外様神機使いの日常   作:ネコ削ぎ

7 / 13


 愛があればどんな困難だって乗り越えられる。

 今世はバカラリーか、フェンリルのゴッドイーター募集の放送しかやっていないから若者には知られていないが、前世で散々番組を見てきた私はよく知っている。

 愛があればどんな困難だって乗り越えられる。愛は何よりも尊くて、その気持ちは何にも負けないということを知らしめようとした言葉なのだろう。

 一見するとカッコイイ言葉なのかもしれない。彼氏がそんなこと言えば女はキュンとでもするんじゃないだろうか。私は言われたこともなかったし、仮に言われたとしても唾を吐きつけるだけの冷たさがあるので意味はないが。

 日本の恋愛ドラマとかマンガとか歌とかは、やたらと愛を凄いものとしている節がある。愛の為なら死ねたり、愛の為なら世界の全てを敵に回したり、愛の為なら自分革命をしたり、愛は何よりも強かったりと。

 愛バンザイだ。

 今の時代も愛があれば何でもどうにかできるか? できるわけない。愛ごときでいかなる困難を乗り越えることなんて出来やしない。それができると勘違いしている奴はフィクションの世界を妄信しているか、今まで出会った困難が傍から見れば実はそれほど困難じゃなかったかのどちらかだ。

 私は恋愛を経験したことはない。だから愛があればどんな困難だって乗り越えられるも理解できないし、できるはずがないと考えている。

 友愛もなかった。友達はいたことにはいたけど、じゃあ一緒に困難を乗り越えていこうとか思うような奴らはいなかった。

 ただ同性に向ける愛はあった。それは友達じゃあなかったから友愛じゃない。

 私は愛の存在は否定しないけど、愛はどんな困難だって乗り越えられることは全力で否定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブゥストミートハンマァァアアッ!!」

 

 オペ子の推進器付きのハンマーがシユウの腕を容赦なく破壊した。

 

「よし、やれぃ!」

 

 先輩の声援が戦場に轟く。

 

「黙ってロ! 口汚いんダヨ!」

 

 すぐさまオペ子に怒られていた。

 

「はいはい。二人共仲良くね。そうしてくれないと私が死んじゃいます」

 

 自己保身の為に二人の仲を取り持とうとする私。向かってくるクアドリカ特製ミサイルを撃ち落としていく。

 

「ヤマブキ先輩は守りますかラ。安心してくだサイ!」

 

「だがなぁ。ここは誰か一人は犠牲になると思うぞ。なんたって新たな新人がいるからな。大体こういうのって新人が死んじまうよな」

 

「さよなラ、糞男子!」

 

「いつから俺は新人になったんだー」

 

「あ、ほら。男は何時までも子供っていうじゃないですか」

 

「イコール新人の理論はつーよーしねぇぞ」

 

「こういう時にハ……戦狂いの男共が死ぬのが定石。そして残されたヤマブキ先輩を私の身体で慰めるんデス!」

 

「俺は百合肯定派じゃあねぇんだ。全力で邪魔してやるう」

 

「それよりもなによりも頑張りましょう」

 

「と言いつつ、遠慮なく手を止めてるヤマブキちゃんには言われたくないなぁ」

 

 先輩のバスターブレードがヴァジュラの顔面を叩き割る。

 痛みで仰け反ったヴァジュラの喉目掛けて、オペ子のブーストドライブが炸裂する。いがみ合いながらも絶妙なコンビネーション。

 

「ナイスでーす」

 

 私は私でクアドリカと砲撃戦だ。相手はミサイル一辺倒だから砲撃戦とは言わないかもしれないが。

 

<ヴァジュラのオラクル反応消滅っす。次々と頑張るっすね>

 

 インカムから元神機使いの新人オペレーター・ハリトラの声が聞こえてくる。

 オペ子の帰還が一週間も遅れたのは引退したハリトラにオペレーターの仕事を教えていたからなのだ。

 アラガミに怯えて引退をしたはずのハリトラが新人オペレーターとしてプラントに戻ってきたのは二つの事情がある。

 一つ目は神機使いになるとついて回る兵役期間。

 ハリトラは一年も経たずにドクターストップ引退をしたために兵役を全うできていない。戦えるだけの心の強さのないハリトラにこれ以上ゴッドイーターの仕事強いたところで、神機を破壊されて終わりなだけなので、じゃあ残りの兵役をオペレーター業務で消化しようという話だ。

