 艦娘と人間を沈めることに大賛成してたあの軽巡棲鬼が? 

 なんで? どうして? 

 

 提督のわたしはこんなだけど、悪雨はお腹を抱えて大笑する。

 

「オイオイ、散々イキットイテ悪雨サンタチニ助ケテホシイダァ? モット頼ミ方ッテノガアルンジャナイカ、鬼サンヨォ?」

 

 リ級が軽巡棲鬼の顔色を伺うように覗き見る。

 軽巡棲鬼は小さく潰れたような声を出し、拳を握りしめた。

 それから大きく息をひとつ吐いた。

 

「……オ願イシマス」

 

 軽巡棲鬼が素直にお願いをした!? 

 びっくりした。

 あの軽巡棲鬼が。

 

「オイオイ、随分ト物分カリ──」

 

「だから煽らない」

 

 わたしは悪雨の肩をパシンと叩く。

 どうしてそうすぐ煽ろうとするの。

 今度はわたしが悪雨に聞いてみる。

 

「なんでわたしのところ? 他にも深海棲艦はいるよね?」

 

「…………デキタラヤッテイルワァ」

 

「できたらやってるってことは、できない理由(りゆー)があるってこと?」

 

「……見逃サレタノヨォ、ガラクタニ。助ケラレタカラ今回ハ特別ッテ。アレ以上ノ屈辱ッタラナイワァ。取リ入ロウニモ、私ノ戦力ハ」

 

 そう言って軽巡棲鬼がリ級を見る。

 ……もしかしてリ級しかいないの? 

 えっ、前会った時は軽く百を超えそうな戦力じゃなかったっけ? 

 ということは白露たち……会ってないこの六か月、いったいどれだけ深海棲艦を殲滅したの? 

 

 あれ? 

 深海棲艦を沈めると艦娘になるよね? 

 もしかして鎮守府の戦力、かなり戻ってる? 

 

 白露たちってそんなに強くなってるの? 

 今軽巡棲鬼が戦っても無駄死にしかならないなんて。

 良くは知らないけど、そういうの戦艦とか空母相手に言うものじゃないの? 

 というか、そのセリフは大体艦娘側が言う言葉であって、深海棲艦が言う台詞じゃないような……。

 

 そっか、わたし個人は演習したことが無いから、どうなってるのか分からなかったんだよね。

 何回かしようと思ったけど、その度にじゃあ審判ね! って言われてたから。

 あの三人今そんなに力を付けてたんだ。

 

 ……わたしも練度低いから今度来たら教えてもらおうかなぁ。

 悪雨たちだとわたしの影響が強すぎて普通の動きが出来ないから。

 ……でも、島に来なくなる数日前くらいには、白露が悪雨相手にガンカタをしてるの見かけたんだよね。

 連装砲の裏拳で悪雨の顔面捉えてて、悪雨も悪雨で白露にカポエラー……じゃなくて、カポエイラ? みたいな動きで蹴り技してたし。

 足の無い艤装なのに。

 

 夕立とか魚雷を足元で爆発させて急接近とかやってたし。

 マガツチのタコ焼きを蹴ったり、手の甲で殴ったりしてさらに加速したのは何のバグ技かなとか思ったし。

 時雨もまともそうに見えてやっぱり白露型だねって動きするし。

 堅実というか、動きに緩急を付けてくるから想像以上に翻弄されるらしい。

 

 多分、もう戻れないと思う。

 

 そもそも艦隊なのに各々が個人技してるの、キセキの世代に通づる何かを感じる。

 いや、ヒーロー戦隊とか? 

 

「鬼ト言ッテモ、私ヨリ強イ量産型ハザラニイルワァ。取リ入ッテモセイゼイ特攻隊長ガ関ノ山ネェ」

 

 軽巡棲鬼がわたしのところに来た理由について語ってる途中、扉がぎぃと音を立てて開かれる。

 

「オヨ? オヨヨ? 久シブリー! 元気シテタカニャー?」

 

 土埃塗れの雪月は軽巡棲鬼をすぐに見つけると、向日葵のような笑みでスキップを踏んで駆け寄った。

 泥遊び? でもスカートのポケットが膨らんでるんだよね。

 食べ物でも取ってきてくれたのかな? 

 

「誰?」

 

 そして軽巡棲鬼は雪月のことを一言で切り捨てた。

 軽巡棲鬼が初めて会ったのはイ級の姿だったもんね。

 そりゃ誰だかわからないよね。

 わたしも改装したところを見ていなかったら分からなかったよ。

 

 雪月はひとしきり軽巡棲鬼の周りをクルクル回った後、むぎゅっと、わたしの背中に飛びついてくる。

 わたしへの負担なんか度外視で「雪月帰ッテキタニャシィ!」と、首筋に顔を埋めてくる。

 

 痛い! 

