雪風に転生しました。これより深海棲艦の指揮に入ります! ……どうして? 作:氷水メルク
さて、どうしましょう。
とりあえず艤装を外させましょう。
うちの深海棲艦を攻撃されると困る。
なんてことを考えているのも艦娘という不思議な話。
「入渠するので艤装を外せませんか?」
『いいよ』
ガチャンガチャン音を立てて、時雨から艤装が剥がれ落ちていく。
良かった、見た目は艦娘ですからね、わたし。
認識阻害で周りからは深海棲艦に見えているとかもないみたい。
「それじゃあ拠点について来てください。艤装も一緒に」
わたしは妖精を引き連れて、再び時雨に肩を貸して拠点へと戻る。
「ただいま!」
わたしが声を出して玄関を開ければ、くつろいでいた深海棲艦たちが一斉に振り向く。
うーん、この一瞬はまだ怖い。
またもガチャンガチャンと重たい物が落ちる音がしました。
重たい物の正体は時雨の艤装。
えっちらおっちら運んできていた妖精たちが、時雨の艤装を落としたみたい。
その目は深海棲艦たちに釘付け。
深海棲艦は時雨を目にするや否や攻撃態勢へと移行。
「待って! みんな待って! 休んで!」
わたしは慌てた調子で時雨を庇うようにして正面に立つ。
そりゃ、元ネタの深これだったら艦娘を沈めるのは正しい行為ですけど。
今は知りたいことが山ほどあるから攻撃をしないでください。
『騙したの?』
下にいる妖精たちから恐怖交じりの思念波が飛んでくる。
違……くはないけど!
わたしは指を五本立てて、その場で宣言する。
「五分、何も言わずに
わたしは妖精たちに深海棲艦を連れているけど、敵ではないと伝える。
それからわたしのベッドに時雨を降ろす。絶対に変なことをしないのを条件に、妖精たちを付き添わせる。
艤装はPT小鬼群に渡しておく。
絶対に壊さないでよ?
絶対だからね?
絶対に壊したらダメだからね?
これだけ修理だけしてよと釘を刺せば、問題ないだろう。
たまに深海棲艦みたいな見た目にしてこようとしてくるからね、うちのPT小鬼群。
怨念を混ぜなければ普通の資材だから。それで修理できるはず。
じゃないと雪風の艤装も修理出来ないから。
それから深海棲艦たちには、艦娘たちに攻撃されない限り、攻撃してはいけないと指示する。
今後と付けないのは、この指示が変わるかもしれませんので。
寝かせた時雨の返答次第で。
だっておかしい。
ひとり艦隊は。
レ級ならまだしもさ。駆逐艦一艦だけだし。
考えられるのはひとりだけ撤退した。ひとり出撃をさせられた。ひとり以外全艦轟沈した。
……意外と考えられることは多い。それでもまず話は聞いてみたい。
思えばこの海域、軽巡棲鬼いますね。
そんな場所にひとりで出撃させるかなぁ……。
あの子、艦娘は問答無用って感じだし。
でももしかしたら、この世界の艦娘はライダーの技とか放ったり、スタンドとかを持っていたりみたいなこともあるかもしれない。
転生する前に見ていた作品だとグングニルとか、時間停止の能力とか。
それこそトランザム! とか。
知識が艦これMMD!
