いつだったか飽食の時代だと言われていたときがあった。食べ物に困らなくて、旬じゃないものを平気で食べれるような時代があった。
コンビニに行けば何かしら食えたし、スーパーに行けば旬じゃないものでも置いてあった。馬鹿みたいにパンを食べられたし、魚だって喰いたい放題だった。
なんでも食えた。それが当然だった。
でもそれはやっぱり有限な資源を食いつぶしているだけで無限じゃなかった。
しかし、所詮人間は未来のことまで考えられるような生き物じゃない。自分が食べたいから食べる。儲けることができるから食べさせる。利害とか欲望とかでしかものを考えられない。
何とかという魚を乱獲し過ぎて絶滅しそうです。
分かりました漁獲量を少し減らしましょう。
そこで分かりました取りません、とはならない。
何故なら人間はどうしようもなく自分本位で欲望のままに生きたがる生き物だからだ。
これは前世のことだ。
今世の世界でもきっと飽食の時代があったのかもしれない。
しかしながら、この世界の人間たちは食うことよりも喰われることの方が多い。アラガミの出現が立場を変えた。
欲望を出し過ぎた人間を罰することが目的なのかもしれないし、単純に何度も繰り返されてきた現象なのかもしれない。
理由なんて知ったことではないが、確かに人間は危機的状況にある。かつては多くの生き物を絶滅に追い込み、また追い込みつつあった人間が絶滅に追いやられる側になるなんて慢心していたとしか言えない。
人間は欲望を持つ生き物だ。どうしようもない大きさの欲望を持つものだ。
絶滅を恐れた人間はアラガミに対抗する手段を生み出して抗っている。それもこれも人類の存続なんていう自分本位な考えが原因だ。
お偉い方たちはきっと自分たちの立場や財産や命が大事なんだろう。こんな荒廃した世界になっても自分のモノが大事で大事で仕方がない。それだから、アラガミに対抗する手段を作らせて、管理して自分たちを守らせようとする。
お偉いさんバンザイだ。きっと豪華なソファーで高価なフルーツ食べながら権力者生活を満喫していることだろう。
片や下っ端戦闘員。それも慢性的人不足と命の危機に悩まされるような。
衣食住だって外部居住区の人間に比べればいい方だが、それでも前世と比べると何ランクも落ち込んでいる。配給される飯も前世の安いだけのファーストフードにも負ける。
ケーキ? バカじゃない。
お洒落なカフェ? ねぇよそんなもん。
インスタント麺? レーションでも食っとけ。
何にもない。アラガミにあらかた喰われた。
本当にアーク計画が成功すればいい。
そうすればいずれまた飽食の時代が来る。私の代じゃないのは嫌だが。
宗教団体『神人対話(しんじんたいわ)』。アラガミの出現は人が醜く肥えて遥か昔の時代に神が授けた秩序を汚したことによる制裁であり浄化の術である。故に我らは神による戒めを受け入れ、現存する体制を捨て去る必要がある。そして我らが教祖様が過去現在未来の全ての人間の上に立って神との対話を行い、新たな秩序を授かりその秩序を以て教祖様が全てを収める世界を作り上げる。
という理想を掲げた宗教団体である。
とても素晴らしい思考をお持ちの宗教団体だったが、この前ほぼ全滅した。
アラガミがいつやってくるかも分からないような場所で供物の要求をしただけでなく、アラガミ討伐中の神機使いに攻撃を加えた彼らの多くはアラガミに喰い殺された。
当然だ。アラガミの前ではしゃぐから。
では多くに含まれない信者たちはいかようにして死んだか。
その答えは極東支部所属食料貯蔵プラント護衛部隊。通称『飯番隊』に所属している二人の神機使いにある。
神機使いの二人は信者たちに捕えられた。
しかし、アラガミの接近を受けた神機使いたちは断腸の思いで信者たちを殺してしまったとさ。
それで神人対話の構成員は全滅。おそらく残ったのは教祖一人。食い物ほしさに心の病んだ人々を唆して、食糧の略奪を行っていた奴らの末路は喰い殺されるだ。
「勘違いしちゃいけませんね。今の人間は喰われる側だってことを」
「そうだなぁ。そんな世の中だもんなぁ。腹いっぱい食ってぐうたらしてぇー」
いつものロビー。そこに置かれているソファーに行儀よく座りながら先輩が欲望を吐き出す。神機を扱う右腕に巻かれた包帯はもうずいぶんと見慣れた。
「満腹して人生謳歌するなんて今は無理ですよ。それでもいいじゃないですか、怪我して暫く出撃はなしなんですから。ぐうたらできますよ」