 

 雪月、角! 角生えてるから! 首に刺さって痛い! 

 あと手を洗ってきてからにしてほしかったなあ。

 わたしは思わず隣の悪雨に倒れ込みながらも、後ろ手で雪月の頭を撫でる。

 

「オヨヨ?」

 

「……」

 

 そこへさっきまでわたしを背もたれにしてた御潮が、わたしから雪月を掴んで引きはがし、外へと追い出した。

 そして御潮も、腰まで届く青白い髪をかき上げて外へと出て行った。

 

「誰ヨォ?」

 

 もう一度軽巡棲鬼がわけわからなそうな声を出す。

 軽巡棲鬼の顔はこちらから見えないので、どんな表情をしてるのか分からない。

 悪雨は後ろ頭を掻いて答える。

 

「誰ッテ、雪月ダヨ。前ニモ会ッタコトアンダロ? アントキノイ級ダ。ソシテサッキ外デタノガ御潮。アン時ノロ級ダ」

 

「……」

 

 あはは……。

 流石にね。

 二回改装したら人型になるとは思わなかったよね。

 なんだっけ、深海改二、みたいな感じになるのかと思ったけど。

 一回改装する度に後期型、みたいな感じで変化してたから。

 

「アレガイ級トロ級デスッテェ? マァイイワァ。ソレヨリ、私タチヲ受ケ入レテクレルノカシラァ?」

 

「信用ナラネ──」

大歓迎(だいかんげー)だよ!」

 

 わたしと悪雨の言葉が被った。

 あれ、もしかして悪雨的には——

 

「オイクソテートク! 何易々ト受ケ入レヨウトシテンダ! 信用ナラネーダロ!」

 

 噛みついてくる悪雨に、わたしは首を傾ける。

 

「そーかな? わたしは軽巡棲鬼のことを信用(しんよー)も信頼もできると思うよ。むしろ時雨の鎮守府の件もそーだし、艦娘に手を出さない約束も守った」

 

 多分わたしが居たからだと思うけど。

 でも例え、わたしが居たから手を出さなかったとしても、約束はきちんと守ってくれた。

 何がどうあれ結果的にそうなったのだから、信用も信頼もできる。

 それにさ。

 

「わたしは白露たちが沈んで欲しくなくて演習を許可してたから。誰かを助けるということは誰かを切り捨てることって言うし。それと同じで、わたしは深海棲艦を切り捨てた。だから、こーして切り捨てた深海棲艦に助けて欲しいと言われたら、助ける義務があるってわたしは思う。もしこれもくだらないと切り捨てたら、わたしは悪雨たちのしれぇをやる資格ないよ。それとも悪雨は、わたしにしれぇを止めろって言う? 艦娘にも成りきれない醜悪(しゅーあく)な魔物にでも落ち下がれって言う?」

 

「テートク! ……ハァ、モウ好キニシテクレ。悪雨サンタチハソノ決定ニ従ウシ、付キ合ウゼ」

 

「ありがとー! 悪雨!」

 

 しょうがないとでも言わんばかりにため息をつく悪雨に、わたしは腕を回す。

 だから悪雨最高! 可愛い! 

 そんなわたしたちに軽巡棲鬼はにぃとあくどい顔をして見せる。

 

「大変ネェ」

 

「マァナ、ダガコノ頑固サガ心地インダ」

 

 悪雨も悪雨でわたしの頭をあやす様に叩いてから、同じようにわたしを抱き寄せてきた。

 何このイケメン! 最高! 最強! 可愛い! 

 わたしは悪雨に密着したまま、「子守リネェ」とか呟いてる軽巡棲鬼に問いかける。

 

「でも条件(じょーけん)は分かってる? 艦娘を許可なく攻撃(こーげき)しない、やむを得ない場合のみ反撃してもいい」

 

「構ワナイワァ。タダシ、後デヤムヲ得ナイ部分ノスリ合ワセハ行ワセテモラウワァ」

 

「うん? うーん? 確かに線引き分からないもんね! 悪雨、後でみんなを招集(しょーしゅー)して? 深く考えてなかった」

 

 改めて言われてみるとやむを得ない場面って何? ってなりそう。

 正当防衛、過剰防衛の定義ぐらい曖昧というか。

 わたしあんまり過剰防衛って言葉好きじゃないんだよね。

 元を正せば襲ってきた方が悪いのにね。

 相手から襲われるのを待ってる時点で手遅れの場合もあるしさ。

 わたしは悪雨から離れて立ち上がり、軽巡棲鬼に手を出そうとしたところで悪雨に止められる。

 

「待テヨ。招集スルノハ良イトシテ。少シハ警戒心クレェ持ッタラドウダ?」

 

