もしも私が死んだらどうなるのだろう。
既に一度死んだ身の人間なのだが、やっぱりと言うべきか死について考えることがある。
交通事故で死んだ時は疲れていて意識も朦朧としていたから死ぬときに何を考えていられなかったけど、転生してからはたまに考える。
私が死んだ時、離れて暮らしていた両親は悲しんだのか、呆れたのか、怒ったのか。
私が養っていたニートな妹は絶望したのか、驚愕したのか、激怒したのか。
私を知っている人たちは一体どんな反応を見せたのかが気になる。
そして、今とりあえず頑張っているテイで生きている私が死んだら、一体誰がどんな反応を見せてくれるのかが気になる。
自分勝手に生きてきたと思われているだろうし、また自分勝手に生きてきた自覚があるので、きっとみんな悲しんでくれるだろうな、とか己惚れることはない。見せてくれる感情にきっといい想いの籠ったものはないはずだ、
他人を慮れない人間は想われて死ぬことはない。
逆に誰かの為を想って行動できる人間が死んだときは、きっと多くの人が悲しんだりしてくれることだろう。
ロミオ・レオー二は仲間に愛された奴だったのだろう。ゲームの中でブラッドや極東支部の人間に想われていたから。
ロミオはコンプレックスを乗り越えて強くなったけど結局は死んでしまった。ゲーム通りの展開だったと思う。こっちに回ってきているのは簡単な情報だけだから詳細は一切分からない。民間人を救出に向かい感応種と遭遇、戦闘を行い退けるも死亡。これくらいだ。
そして仲間の死を受けたジュリウスが神機兵教導に乗り出し、彼の教導を受けた神機兵が今は大活躍。よって民衆から支持されて神機使いはちょっとだけお払い箱な雰囲気が出始めていた。
私たち飯番隊からすれば願ったり叶ったりの状態だ。あんまり働かなくて済む。
神機兵たちの目覚ましい活躍を受けて、今まで張り切っていた神機使いたちの中にはやっかむ者もいる。
機械になんか、とか思っているのだろう。ご立派な奴らだ。なんで働き蟻のようにせっせとやりたがるのか分かったモノじゃない。
「半年先輩、ヤマブキ先輩。休んでないで働いたらどうっすか? 見ていてハイパーイライラするんすけど」
受付でカチャカチャとパソコンを弄っているハリトラが文句を言ってくる。
いつものロビー。そこに置かれたソファーに座って頬を抓り合うことに忙しい先輩と私の姿を見て、そんな心無い言葉を吐けるハリトラは鬼畜だと思いながらも、いまだに頬を抓り合っている私たち。
「これふぁやすんふぇいるひょひみひぇるひょか?」
「すみません半年先輩。分かる言葉で話してくださいっす」
「わひゃるこりょびゃでひゃなひひぇもりひゃひできゅまへらいひなひでひゅひょ」
「マジで解読できないんすけど。まずは話すなら抓るのやめてからにしてくれないっすか、ヤマブキ先輩」
ハリトラが泣き言を言うので、先輩も私も渋々頬から手を放して無言で停戦協定を結ぶ。アイコンタクトが上手く通じていれば戦争の終わりだ。
なにやってんだコイツら、と言いたそうな顔をしているハリトラ。先輩に対する態度ではないので、半年先輩から愛のクッキー投げが炸裂した。額に当たって砕けたクッキーの作者はオペ子なので、後で粗末者が居たことを報告しておく。
「でさぁ。なーんでハリトラはイラついてんの?」
「こっちが頑張ってるのに、目の前でイチャつかれるとイライラもするっすよ!」
「イチャつくってそんなぁ……。私はただ先輩の顔面を破壊したかっただけですよ」
「そーだよ。俺たちがイチャつく? じょーだんじゃない。見て分からなかったのか、俺たちが隙あらば頬を抓り千切ろうとしていたことをな」
「何すか? その痛々しい理由付けは? バカップルすか?」
ジト目で睨み付けてくるハリトラに、先輩は私の頭を撫でてアピールしてきた。私も負けじと先輩の胸に顔を埋めた。
