【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第10話 聖騎士

「おっと、今は真剣勝負の最中でね。あとにしてくれないか?」

「邪魔してごめんなさい。じゃあ終わったら少し話を聞こうかな」

「明らかにゲームの途中なのになんで声掛けに行ったのトウカ」

「だって聖堂騎士団の人だし。珍しくて」

 

ポーカーの最中に声をかけてきた、ハスキーな声のレディが兄らしき同じ色の髪の青年と共に引き下がる。

しっかりと顔は拝んでいないが、視界の端で物珍しそうにトランプを見ているのはわかる。

ま、世間知らずな旅人か巡礼者だろうな。

 

やれやれ、修道院のやつらもこれくらい素直ならいいんだが。

 

さて「真剣勝負」を終わらせようかな。

そう思っていたが、相手の男のカンに触ったらしい。

 

「真剣勝負、だぁあ? さっきからちっとも勝てやしねぇ! イカサマしているんだろうがこの野郎!」

「イカサマ? オレは従順な神のしもべだぜ。神に誓ってそんなことするわけないだろ?」

「抜かせ! もう我慢ならねぇ!」

 

おっと。

こりゃあちょっとばかりカモにしすぎたかもな。

 

さてどうやって退散するか。

とはいえ、止める間も逃げる間もなく人相の悪い男まで乗り出してきて乱闘騒ぎになったわけだが。

 

「ヤンガス! ちょっと……」

「すっごいガラス割れてるんだけどこれ大丈夫かなぁ」

「こんなところで喧嘩なんて! 危ないよ、怪我する前に止めなきゃ。エルト止めてきてよ」

「無理無理、何言ってるの」

「ボクが行ったら見た目で舐められちゃうし。背が高い方、つまり強そうな方が行くべき」

「強そうな方じゃなくて強い方が行くべきだと僕は思うな。でもヤンガス楽しそうだし別にいいんじゃない?」

「楽しそう? ホントだ」

 

巻き込まれないように壁を背にしながら言い合う兄妹? は周囲を見回し、口ぶりはともあれ何も出来ない様子だった。

槍を背負った方の青年は人相の悪い男が楽しそうに殴りつける様子をぽかんと口を開けて眺め、剣を差したレディはこのような喧嘩に慣れないのか周囲を見渡すうちに見る見るうちに真っ青になっていく。

 

「ゼシカ! 危ないから早くここから出……メラ唱えようとしてる? 嘘でしょ?」

 

剣のレディの視線の先にいた勝気そうなレディがなにか呪文を唱えかけていた。

言葉通りなら流石にボヤ騒ぎはまずい。

しかも火炎呪文? 冗談きついぜ。

不躾で悪いが、ここの酒場が燃やされるのは勘弁だ。

 

「お前たちも、ほら行くぞ!」

 

パッとこっちを見たふたりは同時に頷き、そのまま俺はまんまと裏口から外に出ることに成功した。

 

 

 

 

 

 

正直、まったく俺らしくなかった。

まったくもって不可解だったが、「そういうもの」なのかもしれなかった。

理屈とか理性とか、そういうものでは説明できないナニカ。

そういう普段馬鹿にしてきたもの、利用してきたものがここにきてついに俺を当事者にしてきたわけだ。

 

「ちょっと! いい加減手を離しなさいよ!」

「悪い悪い。しかしお嬢さん、行きつけの酒場を燃やされたら困るんでね」

「まだ元気に喧嘩しているね。ここでも騒ぎが聞こえるんだけど……」

 

呪文を使おうとしたレディは大変なナイスバディの美人で咄嗟に口説こうかと思ったが、この場にはもうひとりレディがいた。

もはや敵意むき出しの勝率の低そうな方よりさっきから平和主義的な発言が目立つハスキーボイスなレディの方に集中した方がいいかもな。

なんて打算的な気持ちで振り返る。

 

露出が少なくとも分かる真っ白い肌、右目を隠したミステリアスなヘアスタイル。

酒場の方を眺めていた黒い瞳が俺の視線に気づいてきらきら輝き、にこりと笑う。

彼女は雲の間から光差す太陽のようにぱっと笑った。

掛け値なく笑顔が可愛いなと思った時。

「不幸」以外の運命なんて存在しないと思っていた人生にも光が差したのかもしれなかった。

 

「そうだ騎士さん、今ならちょっと話を聞いてもいいかな?」

「もちろんですよ、ミステリアスなレディ」

「……レディ? こんな()が? 嘘でしょ」

 

盛大に動揺した顔のレディだったが、とりあえず「話」とやらを続ける方を優先したらしかった。

それにしてもころころと表情がよく変わる。

 

「長い杖を持った白塗りの道化師の男を探しているんだけど最近見てない?」

「見ていないな。オディロ院長……マイエラ修道院の院長ならお笑い好きだし道化師は好きそうだが、呼んだって話は聞いてない」

「そっか。わざわざ詳しくありがとう」

「もしかすると追い抜いちゃったって線はないかな?」

「ボクたちより先に着いてるのはどう考えてもドルマゲスの方だと思う」

「だよね……」

 

道化師を追っている旅人?