大丈夫(だいじょーぶ)! 悪雨が居るから!」

 

「ナンモ大丈夫ジャネェヨ」

 

 分かってるよ。

 もし少しでも敵対の意思を見せてきたらわたしは容赦しないから。

 わたしの負う責任と義務は、あくまで切り捨てたことに対してであって、敵対されても許すって意味じゃないから。

 わたしは白ひげみたいにはなれない。

 でも大丈夫とも思う。

 なんて考えてると、御潮が艤装を抱えた状態で戻ってきた。

 

 わたしの艤装。

 

 御潮は艤装をわたしの隣に置くと、長い髪を指櫛でかき上げる。

 

「ありがとー! 御潮!」

 

 そして手を振るわたしに一度だけ振り返ると、玄関からこちらを覗き見てる雪月を引っ掴んでった。

 邪魔にならないようにかな。

 ありがとう。

 でも、ごめんね。

 せっかく持ってきてくれたのに。

 

 わたしは艤装を手に取ることなく、無防備に軽巡棲鬼へと手を差し出した。

 

「何ノツモリカシラァ?」

 

「こっちの(ほー)が良いかなって思って!」

 

「……ホント、馬鹿ハ困ルワァ」

 

 軽巡棲鬼はわたしの手を観るように眺めてから、わたしの手を取った。

 瞬間跳ねる。

 軽巡棲鬼の肩が。

 電流でも流れたかのように。

 熱々のヤカンを触ったかのような反射でわたしから手を放し、ブンブンと振ってた。

 

「何シタノヨォ!」

 

 何もしてないよ。

 わたしは普通に握手しただけだよ。

 静電気……にしてはわたしのところに来なかったけど。

 艦娘アレルギーとか? 

 ありえなくは無いと思うけど。

 世界には水アレルギーとかあるし。

 

 何も知らないと両手を振って弁明するわたし。

 あれ? 気のせいかな。

 軽巡棲鬼の顔から棘? が抜けてるような気がする。

 あの貫くような、全身から溢れてた悪意が消えてる気がする。

 

「悪雨!」

 

「ホイヨ」

 

 悪雨と手を握る。

 ……特に変わった様子はない。

 なんてことも無く悪雨と握手を出来てる。

 そのまま悪雨の中にすっぽり収まるよう座り込んでみるけど、やっぱり悪雨に変化はない。

 せいぜい悪雨に「テートク」と何か呆れるような声を呟かれる程度。

 ……流石に背中を倒すなんてのは勇気が無いから無理。

 

「ソウ、ソウイウコトォ。リ級」

 

 軽巡棲鬼の言葉を受けて、リ級も手を差し出してくる。

 握手? ……で、良いのかな? 

 わたしの手を握ったリ級は、さっきの軽巡棲鬼と同じように身体をびくつかせた。

 そして手を放した後、リ級は自分の手を眺めてた。

 軽巡棲鬼が言う。

 

「アナタニ触レタ途端、私ノ中カラ深海棲艦トシテ大切ナ、核ミタイナ物ヲ取ラレタノヨォ。艦娘ニ対スル憎悪、人間ニ対シテノ悪意、終ワルコトノナイ怒リト後悔、アラユル負ノ感情ガ根コソギ奪ワレタワァ」

 

「もー少し、分かりやすく」

 

「私ノ頭カラ余計ナ声ガ消エテスッキリシタ。ソウ言ッタノヨォ」

 

「つまり、今まで艦娘と出会うたびに沈めたいと思う衝動(しょーどー)が消えたってこと?」

 

「ソウ言ッテイルジャナイノォ」

 

 どういうこと? 

 わたしと握手をしただけでどうしてそんなことに? 

 ……深海棲艦から負の感情を生み出す核を取る。

 何かどこかで聞いたことがあるような? 

 

 そういえば確か天の声が、怨念は深海棲艦の仲間を増やすと取得量増えてくみたいな話してなかったっけ? 

 軽巡棲鬼はわたしをじぃっと不愉快そうな目で見てくる。

 

「ソレデ、教エテクレルワヨネェ? ドウシテアノガラクタ共ヲ強化シテ、私タチ深海棲艦ヲ、深海棲艦ノ提督ガ切リ捨テルニ至ッタノカ」

 

「テートク」

 

 悪雨が最終的な判断を仰ぎにわたしへ視線を送る。

 聞かれても困るものじゃないかな。

 むしろわたしがそんな秘密を隠せるとでも? 

 いやぁ、わたしの性格だよ? 無理無理。

 どうせ秒でボロが出るか、何かの言葉尻捉えられるかでGGだよ! 