 もう一つはオペ子に適合する神機が見つかり、神機使いに転身するためにできるオペレーター不在という問題を解消するためだ。

 オペ子自身は男のオペレーターじゃなくて新人の女の子を手とり足とり教えたかったそうだが、願い叶わずハリトラが宛がわれたそうだ。帰りのヘリでハリトラが理不尽な暴行を受けたであろうことは想像に難くない。

 

「いいよなぁ。安全圏から好き放題言えて」

 

<仕方ないっす。だって俺、スーパー戦えないんすもん>

 

「そうだね。ビビり過ぎて戦えないとか羨まし過ぎますよ」

 

「先輩方が異常に厳しいっす!? 助けて、先輩オペのオペ子さん助けてくれっす!」

 

「アァ? オメェの先輩になった覚えなんざぁねェナ。気安く話しかけんナ。どうしようめねぇ豚野郎ガ!」

 

<仲間がどこにもいない!?>

 

「いますよ。ほら整備班のあの人が」

 

「そーだ。仲間がいないことなんてないんだ。お前には整備班のあの人がいる。そうガッカリするな」

 

<ちょっ!? 整備班のあの人が仲間なんてハイパー嫌っす! だったらロンリーな方がスーパーハイパーマシっす!>

 

<新人にまで馬鹿にされてる!? というか名前を呼べ! なんだ、整備班のあの人って!? 急に距離取らないでよ! ミチオって呼んでたあの日はどこ行った!>

 

「あ、その……すんませんでした」

 

「あの……失礼なこと言ってすみませんでした」

 

「……ケッ!」

 

<……まっこと申し訳ないっす>

 

<どーして腫物みたいな扱い!?>

 

 戦場に似つかわしくないやり取り。この間私たちは残ったクアドリカの周りをグルグルと回ってかく乱しながらゆっくりといたぶっていた。

 いたぶってはいるが、存外に装甲が分厚くて決定打は与えられていない。やはり話しながらだと駄目だ。話してなくても駄目だけど。

 前部装甲がぱっかりと開けば勝負を決められるのだが、そのチャンスが来る前に吉報が舞い込んできた。

 

<オラクル反応確認っす。それも……最近流行り出した感応種!>

 

 私たちにとっての吉報が舞い込んでくることなんて稀だ。大体オペレーターが告げてくるのは凶報と決まっている。

 

「感応種だぁ!?」

 

<そうっす。スーパー感応種っす。極東支部で話題になってるマルドゥークで間違いないかと思います>

 

「不味いなぁ。帰りたいなぁ」

 

「本当に不味いですねー」

 

「なぁんで、途中参戦すっかなぁ。そーゆーの卑怯だってならってないのかよぉ」

 

「野郎とアラガミはゴミ屑脳なんですヨ。ネー、ヤマブキ先輩」

 

「そーだねー」

 

<言ってる場合じゃないっすよ!?>

 

 感応種。ゴッドイーター2から現れ始めた特殊能力を持つアラガミの総称だ。普通のアラガミよりも厄介な奴多く、感応現象を使って神機を機能停止に持ち込むことができる。設定上だと2の主役部隊ブラッドのみでしか対応できない強敵だ。もしくはブラッドアーツもしくはブラッドバレッドが扱える神機使いなら戦える。と言ってもゲームだとブラッドアーツとかを習得してなくても普通に戦えるんだけど。

 しかしながら、それはあくまでゲームの話でしかない。

 現実世界であるここでは、そんな主役勢のご都合主義な設定無視は通用せず、感応現象を範囲にいればしっかりと神機が機能停止を起して攻撃不可能になる。

 

「よーし。撤退すっぞ!」

 

<無理っす。クアドリカのせいでヘリは出せませんから。それに防壁を破壊される恐れもあるんすよ!>

 

「命の方が大事ですって」

 

<いやいや!? 命を守る場所を守る方が大事っすよ!>

 

「現場の気持ちは分かってもらえなイ。身を以てしりましタヨ。一つ賢くなったことを褒めてくだサイ、ヤマブキ先輩!」

 

 クアドリカのミサイルパーティを掻い潜りながら言い争う。

 現場の声と所詮は現場を知らないマニュアルマンの戦いだ。ハリトラは現場も経験してるのだけど。

 