ドルマゲス? 珍しい響きだから芸名だろうが、それにしちゃ音の趣味が悪くないか。

何やらワケありそうだがこのままだとそのままどこか別の場所に旅立っていきそうだ。

一期一会だろうが少しはお近づきになっておきたい。

 

ちらりとレディの小さな手を見ると手袋と無骨な手甲が見えた。

指にはめるのは難しい、な。

それにしても歩くたびジャラジャラ音がするのは鎖帷子だろうし、ひょっとしたら隣の青年より重装備じゃないか?

なんとも勇ましいな。

 

そんな彼女を引き留めるには……と。

 

「助けてもらったお礼と今日の出会いの記念に。俺の名前はククール。見ての通りマイエラ修道院の聖堂騎士だ。

その指輪を見せれば俺に会える。きっと会いに来てくれるよな?」

「え、ちょっと」

「是非、かわいらしい君とお近づきになりたいんだ」

 

手を取って騎士団の指輪をそっと握らせる。

びっくりしたような彼女はされるがままに指を曲げられてぽかんとしている。

そのまま我に返られ突っ返されては意味がないのでそのまま俺は走り去った。

 

背後から彼女の兄? らしき青年のものらしき「(ウッソ)でしょ!」という大声が聞こえたのは謎だったが。

おっと、これはうっかり。

ご家族の気に障ったかもな。

 

 

 

 

 

 

「レディだって! このボクが、レディだって! 剣士トウカを捕まえてレディだって? そんな扱いは生まれて初めてだよ。なんかすごくドキドキした。レディとは縁遠いと思っていたんだけどエルトどう思う?」

「気を強く持って欲しいかな」

「エルトも天使みたいな顔の男性にレディ扱いしてもらえば気持ちがわかるかもよ。天使って顔じゃないけどそこで壁ドンしてレディ扱いしてあげようか?」

「いらない。それより僕はいつトウカが怒り出すかと思ってドキドキしてたけど……」

「怒る? まさか! 怒ったりしないよ。ボクは侮辱されてないならなんと扱われてもいいよ。レディ扱いは彼にとって悪い扱いじゃなかったでしょう?」

「それはそうかもしれないけど」

 

それでいいわけ?

僕も生まれてこの方、記憶喪失の小さい頃は分からないけれど、異性に勘違いされたことはないけどものすごくびっくりして、それから冷静になってからちょっと気分が悪くなるかもしれないのに。

特に鍛えすぎなくらい鍛えてるのに、筋肉がつきにくい体質までしっかり気にしているのに、トウカはそういう扱いを「侮辱」とは思わないんだ?

なんだか意外だ。

 

トウカがレディね。

確かにトウカは年齢の割に背が低くて女性でも通じる背丈だけど、飛び抜けて小さい訳でもないし。

細い方だけど貴族の礼服のときならともかく、今は鎖帷子を着込んでいるからちっとも女性的な華奢に見えない。

兵士の時も勤務中は常に支給品の甲冑だったし。

 

極めつけにあんな身長くらい大きな剣をほぼ常に背負っているし……って、今聞き込みで威圧感を与えないために仕舞っているんだったね。

剣を抱き枕にするほどなトウカの、一年通してもほとんどない大剣なし装備だったせいか。

運が悪いのか、あのククールという聖堂騎士が飛び抜けて見境のない女好きなのか、女好きならもうちょっとしっかり見て欲しいものだけど、もう何が何だか分かんないよ。

 

でもそれにしたって、かなり曲解しないといけないトウカよりもっと分かりやすく女の子なゼシカの方に行くと思っていたんだけど。

ロングスカートだし、ツインテールだし。

トウカも今はポニーテールか。

それは男でもザラにいるでしょ。

ていうかあのククール本人が長髪だし。

あ、もしかしてゼシカが見るからに口説かれてもなびきそうにないって表情だったから?