 

 あははと無邪気に笑うわたしに、悪雨はひとつため息をついた後、「実ハダナ」と話し始める。

 白露たちとしたのとほとんど同じ話。

 わたしにはちゃんと明確な理由があって白露たちとの演習を飲んだこと。

 深海棲艦を沈めるのは心苦しかったから、ちゃんと説得の方はしてみたこと。

 

「シャーナカッタ。白露ノ姉貴タチノ話ニ乗ッタ方ガ、良イト判断シタ」

 

「ハァ……。ココニハ揃イモ揃ッテ馬鹿シカイナイノカシラァ?」

 

「アァ? ンダヨ、急ニ」

 

 軽巡棲鬼の物言いに悪雨は身を乗り出す。

 軽巡棲鬼はひとつため息をついてから、指を立てる。

 

「メリットヨォ」

 

「アァ、メリットダァ?」

 

「助ケガ欲シクナッタラ島ニ来イ。艦娘ハ沈メルナ。島ニ来レバ怨念ガアル。タダシ指示ニ従エ、ダッタカシラァ? 随分ト上カラ目線ナ物言イネェ」

 

「悪雨サンタチノ家デハコノルールナンダ。ルールヲ守レナイ──」

 

「奴ハ必要ナイ、カシラァ? 酷イマッチポンプ。初メカラ勧誘スル気ナイジャナイ」

 

 そうかな? 

 一応、軽巡棲鬼の意見は納得できる。

 けど、出来るだけでしょうがないじゃんって思いもある。

 

「怨念デモ渡シテ、島ニクレバモットアルトデモ言エバ良カッタノヨォ。コレナラ来ルメリットモ提示デキルワァ。ドウセ量産型ハバグ個体ヲ除イテ意思ナンカ持ッテナイワァ」

 

「バグ個体というと?」

 

「深海棲艦ハ意思ヲ持ッテイナイ野生動物、ソノ考エ方ハ正シイワァ。鬼、姫、水鬼ヲ除イテ、深海棲艦ハ意思ヤ思考能力トイウノヲ持ッテイナイノヨォ。イ級、ロ級、当然リ級ヤヲ級、レ級ナンカモソウヨォ」

 

「ヲ級とレ級もそーなの!?」

 

「量産型ッテ言ッテイルジャナイ。本能ハアレ、意志ハ持ッテイナイノヨォ。ココニイル量産型ハミンナバグ個体ミタイダケドネェ」

 

 そうなんだ。

 ……えっと、でも軽巡棲鬼の言葉が真であるなら、最初から勧誘は成功しないってことじゃ? 

 でもさでもさ、その説明だと納得できない現象がある。

 

「前鎮守府を一緒に襲った時、何百といた深海棲艦たちは、みんな鎮守府の沈められた艦娘って言ってなかった?」

 

「噓モ方便、ッテ訳デモナイワァ。一度釣リ針ニ掛カッタ魚ガ次カラ釣リ針ヲ警戒スルヨウニ、根底ニ植エ付ケラレタ記憶ハチャント教訓トナルノヨォ。ソウシナイト、イツマデ経ッテモ成長シナイジャナイ」

 

「艦娘から深海棲艦になっても記憶はあるんだ」

 

「コビリツイタ汚レハ簡単ニハトレナイモノヨォ。粘着物ハ特ニネェ」

 

 ……へっ、へぇー。

 逆に、深海棲艦の頃の記憶がある艦娘も……。

 って、それがアニメ版の加賀さんか。

 深海棲艦だったときの記憶があるだけで、深海棲艦の性質を持ってたわけじゃない奴ね。

 軽巡棲鬼がわたしを指さす。

 

「ソレト無能提督。毎日毎日、天カラ資材ガ降ッテクル、ダッタカシラァ?」

 

「そーだよ。怨念だけいつも足りないけど」

 

「燃料ト弾薬ガアッタラソレダケデ遠出デキルジャナイ」

 

「うん、だからいつも遠征(えんせー)はわたしが行ってるよ」

 

「木箱ハドコニ落チテクルノヨォ?」

 

「わたしの近くだよ。毎朝ね!」

 

「ダカラソレデ補給デキルジャナイノォ」

 

 ……い、いやでも。

 海のど真ん中に木箱を捨てるってのも。

 というより、そんなに遠い場所まで遠征に行くことは無いし。

 変色海域がどこにあるかもわからないし。

 何より。

 

「怨念はどうするの?」

 

「ソレコソ深海棲艦トノ交渉材料ニシナサイヨォ。鉄ハ遠征中ノ艦娘ニ渡シテ情報ヲ得ラレタンジャナイノォ? ボーキサイトナンテ、艦娘モ深海棲艦モ使ウ、絶好ノ交渉材料ジャナイ」

 

