雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして? 作:氷水メルク
転生してから七回月が空に上がりました。
現在、わたしは川で身体を洗っています。
石鹸やシャンプーは無いので、水で流す程度です。
髪の毛がベトベトにならないだけマシですかね。
「さぶいです……」
潮風と水のダブルパンチに、わたしは身体を震わせる。
人間だったら急激に体温を奪われている。風邪をひくのかなと容易に想像できる。
木漏れ日が差し込む。
わたしはくしゃみをひとつ。歯をガチガチと合わせる。
「何とも言えませんね」
自分とはいえ、雪風の身体。
胸とかあそことか若干申し訳ない気持ちになります。
転生してから七日目。
サバイバル生活には慣れましたが、女子の身体というのは未だに慣れません。
意識は身体に引っ張られているせいでしょうか。
最近は心でもわたし呼びが定着しました。
わたしはPT小鬼群から渡された雪風の制服、深海棲艦バージョンに袖を通す。
水で洗って干すだけですが、同じ服を着続けるのは辛いですからね。
裸のままで過ごすと、風邪を引きそうですし。何より虫が穴に……嫌な想像に身を震わせる。
わたしは着ていた服を洗い、物干し竿に引っ掛ける。
物干し竿も布地はPT小鬼群が一晩で作ってくれました。
木で骨組みの作成。
わたしが遠征に出て集めた布地に葉っぱを入れて、簡易的なベッドに。
服は何度艦娘と同じ色合いの服を作ってと頼んだでしょうか。
その度にワルサメカラーが出てくるので諦めました。
帰りの途中で食べられる木の実は回収しておきましょう。
人というのは不思議で、どんな環境でも割と適応できる。
最初こそ見た目化け物のイ級とPT小鬼群。今は居てくれてよかったと思えます。
この二人がいるおかげで寂しくありません。
どっちも感情豊かなので自然と愛着も湧きました。
PT小鬼群は宣言通り、立派な豆腐建築をしてくれた。
現在では、雨風海風に苦しめられることなく衣食住の暮らしを出来ている。
……海風って艦これに居たような? 磯風、浜風、天津風と同じ陽炎型? 風だし。
まぁ、それはそれとして。
「そろそろ人型艦が欲しーです!」
わたしは勢いよくドアを開け、建物内にいるPT小鬼群に声を掛けた。
イ級とPT小鬼は同時にわたしの方へと振り向いてくれた。
「人型艦を
わたしはもう一度PT小鬼群に詰め寄り意見します。
孤独感を紛らわせることができますが、このメンバーは会話ができない。
何を話してもジェスチャーで返されるため、正直分かりづらい。
他にも人型が欲しい理由はある。
この艦隊、提督のわたし含めても駆逐艦しかいない。
PT小鬼群は妖精という立ち位置で出撃できない。
艦娘と敵対するつもりはありませんが、わたし以外深海棲艦。
何かの間違いで艦娘に見つかり、砲雷撃戦に発展する可能性は十分にある。
なので島やPT小鬼群を防衛するための艦は欲しい。
空母、戦艦、贅沢は言わないのでせめて軽巡、重巡辺り。
わたしはこの日のために貯めた資材をPT小鬼群に渡す。
渡された鉄、弾薬、ボーキサイトを見て、PT小鬼群は何を思ったのか首を横に振ってくる。
「お願いします、人型艦をください! リ級でもいーので」
今のわたしの頭の中はとにかく人型艦が欲しい気持ちでいっぱいだった。
一刻も早く、とにかく建造してほしい。
PT小鬼群は渡された資材を渋々といった様子で受け取った。
「贅沢なら別の艦でもいーです! 今は新しー仲間が欲しーなーって」
今度はPT小鬼群もサムズアップしてくれた。
五匹単位で別れて、木箱から怨念を取り出した。
そういえば深これの資材は、怨念をクラフトして作りましたね。
ごめんなさいと謝るわたしに、PT小鬼群は気にすんなとサムズアップ。
やっぱり優しい。
あの怨念、持っていると精神の支障をきたす。
前にもう一度持ちました。その時も頭が恨み言に包まれて大変でした。
あの怨念は恐らく艦娘を深海棲艦にさせる道具なのでしょう。
なのでそれ以来、わたしはPT小鬼かイ級に怨念を持たせるようにしています。
さて、ここからは建造の時間。
怨念は艦これの燃料と同じように、毎日過ごす中で一番多く貰える資材。
多少減っても、そこまで問題ではない。
「人型の艦来てください!」
改めてそう告げてみると、PT小鬼は腕を横に伸ばして敬礼を行った。
レ級の敬礼みたいです。
建造が始まって一時間くらい。
初日のイ級と同じように、深海色の光が収まる。
輪郭が浮かび上がる。
人の身体。
人の身体が見える!
