外様神機使いの日常   作:ネコ削ぎ

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 頭では何が起こったのか理解できる。

 自分で撒いた機雷を爆発させて、その爆発に自分もろとも神機兵を巻き込んだ。

 爆発を至近距離で受けることは身体が焼けるでは済まないことになってしまう。しかし、爆発によって引き起こされる激痛以上の痛みはやってこない。

 代わりに一瞬だけのブラックアウト。

 起き抜けのようにぼんやりと覚醒した時に見たモノは、左足が千切れ飛んでバランスを取れなくなった神機兵の姿。

 ようやく一手ぶち込むことができた。だけどまだ息の根を止めたわけじゃない。

 打つ手のない私にはどうにもできない。

 それでも身構えなければならないんだろうな、と思っていたが、神機兵はもう私を見ていなかった。

 トドメを刺す必要もない。そう思われたんだろう。何もしなくてもどーせ死ぬ。

 どうしてそう思われたんだろうか。

 そこで気がついたのは浮遊感だ。

 次に気づいたのは少し離れた位置にある防壁の床。

 ああ、吹き飛ばされたんだ。

 爆発の痛みがないことに気づき、神機兵にダメージを与えられたことに気づき、自分が吹き飛ばされたことに気づいた。

 そして最後に気づいた。爆発の痛みを感じなかったのはあまりの激痛に感覚が麻痺してしまったからでしかないことに。

 声にもできないほどの痛みが全身を包み込み弄ぶ。

 生きているのか……それとも既に地獄に落とされたのかも分からない。

 痛い。

 凄く痛い。

 もの凄く痛い。

 落下していく中で私の意識もまた激痛によって落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして神機兵は無事に討伐されましたとさ。

 結局私は無事だった。五体満足ではないが、いまだにあるかないかも分からないような魂的な何かが身体に宿っているので無事だと言ってもいい。

 あの後、私が痛みで気を失った後、ようやくスサノオたちを駆逐したお嬢ちゃんが私をキャッチしてくれた。あの高さから落ちた人間を掴むお嬢ちゃんは本当に化け物だと思う。

 で、その化け物なお嬢ちゃんは私を抱えて防壁を駆け上り、いまだに防壁上で膝を引き摺っていた神機兵を文字通り蹴落としてしまった。

 落ちていった神機兵は見事に着地に失敗したがそれでもまだ動き、ちょおっとばかし先輩やオペ子と戦闘。遂には撃破されてしまった。

 被害はいざという時の為に作ってあった無人の外部居住区だけだった。

 それと私だ。

 オラクル爆発に身を焼かれ身体の多くは焼けただれ、既に折れていた左腕も顔を守るために使った右腕も共にボロボロ。右足も酷い有様だ。

 しかし、偏喰因子は凄いもので時間さえかければ表面上は全快することができた。と言っても内面は後遺症だらけで右足は引き摺り気味だし、両腕共に動かすのが少し辛くなってしまった。勝利の代償と言うべきだろうか。

 全身オンボロな私は当然ながら激しい立ち回りができなくなってしまい、ゴッドイーターを引退して神機の返還を行うことになった。

 これにて私の神機使い人生は終了した。後は今まで働いて溜めたお金でのんびり隠居生活の始まりだ。

 残って戦う三人には悪いと思ったけど、まぁ今回のことは私の自己犠牲パワーがあったことでの勝利なのでチャラだ。最大の功労者が長い長い余暇を楽しむことの何が悪い。

 いざ、誰にも咎められない生活を始めようと考えていたのだけど、どうしてか所持金が少ない。四年の頑張りに見合わない額しかないのだ。

 思っていた額の半分どころか三割にも満たない。これは一体どういうことだろうか。

 この四年間の出費を思い出してみても、そこまで使った覚えがないといういうのに財産が少ないという不思議。

 一番金のかかる神機の改造費はオペ子が勝手に持ってくれたから私に被害はない。他の出費だって歓楽街の存在しないここではあろうはずもない。二回の治療費はあったけど、アレは労災が下りたから大丈夫だし、他には何にも思いつかないし。

 幾らか考えてみても他の理由は思いつかない。

 

「おーい。ハリトラ」

 

 分からないならハリトラに聞いてみる。彼は任務の受発注も請け負っているものだからきっと理由を知っているはずだ。

 

「病み上がりなヤマブキ先輩。なんすか?」

 

 相変わらずロビーでパソコンと睨めっこしているハリトラに、かくかくしかじかと事情を聞いてみる。

 

「あー。ハイパー簡単すよ」

 

「どー簡単なんでしょうか?」

 

「だって神機使いの給料は報酬制なんすよ。ヤマブキ先輩は四年間にどれほど任務に出たと思ってんすか」

 

「……あぁ」

 

 ゲームだと討伐任務でお金貰っていたけど現実でもそれだったとは。四年もそれに気づかずに生きてきたとは。めんどくせーめんどくせーって話半分に聞き流していたのが仇となったようだ。

 

「大体月一程度でしかやってきませんでした。それも小物ばっか」

 