 それだと……、だから燃料と弾薬は自分で使えば遠出出来ると。

 雪月、御潮、それとイゴー。

 この三人なら怨念の消費量も最低限で済むし、それどころか軽巡棲鬼の言う通り余ると思う。

 

 マイクラで言うなら、オオカミに骨、メイドさんにケーキ、みたいな感じかも。

 軽巡棲鬼はまたも苛立ちでもぶつけるかのように床を踏みつける。

 

「情報、演習、資材。アナタハ自分カラメリットヲ投ゲ捨テスギナノヨォ!」

 

「……返す言葉も無いです」

 

 でも多分、同じ状況なら同じことをしたかもしれない。

 だってわたしはわたしだから。

 あの時ああすれば良かったは未来だから思えることだもん。

 

 軽巡棲鬼が悪雨に目を移す。

 その目に何の感情を孕んでるのかは分からないけど、どこか軽蔑を感じる。

 わたしじゃなく悪雨に? 

 ……どういうことなの? 

 

「アナタタチハ本当ニ、ソノ人間ノ野望ヲ止メル気ハアルノカシラァ?」

 

「わたしはあるよ。じゃないと、人間も艦娘も深海棲艦も滅ぶ、らしいから」

 

「ソノ前ニ深海棲艦ガ滅ビルワァ。深海側カラシテミレバ、アナタノ存在ハノイズスギルノヨォ。深海棲艦ニ襲ワレナイ癖ニ、情報ヲ艦娘ニ流スワ、艦娘ヲ強化スルワ」

 

「……うん」

 

「ソレデ自分ハドッチノ味方デモアルゥ? 妄言モソコマデ来ルト怒リシカナイワァ!」

 

「……分かってるよ」

 

「イイエ、何ニモ分カッテナイワァ! 友達ヲ作ルノハイイワァ。デモドッチノ味方デモアル。ナラ艦娘ト深海棲艦ノ戦イニマデ水ヲ刺サナイデホシイワァ!」

 

 隣で悪雨が軽巡棲鬼の言葉に反応する。

 舌戦が繰り広げられてる中わたしは思う。

 

 ぐうの音も出ない。

 軽巡棲鬼の言葉は正しい。正しいよ。

 わたしもそう思う時はある。

 わたしの性格じゃ潜入なんて真似できないから、情報を得るには艦娘頼りになる。

 その頼りにしてる艦娘を支援することは悪いことなのかな? 

 間違った選択ではないと思う。

 でも軽巡棲鬼の言葉も正しいとは思うから。

 今後は良く吟味する必要があるのかもしれない。

 

 それでも。

 こっちも譲れないものもある。

 

 正直な話、量産型が意志を持たないと知った時、わたしは切り捨てても良い物って判断してる。

 初めて会ったばかりの蚊や動物を殺すのと、初めて会ったばかりの人間を殺すのとでは話が違うから。

 いや、もしかしたら初めて会った人間ですら殺す選択をするかもしれない。

 その辺りわたしは冷たいと思う。

 

 いや、今必要なのは言い訳じゃない。

 わたしが何を想い、何を行動したのか軽巡棲鬼には関係ない。

 同様に、そのことについて謝っても軽巡棲鬼からすればやりきれないし、それは白露たちに対しても失礼だと思う。

 

 だからわたしは、軽巡棲鬼に口で押されてる悪雨の肩をタッチする。

 

「ンダヨ、テートク」

 

 少々苛立った声で言う悪雨に、わたしは交代を告げて下がらせる。

 再び前に出たわたしは軽巡棲鬼に頭を下げる。

 

「改めて、今回のことは謝る。ごめんなさい!」

 

「謝罪ガ欲シイワケジャナイワァ。私ハ、コレカラドウスルノカヲ聞イテイルノヨォ」

 

「うん、だから謝罪はもう終わりだし口にしない。だってわたしは、同じ状況になったら、今回とまったく同じ選択をとると思う」

 

 人の本質は変わらない。

 わたしはそう考えてる。

 ソースはわたし。

 どれだけ雑草の表面を整えても、根っこは変わらずそこにあり続ける。

 変わるのはあくまで表面的な意識だけ。

 根っこに根付いた無意識は無理。

 だってほらっ、馬鹿(わたし)は死んでも治らなかったじゃん。

 

「だから軽巡棲鬼、リ級も! 知識を貸して、それからわたしを諫めて」

 

「オイコラッ! テートクヲ諫メンノハ悪雨サンノ役割ダローガ!」

 

 悪雨はわたしの両肩を鷲掴み、揺さぶって主張する。

 軽巡棲鬼がにぃと口端を吊り上げる。

 軽巡棲鬼が何かを言う、その前にわたしから悪雨に弁解する。

 

「軽巡棲鬼はわたしたちには無い、深海棲艦の視点を持ってる。だから、深海側の意見としてわたしを止めて欲しーって意味で。悪雨を鞍替えするって意味じゃないから! 普段のわたしは悪雨に止めて欲しーからっ! そろそろ揺さぶるの止めて頭がくらきゅーする!」

 

 目が回る。頭が痛い。

 何かを考えようにも頭が回らない。

 脳が! 脳が揺れる! 

