召喚されたのは……   作:猿野ただすみ

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盾のヒロイン(マシュではない)


バーサーカー

アインツベルン。1000年の歴史を持つ、錬金術に特化した魔術師の一族。彼らは今、一族の悲願[第三魔法の再現]の為、第五次聖杯戦争への参加のために[英霊召喚の儀]を執り行おうとしていた。

しかし今回の儀式には、不測の事態がついて回っていた。何しろ手配した触媒が、ことごとく回収不能に陥っていたのだ。ある物は盗難に遭い、ある物は事故による消失。挙げ句の果てには偽物を掴まされたりもした。

遂には触媒の使用を諦め、召喚の儀を執り行うこととなったのだ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

 

魔法陣の前に立ち詠唱をするのは、十代前半と思しき銀髪の少女。本来ならば彼女の手を煩わせることなく召喚されていたはずだったのだが、触媒が無い以上、少女との相性を優先させることにしたのだ。

 

「告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者」

 

と。ここで、本来は無い文言が付け加えられる。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

汝、狂乱の檻に囚われし者。

我はその鎖を手繰る者」

 

これは意図的に、英霊に割り当てられた七つのクラスを限定するためのもの。限定して呼び出せるのは七クラスの内二つのみ。一つはアサシン。そしてもう一つが、今呼び出さんとしているバーサーカーだ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

少女の詠唱が終わり、魔法陣から光が溢れ…。

 

「サーヴァント・バーサーカー、真名メイプルです。あなたが私のマスターさん?」

 

なんと、狂化が付与されているはずのバーサーカーが、自己紹介をしてきたのだ。その英霊は、狂化など微塵も感じさせない、黒い鎧と黒い盾を持った、黒髪の小柄な少女だった。

マスターである少女はしばらく呆然としていたが、やがて正気を取り戻す。

 

「え、ええ。私があなたのマスターである、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

毅然とした態度で言うものの、未だ衝撃が抜けきってはいないようだった。

 

「ふうん。イリヤスフィール…、イリヤちゃんか。よろしくね、イリヤちゃん」

 

 

 

 

 

「お前は一体何なのだ!」

「……え? 何って何の事?」

 

召喚の儀からしばらく経ったある日。アハト爺ことユーブスタクハイトが、堪忍袋の緒が切れたとばかりにバーサーカーへと食ってかかった。その理由がわからないバーサーカーはキョトンとしている。

 

「お前は召喚されてから、毎日々々イリヤと遊んでばかり! 」

「えー、だってイリヤちゃん、同年代の子と遊んだことないって言ってたし」

「それはサーヴァント風情が気にかけることではない! それと主に対して『イリヤちゃん』などと、馴れ馴れし過ぎるわっ!」

「でもイリヤちゃんは喜んでくれてるよ?」

 

どうやらバーサーカーは、言動を改める気がないようだ。苦虫をかみつぶしたような顔をするユーブスタクハイト。それでも苦言を続ける。

 

「次にお前は、何故毎食しっかり食事を取る!? お前には必要のないことだろう!」

 

召喚された英霊は魔力供給で存在を維持しているため、食事を取る必要などないのだ。

 

「だってこの体なら、いくら食べても太らないから」

「ふざけているのか!?」

 

もちろんバーサーカーはふざけてなどいない。太らずに美味しい物を好きなだけ食べられるなんて、なんと素晴らしいことか。バーサーカーは本気でそう思っていた。

 

「そもそも! 何故バーサーカーがまともに意思疎通できるのだ!」

 

そう。ユーブスタクハイトにとって、これが一番の悩みの種である。

イリヤにバーサーカーのステータスを確認してもらったところ、確かに狂化はかかっていた。ただしランクはE。プラス・マイナスの補正を除けば、最低ランクである。

 

「えっと、召喚された日に言ったよね? 私は普段、狂化がかかってないって。ステータスには便宜上、最低ランクで表されるけど。

私が狂化を付与されるのは、宝具を発動したときだから」

 

バーサーカーは二度目になる説明をする。もちろんユーブスタクハイトもそれは理解している。だが、納得はいっていない。そんなジレンマを抱えていたのだ。

 

「……もうよい。だが、お前の実力は未だに未知数だ。故にお前には、イリヤと共に試練を受けてもらいたい」

「……試練?」

 

 

 

 

 

翌日。バーサーカーとイリヤは、雪原の中に放り出された。目的はアインツベルン城に戻ってくること。

 

「うーん、私は英霊だから何ともないけど…」

 

そう言ってイリヤを見る。防寒着は着ているものの、小柄なイリヤでは体力も持たないだろうし、体温も長くは保てないはずだ。

 