<とにかくなんとかしてくださいっす!>

 

 平気で無茶を言うハリトラ。

 先輩も私もオペ子も逃げることばかりを主張してハリトラの意見は取り合わない。妥協のない戦いは物の見事に平行線だ。

 と言ってもこの争いは暫くすれば終戦を迎える。私たち神機使いチームが空気の読めないアラガミ団に殺害されてしまえばそれで終わりだ。

 故に先輩も私もオペ子も内心では焦っている。焦っているはず。とりあえず私は焦っている。

 今取るべき手段は目の前で暴れているクアドリカを瞬殺して、とっとと引き上げるというものくらいだ。問題があるとすれば、私たちの力でクアドリカの瞬殺は無理だということか。

 

「逃げたい!」

 

「左にいるけど右に同じです!」

 

 感極まって本音を漏らす先輩に激しく同意する私。

 

<……アラガミ接近の報告っす>

 

 インカムから非情な通達が届く。

 

「何だチクショー! ふざけんなべらんめぇ!」

 

「半年先輩が壊れました!?」

 

「任せてくださイ、ヤマブキ先輩! このブーストミートハンマーでミンチより酷い肉に変えますから!」

 

<絶望したからって仲間割れやめて!?>

 

「うるせぇな! お前もこっち来い!」

 

「そーですよ! 一人だけいい思いして!」

 

「テメェがサイショでサイゴノギ牲ダァ!」

 

<いい思いって、諸先輩方が負けると次はプラントが標的になっちゃうんすよ。それとそっちには絶対に行きたくないっすから! だから犠牲も勘弁です!>

 

「じゃあミチオが来い!」

 

「あ、その手がありました」

 

「アビャラらラァァああありゃン!? ヤマブキ先輩と私の代打にミチオを二人所望シマス」

 

<ミチオ先輩! 今すぐ細胞分裂して現地に向かってくれっす! オペ子先輩が壊れるまえに!>

 

<お前!? 後輩の分際でボクをあんな危険人物と危険生物のいる場所に行けって言うか!?>

 

<アラガミ接近! どうやらスサノオみたいっす。ご縁があるみたいっす!>

 

 縁は大事だけど凶に繋がる縁だけは切って捨てたい。けれども縁なんて何時繋がってか分からないモノ切りようがない。

 遠くから全力疾走してくるスサノオ。お祭り好きなわんぱくマンは本当に困る。

 クアドリカと無事合流を果たしたスサノオと、無事に合流させてあげた私たち。

 

「先輩……神機が機能停止に陥りました……やりましたね!」

 

「あー。明日の飯とお別れかー。やっぱ駄目だなぁ」

 

「ヤマブキ先輩。死ぬ前に濃厚なキッスをしましょウ! そしてそのまま一夜を共に……とぉぉぉぉおおおもぉぉぉおにゃぁぁぁアア!!」

 

 あまりに危機的状況に全員壊れましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕方ない。こうなってしまってはやるしかあるめぇて、お前ら」

 

 別に壊れてなかった。

 先輩は嫌そうな顔をしながらスサノオを攻撃を避けながら私たちに話しかけてきた。

 

「後一分もしないうちにマルドゥークも参戦してくる。俺たちは既に攻撃を奪われているわけで、残っているのは相手がいたぶり飽きるまで逃げ続けることだけだ」

 

 つまりデッドエンドだ。

 

「だがしかし、俺たちはまだ勝つ可能性を持っている」

 

 いつになく真面目な先輩の姿に思わず聞き入り注意力散漫で死にそうになる。

 

「というわけで、ミチオ。平常時でも緊急時でも基本的に役立たずで豚野郎なお前に任務を与えてしんぜようぜ」

 

<今すぐ死ねばいいのに>

 

「車で迎えに来い」

 

<要はボクに死ねって言いたいわけね!>

 

「ちっがーう! お前が迎えに行くのはヤマブキちゃんだ」

 

「先輩あざーっす! 無事生きて帰れたら豪華な墓作ります!」

 

「おーい! 俺だけ死ぬこと確定かい。まぁ、いっか。次はヤマブキちゃんに任務」

 

「なんでしょー?」

 

「お前はミチオの迎えがいいとこまで来たら、偽装フェロモン使って逃げろ」

 