「じゃあしかたないっす」

 

「あららー。まだ働く必要があるんですか」

 

 幾ら数字化された財産を睨みつけても増えるわけもなく、仕方ないので今の私にできる仕事でもしよう。元神機使いということもあり、配給品があるので日々の食事には困らないが、お金がなければ買い物はできない。

 それに考えてみればまだ兵役期間が残ってた。よって自堕落生活は暫くお預けだ。

 引退した神機使いの中で野に下った人間は以外にも少ない。

 理由は簡単で神機使いの時に得られた配給の優先権や住む場所の安全などがあるからだ。やはり誰でも自分の生活水準を下げたくないということだ。

 じゃあ野に下らずに居残った人間は何をするのかというと、まぁゲームでもちょっとだけ見ることができるが、神機使いのサポートや技術開発の手伝い、支部の運営に加わったりと以外にも多岐に渡る道が存在する。

 私も先人たちに倣って泣く泣く再就職を果たすことにした。

 私が選んだのは完全な後方支援のオペレーター業務だ。

 あくまで食糧貯蔵プラントでしかないので、できることはオペレーターか整備士のどちらかしかないのだ。

 だからオペレーターを選んだ。

 

「というわけで二代目オペ子になりますか」

 

「いやいやいや!? ここは人手不足甚だしい整備班になるべきっすよ!」

 

「嫌ですよ。どーしてミチオくんと一緒に仕事しなきゃいけないんですか」

 

「軽々しく酷いこと言ってるっすね。まぁ、あんなミチオ先輩よりマシって評価を貰えたのは素直に嬉しいすけど」

 

 何気にミチオを下に見ている様子のハリトラ。彼にとってのヒエラルキーがどんなものかとても気になる。ハリトラの上下関係論よりも気になることがあるので暫くは問いただすことはないが。

 それよりも気になるのはやはり先代オペ子の転生云々発言だ。神機兵襲撃のせいで今日まで聞けずじまいになってしまっていた。オペ子は転生者なのかどうか。それともただの頭の危ない電波少女なのか。

 私の考えでは転生者である可能性が高く、電波少女の可能性は限りなく低い。

 今から先代オペ子を探し出して何者であるのか聞くべきなのだろうけど、それよりもまずはオペレーター業務について聞くのが先だ。それに、なんとなーく気分的に聞く気が低いから、後日気分が乗ってきたら転生者かどうか聞くことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神機使いを辞めてから早一ヶ月が経ち、私のオペレーターとしての実力はそこそこのところまで上がった。

 どーやって動いているのかも分からないような機械をカタカタ叩いて、変なグラフとかがうねうねしているモニターと睨めっこして、遠くできっと仲良く頑張っているであろう半年先輩たちとお話しする作業も大分様になってきたと自負しておく。基本的に自己評価は高くだ。

 そんな自己評価の高い私は現在ロビーにあるソファーで寛いでいる最中である。サボりではない。

 今の時間はハリトラが先輩たちのサポートをする時間なので、私はソファーでゆっくりまったりしている。

 ほんの一ヶ月前ならソファーの上であっちへコロコロこっちへコロコロ上から参ります、と暇を持て余してくねくねしていたものだけど、今は元気よく身体を動かそうとすると節々が軋んで痛いから大人しく正座している。

 

「……ツッコんだ方がいいのかな?」

 

「……別にお構いなく」

 

 少し隙間を空けて隣に座っているミチオが構って欲しそうに話しかけてくる。こっちは構う気ないので遠慮しておく。

 

「……もしかして正座崩せなくなってる?」

 

 確かに正座を崩すために足を動かそうとすると痛む。痛みを嫌がるあまりに足を伸ばしたい思いを我慢して折りたたんだままでいる。それを見事に言い当てるミチオの慧眼には恐れ入った。さすが上司に取り入る301の方法という本を隣で読んでいることはある。301も実行している暇があれば実力で上司を部下にシフトチェンジすればいいというのに。

 ここで素直にその通りです、と頷いて救援を求めるのも人生の一手ではあるが、ミチオに助けられる屈辱は耐えがたいものである。

 なので私は無言で畳んでいた足を崩す。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

 

 所要時間17秒。慎重に足を解放したタイム。

 

「痛い痛いって言うくらいなら頼りなよ」

 

「スケベな男に足を触らせるご褒美はさせませんから」

 

「本人の前でなんて暴言!?」

 

「じゃあ今度から直接はやめて間接にします」

 

「どっちにしろやめて」

 

 やることの多すぎるゴマすり本を放り投げて崩れ落ちるミチオ。投げ捨てられた本はそのままどこかへと落ちていった。

 

「で、ミチオくん。仕事しなくていいんですか?」

 

「それを言うの? 普段からふざけてる人間が言うの?」

 

「言論の自由がありますから」

 

「だからって何でも言って良いことじゃあないよ!」

 

「なんか喉渇きました」

 

「遠回しに買ってこいって聞こえるのは気のせい!?」

 