「喧嘩売ってんすか!?」
無視して更にイチャついてみた。ハリトラがパソコンをバンバンと叩いた。壊れたら給料から引かれるのでやめた方がいい。
「さて、十分にからかったことだし。やめっか」
「ですねー。やっぱりこういうことはミチオくんの方がいいですね」
「からかっておいてソレっすか!? スーパーひでぇっすね!!」
今にもパソコンを投げてきそうだ。でも投げるまでいかないのがハリトラだ。彼は所詮口だけ男なので実行できない。
半年先輩がクッキーをヒョイと口に放り込む。
「甘辛い上に後味最悪」
「それ、オペ子ちゃんがわざわざ男共の為に作った味覚破壊クッキーだそうですよ」
ソファーの上にはクッキーが乗った皿が二枚ある。片方は先輩側に、片方は私の方に。
「ちなみに私のクッキーはバナナ味だそうです。すんげぇー美味しいんですよ!」
自慢するようにニッコリと笑ってアピール。同時に皿を抱きかかえてあげないアピールもしておく。
半年先輩は暫く自分の方にあるクッキーを眺めた後、それを皿ごとハリトラの方へと持っていく。ハリトラの「要らないっす」という訴えはガン無視だ。
危険物をおすそ分けした先輩は定位置に座って、私に持っていたクッキーをひったくった。
「いやぁ、にしても神機兵ちゃんのおかげで楽できちゃうねぇ」
「そーですね。まぁ、ブラッドのジュリウスなんとかさんが教導しているから強いですからね。やっぱり強いです」
「やっぱりな、神機兵もっと量産すべきだな。世界と神機使いの安定の為に」
「先輩方からしてみれば自分たちの安全の為にっすよね。世界とか神機使いの為とかこれっぽっちも思ってないっすよね」
「あたぼうよぉ。なんで見ず知らずの奴を想わなきゃいけんのさ。世の中はなぁ、じぶんじぶんじぶーん、なんだよ。他人なんて所詮は他人なんだから、そんなの気にしてらんないっつぅの」
「自分勝手ですね。私も賛成ですけど」
「俺の先輩方がこんなに屑なわけない……って少しでも思っていた自分がバカっす」
「やーい。ばーかばーか」
「やーい。ばーかばーか」
「二人してなんて捻りのない台詞。語彙がハイパー貧困すぎるっす」
がっくりと項垂れるハリトラ。今更になって先輩と私に幻滅したのか。だとしたら遅すぎる。
「でも、最近おかしな噂を聞くっすけど」
パッと復活の呪文なしに復活したハリトラ。
「フライアがちょっと不審な動きをしているだとか」
ハリトラが聞いた噂というのはどうやら原作のことのようだ。ゲームでは極東支部内でしか物語が進行しないから他の場所に情報が行き渡っているかどうか分からないが、どうやら極東支部所属のプラントには情報が持ち込まれるようだ。
「神機兵作ってるところだかんなぁ。ちょおっとくらい不審でもしかたないんでね?」
「巨大ロボでも作ってるんじゃないですかね?」
実際は巨大ロボなんかよりもやばいもの作る作業しているんだけど、わざわざ伝える必要もないだろう。伝えたところで話半分で聞き流されるだろうし、真に受けられても面倒だから。
「……巨大ロボはともかくとして、そーゆーもんなんすかね? 最近はブラッドですらフライアに入れないって聞きますけど、身内すら受け入れないっていうのはおかしいと思うんすけど」
中々に考えているようだ。仕事の手が止まっているけど。
「ま、不審だろうが何だろうがこっちには関係のないお話だ。今日も明日も平常運転で行くぞ」
神機兵の活躍。
目覚ましい活躍の中で、ブラッドがフライアに襲撃をかけたという情報を聞いた。そしてすぐジュリウスによるクーデターが起こった。メイン組は忙しいことこの上ない。
そんな世間の波とか関係なく風が気持ちいい。
プラントを守るアラガミ防壁の上で寝っ転がっていると、居心地の良さに眠くなってしまう。もう今日はサボり決定だ。
