外様神機使いの日常   作:ネコ削ぎ

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 意志が強いということは往々にして良いこととして捉えられることがある。

 あの人は逆境にもめげずにやるべきことをやり通した。反対意見をものともせずに成功に導いた。

 世間ではそういう人々を意志の強い人間だと言う。

 逆にちょっとしたことで泣いたり、挫折したりする人々のことを意志の弱い人間と言っている。

 意志が強い人間、つまりやり通すだけの心構えをを持っている人間は素晴らしい人とする考え方があり、意志が弱い人、つまり困難から逃げてしまう人間を駄目な人とする考え方がある。

 意志が強いことは羨ましい。人間として強く見られるから。

 しかし、羨ましいだけで近くにそう言った類いの人間がいるのは御免こうむる。

 何故なら、意志が強いということは頑固だからだ。

 頑固ということは人の意見を受け入れるだけの寛容さがないということでもある。

 やり通す強さというものは、他人の意見に左右されない強さであり、他者を受け入れることのできない弱さだ。

 集団の中で意志の強い人物は悪いばかりではないが、かと言って善いばかりでもない。

 意志が弱い人間は他者を引っ張っていく強さはない。心構えも不十分で撃たれ弱いが、自分自身が弱いと分かっているからこそ、他者の意見を取り入れる寛容さを持っている。

 やたらと人の意見を聞きたがる人間を、私は鬱陶しい人間だと思うが、近くにいても構わない。彼らは他者の意見に賛同してくれるからである。

 私はどちらかと言えば意志の強い人間だ。

 この地獄のような世界で、自分のことを第一に考えて行動しているからだ。自分の考えに反する意見には賛同せずに、自分の考えを貫くような人間なのだ。だから、新人教育なんておざなりになってしまう。だって彼らのことを考えて行動すると、自分のことに手が回らなくなる。

 じゃあなんで先輩と一緒に行動できるのか、と問われれば簡単に答えを提示することができる。

 先輩も私と同じように自分が一番の考え方をしている人間だからだ。だから反発することもなく仲良くチームを組んで動ける。

 先輩も私も意志が強い。そして配属された新人くんたちの一人、ジーンもまた意志が強かった。それも私たちとは考え方の違う意志の強さ。

 意志の強さというのは、大概は他者の意見を受け入れる寛容さが不足している。

 つまりは私が撤退する、と命じたところで、ジーンはその意見を取り入れることはないということだ。

 逆もまたしかりで、ジーンが戦いましょうと提案したところで、私はそんなくだらないことに付き合う気はさらさらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿の言葉に足が止まる。

 高が新人の分際で一体何を言ったのか。

 自分の実力の低さを客観的に理解できもしない夢見がちな餓鬼程度の存在が何を盾突くか。

 廃墟から飛び出してきたスサノオがこちらを認識してじりじりと距離を詰めてくる危機的状況かつ今なら上手く撤退できる状況で口論するというのか。

 

「嫌じゃないでしょ!」

 

 隣にいるお嬢ちゃんの手を取って引き寄せる。ジーンとお嬢ちゃんは姉弟の関係だからあっち側につく可能性がある。そうなると、新人二人を失うという非常に残念な結果になってしまう。

 

「ボクたちが神機を持つのは自分たちの為じゃありません! アラガミに怯える人たちの希望となるためです!」

 

 敵がおかしな行動を見せていることに警戒してか、スサノオの足運びは嫌に慎重だ。そのおかげで私は焦りながらも新人のたわごとを聞くだけの余裕は維持できている。

 

「そんな言葉は二年生き残ってから言いなさい!」

 

「言います。ボクはその為にゴッドイーターになったんですから! パパの会社を継ぐためだけの存在じゃない! ボクの力でもみんなを守れるんだって! 世界を救うことができるんだって証明するんです! 希望になれるんだって!」

 

「知らないからこっち来なさい!」

 

「嫌です! 戦う力があるのに、目の前にアラガミがいるのに戦わずに逃げるなんて考えられません! 今ここでボクらが戦わなければ誰かが傷つく! そんなこと許されません!」

 

「その前にまずは自分の命でしょうが!」

 

「命を賭してでも守る! それがゴッドイーターです! 利益とか会社とかしか考えないパパには理解できなくても、ボクには理解できます! 隊長だって理解できるはずです! 同じゴッドイーターなんですから!」

 

「同じじゃあないよ。全然違います。そんなご立派過ぎる口先だけの理想なんてね、理解し難いもの」

 

 ゴッドイーターなら自分を犠牲にするとか、同じゴッドイーターならとかやめてほしい。それはあくまでジーンの勝手な考えでしかなく、私の中にも僅かながらにもあるような考えではないのだから。

 

「ボクは戦います! そしてパパを見返します! ゴッドイーターは野蛮な仕事じゃないんだって! パパの会社なんかよりもずっと尊いことをしているんだって!」

 

「ジーン。アンタ命令違反を犯す気か!」

 