「そして私も先輩と一緒に逃げるんですネ。わっかりマス」

 

「お前は俺と一緒に囮だ。ミチオがいいとこまで来たら俺がスタングレネード使う。敵が怯んだところで俺とオペ子は挑発フェロモン使って注意を惹きつける」

 

「それで、逃げる私は何を……て聞く必要ありませんね。ハリトラちゃんよーい」

 

<はいっす>

 

「マルドゥークの感応現象の有効射程範囲は?」

 

<大体になりますけど、半径700メートルほどっす>

 

「オッケー」

 

 やるべきことはもう分かる。先輩が言う勝つ可能性は私だけが持っているのだ。自惚れでもなんでもなく私だけが持っている。

 クアドリカとスサノオを攻撃を回避しながら時を待つ。今は忍耐こそが最上の方法だ。

 

<諸先輩方! 整備班のあの人が近くまできました。どんな作戦かは分からないっすけど作戦開始っす!>

 

 ハリトラの合図がインカム越しに聞こえた時、先輩がスタングレネードを地面に叩きつけて発動させる。

 目を眩ませる光量が一気に漏れ出し、アラガミたちの視界を奪い去る。

 私は手持ちのスタングレネードを囮役の先輩に投げ渡すと、偽装フェロモンを使用して走り出す。

 

「ヤマブキ! マジで急いで!」

 

「急かさない! ゆっくり歩くぞ!」

 

「やめろ!? 誰も得しないから!」

 

 戦場から少し離れた位置に停車している車へと飛び乗る。

 私が無事に乗ったことを確認する暇もないのか、運転手ミチオがすぐさまハンドルを切って元来た道を猛スピードで駆ける。

 

「あの会話じゃあ分からなかったけど、一体どんな作戦なの?」

 

 仕切りにバックミラーに視線をやりながらミチオが聞いてくる。

 

「とても簡単な作戦ですよ」

 

「うん、それは分かった。内容を話せって」

 

「半年先輩とオペ子ちゃんがアラガミに狙われている隙に、私が感応現象範囲外から砲撃するだけ」

 

「……なるほど簡単。でもそれならオペ子の方が適任じゃない? だってアイツの神機スナイパーだろ」

 

「スナイパーですけど、倒せるだけの威力が叩き出せますか?」

 

「そ、それは……確かに」

 

「ブラストなら威力申し分なしです。それに私の神機は第一世代型ですから、第二世代みたいに変形機構は持ってなくても、第二世代が持ってないものを持っているんですよ」

 

 神機を触るがまだ影響範囲から抜け出せてないようで、うんともすんとも言わない。

 

「そっか。第二世代は相手をしたときにオラクルを吸収して銃形態のエネルギーを溜めてからか、Oアンプルを使用しなければ撃てない。それに対して第一世代の銃型神器はオラクルを自動で作り出すジェネレーターが内臓されてる。時間さえあれば強力なバレッドを撃ち出せる!」

 

 ゲーム上では銃型神機使いはオラクル自動回復がついている。それがなきゃバレッドを撃ち出すことができないし、いちいち主人公が受け渡し弾を使って回復させてやらなければならなくなる。銃型は足手まとい扱いになってしまう。

 この世界での銃型神機は剣型と違って盾とその展開機構がない代わりに、ジェネレーターを内蔵していて、これがゲームで言うところのオラクル自動回復の役割を担っているのだ。

 

「でも、いくら高火力が売りなブラストだからって一撃で大型を撃破できるとは思えないよ。一発撃てば、こっちに注意が向いちゃうんだよ」

 

「賭けですよ。それにあそこのアラガミを全部倒す必要はない。マルドゥークだけ倒せばいい。もしくは致命傷を負わせて尻尾巻いて逃げるようにしてやればね。それだけでいいですよ」

 

 車がプラント内に逃げ込む。

 すぐに車から降りて防壁の上の見晴らしのいい場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラントの周囲をぐるりと囲む防壁の上にたどり着く。さっきまでいた戦場は遥か向こう。肉眼で見るには遠すぎるので、双眼鏡で戦況を確認する。

 先輩とオペ子がとても泥臭い逃走劇を繰り広げている。スタイリッシュな感じがいっさいない現実的な逃げを披露してくれていた。

 神機があってようやくアラガミと戦える人間なんて、神機が使えなければあんなふうに逃げ回るしか手はない。

 オラクルリザーブ。ようやく四回目のリザーブだ。

 今の私にできることは黙ってオラクルリザーブすることだ。

 

