外様神機使いの日常   作:ネコ削ぎ

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 生まれ落ちた世界が地獄のような世界だとしたらどうしよう。

 辺りを見渡しても希望の欠片も発見できない崩れかけた星に生まれてしまった子供は不幸なのか。

 私なら言える。それは何の不幸でもない。

 だって、その子は生まれた時から地獄に似た世界を常識として生きていくのだから。それが不幸だと認識することなく当たり前のこととして受け入れて生きていくのだから。

 じゃあ、もしもその子が前世の記憶を持って生まれてきたとしたら?

 自分がこれから生きていく世界よりも美しくて人間の更なる発展を想像できる世界の風景を知っていたらどうなるのだろう。

 きっと絶望したと思う。変に希望を知ってしまっているから。二度と目にできない見知った理想郷を想って生きなければならないから。知らぬが仏だ。

 じゃあ次に、生まれ落ちた世界が命の危機に晒されることが当たり前の死と隣り合わせの世界だとしたらどうしよう。平和な世の中でたまに起きる殺傷事件を、テレビの画面越しに他人事のように「危ないねー」と言っていた時の記憶を持ったまま死とダンスし続けなければならない世界に生まれたら、その子供は不幸なのだろうか。今まで遠くにあった殺人がすぐ近くに潜んでいることに耐え切れなくて狂い壊れてしまうのだろうか。あの頃が一番平和だった、と泣きながら死を振りほどき続けるのだろうか。

 

 

 

 平和な世界の平和な国の平和な町で生まれ育った私は死んだ。

 死因は交通事故だった。私が仕事の疲れでうっつらうっつらしたまま車を走らせ、対向車は飲酒運転でぐらぐらぐらぐらと定まらないトラック。必然的に二つは衝突して、軽自動車に乗っていた私は死んだ。

 次に目覚めたのは知らない女性の腕の中だった。親戚にも友人にも仕事関係の人間でもない女性だった。とても柔らかい慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。

 身体を包み込む確かな温もりと女性の優しさに安心した私は瞼を下ろした。

 それから数年。私はてとてとと歩き回れるようになり、舌足らずではあるが意志疎通ができり程度の言葉を話せるようになったころ。この世界がどのようなものであるかを知った。

 西暦2053年。私の過ごしていた時代よりも未来の世界。

 そして、私のいた時代よりも未来のはずなのに荒廃した世界。

 私のいた時代には考えられないような荒唐無稽な形をした化け物がウヨウヨしている世界。

 化け物たちによって人類滅亡の危機に瀕している世界が、今の私の世界だった。

 全ての始まりは2050年。突如現れた化け物によって人間が作り上げてきた人間至上の世界は砕けバラバラになった。

 文化も歴史も無意味なものとして無慈悲に喰らっていく化け物たちは、アラガミと呼ばれ恐れられるようになっていった。

 知っている世界だった。これはゴッドイーターの世界だ。私の知る中で最悪な世界に生を受けてしまった。

 殺しても殺しても湧き出てくるアラガミをそれでも殺し喰らう。ゴッドイータ、神を喰らうものと名付けられた人間たち。

 『フェンリル』『P53偏食因子』『シックザール』『エイジス計画』『アーク計画』『フライア』『ラケル・クラウディウス』『神機兵』『終末捕喰』『螺旋の樹』

 浮かんでくる単語と、その単語の説明が頭の中を行きかう。

 ゲームの知識があることは幸運か不幸か。

 きっと不幸だ。だって、こんなようやく人らしく喋れるようになった餓鬼に何ができるんだって話になるから。

 というわけで来るかもしれない絶望に怯えながら今日もすやすや寝ることにしました。寝る子は育つ。永眠するかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 2071年。ゲームの開始した年。極東支部で主人公が第二世代型神機の適合試験に合格するところから始まる。

 まぁそんなことはどうでもいい。

 今は私の話でもしておこうね。だって主人公は遠い場所で勝手に頑張っているだけであって、私には何一つ関係ないから。

 幼少期に世界に絶望した私。もうどうすればいいか分からないし、どうすることもできないから悔しかった。

 さらにゲームの知識は役に立つけど時期的に立ち場的に役に立たないときた。

 そこで、私は幼い見た目にも関わらず延々と悩んだ。お母さんが心配しちゃうくらい悩んだ。どうすればいいのか、どうしたらいいのかを悩み続けた。

 一年ほど悩んだ時に神の声を聴いた。自分の頭の中にいる都合の悪い時に出てきて助けてくれる神様の声を。

 そうして神は言った。

 