 ブレードを振りあげてスサノオへと向かい出すジーン。私の声なんてもう聞こえていないだろう。だって、私の意見はジーンにとって受け入れられるものじゃないのだから。

 もう説得する時間もできる可能性もない以上、やることは一つしかない。

 

「……半年先輩」

 

 お嬢ちゃんの腕を引っ張って走り出す。

 

<どした?>

 

「新人一名がこれから殉職します」

 

<分かった。とにかく合流するぞ。こっちも手のかかる奴が出てきたし、急にハリトラが怯えだして使い物にならなくなった>

 

「待ってください! まだ……まだ!」

 

「ジーンは見捨てる。撤退命令を無視しておいて助けてもらおうなんて虫が良すぎるよ」

 

 赤信号なのに渡って轢かれる奴が悪いに決まっている。青信号だから渡って轢かれた場合は相手が全面的に悪いに決まっている。同じことだ。

 全力疾走でこの場を離れる。

 

「え? あ、りゃ? いやぁぁぁあああ!?」

 

 すぐ後ろから悲鳴が聞こえてくる。振り返ると浅い呼吸を繰り返すお嬢ちゃんが引っ張られながらも背後を見ていた。

 遠くの方でジーンが飛んでいてた。それはもう重力を感じさせないくらいにポーンと空を飛んでいて、けれどやっぱり重力があったようで地面へと落下していった。

 

「から、だが!? 身体がぁっ! どぉして二つになってぇへ!?」

 

 狂ったお嬢ちゃんが言うように、ジーンの上半身は華麗に宙を舞ってそのまま落ちていった。残った下半身は走っている最中だったので、前のめりに倒れて動かなくなっていた。

 ジーンの手から神機が離れて、運よくこちらの方に飛ばされてくる。

 神機使いが殉職した場合に、同行者は殉職者の神機の回収が可能な場合においてのみ神機の回収が義務づけられている。神機はいまだに数に限りがあり貴重なのだ。

 

「神機回収」

 

 ジーンの神機を回収してから更に逃げるが、スサノオの方もジーンの肉体を捕喰してから追ってくる。それもさきほどまでの警戒した足取りではなく、完全に獲物を追うスピードだ。

 はっきり言ってこのままでは追いつかれてしまう。足手まといが一人減ったとは言え、いまだにお嬢ちゃんがいて戦いようがない。更にお嬢ちゃんはもう戦える精神状態じゃあない。引っ張られれば辛うじて足を動かす程度の人形に成り下がっていた。

 命あっての物種。私は回収した神機を明後日の方向に投げ飛ばした。

 そうすればスサノオは興味深々とばかりに神機の飛んでいった方向へと進路変更していなくなってくれた。

 データベースにあったのだが、どうやらスサノオは神機を好んで捕喰する習性らしいのだ。ということで持ち主不在の神機を囮にしてどっかへと言ってもらったのだ。

 

「ヤマブキちゃん、無事かい?」

 

 暫く廃墟群の中を走っていると肩に気絶したハリトラを背負った先輩と合流した。

 

「無事ですけど、どーしました?」

 

「急に泣き叫びやがったから、意識を刈り取って担いできた。今日は豊作だ」

 

「それはよかったですね」

 

「そっちの顔中の水分を垂れ流した女の子は何だ?」

 

「見て分かりませんか? 命令違反を犯して犬死した弟さんのせいで狂ったお嬢ちゃんですよ」

 

「なるほど。お、ヘリが来たな」

 

 バタバタと五月蠅い羽音を響かせながら迎えに来てくれたヘリ。私たちは犠牲者を出した挙句にミッションを途中放棄するという結果を残して撤退したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、そこまで怒られることはなかった。

 今回の任務はあくまで小型アラガミの駆逐であり、想定外の大型アラガミ、それも第一種接触禁忌種の出現など予期せぬものであり、予想外の事態でありながらも新人二名を守り抜いたとしてむしろ褒められてしまった。

 聞けばジーンの家は大金持ちでありフェンリルの出資者の一人であるとのこと。普通なら金持ちの餓鬼を死なせやがって、と怒られるところなのだが、どうやらジーンの親はフェンリル内では口出しばかりをしてくる鬱陶しい奴扱いされていたらしいので、ジーンの死はざまぁ見ろということになるようだ。大人の世界は汚い。

 しかしまぁ、神機を回収できなかったことに関してはネチネチと小言を貰ってしまいましたがね。最終的には飯番隊の実力では無理か、と納得していただいたのでそこまで酷くはなかった。

 飯番隊内では少し問題が起こった。

 新人一名を失ったこともあるが、生き残った新人二名にも問題が生じてしまったのだ

。ハリトラは件の出撃以来、精神的に参ってしまい、これ以上ゴッドイーターとしてやっていくのは難しいという医師の診断を貰ってしまった。

 お嬢ちゃんも件の事件以来、部屋に閉じこもって弟の死を嘆き悲しんで訓練すらもできない状態になった。

 実質新人全員が使い物にならなくなってしまい、結局飯番隊の神機使いは先輩と私だけという事態に。

 