そうじゃなくても、時雨。雪風と同じ幸運艦。確か同じ部隊でもあったっけ。
ならどんな危険海域でも生き残れる可能性はある。
考えていたって仕方ない。
時雨が目を覚ますまで、わたしに今できることをやっていかないと。
わたしは時雨のとこまで戻る。未だ警戒態勢を解かない妖精たちに声を掛ける。
「
『敵なの?』
「その質問は難しーですね。敵と言えば敵。味方と言えば味方? そちらが
今はそうとしか言いようがない。
敵じゃないとか気楽に言えるものじゃありません。
妖精たちはしばし自分たちで何かを話し合っている。
そのうちの代表者と思しき妖精が一歩前へ踏み出た。
『水と食べ物』
「分かりました。
毒とか盛られないように監視員は欲しいと思う。
深海提督の言葉は信用できませんから。
妖精たちはまたも話し合いを行い、さっきの代表者が再び前に出る。
『行く』
「それじゃあ行きましょーか!」
わたしは妖精に手のひらを差し出す。
妖精はわたしの手のひらにぴょこんと飛び乗り、次にわたしの頭の上に飛び移った。
* * *
わたしは川に水を汲み、森で食べられる木の実を採取する。
せっかくなのでロ級を連れ出す。
ロ級はイ級と違い、クールな性格らしい。
あまりわたしに過度な接触をしてこない。
相変わらず喋らないので、会話はこちらが主体となる。
わたしが一方的に話しかけるだけですが。
どうやら深海棲艦同士なら会話できるみたい。
艦娘のわたしはひとり仲間外れで寂しい。
また軽巡棲鬼に会いに行こうかな。絶対嫌な顔するに違いない。
「時雨はどーしてひとりなの?」
帰りの道中、わたしは頭の上にいる妖精に聞いてみる。
考えてみれば、何か知っているのでは?
『逃がされた。白露型のみんなに』
白露型のみんなに逃がされた?
追い出されたならまだ分かる。
逃がされたってことは鎮守府からかな。
待遇が良くなかったのだろうか。
それとも……やっぱり。
わたしが潰すべきブラック鎮守府の話かな。
* * *
「起きたみたいだね!」
看病の続きで自分の部屋に入ってみると、時雨はベッドから上半身を上げていた。
わたしを見て、見開いた。どこか虚ろで光を映さない瞳を。
なんというか壊れた人形のように、時雨はぎこちなく笑う。
「雪風。夢じゃなかったんだ。ありがとう」
「
わたしはよいしょと床に食料と水バケツを置く。
時雨の近くに椅子を置いて腰を降ろす。
「もう少し寝てても良ーよ!」
「それじゃあその、お言葉に甘えて」
そう言ってわたしを見る時雨の瞳はどこまでも闇に濡れていた。
僅かに眉を顰める態度からは、どこか恐怖のようなものすら感じ取れる。
わたしを人間だと思っているのだろうか。
艤装は大破、心の傷も相当根深いようだ。
ドタバタと入り口の方が騒がしくなる。
少しして物音はぴたりとやんだ。
ぎぃー……と、重くゆっくりと扉が開いていく。
伸びてくる。
白い腕が。
暗闇。
引き摺るように現る身体。
白い灰の肌。
頭は無い。
黒曜石のように黒い。
また腕が伸びる。
がっしりと壁を握った。
ドアの隙間から。
わたしよりも大きい身体が。わたしより大きい口が。
歯をガチガチと鳴らす。
「シ……ズ……メ。シ……ズ……メ。シズメ」
程よく通る声。
無機質で。感情は見えない。
身体をこすりつけて、無理やりにでも通ろうとする。
ギシギシギシっと、
壁が軋む。
……何してるの? ホ級。
壁が壊れるから止めてって何度も言ったのに。
わたしはもう何とも思わないよ。真っ暗闇の中で良くその姿を見ているから。
でもこの場には時雨がいる。初めてでその登場は、わたし的に良くないかなって。
ホ級の身体が横に押しのけられる。
ドアの隙間。イ級が覗き込んでくる。
深海色の目。身体を捻じ込むようにこちらを見てくる。
止めて!
ホ級だけならまだしも、イ級まで来たらドア壊れちゃう!
あなたたち、MMDサイズじゃなくてアニメサイズなんですから!?