できますよ、と言いつつも既に一週間はぐうたらしている私。先輩と同じように右腕は包帯でグルグル。頭も包帯グルグル巻きの重症患者だ。
満身創痍なのは無茶をしたからだ。
宗教団体『神人対話』の信者たちに捕まった時、とっさに行った脱出手段が悪すぎた。目の前で爆発系オラクルバレットを発射して自分諸共信者たちを吹き飛ばしたのだ。顔をかばったとは言え至近距離でのオラクル爆発は意識を失うほど酷かった。
気がついた時は先輩に担がれていた。そしてヴァジュラに追われていた。
後は色々あってなんとか逃げ切った。
ちなみに先輩の怪我は私を担ぎながらヴァジュラと交戦した時の怪我らしい。
「平和だ。とっても平和だ。アレだな、このまえ大量に刈り取ったから当分は出番なくて済むな」
「ですね。このままの状態が普段ならいいんですけどね」
「だなぁ」
「だなぁ、じゃないよ!」
ミチオがひょっこりと現れた。
何事かと思ってミチオを見てみると服や顔が油まみれになっていて臭った。怪我人相手に腐臭を漂わせてやってくるミチオにはエチケットがない。だからこの前異動願い却下されたんだよ。実力ないだけで問題なのに、身だしなみもだらしないから。
「どした、ミチオ! まーた食糧つまみ食いしたんか?」
「してないよ!? したら殺される!」
「さすがミチオくんですね」
「あぁ、尊敬に値するな。ゴキブリめが」
「話を聞こうか!」
「野郎の話なんて聞けるもんじゃないヨ。私の耳は全世界の女性諸君の声だけを聴くだけに存在しているノサ」
「すごいね、誰もボクの訴えを聞こうともしない!?」
「ひゃははハ。ヤマブキせんぱーイ。お菓子持ってきましたから食べましョウ!」
ソファーの上に要らない資料を敷いて焼き菓子を広げるオペ子。彼女は料理もできるから手作りだ。量はどうみても二人分。先輩とミチオの分は存在していない。
「ありがとね、オペ子ちゃん。とても美味しいですよ」
「やッタ。丹精込めて作ったかいがありまシタ」
「ボクらの分がないんだけど」
「あるわけねぇダロ。馬鹿じゃねぇノ」
「厳しい!?」
「優しいほうだと思いますよ。本当の厳しさを知らないだけで」
「あー、そうだな。厳しい厳しいって言ってる奴ほど厳しさを知らねぇからな」
「そ、そういえば。最近極東支部の方がやけに騒がしいみたいだよ!」
敵しかいない状態を理解したミチオが逃げの一手を打つ。ヘタレだ。
「騒がしいだって? あそこいつも騒がしいだろ」
先輩の一言でこの話題は終了した。
極東支部が騒がしいというのは物語が終盤に差し掛かっているのだろう。アーク計画を阻止する為に主人公こと神薙ユウが仲間引き連れて襲撃でもかけようとしている時かもしれない。
所詮は遠方の神機使いでしかない私には一切関係のない話だが。個人的にはシックザール支部長の計画が上手くいくことを望んでいるとだけ言っておく。
主人公たちのやっていることは所詮は今を生きる自分たちを優先させているだけ。
シックザールは未来を考えている。やり方とか犠牲になる人数のことを抜きにすればけっこういい計画だ。多くの犠牲も人間の傲慢さの罰だと思えば優しい方なのかもしれない。
しかしながら、どうせゲームのシナリオ通りに主人公たちの勝ちになるはずだ。そして死んだと思われていたリンドウが復帰し、クレイドルができあがる。それで2の話に進んでいく。
世の中そんなものだ。
「極東支部なんて行く場所じゃあないよな。アラガミわんさかで忙しいし、守んなきゃいけないのも多いし。どこがいいんだ、あんな場所。歓楽街もないんだろ?」
「歓楽街に関してはどこにもありませんよ、半年先輩」
こんな世界に大きな娯楽なんてない。
「それよりもミチオくんは何の用ですか」
オペ子の作ってきた焼き菓子の香ばしい匂いを台無しにするようなミチオの油臭さを思い出して、用件を聞いてみることにした。どうせ文句とかぐらいしか用ないだろうけど。
「何の用って……あぁそうだ。二人共、神機を酷使しすぎだよ。ボロボロのボロボロで修理するのに時間かかっちゃったんだけど!」
はい。まぎれもない文句だった。仕方がないかもしれない。私の神機なんてフレームの一部が亀裂が入っていたし。
「……ありがとう、ミチオくん」
「あの……どうして”ありがとう”の時にオペ子を見るのかな? ボクに言うべきことじゃないの?」
「ミチオよぉ。やめろよ。ヤマブキちゃんはちゃんとお礼をしているんだから。文句を言うところじゃあねぇだろ」