「ヤマブキ! ご注文の品、持ってきたよ!」

 

 目を閉じて時期を待っていると、背後からミチオが声をかけてきた。

 後ろを振り返ると眼前に剥き出しの錠剤が飛んでくるが、慌てず焦らずに錠剤を口でキャッチしてから飲み込む。

 錠剤が喉を通って胃の中に落ちていくと、身体の内側から何かこみ上げてくるのを感じた。

 それは小さなかまいたちみたいに中から私の身体をズタズタにする。ギリギリ耐えられる程度の痛みが数秒続いた後、身体全体に力が行き渡る。

 強制解放剤を使って無理やりバースト状態を引き起こしたのだ。バースト状態ならオラクルの回復力が上がる。

 バースト状態のおかげでさっきよりも早くオラクルが溜まっていく。満杯になったらすぐさまオラクルリザーブを行い、次を充填する。

 途中でバーストが切れそうになったので、強制解放剤を服用して状態を維持する。強制回復錠を使うと体力を奪われクタクタになるので、同時に回復錠も服用する。

 

「あんまり無理しないでよ」

 

 ミチオが心配してくれる。その顔は気が気でないと語っている。

 

「今は無理しなきゃあいけない時なんだよ。私も、半年先輩も、オペ子ちゃんも」

 

 誰か一人が楽できる状態じゃない。

 先輩が楽をすれば楽をした代償に先輩が嬲り殺された挙句にその身を喰われる。そして次はオペ子が死ぬ。

 オペ子が楽をすれば怠け者と叱咤される代わりに、散々引っ掻き回された最後に同じく喰われて終わる。で、次は先輩が美味しく頂かれる番だ。

 私が楽をすれば作戦は物の見事に失敗して、先輩とオペ子がばっくばくに噛み殺されて、残った私が先輩たちの仇を討って終了だ。と行きたいけど、こちらがオラクルを最大量まで溜めるより早くマルドゥークが接近してきたら、何にもできなくなって終わりだ。そうなればきっとクアドリカやスサノオと結託してプラントを襲撃している。結局全滅だ。

 私は自分さえよければそれでいいけど。その自分さえを頑張るためには結局行動を起こさなければならない。

 私は自分本位な人間で楽をしたいけど、楽をするなら楽できるような状況を作らねばらない。

 半年先輩も新しく加わったオペ子も、私が楽をするために必要なファクター。一本なら折れるけど、三本ならアベノミクス、三者三様文殊の浅知恵だ。人間数が揃えば負担も減るということだ。

 オラクルリザーブ。

 そろそろ満タンになりそうだ。やはり痛み覚悟で強制解放剤を使ったのは大きい。ゲームで捕喰でバーストするのが面倒だったから良く投薬してたけど、現実で軽々しく使っちゃいけない類の薬だったけど。

 オラクルが溜まりに溜まったら次にやることは、ここから約一キロ離れた目標にヒットさせるということだ。これがとてつもなく難易度が高い。何故なら、人間よりかはでかいと言っても双眼鏡なしじゃあ確認できない的を狙うんだ。百メートルでさえ命中させるのが難しいというのに。

 だけど、撃つしかないのが人生だ。

 遠距離まで届くバレッドをセットして構える。オラクルが限界量まで蓄積できたら、後は先輩たちに合図して、溜まったものを一気に放出するだけだ。

 

「運命の一撃まで何秒前ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にげるにげるにげーる。

 ミチ男がヤマブキ先輩を攫ってから役三分と四十五秒が経過しているけど、いまだに逃げるんるん。生きてヤマブキ先輩のボインボインに飛び込んで頭グリグリするまで、黄色い悲鳴を上げながら。

 

「いや~ン! まいっちんぐっどもーにんグ!」

 

「余裕だなぁ、オペ子ちゃんは」

 

「黙れよゲロ下郎ガ!」

 

 大量のミサイルとデス追いかけっこしている半年男が五月蠅い。これが余裕に見えているというのなら男なんて馬鹿過ぎてバァカだ。

 スサノオの尻尾突きを避けて避けてちょっと休んで避ける。スサノオってことはコイツは男ならぬオスであって、私が攻撃をくらう道理は一切ないわけだなんだ。かと言ってメスの攻撃でも喰らう気はナッシング。私が心と身体を許せるのは人間の女の子のみ。メスなんて範疇にないのっさ。