「あ、しょーもない被害妄想言わなくても大丈夫ですよ。手元に飲み物ありますから」

 

「じゃあなんで喉渇いたアピールをしたの!」

 

「喉が渇いたからに決まってるじゃあないですか」

 

 後はわざと思わせぶりなことを言って貴方をイジメる為です。それもこれもミチオくんが大好きだから。だってそうじゃなきゃいちいち話しかけることしないじゃないですか。とでも言えば鼻の下伸ばして照れ笑いでもしてくるのだろうか。

 もしも予想した通りの反応が返ってきたとしても私は私のキャラに反することはしないと決めていたハズだった気がするので、そのようなはしたない真似をしてはしたない顔を見せられるのは御免だ。

 私は宣言通りに喉が渇いているのでミチオの視線に興味なく立ち上がった。残念なことに手元に飲み物はないのだ。

 立ち上がる度に身体中が痛い。意思伝達の配線がボロボロなのか油の切れたロボットのように軽やかさが不足している動きしかできない

 一か月前までならクルクルと身体を旋回させながら歩き回れたというのに、今は応用を利かせた身体の動きは一切できなし、目的地までの最短コースしか歩きたくない。道草なんてできるほどの余裕がなくなっている。

 

「本当に後悔してないのかい」

 

 自販機へと向かおうとする背中にミチオの声がかかった。何時になく真面目な声音だ。

 ミチオの声の調子と話の内容から何のことを言っているかおおよその見当はつくが、あえて「何が?」と聞いてみた。ずばり言って外した時のことを考えてのことだ。

 

「今は平気な顔してオペレーターなんかやってるけどさぁ」

 

「ミチオ先輩。なんかは余計っす!」

 

 蚊帳の外を維持していたはずのハリトラが抗議するが、ミチオは愛想笑いを浮かべるだけで受け流した。

 

「本当は今も神機使いとして、ゴッドイーターとしてやっていきたいとか考えているじゃない?」

 

 おそらく望まない引退をした人間にありそうなことなのだろう。前世でも今世でも、身近で望まない引退をした人を見たことがないのでよく分からないが。

 はっきりと言うことができる。私はゴッドイーターとしての未来を求めてはいない。いつまで神機使いで頑張りたい、とかお高い意識は持ち合わせてはないのだ。

 

「未練はありませんよ」

 

「どうかな? ゴッドイーターは憧れだし華やかだ。それに比べてオペレーターは地味で主役には成りえない役職だ」

 

「ミチオ先輩。もしかして何か喧嘩みたいなの売ってんすか?」

 

 青筋を浮かべるハリトラに、手を挙げて応えるミチオ。それが喧嘩を売っているという意思表示なのかどうかは分からない。

 

「それはあくまでミチオくんの主観であって、私に当てはまる論理ではないんですよ」

 

 だからこの話はおしまい。長時間立っているのでさえ大変なご身分になってしまったので、出来る限り立ち話は受け入れたくない。

 これ以上何を語られても無視しようと決意して再度背中を向けると、今度はハリトラが私を呼び止めた。なんでも私を訪ねてきた人がいるらしいから向ってくれ、とのことだ。

 飲み物を買いに行こうと思っていたのだが、どうやらそれは暫くお預けになる。

 私は動きの悪い足を動かしてのっそりのっそりと来客の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴッドイーターでなくなったことを悔やんでいるかと問われれば、私はきっと後悔の欠片もないと答えるだろう。

 この地獄を体現したような世界に落とされて生きてきた21年。幸せを見つけることもなかった。たぶんこれからも幸せなんて見つけられないだろう。

 ゴッドイーターになってから出会った半年先輩やオペ子等と暫く一緒に過ごしていくのだとしても、楽しいとは思っても幸せだと思うことはない。

 もしもこの世界で幸せに生きれる転生者がいるなら聞きたい。アンタはどーして馬鹿みたいにニコニコできちゃうのかと。もしかして既に頭がイカレてまともな判断ができなくなっちゃったのかと。それとも、私がいつまでも土着できないから幸せを見つけられないかと。

 どちらにしろ私が転生者に会うことはないだろう。居るかも居ないかも分からないようなモザイク野郎共だ。

 オペ子を転生者であるとするならば既に出会っていることになるが、いまだにオペ子がそうであるかの確認をしていない。だから私の中ではオペ子が転生者であるという認識はない。きっと転生者だ、という予想をしているに過ぎないのだ。

 しかし、結局のところ転生者の有無なんて大事なことではないのかもしれない。この世界の人間とは少しだけ事情が違う人間がいるかいないかの違いでしかないわけで、そんなものに左右されるほどの世界はないのだから。この世界がゴッドイーターというゲームの通りに進んでいることが証明になる。

 私はそんな世界で重要な立ち位置で振る舞うことをせずに、こんな場所で自由気ままにくすぶっていればいいのだ。熱血や正義感を拗らして俺が悲劇の全てを喜劇に変えてやる、なんて劇作家の怒りを買う真似なんてする必要がないのだから。

 

「私をご指名なのはどの客でしょーか?」

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