 

「大体テートク、コンナノヲ味方ニ置イテモ!」

 

「私ハイイワヨォ。今ノ私達ジャ、モウ深海側ニ戻レソウニナイモノォ」

 

「アァ?」

 

「言ッタデショォ? 深海棲艦トシテ大切ナ核ヲ奪ワレタノヨォ。ソレトモ深海ノ姫様ハエンジンノ無イ船ヲ海ニ放逐スルノカシラァ? コンナカ弱イ鬼ヲ?」

 

 軽巡棲鬼の物言いに悪雨はもう何度目かの舌打ちをする。

 鬼は別にか弱くないような……。

 一部の量産型が強すぎるだけだよ。

 というか場合によっては姫すら超えてくるじゃん、レ級とか。

 そもそも邪気そのものが弱いわけ……。

 イワシの頭、柊の葉、炒り豆……もしかしてそうでもない? 

 太陽に関しては一考の余地はあると思うけど。

 

 そもそも姫といえば女神を指す言葉として有名だけどさ。

 水鬼は確か……。

 

「悪雨サンハ認メネェ」

 

「アナタニ認メラレル必要ナンカナイワァ」

 

 悪雨の威嚇も軽巡棲鬼にしてみればそよ風程度にしか感じてないみたい。

 と、とにかくわたしは改めてふたりに手を差し出す。

 

「これからよろしくね、軽巡棲鬼、リ級!」

 

 *  *  *

 

「ミンナデ遠征! 楽シイネ! 楽シイナ!」

 

「雪月ー、隊列は崩さないでね」

 

「分カッテイルニャー!」

 

 楽しそうに前へ出ようとする雪月を窘めて、わたしたちはドラム缶両手に航海へと出てた。

 今日は少しどんよりとした曇り気味。

 もしかしたら雨が降るかもしれない。

 

 目的地は新潟から少し遠い海域。

 軽巡棲鬼曰く、そこにわたしたちが今一番に欲してるものがあるとのこと。

 あなたの性格的に交渉材料に持って行けって、人数分ドラム缶を手渡された。

 場所は大まか。

 

 何となく、どうせ理解できないでしょって言われた気分だった。

 うん、その通り。

 新潟県ってどこ? なわたしは速攻スマホに頼った。

 その速さたるや考え出してから約十秒にも満たない。

 地図を使える文明の利器様様だよね。

 

「ソウダゾ雪月! モットコノアタイヲ見習エ!」

 

 楽しそうにはしゃぐ雪月にイゴーはどやりと胸を張る。

 ひとり寂しいのは分かるけど。

 そんなところも可愛いから許す! 

 アズレンとか定期的に上がってきて、よく的になってるしね。

 ぶっちゃけ機雷より、勝手に浮上する方が厄介だったり。

 

 メンバーはわたし、雪月、御潮、そしてイゴー。

 目的が目的なだけに今回も深海棲艦が必要となってくる。

 遠征で潜水艦を起用するのって聞いたこと無いけど、無いわけではないみたいだからね。

 きりよく四人編成となってる。

 御潮がドラム缶を抱えてるの、妙な懐かしさが沸き上がる。

 見た目睦月型だからかな。

 

 御潮がわたしの見てるスマホを覗き込んでくる。

 見ても分からないと思うよ、一面海で何がどうなってるか分からないもん! 

 御潮はわたしの腕を抱いて、二本の指でスマホの地図を縮小。

 僅かなマップの色合いの変化から、進行方向が少しずれてるのにわたしは気が付いた。

 

 おっと、危ない危ない! 

 御潮が居てくれて良かったー! 

 

 御潮は何でもない風に隊列に戻ってった。

 どうでもいいけどさ、わたしの腕を抱く必要あった? 