 

「ひゃはン。ひゃはン。ひゃははハン! あーたりません!」

 

 と言いつつ尻尾薙ぎ払いでブッ飛ばされる。痛くて堪らない。そういう性癖がないので回復できない。

 

「馬鹿か!」

 

「うっせぇイ! 男こそ馬鹿ダ!」

 

 立ち上がってスサノオから逃げる。

 すぐさまその憎たらしい顔……顔…かお? とにかく顔をミートハンマーで叩き潰してやりたいたいだけど、神機は動かないので無理な話。今は雌伏の時と思って逃げ続けるしかない。

 スサノオに追い掛け回されているけど、そこにクアドリカもマルドゥークも加わってはいない。

 クアドリカは半年男のことを執拗に追いかけて爆殺しようとしているからいいとして、問題はマルドゥークだ。あの野郎は戦いに加わることをしようともせずに、私の動きを眺めているだけだ。まるで自分が手を下すまでもないとか思っちゃってるみたいに。腹立つおみ!

 だけどこの油断は好機。だってあの四脚獣まで参戦したら確実に全滅するし。

 

<半年先輩! オペ子ちゃん! こちらは準備完了しました>

 

 その油断が命取り。愛しのヤマブキ先輩からの連絡がきた。ひょほほほほろん!

 準備が整ったことを知った半年男がすぐさま指示を飛ばす。唾飛ばすのやめろ。

 

「よし。オペ子ちゃんはスタングレネードを連発して動きを止めろ。敵の動きが止まっている間に俺がマルドゥークにホールドトラップをかけてから、緑の発煙筒を撃つ。ヤマブキちゃんは発煙筒が上がったら撃て」

 

 命令するな、と文句の一つでも言いたいが、ここはヤマブキ先輩の為を想って黙って指示に従う。トラの子のスタングレネードを投げつける。

 ピカッと光ってぐらぐらの馬鹿ガミたちの隙をついて半年男が近年稀にみる全力疾走でマルドゥークに接近してホールドトラップを仕掛けにいく。

 あの男が仕掛け終わるまでは敵を黙らせる必要があるので、私は残り少ないスタングレネードを使用する。

 三個投げたあたりで段取りが終了。半年男が空に向かって発煙筒を撃ち出す。

 後はヤマブキ先輩の腕に絶大な信頼を寄せて待つだけだ。

 と言っても待つだけなのは味気ないので、景気良く残りのスタングレネードを使って足止めしておく。どうせマルドゥークを拘束しているホールドトラップは長くもたないし。

 ぱぱぱっとスタングレネードで嫌がらせをしていると、遥か遠くから氷属性の弾丸がばびゅんと飛んでくるのが見えた。

 

「あらぁ。ちょっと凄いずれてんだけど!?」

 

 半年男の言う通り、飛んできたオラクル弾は若干狙いがずれていた。これではマルドゥークには当たらない。

 そこで、はっとなった。これはもしやヤマブキ先輩の愛のパスではないかと。私があのオラクル弾を受け止めて、マルドゥークにぶつけるように進路変更を行うみたいな。

 そうと決まれば、今すぐにでも行動に移さねばねば。

 走り出そうそうとしたら、半年男に首根っこを掴まれてマルドゥークから離された。

 

「離セ! 私にはやることがあるんダヨ!」

 

「うるっせ! あそこにいれば巻き込まれるに決まってんだろうがよ!」

 

 なんたること。このダメンズは見誤ってる。

 ああ、先輩の愛情弾がどこか彼方に行っちゃう。

 と思っていたが、飛んできたオラクル弾はマルドゥークの近くでピタリと止まる。おそらく球か制御のオラクル弾だ。状況を考えると敵の方を向く制御かも。

 マルドゥークがホールドトラップから解放された時、制御のオラクル弾から新たな弾丸がマルドゥーク目掛けて三発発射される。

 

「伏せる!」

 

 半年男が私を解放して伏せた。

 大爆発、大爆発、大爆発。

 のんきに突っ立ってた私はヤマブキ先輩のオラクル爆発にブッ飛ばされてゴロゴロ転がっていった。愛が痛い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。