けれど、なんででしょう?
まるで、正体を現したミミックみたいで。
人の身体は、でっかい歯と歯の間にある。
特に目が行くのは上部に取り付けられたでっかい艤装。
腕のような関節はあれど頭が無く、胸から下は艤装に飲み込まれていた、
「ホ級?」
軽巡ホ級はわたしの姿を見つけるや否や、その腕で抱きしめてくる。
痛い。
頭があの白い歯の部分に当たって痛いです!
人型が欲しいとは言いました。
言いましたけど!
無駄に人に近づけたせいで余計に怖いです!
「何か話してみてください」
それでも、それでも何か意思疎通できる言語があれば。
言語があればまだ妥協できます!
ホ級は何やら腕を振り回し、何かを伝えようとしてくる。
「シ……ズ……メ……?」
「雪風は沈みませんから!」
生まれて一番初めの言葉が沈め。流石は深海棲艦って感じですね。
ともあれ、初めて言語を話せる深海棲艦に会えました。
やったー! 嬉しい!
言葉については勉強させましょう! 初めから全部うまく行ける人はいません!
赤子に言葉を教えるのも、提督の務めですからね!
それはそれとして、諦めきれずにPT小鬼にもう一回だけ建造を頼みました。
生まれたのは駆逐ロ級でした。
うん、なんとなく分かっていた。
追い単発は絶対に爆死する。
* * *
それは突然のことでした。
いつもと何かが違う。
長年田舎に住んでいるお爺さんが、なんとなく空気の違いに気づいてしまうかのような。
そんななんの根拠もない直感。
魚を取りに海岸に向かっていたわたしが目にしたのは、海の向こうから滑ってくる少女。
長い黒髪とおさげ。特徴的な髪飾り。
もしかしてあれは……時雨?
間違いない! 時雨。
服はあちらこちらが破かれている。艤装なんか火を噴いて燃えている。
いけない! もしかして大破している!?
命からがらといった様子で、二歩三歩歩くと時雨は砂浜に崩れ落ちる。
「だ、大丈夫!? 時雨!」
すぐにでも時雨に駆け寄りたかった。しかしわたしは自分の役目を思い出して冷静になる。
わたしは深海棲艦を指揮する。時雨の、艦娘の敵。
イ級と時雨、どっちを助けるかと問われれば、転生前なら時雨と答えた。
けれどずっと暮らしていくうちに、わたしはイ級たち深海棲艦に愛着が湧いて……。
そんな戯言は後でいくらでもしましょう!
わたしは時雨へと駆けていく。
肩に手を掛けようとすれば、艤装からたくさんの妖精が飛び出してくる。
『艦娘?』
頭に直接届く、思念波のようなものが飛んでくる。
恐らくは妖精からだろう。妖精は喋れるんですね、羨ましいです。
「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です! 安全な場所に運びます!」
妖精たちは何やら手振り、身振りで話し合いを行うと、やがて艤装へ引っ込む。
わたしは豆腐建築にまで時雨に肩を貸す。
イ級とかPT小鬼群とかいるけど、大丈夫だろう。
「雪風?」
時雨はおぼろげな表情でわたしを見上げ、一言だけそう呟いた。