「なかなかハードなクエストだよね」

 

バーサーカーはふむと考える。

 

(この辺りには野獣も多いみたいだし、早く戻りたいトコだけど、イリヤちゃんの体力からすると強行軍は難しいよね。かといって()()になると、イリヤちゃんの魔力消費量が大きくなるし。

……せめてシロップが呼び出せればなぁ。ライダーで召喚されなかった自分が憎い)

 

内心で愚痴を溢すが、無い物ねだりをしても始まらない。

 

「とにかく行こうか。幸い方角はわかってるし」

 

そう言うとバーサーカーは目の前の空間に、半透明のディスプレイを展開する。その画面には一帯の地図が表示されており、アインツベルン城の位置も記されていた。

バーサーカーがそっと手を差し伸べると、イリヤはその手を掴む。そして二人は歩き出した。

 

 

 

 

 

やがて日が傾き、雪原が赤く染まる。

 

「うーん、これは野営しないと駄目かな?」

 

バーサーカーとしては望ましくない状況になってきた。

 

「野営って、いくら厚着してても、さすがに死んでしまうわ」

 

イリヤが言うことはもっともである。それに。

 

くうぅ…

 

イリヤのお腹が鳴った。

 

「……うん、仕方がないね。イリヤちゃん、少し…ううん、結構魔力使うけど我慢してね?」

「え?」

「宝具解放!」

「ええっ!?」

 

初めて見たバーサーカーの宝具に、驚きを隠せないイリヤだった。

 

 

 

 

 

「いやー、ごめんね? 狂化付与で、少しはっちゃけちゃった」

 

大きな[かまくら]の前で、頭の後ろに手を当てて謝るバーサーカー。一帯には大小様々な窪みが出来ている。宝具発動状態ではしゃいだ結果である。

イリヤはバーサーカーをジト目で見ていたが、やがて小さくため息を吐いた。

 

「……まあ、いいわ。ともかく今日は、この雪洞でビバークする訳ね?」

「うん。それと…」

 

バーサーカーは、イリヤも既に見慣れたパネルを開くと、何やら操作を始める。すると何もない空間から、マッチと木の皮をほぐした物、そして薪が現れた。

 

「ふふん、アインツベルン城でくすねて、インベントリにしまっておいたんだ」

「くすねてって…」

 

再びイリヤが、呆れた眼差しでバーサーカーを見る。

 

「だ、だってユーブスタクハイトさん、試練とか言ってたから、一応野営の準備しておこうかと…」

「ふーん。でもよく、サバイバルだと思ったわね?」

「え、だって戦闘特化のホムンクルスでも、さすがに英霊に勝つのは、最弱相手でも難しいよね? でも、他の英霊を呼ぶなんてもっと難しいと思うし」

 

そう答えるバーサーカーを見て、ただ呑気なだけではないのだと認識を改めるイリヤだった。

 

「わかったわ。それじゃあさっさと雪洞に入って、体を休めましょう」

「そうだね。あ、それとこれ」

 

そう言って差し出したのは、パンとワインとチーズである。

 

「こんな物まで…」

「うん。インベントリの中は時間があって無いみたいなもんだから、食べ物もそのまま保存できるんだ」

「……何だか便利ね?」

「でしょ?」

 

その様な会話を交わしながら、二人は[かまくら]の中に入っていった。

 

 

 

 

 

翌朝。バーサーカーから渡された寝袋に包まれ、目を覚ましたイリヤ。

 

「あ、おはようイリヤちゃん。朝ご飯食べたら出発するよ」

「……ええ、わかったわ」

 

答えたイリヤはしかし、何だか様子がおかしかった。

 

「イリヤちゃん? どうかしたの?」

「……いいえ、何でもないわ。さあ、早く食事にしましょう?」

 

そう言うイリヤからは、先ほどの違和感は感じない。疑問は残るものの、今は試練を突破するのが先と、バーサーカーは一端考えを引っ込めた。

 

 

 

 

 

再び城を目指して歩き始めた二人。すると程なくして、周囲から殺気が感じられた。

 

「……どうやら、囲まれちゃったみたいだね」

 

バーサーカーの言葉が引き金になったわけではないだろうが、周囲の木々の間から、オオカミの群れが姿を現した。

 

「イリヤちゃん。防御の結界は張れる?」

「ええ。そのくらいなら」

「O.K.! それじゃその間にオオカミは倒しちゃうから」

 

そう言ってバーサーカーは一歩前へ飛び出し。

 

「挑発!」

 

スキルを発動させてオオカミ達を引きつける。

 