「もう悩むのはやーめよ」

 

 全てをぶち壊すまさしく神の所業。

 私は脳みその稼働率を大幅に下げてこの世界を謳歌することにした。数日悩んでの決断だったらすぐにでもまたくよくよと悩んでいたと思うけど、一年も悩むと立ち止まることを忘れちゃう。もうとりあえずの勢いで生きることにした。

 とりあえずの私の目標はゴッドイーターになって貧困生活を終わらせること。

 というわけで私は2070年にゴッドイーターになった。17歳の時だ。

 神機は第一世代遠距離でブラストだ。この頃くらいから第二世代型の適合試験試験を行っていたみたいだけど、私は第一世代型の適正しかないから第一世代の人になった。

 最初はきちんと立って狙いを定めて撃つことから初めて、人不足が甚だしいゴッドイーター職なのでわずか三日の訓練で戦線投入。私の指導役かつ部署柄唯一のゴッドイーターの先輩がいるからってそりゃあない。

 しかも先輩は半年だけ先輩という心もとない存在。そして指導もフォローも下手という本当にただの先輩。私は敬意を込めて先輩のことを『半年先輩』と呼ぶことにした。

 

「半年先輩……アレ見えますか?」

 

 アラガミにボロボロに食い尽くされた廃墟の集まり。そこの見晴らしのいい場所に私と先輩はいる。

 

「おー……おぅ、見えるな。100メートルくらいか」

 

 金髪碧眼という典型的外国人の容姿を持つ先輩が応じてくれる。

 

「テスポリですよね」

 

「テスカトリポカだな。あの色味は」

 

「ですよねぇ」

 

「依頼内容……は何だっけか?」

 

「クアドリカの討伐ですけど」

 

「だよなぁ。アレってクアドリカじゃあないよなぁ」

 

「ええ、よっぽど目が悪いか知識不足じゃない限りテスポリです」

 

「もう一度聞くけどさぁ。依頼何だっけ?」

 

「ここらでクアドリカが目撃されたので被害が出る前に討伐……ですよ」

 

「やっぱりなぁ。おかしくないか」

 

「おかしいですね」

 

「どう見てもテスカトリポカ。誰がどう見てもテスカトリポカだ」

 

「不思議ですね」

 

「これ間違ってるだろ。駄目だろこーゆーの」

 

「あ、半年先輩」

 

「どした、ヤマブキちゃん」

 

「アレのお腹が開きましたよ」

 

「おう、ホントーだな」

 

「あぁ、ミサイル出てきましたね」

 

「そだな、こっち来てるな……逃げるぞ!」

 

 テスカトリポカの前部装甲がパカッと開いてミサイルが発射されたので、私と先輩は全力で逃げ出す。誇り高きゴッドイーターじゃないので割と簡単に逃げを選択できる私たち。

 

「どーしてクアドリカがいないんですか!?」

 

「知らんて。アレだ、レベルが上がって進化したんだろ。それなら納得できる。俺たちが尻尾巻いて逃げるのもみんな納得してくれる」

 

 アラガミを倒すことのできる唯一の武器『神機』を肩に担ぎながら走る先輩に、同じく両手で持ちながら走る私。今のところ一戦も交えてない。

 さっきまでいたところにミサイルが着弾し爆発する。背中に爆風を受けてスピードアップしながら更に距離を取る。

 

「ズルくないですか。ズルくないですか!? ミサイルとかこっちの武器ですよ。なんでアッチの方が真顔で使ってきてるんですか!?」

 

「そりゃあお前。アラガミ旧来の兵器が効かないからだろ。武器を使われることに関しては盗人猛々しい!」

 

 先輩が拳を振り上げて吼える。この神機は奴らのオラクル細胞を利用して作られたということを知らないと見た。

 先輩の無知は今に始まったことなのであえて放っておくが、それにしてもミサイルに追っかけまわされながら逃げるこの状況をどうすればいい。

 

「半年先輩囮になってください! その間に私が帰りのヘリをチャーターしてきます!」

 

「ありがてぇ。二秒だけ頑張ってやるからその間に頼む!」

 