「そのお礼の向きが僕じゃない時点で文句言えるよ!」
「なーんと心の狭い男ダ。だから駄目なんダヨ、玉無しヘナチン野郎ガ!」
「酷い罵倒!? ヤマブキ~」
「はいはい。オペ子ちゃーん」
「はーイ! ヤマブキ先輩!」
飛びついてくるオペ子。口にくわえた焼き菓子を向けてくるので、反対側をくわえて半分こにした。
すごい平和だ。
おめでとう。一人の人間の計画は失敗に終わり、多くの人々の今が救われた。
シックザールの計画は主人公に止められた。シックザールは表向きはエイジス計画の最中にアラガミに襲われ死んだことになった。これは当事者たちにしか知らされていない事実。外様には表向きのことしか知ることはできない。
結局は物語通りだった。
アーク計画が成功していればよかった。
物語が終了してから二年たった今でも思う。
でも失敗は失敗。悲しいことだ。
リンドウは無事に戦線に復帰したし、主人公たちはフェンリル極東支部独立支援部隊『クレイドル』の所属なって人々の為に何かしている。お月様は地球みたいに緑化してしまった。
「相変わらず月が緑色ですね」
「だなぁ。風情の欠片もないな」
私と先輩は原作と同じような世界でのうのうと生きていた。
場所はプラントから離れた平地。今日の目的はとある雑魚アラガミの駆逐と、新人ゴッドイーターの実地訓練だ。
そう、新人だ。
昔から万年辺境地暮らしで人材を向けるなんて勿体ないと言われてきた飯番部隊についに春が来たということだ。
本来なら喜ぶべきことだが、生憎私と先輩は手放しで喜ぶなんてことはしない。
理由を述べるのなら、新人教育が面倒だということだ。
新人を教育するということは討伐任務行く回数が嫌が応にも増えてしまう。これは普段から行きたくない働きたくないと思っている私たちにとっては最悪なことだ。やってらんない。
しかし、やってられないからと言って、サボってしまえば色々と上から言われてしまうのでやらざるを得ない。
よって私と先輩は神人三名を連れてアラガミの徘徊している平地へと足を運んだ。
三人の新人神機使いを頑張って一人前に育てましょう。そんなことしなきゃいけないので、もう主人公たちの悪行なんて気にしてられない。
「えーと、お前らにはこれからてきとーにアラガミを狩ってもらうから」
すぐそばに危険がないことを確認してから先輩が話し出す。
「まぁ、最初から飛ばしてヴァジュラ行ってみようか、てことにはならないから安心しろ。とりあえず、ここら周辺を徘徊しているオウガテイルとかドレットパイクを目標にする。なんでちょっと緊張しながらも頑張って経験を積むようになー」
終始てきとーな説明。さすが先輩だ。私の時と一語一句違いがない。使い回してる。
「前衛には半年先輩。後衛には私がいますからそこそこ安心して訓練してくださいね」
かくいう私もてきとーだ。君たちのことは私たちの命に代えてでも守り通します、なんて御大層な宣言はしたくないのでこれくらいがちょうどいい。
「はいはい了解っす!」
「分かりました!」
「え、あ、はぃ」
舐めたような声と、聞き分けの良さそうな声と、自信がなく不安そうな声。三者三様の返事が聞こえてきた。
「よぉし。今日はめんどいから、おニュー1とおニュー2が前衛で、おニュー3がヤマブキちゃんと一緒に後衛だ。分かったら行くぞ」
先輩が先頭を走り、その後ろをおにゅー1とおにゅー2が必死について行く。
おニュー1はやんちゃそうな見た目をした男の子。若干他人様を馬鹿にした態度を取っているのが特徴で、この前オペ子の本気のフライングニードロップを喰らってダウンしていたのが印象的だ。
おニュー2も男の子だが、おニュー1とは違い、育ちの良さがが滲み出るいいとこのボンボンと思われる。基本的には良い子ちゃんで先輩や私の言うことをちゃんと聞いてくれる常識知らずだが、やけにゴッドイーターに執着している節がある。
そんな真逆の二人の後を私とおニュー3が緩々とついて行く。
おニュー3はお嬢様みたいな恰好をした女の子で、なんとおニュー2の姉だ。何事に対しても怯えていて、どうして神機使いになったのか分からなくなるほど性格の合わない子。もしかしたらゴッドイーターになろうとした弟ことおニュー2を心配してあえて踏み込んだのかもしれない。
もしもそんな理由でゴッドイーターになったのだとしたら、私は馬鹿じゃないのと思うし、先輩もきっと蔑みの目で見ると思う。
何にせよ、私と先輩は新人を育てていかなければならないわけだから黙々と仕事するだけだ。