 

「真ッ赤ナ海! 真ッ赤ナ海!」

 

「アタイハ赤イ海ニ興味ハ無イケドネ! フフン」

 

「赤い海も大事だけど安全第一(だいーち)!」

 

 クルクルと回るようにはしゃぐ雪月と、口ではああ言ってるけど見るからに身体を疼かせてるイゴー。

 御潮だけが時折わたしの隣からスマホを覗き込んではナビをしてくれる。

 地図読めない系だからほんと助かる。

 

「今回の任務は変色海域(かいーき)で怨念を取ってくること。それを忘れないように」

 

「ハーイ!」

 

「……」

 

「忘レルワケナイダロ!」

 

 そう、今回の目的は変色海域にて怨念の回収及び深海棲艦の勧誘。

 なんでこの先に変色海域があるのか。

 軽巡棲鬼は教えてくれなかった。

 何を聞いても秘密の一点張りだった。

 絶対何かあると思う。

 今のわたしには言えない何かが。

 

「司令官! 何カ面白ソウナ話ハナイニャシィ?」

 

「無茶振りだよ!?」

 

「ツマンニャイニャシィ! サァ雪月タチニ面白イ話ヲ献上シ、盛リ上ゲルゾヨ!」

 

 あの、わたし旗艦なんだけど。

 その前に提督だし。

 こういう時押さえつけるのは良くないよね。

 士気が下がるし。

 かといって軍事的な言葉を投げれるほど詳しくない。

 というか、何もない大海原に繰り出すのはわたしとしても、正直飽きてるし。

 えぇっと……じゃあせっかくだから。

 

「あくまでわたしの考察で良ーならだけど、ここはひとつ。深海棲艦の水鬼の元ネタはなんだと思う?」

 

「ムムム、水鬼、水鬼、水鬼ムムム」

 

「……」

 

「フフン、ソノ程度難問デモナイネ! ズバリ、鬼ヨリ強イダロ!」

 

 わたしの唐突な投げかけに雪月は頭を捻って悩む。

 御潮は興味無さげだけど耳は傾けてるみたい。

 それからイゴー、ドヤ顔で可愛いね。

 

「シンキングタイムは一分です!」

 

「ムムム、ムムムムム、日本神話関係ニャ?」

 

「うーん、そーといえばそーだし違うと言えば違う? そーだね、じゃあヒント! 鬼は邪気を表す言葉だよ。そして姫は女神を表す言葉である。コノハナノサクヤビメとかクシナダヒメとか豊玉姫とかね」

 

「ソレ言ッテ大丈夫ナノカゾヨ!?」

 

「元々水鬼の元ネタは? って問題だから大丈夫だよ」

 

 まぁ独自解釈ってだけだから答えはないよ。

 あくまでわたしの考察だからさ。

 大切なのは考えること。

 わたしは基本的に考えることを放棄してるけどね。

 

「鬼ガ邪気、ナラ水鬼ハ邪気ッテ簡単ナ話デモナイワヨネー」

 

 御潮が喋った!? 

 御潮の声初めて聴いたかも。

 

「うん、そーだよ。賽の河原の鬼とか、三途の川とか水が邪気を孕みやすい性質(せーしつ)を持ってるというのも否定(ひてー)はしないよ」

 

「アラー、前ニ雨ハ穢レヲ指スッテ聞イテタノニ。ウフ、モシカシテ答エサセル気ナイ奴カシラー?」

 

「バレた?」

 

「答エサセル気ニャイ!?」

 

 雪月が今にも肩を鷲掴んできそうなほど「ブゥブゥ!」と可愛らしく抗議してくる。

 個人的にはひとつの正解だけどね、水の邪気も。

 怨念とか幽霊は水に溶けやすいって怪談話では有名だからね。

 まぁだから身を清めるために滝行とかするわけでさ。

 流れた穢れの集合体、ともなれば水の邪気とも言える。

 けどこの場合は残念ながら水鬼だけじゃなく、鬼も当てはまるんだよね。

 

「実はね──」

 

「ウフフ、牛、ジャナイカシラー?」

 

「……………………正解(せーかい)

 

 これくらい何でもないとでも言いたげに御潮は髪をかき上げる。

 ……いやいや、待って待って! 

 自分で答えさせる気ないって言ってたのに、なんで正解するの!? 

 

「スゴイスゴイ! アノズルイ司令官ニ正解シタニャシィ!」

 

「マッマァ、アタイハ最初カラ気ヅイテタシ! 御潮ニ花ヲアゲタダケダシ!」

 

「アラアラ、前ニ似タヨウナコト言ッテイタジャナイ。覚エテナイナンテ可愛イワネ、提督」

 

 言ったっけ? 

 いや、虎は深海棲艦であるって言ってたような気もするけど。

 牛に関しては一言として言ってないような……。

 もしかして寝言!? 寝言で言ってた!? 

 一度でも考えたことがあるのなら、もしかしたら寝言で言ってたかもしれない。

 わたしの記憶には無いよー!