「深海棲艦!?」
時雨は手をぐっと握る。
しかしその手に艤装はない。
いくら迎撃態勢を取っても時雨に攻撃手段は無い。
わたしは立ち上がってイ級たちに手を振る。
「今は大事な話をしてます! 後で遊んであげますから。今は待っててください!」
イ級とホ級はわたしの言葉に応じるように、その場から姿を消した。
病人を驚かせてどうする、まったく。
今更ですね。
わたし、深海提督だし。
「PT小鬼群! PT小鬼群はいますか!」
変わるようにしてPT小鬼の顔がひょっこりと姿を現した。
手には時雨の艤装と工具が握られている。
妖精をひとりか二人付けるべきだっただろうか。
「時雨の艤装を直すのに、どれくらい時間が掛かりそーですか?」
わたしはしゃがみこんで尋ねる。
PT小鬼は少し考えるかのように天井を見上げ、指を二本上げた。
二時間くらいかぁ。
掛かり過ぎかなぁとか思ったけど、この鎮守府(仮)には入渠施設、クレーンとか無いからなぁ。
……あぁ、だからか。
大型建造できないの。
今度、ちゃんとした建造施設を作ろう。
わたしは妖精たちに声を掛ける。
「妖精さんたちなら、修理は早く終わりそう?」
質問に答えるようにわたしの頭にいる妖精から思念波が届く。
『整備できない』
聞けば整備班、攻撃班、技術班と妖精でも色々と分かれているらしい。
それもそうかとわたしは納得する。
妖精だから何でもできると思っていた。
そりゃ分野ごとに得意、不得意があっても不思議ではないですね。
『時雨は起きたよ。あなたは誰なの?』
今度は妖精の方から質問が飛んでくる。
時雨の状態は芳しくないけど、意識があることには変わりないか。
じゃあとわたしは改めて自己紹介を行う。
「わたしは雪風、陽炎型駆逐艦8番艦の雪風! そして深海棲艦のしれぇでもあります!」
「どうして雪風! なんで深海棲艦の提督なんかしてるの! 深海棲艦を倒すのがぼくたち艦娘の!」
信じられない、絶望の表情で時雨が叫ぶ。
普通の艦娘の反応だなと思う。
「そこには深いわけがあるの! 簡単に言えば……そう成り行き! でもでもわたしは艦娘を沈める気とか無いよ! ちょっとした目的のために動いてて」
「その気が無くても、雪風はぼくたちを裏切ったんだね」
「しょーがないじゃん! 朝目を覚ましたら神様に君、深海棲艦の提督ね! ブラック鎮守府沈めてきて! 必要あれば人間殺して艦娘沈めて良ーよ! って言われたら! 時雨ならどーしますか?」
「ぼくなら沈むよ! 君だって……。いや、ごめん。それは中々に災難だったね」
深海棲艦の提督をするくらいなら自害するって、中々物騒な発言ですね。
そういえば日本兵は敵に手を差し伸べられたら、手榴弾で返すと習いましたね。
敵の手落ちるくらいなら華を咲かせるのが、艦娘側は普通なんですかね。
その割に敵兵には優しい逸話多くありますよね、日本兵。神風特攻とかしたのに。
時雨は覇気のない顔で尋ねてくる。
「ブラック鎮守府って」
「簡単に言えば艦娘に酷いことをする鎮守府。大破進軍当たり前、轟沈、慰み者、
時雨はまたも目を大きく開く。
嘘を付いても仕方がないからね。
妖精たちも手や足を上げて驚いている。
今更ながらに分かったけど、だから深海棲艦の提督なのね。
ブラック鎮守府に仇名す存在だから。
大丈夫? 雪風にだけヘイト向かってない?
「何があったのか聞いても良い? 時雨」
わたしは背もたれを前に、両腕を乗っける。
その前に喉も乾いているだろう。
わたしは床に置いた飲み水の入ったバケツを持ってきて、時雨に柄杓を渡す。
時雨は感情のない目で柄杓に入った水をじっと見つめる。
わたしは時雨から柄杓を引っ手繰り、中の水をそのまま飲み干す。
「それとも深海に堕ちた艦娘は
深海棲艦の指揮官をしているって言わない方が良かっただろうか。
もしかすれば毒を盛られていると考えられた可能性もある。
この場に深海棲艦がいる時点で、それは無理か。
もう一度水を汲んで柄杓を渡すと、今度は飲んでくれた。
「じゃあもう一度、何があったか聞いてもいー?」
「聞いたら。聞いたらぼくたちを助けてくれる?」
「そのために話を聞くよ!」
時雨はなんてことの無いように、あっさりとぽつりぽつりと話し出す。
それはわたしの予想をはるかに通り越した、ブラック鎮守府の実情だった。