「えっと、毒竜は周りを汚染しちゃうから…」

「汚染って…」

 

イリヤは小さな声で突っ込むが、バーサーカーはそんな事は気にしない。

 

「捕食者!」

 

新たなスキルを発動させ、悪魔チックな何かを召喚させると、それが無作為にオオカミ達を攻撃し始める。それに合わせてバーサーカーも、オオカミにめがけて盾を振るい。

 

「悪食!」

 

スキルを発動させると、オオカミが光の粒子となって盾に吸い込まれた。

一方のオオカミもバーサーカーに噛みついたり爪を立てたりするものの、当のバーサーカーは涼しい顔である。

 

「……まさに傍若無人ね」

 

イリヤは呆れたように、その様子を見ているのだった。

 

 

 

 

 

数分の後、オオカミ達は一掃された。

 

「よし。これで魔力リソースも充分だし、悪食も念の為2回分は残してある。後はアインツベルン城に向かうだけだ」

 

そう言って気合いを入れるバーサーカー。因みに悪食によって吸収されたものは魔力リソースとなって、盾に宝石のような状態で保存される。この宝石がある間は、マスターに負担をかけずにスキルを使えるし、何だったら顕界維持に必要な魔力も賄える。ある意味チートである。

 

「さあ、早く帰ろう。ユーブスタクハイトさんにちょっと意趣返ししたいし」

「意趣返しって、何をする気?」

「えっとね…」

 

そう言ってイリヤに耳打ちをする。

 

「……ふぅん。ちょっと面白いかも」

 

どうやらここ数日で、イリヤもバーサーカーに毒されているようだ。

 

 

 

 

 

ようやく二人はアインツベルン城に到着する。

 

「ほう。無事に戻ったようだな」

 

部屋に通され対面したユーブスタクハイトが、鷹揚に言う。

 

「はい。イリヤちゃんには怪我ひとつ負わせてません」

 

にっこりと微笑みながら言うバーサーカー。しかし、いつもの様な馴れ馴れしい言葉遣いではなく、ユーブスタクハイトは違和感を憶える。その直後、バーサーカーの横に立っていたイリヤがその後ろへと移動した。それが合図となって、バーサーカーは短刀を取り出し。

 

「パラライズ・シャウト!」

 

チンと鐔鳴りを響かせると、途端にユーブスタクハイトのその身に電気が走った様な衝撃を受け、体が動かなくなる。

 

「な、これ、は!?」

「フフフ。今のは[パラライズ・シャウト]って言って、相手にスタンを与えるスキルなんだ」

「なん、だとっ」

 

背筋が寒くなるユーブスタクハイト。

 

「あ、安心していいよ。しばらくしたら解除されるから。ただし」

 

そう言ってインベントリから取り出したのは、2本のペン。その内1本をイリヤに手渡し。

 

「イリヤちゃんにした仕打ち、しっかり償ってもらうよ?」

「や、やめろおおおお!!」

 

ユーブスタクハイトの絶叫も虚しく、バーサーカーとイリヤによって身体中にイタズラ書きをされてしまうのだった。

 

 

 

 

 

そして時は経ち。

 

()()()()、準備はいい?」

「うん。聖杯を我が手に! だね」

 

尋ねるイリヤに返すバーサーカー。

 

「それにしても、日本かぁ。こっちの世界線だとどんな感じなんだろ」

「ん? 何か言った?」

 

バーサーカーの呟きに、今度はイリヤが聞き返した。

 

「ううん。なんでもない。

……ねえ、イリヤちゃん。復讐のことなんだけど」

 

バーサーカーは恐る恐る尋ねてみる。するとイリヤはくすりと笑い。

 

「……今更どうでもいいわ。キリツグが生きてるなら別だけど、もう死んじゃったし。少し前なら、キリツグの子供に酷い目に遭ってもらおうと思ってたけど、あなたと会ってからそんな気も失せちゃったわ。まあ、少しは困らせてやろうとは思ってるけど」

 

悪戯っ子の様な表情でそう答えた。バーサーカーと過ごした日々はイリヤの歪んだ心を、僅かながらも癒していたようだ。

バーサーカーはホッと胸を撫で下ろす。

 

「さあ、行きましょう。目指すは日本の聖杯が眠る地、冬木」

「うん!」

 

バーサーカーは気合いを入れると、力強く頷いた。

 

── 聖杯戦争開始まで、あと少し ──




このメイプルは、自分の他作品(【もし桜が呼び出したのが盾持ちの英霊だったら】)で明言していたバーサーカーのメイプルです。なので宝具などは、そちらで明かされている通りのものとなります。
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