 あとイゴー、花を持たせただよ。

 

 と、とりあえず解説をしないと。

 

「も、元々水面は魔の存在が行き来する入り口と考えられてることもあってね。五行(ごぎょー)水行(すいぎょー)にもある通り、牛は水の霊獣(れーじゅう)とされてて。古くは力強さや知恵、病や怪我を治すともされてた縁起のいー存在なんだけど。深海棲艦化したことで、圧倒的(あっとーてき)な力や知恵を持って、人に禍を成す様になったと考えることもできる」

 

「アレー、司令官動揺シテルニャー?」

 

「そりゃ動揺(どーよー)するよー! 答えさせる気無かったんだもん!」

 

「シーレーイーカーン? 酷イ! 知識垂レ流シ!」

 

 いたた、痛い痛い。

 雪月が御潮に自分の分のドラム缶を預けて、わたしをポカポカ叩いてくる。

 ごめんごめん、今度からちゃんと答えられる問題にするよ。

 

 わたしは雪月の追撃から逃れるように、開設を続ける。

 

「牛という動物(どーぶつ)は、角の生えた存在として描かれるんだよね。角といえば鬼って部分でも繋がりがあるんだ。あとね、スサノオっていうマザコン、近親、えっとすっごく強い神様と同一(どーいつ)視されてるって説もあってね。そういった部分からも牛や水牛は水鬼とイコールで結べてしまうんだよ」

 

 日本神話は人によっていくらでも解釈が増えるから面白いよね。

 スサノオってどう説明すれば良いんだろ。

 八岐大蛇が解釈によって龍にも蛇にも変わるし、使ってる武器十束剣であって天叢雲じゃないし。

 倒し方も八塩折りの酒で眠らせて不意打ちだし。

 剛力無双とは言いにくいよね。

 そりゃ、八つ首を一度に斬り落としたともいえるけどさ。

 そもそもスサノオって天叢雲剣使ってたことあったっけ? 

 わたしの記憶じゃ手に入れただけで使ってた記憶ないんだよね。

 うん、天叢雲剣はヤマトタケルだよね。

 

 話を戻して、知ってたらそりゃ水鬼強いよねってなる。

 何も知らない人からすると、鬼は邪気、姫は女神、水鬼は牛ってなるんだよね。

 牛をスサノオと仮定すれば、逆説的に水鬼全員が海や嵐の神様であるスサノオの一面を持ってるって考えることもできる。

 つまり水鬼はスサノオである、と考えることもできる。

 なにこれ、宇宙を灼く炎に灼かれたからカーマは宇宙そのものであるみたいな話になってきた。

 

 これをどう捉えるか、聞いてみたくはあるんだけど……。

 

「ソレニシテモ牛ッテ奴ハスゴインダナ! アタイミタイダ!」

 

「ハイハイ司令官! ソモソモ牛ッテ何ニャシィ?」

 

 だから答えられるはずがないって思ってのになぁ! 

 この話、白露たちにした方が反応面白かったかもしれない。

 聖杯のマナー講師よろしく、ある程度知識は持った状態で生まれてくるみたいだけど。

 いくら牛が水に関すると言っても、海に牛がいるわけじゃ……。

 あれ? 

 御潮がわたしの話に突っ込む。

 

「デモソレ、別々ノ歴史ジャナイカシラ? 提督ノ話、面白イケド解釈ガ多スギルワ」

 

「日本神話は解釈次第だからね。何なら分霊っていう神様の分身も作れる。土地によって信仰(しんこー)も違うし、外国からの移入(いにゅー)情報(じょーほー)が増えるのも良くあること。わたしはそのすべてを網羅(もーら)してないから、基本ぐちゃぐちゃになってるよ」

 

 神聖な生き物の数多すぎるし、ご利益も多いし、まさに八百万。

 だからわたしの話もあくまでひとつの解釈に過ぎない。

 今更この世界に居る水鬼はみんなスサノオですって言われても驚きはしない。

 だって水鬼といえば、確か平安の豪族が持ってた四鬼の名でもあるからね。

 掘り出したら多分きりないよ。

 それはそれとして。

 

「ありがとー御潮! 御潮だけだよ! わたしの話を面白いって言ってくれるのー!」

 

 わたしはドラム缶を海面に置いて御潮に抱き着きに行く。

 ほんと、ほんとにありがとね!

 例え嘘でもわたしは嬉しいよー!

 雪月が不満そうに唇を尖らせる。

 

「エェ! モット簡単ナ話ヲ所望スルゾヨ!」

 

「じゃあ海面に纏わるとある妖怪(よーかい)の話でも」

 

「オォー! パチパチパチ!」

 

 なんて海に沈んだドラム缶をイゴーから受け取り、噺家気分で妖怪の話を始めてからそろそろ何時間経つだろうか。

 空はすっかり曇天と化してて、言霊じゃないけど今にも妖怪が出て来そうな雰囲気。

 黒く厚い雲の内から、今にも良くない者の白い手が伸びてきて、漁船を握り潰してきそうなほどの。

 わたしはここいらで話を切り上げる。それからみんなに、もうすぐかもしれないと指示を出す。

 少しの間滑走してると、赤い海が見えてきた。

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