「というわけで神機の返還に行ってきまスネ」

 

 ハリトラの神機を専用の巨大ケースに入れて、ヘリに積み込んだオペ子が嬉しそうに言う。さすが男嫌いだった。

 

「ヘリだから大丈夫だと思うけど気をつけてくださいね」

 

「はーイ! このオペ子。ヤマブキ先輩の優しさを胸に頑張ってきますネ」

 

「良し、頑張ってこいよ!」

 

「失せロ!」

 

「厳しいなぁ」

 

「わざとやってたじゃん!」

 

「ミチオ、黙レ!」

 

「飛び火!?」

 

「いいえ、当然の結果だと思いますよ」

 

 ミチオがどうしようもないのは今に始まったことではないので気にしないで、オペ子に神機の入ったケースを渡す。中に入っているのは私の神機だ。

 

「にしてもどーして私のも持っていくんですか?」

 

「ふふフ。これには深い訳があるんでスヨ。それもこれもヤマブキ先輩という素晴らしき女性を殺させない為デス」

 

「嬉しいけどよく分からないですねー」

 

「まぁ、オペ子はヤマブキちゃんの身を案じてるみたいだからぁ。疑問を持たずに託せばいいんじゃあないか?」

 

「いいですけど、戦力減りますよ。暫く半年先輩一人ですね。いやぁ、ごっくろうさまです!」

 

「マジじゃあねえか!? ちょっとオペ子! 俺の神機も暫く預かってくれ!」

 

「あァン? 知らねぇヨ。一人で勝手に野垂れ死ネ!」

 

 一も二もなく断るオペ子。

 先輩が必至になって私に助けてほしいコールを送ってくるが無視しておいた。とりあえず先輩には頑張ってほしいのだ。

 

「あ……あのぉ」」

 

 助けなかったことを咎められ、先輩に頬っぺたを引っ張り回されていると、元気のないハリトラが恐る恐る声をかけてきた。

 

「ひょうひひゃの?」

 

「ハイパー何言ってるか分からないっすけど!?」

 

「馬鹿だなぁ。これは今日来たの、って言っているに決まっているじゃあないか」

 

「違います。どうしたの、って言ったんですよ。うう、頬っぺたがジンジンするー」

 

「それは大変デス! ヤマブキ先輩、私がその可愛らしい頬っぺたを舐め舐めして痛みをなくして差し上げまス!」

 

「……あんまりにマイペース過ぎて言うこと忘れたし!?」

 

「諦めなよ。ボクはとっくに諦めてるし」

 

「よりによってミチオ先輩と一緒すか」

 

「あからさまに嫌な顔見せないでよ!?」

 

「それよりもそろそろ出発時間じゃあないんでーすかー?」

 

 オペ子に抱き着かれ左頬がその舌の犠牲になりながらも私は気丈に言った。痛みでジンジンする頬をヌメッとした感触が這い回るのが癖になりそうで恐い。

 

「まだまだヤマブキ先輩の頬っぺたを堪能したいところではありますガ。時間が来たからにはいかなければなりまセン。ハリトラ……乗レェッ!」

 

 私からようやく離れたオペ子は傷心のハリトラの背中を蹴飛ばしてヘリへと追いやった。

 これからオペ子が向かうのは極東支部だ。

 目的は幾つかある。

 まず、ハリトラのゴッドイーター引退の諸手続きをしにいく。これは本人様が必要なのでハリトラも極東支部に向かう。目に見える怪我や退役年数による引退といった通常の引退手続きとは違い、特殊事情等による引退なのでそれを説明できる書類や証言などが必要なのだ。書類は本人ではなく別の人間の手によって提出されなければならない決まりがあるために、極東支部に別の用事があるオペ子が書類の配達人になったというわけだ。

 次にハリトラの神機を極東支部に返しに行く用事だ。これもまた神機適合者本人以外による輸送が義務づけられているためにオペ子がついて行くことになった。

 その次の目的は私の神機の改造らしい。このことに関しては詳しいことを聞かされてはいない。オペ子が言うには極東支部の女性技術者と知り合いらしく、その方に神機の改造をしたいと打診したところ二つ返事で了承を得られたから改造しに行くらしい。私抜きで進んでいくのには怒るべきか、そこまで私のことを想ってとウルウルと感動するべきか困る。

 最後の目的は教えてもらえなかった。オペ子が不敵な笑みを浮かべて「私用でありますヨ」と言っていたから私事であることには違いないと思う。

 まぁとにかく極東支部に赴き色々するということだけ知っておけばいい。

 滞在期間は二週間とちょっとらしいのでその間はオペ子に会えない。そしてオペレーター不在ということになる。

 

「……あれ? バックアップなしでアラガミとやり合うのか?」

 

 先輩がいまさら重要なことに気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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