「無茶言わないでください!」

 

「お前が先に言ったんだろ!」

 

 この会話は全力疾走しながら行っている。少しでも緩めたらテスカトリポカにブッ飛ばされてしまうからとにかく全力だ。

 それからテスカトリポカとの追いかけっこは暫く続いたのだが、他の部隊が援軍に来たことで無事終了した。後は援軍の方々に任せて私たちはさっさと撤収した。

 

 

 

 

 

 

 

 フェンリル極東支部所属食料貯蔵プラント護衛部隊。全てが自己完結している極東支部に集まってくる難民や、極東支部居住区に入ることができずやむを得ず外で暮らしてる人の為の食糧を生産するプラントの護衛に従事している部隊のことだ。

 場所は極東支部から東に30キロ離れているところにあり、アラガミの出現率は極東支部の20分の1と支部から離れているがけっこう安全。出現するアラガミの質も決して高いわけでもないので所属しているゴッドイーターはたったの二名。オペレーターも整備士も一名ずつしか存在しない。

 アラガミの出現率と質の低さ、食糧プラントの防護壁の異常な強度によって所属しているゴッドイーターは常に安全が確保されているということから、プラント所属のゴッドイーターは侮蔑の意味を込めて『飯番隊』と呼ばれている。

 

「えー、言わなくても分かると思いますが言います。なぁんでおめおめと逃げ帰って来たんですか!」

 

 ロビーに響き渡る声変わりの済んだばかりの怒声。プラントで働く白衣姿の職員が何事かと声の発生源へと顔を向け、またかと呆れて仕事に戻っていく。

 私と先輩は静かに嵐が過ぎ去るのを待っていた。こういうのは関わり合いを持たない方がいいと分かっているから。

 

「後に来た部隊に言われましたよ。オマエら飯番隊はまともに神機を振るうこともできないのかって。これじゃあ整備士もナマクラだな、だって!」

 

 油とかでそこそこ汚れたつなぎを来た少年がモンキーレンチを振り回しながらキレている。2071年の若者はキレやすくて困ったものだ。少しは冷静になろうミチオくん。

 

「聞いていますか二人とも!」

 

「うっす。聞いてはいる」

 

「聞いてますよ。聞いてはね」

 

 先輩が手をひらひらさせながら返事をし、その後輩である私はコーヒーを飲みながら返事をする。

 はい。怒られているのは件の『飯番隊』所属の二人のゴッドイーター。つまり私と先輩だ。

 怒られている理由はさきほどの任務でテスカトリポカから逃げ出したことと、援軍に来たゴッドイーターの活躍を指をくわえて見てたことでプラント所属の職員が嫌味を言われたから、ふざけんなお前らというものだ。

 しかし、これに関しては私たちも言いたいことがある。

 

「元々はそっちのミスだろ。こっちはクアドリカの討伐って聞いてたんだ」

 

「そうです。テスポリなんて聞いてません。勝てませーん」

 

 情報伝達のミスが原因だ。私たちじゃない。

 

「テスカトリポカの出現は確かに予想外だったよ。それは認めるさ。だけどねぇ、だからって無様に逃げ回った挙句に援軍来ても戦わないのはダーメ!」

 

「ちっ! 現場の人間にしか分かんない辛さだ」

 

「外回りの辛さを少しは知ってください」

 

「嫌味言われるボクの身にもなろうか」

 

 嫌味くらいならマシだと思う。だって命を脅かされる心配がないんだから。こっちは情報ミス一つで死んでしまうような過酷な労働環境で働いているのだ。

 それに私たちの主な任務はプラントを脅かすアラガミの駆逐であって、遠い地のアラガミにカチコミをかけることじゃない。それなのに、汚名を返上するんだー、って勝手に依頼を受注した挙句に情報間違えたミチオくんはどうして怒っているんだろう。怒りたいのはこっちだっていうのに。

 

「ここ等一体のアラガミ討伐は極東支部様に任せておけばいいんだって。アッチは『飯番隊』を馬鹿にできちゃうほどのエリートさんの集まりなんだからさ。あのリンドウだっているんだ。俺たちの出る幕じゃあない」

 

 先輩がキリリとした顔でカッコ悪いことを言った。正直同じ身の上の人間な私は先輩の意見に大賛成だ。割り当てられた仕事の範疇を超えるのは良くないし、嫌味言うならエリートが勝手に頑張ればいいんだ。