忙しいとか騒ぐなら騒げばいい。ゲームなんてどーせゲーム通りの流れを行くんだから私が騒ぐ必要はない。2主人公ちゃんが頑張れば終わる。
これからプロトタイプの神機兵をぶっ倒して、なんかすごいことになったジュリウスを倒して、歌の力と血の力で世界救って、人類の希望になるかもしれないキュウビを討伐して終了。 後の話は知らない。どーせまたなんかあるんだろう。
今の私にできることはとりあえず今をサボるくらいだ。
昔はシックザールを支持したものだが、生憎なことにストーリ通りという言葉の前にシックザール党は瓦解。18年の支持がふいになる残念な結果だった。
こんな世界に生まれてから21年も経つ。2070年に17歳でゴッドイーターになってかれこれ4年。神薙ユウの1年先輩だ。
神薙ユウが負けることをどこかで祈りながらも頑張って18年生きて、シックザールの敗北から原作の重みを知って惰性的に生きてきた。
今はもうね、21にもなると考えも変わってよりテキトーに生きるので精一杯だ。
「あいむはっぴー」
スサノオ狩りをするときのお嬢ちゃんの口癖。自分は幸せなんだっていう宣言。お嬢ちゃんはお嬢ちゃんなりに人生を謳歌しているってことなんだろう。前世も含めてお嬢ちゃんの2、3倍は生きている私は自分の幸せすら見つけられていない。
と思ったけど、何だかんだ半年先輩やオペ子とのんびり過ごす日常は楽しいから、それが幸せなんだろうな。心からの幸せについては分からないけど。
「なぁにがあいむはっぴーだ」
「居たんですか先輩?」
隣を見ると、同じように仰向けに倒れている先輩がいた。
「ずっと居たよ。ヤマブキちゃんよりも前に居たんだよ」
「あ、そうですか。だったらなんです?」
「喧嘩腰じゃあないかい。それよりも質問したいんだけどよろし?」
先輩からの質問。どーせろくなことじゃない。私の質問も大体ろくでもないけど。
「さっきオペ子ちゃんに襲撃されたんだぞ。それも背後からの跳び蹴り。前が階段だったか死ぬかと思ったほどだ。まぁ、神機使いだからちょっとくらいなら大丈夫なんだけどさぁ」
「言っておきますけど、オペ子ちゃんをどうにかしたいのなら殺すか、殺さないにしても監禁しておくしかありませんよ。だって先輩はヤローですから」
「去勢したら大目に見てくれんのかな?」
「無理ですね。諦めて遠方で宦官になるしかありません」
「マジか。タマとって歌手の道でもいいだろ」
「いいですけど、それならもっと早くに去勢しないと。それと今はカウンターテナーがいますから、あんまり無理しない方が」
「でさぁ、オペ子が俺を足蹴にしておいて急に質問してくるわけなんだ」
私なりのアドバイスを無視して、無事話をを軌道修正されてしまった。脱線脱線を繰り返して巡り巡って元に戻ることを期待していたのにだ。
「珍しいですね。オペ子ちゃんが暴言も吐かずに質問なんて真っ当なことをするなんて」
「暴力を受けた後なんだけどな。慰謝料請求したいほどに身体と心に傷を負ったんだから立派な暴力さ。質問なんだけどさぁ、あれな……急に怪電波受信しちゃったのかさ、おかしなこと言うんだよ」
「おかしなことって、明日のお昼にどんなクッキー焼くかどうかってことですか?」
「おー。そのボケは要らないな。ま、なんか急に前世とかあると思いますか、なんて言ってくるんだぜ。笑えるだろ? 笑えよ。あっはっはぁ! なに笑ってんだ!」
先輩が一人子芝居をしてくれたので、私は愛を込めて真顔で見つめた。感情の起伏をなくしてできるだけ冗談の通じない真人間ぶって対応する。
私の愛に耐え切れなくなった先輩がごめんなさいと謝ったので許した。心の中で腑抜けだなぁ、と思いながら。だって、腑抜けだし。腎臓の一個でも抜くか?