 

「うぅ、ウチの神機使いはヘタレ過ぎるよ」

 

「身の程を知っているだけさ」

 

「そうです。己の弱さを分かっている私たちは何よりも偉いんです」

 

「屑発言は控えてねー」

 

 ミチオくんががっくりと肩を落として職場へと戻っていった。

 私たちはロビーでのんびりと寛ぐことを続けた。

 

「それにしてもさぁ」

 

 と先輩。

 

「どーして極東にはアラガミがあつまっかねぇ。ほかにも土地があるってーのに」

 

「さぁ? 過ごしやすい土地だからじゃないですか」

 

「アイツらにそんな知能あるか? そこら辺の物を馬鹿みたいに喰ってるような奴らに」

 

「分かりませんよ。私はアラガミじゃあありませんから」

 

 アラガミのことなんてあんまり分かったものじゃない。それは事実。だけど、アラガミが極東支部に集まる理由は知っている。アーク計画のせいだ。

 

「でも極東にアラガミが集まってくるってことはそれなりの理由があると思いますよ」

 

 アーク計画は人類の一部を地球外に退避させてから人為的に終末捕喰を引き起こす。終末補喰が終わった後に退避させておいた人間がまた文化を築く。分かりやすく言えば、人類の存続の為に少数救って多くの犠牲を払うというものだ。

 

「理由ねぇ。考えつかんぜ」

 

「ですね。もしもですが、人類が生き残る手段を持っていて、それを阻止する為に集結してるとか……ていうのはどうですか?」

 

「ん~。中々いいな。最終決戦みたいで。で、その生き残る手段て何だ?」

 

 先輩が乗ってきた。アラガミにボロボロにされたせいで『バカラリー』程度しか娯楽のない世界だ。ちょっとした馬鹿話でも十分過ぎるほどの娯楽になる。

 

「宇宙に逃げるのかもしれません」

 

 

「宇宙か。大スペクタクルだな。やっぱ壮大な話っていうと宇宙行くよな」

 

「宇宙に逃げて、地球でアラガミ同士が喰い合った後に戻ってくる。そうすればほら、アラガミはもういなくなってるはずです」

 

「色々穴だらけだな。確かそれどっかのカルト集団の理論だったよな。最後は地球すらも飲み込むアラガミになってゲームオーバーになるって奴。馬鹿馬鹿しいけどありえないと一蹴するには難しいな。なにせアラガミの意思が分からないからな」

 

「ふふふーん。いろんなアラガミがいますから、そのうち人間みたいに話せるのが出てくるかもしれません。そしたらソレからアラガミの意思って奴を聞けばいいじゃないですか」

 

「そうだな。人間を供物として差し出して行けば、そのうち現れるかもな」

 

 誰もやらねぇけど、とげらげら笑って話を終わらせる先輩。

 私もこれ以上そのことについて話すことはしなかった。極東所属とは言えど、所詮は蚊帳の外の食料貯蔵プラント護衛部隊。どう頑張ったってリンドウや主人公神薙ユウと接点を作ることはできないし、出来たとしても飯番隊である以上強く協力することはできない。

 だから私は協力できなし、する気もない。だってあんな陰謀に立ち向かう勇気なんて持ってないから。最前線で戦い続けなきゃいけないなんてゴメンだから。

 何よりも主人公たちの決めた未来に明日を見いだせる気がしないと思った。シックザールの進めるアーク計画の方が未来の為な気がするのだ。

 よくゲームで主人公たちが選んだ未来がハッピーエンドみたいな感じで終わるけど、そうは思わない。

 アーク計画は将来生まれてくる子供たちの為になる。今を生きる人間の多くは死んでしまうけど、それでも人間という種の存続を考えた計画だ。

 それに対して神薙ユウたちの決断は愚かだと思ってしまう。自分達のことだけを考えて行った先行きの暗い地獄のような世界の存続を求めたんだ。将来生まれる子どもたちにもその地獄を見せるだけで何も良くはならない。

 もしも投票で全てが決まるのなら、私は迷わずアーク計画に貴重な人生を決める一票を投じる。たとえ私が宇宙に脱出する権利を得られなくても、終末捕喰に巻き込まれて無残な死を遂げたとしてもだ。

 本当は自分が楽になりたいだけなんだけど。

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