「前世とかあると思いますか。ふーん、なんとも哲学的な質問ですね」
前世があるかないか。私ならあると答える質問だ。想像で物を言って議論した結果ではなく、実際に体験した経験からの答えだ。
それにしてもオペ子が前世なんてことを口にするなんて相当にこの世界での生活で神経が摩耗してしまっているのではないだろうか。中二力に目覚めちゃうほどまでに現実逃避が進行するほどまでとは危険すぎる。
「で、なんて答えたんですか彼氏さん?」
「思わず真顔で死ねと言ってしまいました、先生」
「それでは彼女さんに嫌われてしまいますよ」
「本当はないんじゃないのか、と答えておきました。あると答えたら電波会議に連れ込まれそうな恐怖があったし」
「まぁ、そうですね。でもそんなに危機感持たなくてもいいと思いますよ。女子は前世トーク好きですから……人によりますけど」
「おう、そーか」
先輩が欠伸を噛み殺しながら返事をした。
私はゴロンと寝返りを打った流れで立ち上がる。
とりあえずオペ子に会いに行こうと思う。
オペ子の前世云々話がどういう意味を持つのか分からない……なんてことはないことでもないわけでもない。
「仕方ないので半年先輩の代わりにオペ子ちゃんを構ってきましょうかね」
「たのむー。できればきつい一発をたのむー」
「うーっす。分かりました」
ぐーっと背筋を伸ばして名残惜しげに眼下の景色に視線を移す。
「あららーん?」
「どしたよ、妹」
「兄上大変です」
防壁から地上を見下ろしてみると見えるのはのっそのっそと歩く真っ赤な神機兵。背中のフェンリル印から何か飛び出している暴走している輩がゆったりとこちらに向かってきていた。
「お仕事疲れを癒すために飲み屋で一杯やった神機兵がやってきてます」
「どこだ?」
よこらせ、とギリギリオヤジっぽくない掛け声で立ち上がった先輩が下を見下ろす。
「マジだな。仕事サボって昼から飲んでたんじゃないのか。駄目だねぇ、酒に飲まれやがって」
でっかい剣を肩に担いできっちりとした足取りの暴走神機兵を見ていると、不意に奴がこっちを見上げてきた。
「先輩、見られましたよ」
「よし。手だ、手を振ろう!」
おーい、と二人で手を振る。気分はマスコットに遭遇してテンションが上がった子供の気分だ。
防壁の高さはちょっとやそっとで飛び越えられるものじゃないので、先輩も私も余裕を以て手を振り続けた。神機兵はじーっと私たちを見つめ続けている。
暫くすると、相手にするだけ無駄だと思ったのだろう。神機兵は見上げるのをやめてまた当てもなく歩き出した。
マスコットにそっぽを向かれた先輩はまたゴロンと寝転がる。
「ところでなんで赤くなってんだ?」
「さぁ、照れてるんじゃないですか?」
本当はアラガミ化しているだけなのだが、この情報はまだ浸透していないので言う必要はないだろう。どーせいずれ知ることになるのだし。
神機兵には十分構ってあげたことだ。そろそろ最初の目的であるオペ子訪問でもしよう。
そう思って防壁から去ろうと歩き始める。
「じゃーねー、先輩」
「ほいよ、ヤマブキちゃん」
先輩とあいさつを交わす。
オペ子が今どこで何をやっているかは分からないけど、とりあえずロビーでのんべんだらりとしていればいずれ出会えるだろう。見つからなければ最悪大声で名前呼べばやってくるだろう。
最悪のパターンを考えながら歩いていると、背中をドカッと蹴られて身体が前のめりに倒れた。
「……え!?」
目の前は断崖絶壁でその舌は外から非難してきた人たちの為に作られたが使用される気配のない外部居住区の町並み。分かっているだけで高低差10メートル以上。もしかしたら30メートルはあるかもしれない。
さっきまで地に足つけていたはずなのに謎の浮遊感。身体がくるっと反転してさっきまで前にあった景色が背中にきて、逆に背中にあった景色が前にやってきた。
見えるのは真っ赤な神機兵。右足を突き出したポーズで固まっていた。
「ヤマブキちゃん!?」
先輩の声が聞こえたかと思った時には既に落下を回避することはできなかった。
神機使いの身体は偏喰因子を投与したことで丈夫になったけど、さて一体どこまでの高さから落下して耐えることができるのか。
無理やりの検証をしなければならなくなった私は、そのまま抵抗することも、せめて頭を守ることも考えられずに落ちていった。