 

「トウカの兄貴! あの軽薄な男、どうしてやりやしょう? 修道院にとってかえしてとっちめるので? あっしも手伝いやす!」

「こんなことでとっちめたりしないよ! ていうかヤンガスいつの間に」

「兄貴たちがいないんで出てきたらあの野郎がトウカの兄貴の手を握ってる場面を見たんでがすよ。まったく不届き者でがす。あっしはトウカの兄貴ほどチカラ強い男を見たことがないでやんすよ」

「手。あ、そうだ指輪を渡されたんだった」

「指輪、ねぇ。いかにも遊び人って感じの前髪だったし誰にでもそうしているんじゃない?」

「遊び人と前髪の関係があるかどうかは知らないけど、なんか指輪、紋章ついてる」

 

わぁわぁ言い合いながらみんなでトウカの手の中をのぞき込むと、たしかに教会のマークのついた指輪だった。

色が違う制服だけど聖堂騎士団の人だし、紋章付きって制服の一部なんじゃないの?

 

女の子扱いされたことはまったく気にしていないトウカは怒りも照れもしないで、ただただ動揺したひきつり気味の表情が戻らないまま指輪を太陽にかざしてみせた。

 

「きっと非売品だろうし返しに行った方がいいよね」

「そうね。とっととアイツに突っ返して、アスカンタ王国だっけ? 次の場所に行きましょ」

「そうだね。いやぁ得難い体験だった。こんな出で立ちの、このボクがレディ扱い! 一生なさそうな経験をさせて貰えるとはね」

 

ぽんぽんと前髪の上から右目を軽く叩いたトウカは……案外、この明るい振る舞いの親友が生まれつきの隻眼であることを卑屈に思っていることを僕は知っている……くるりと酒場に背を向けた。

 

もしかして、容姿に関してプラスの表現だったから怒ってない?

「ミステリアス」も「かわいらしい」もさ。

少なくともククールは顔が半分見えてなくても、まったく気にしてなかったし。

 

でもまずいかも、こんなことあの過保護なトウカのご両親が知ったらどうなることか。

躊躇なく大貴族の権力ですり潰して来そうな母君、普通に戦闘力が高い父君。

そしておふたりとも陛下と同じくらい親ば……ううん、ひとり息子がとてもとても大切な方々だから。

 

軽い気持ちであればあるほど末路が酷いことになりそう。

 

いや、これであの天使のような容姿の男の運命の出会い! だったらそれはそれでめちゃくちゃ面白……ううん、ひとの感情を面白がるのは性格が悪いからやめておくけど。

僕たち旅しているんだしこれっきりだろうけど、呪いが解けたら同僚に披露する話題が増えちゃったな。

これは盛り上がるに違いない。

 

なんて。

ただの現実逃避かな?

冗談抜きでトウカのご両親に知られたら笑い話にしている場合じゃなくなる。

ご両親もトウカが「女の子扱いされた」ことに怒るんじゃなくて「指輪を渡したこと」とか「酒場の裏で口説こうとした」とかそっちに怒ると思うし。

 

「早速陛下に事情をご説明したら、マイエラにルーラしてよ!」

「分かったよ」

 

そういうわけで僕らは通り抜けたばかりのマイエラ修道院に戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

「酒場で遊んでる人より上司の方が普通に無礼者じゃん。旅人に対して二階から見下ろして嫌味って? ちょっと処す? 軽く処しとく? 今からサザンビークの叔父上に手紙書こうか?」

「処さないで。やめて。事を荒げないで」

「やだなぁ冗談だよ。ボクが権力で誰かを潰したことがあったかな」

「ないけど、その」

「その?」

「やろうと思えばやれるじゃんトウカ」

「うん。多分ね。でもサクッと決闘した方が後腐れないし、結果は同じだからそっちの方が好き」

「もう黙ってて」

「でもちょっとスッキリするでしょ、隣でこういうこと言ってるの聞くとさ」

「スッキリ感と胃の重さは両立するんだよ、知ってた?」

 

国外だし、いちいちボクが誰だか知る必要はないけど相手が誰だとしてもあんな失礼な行為はいけない。

 

なんてトウカはまともなことを言ってるけどトロデーン国内ならあの屈強な「お付き」たちが血相を変えて即刻当主夫妻の耳に入っていただろうなと思うので僕は考えるのをやめた。

 

「あ、見つけた」

 

とりあえず指輪を返したら出発。

早く忘れよう。

そんな気持ちだったので探し人を地下の怖い部屋で見つけた時はみんなで息を飲んだ。

 

目の前にいたのはさっきの怖い騎士団長だったし。

どう考えても実は身内には激甘で地下牢で説教するフリして休憩させてくれるタイプには見えないし。

 

トウカは唖然とするヤンガスと僕の方をチラチラと見て相手にしてくれないと見ると同じく唖然としているゼシカの方へ移動して「あれ何?」と小声で並べられているものを指さしてぺしりと手を叩き落とされていた。

 

「あたしにも用途は分からないけど多分ろくでもないものよ」

「それって表に出せないもの?」

「そうに違いないわ。見なさいよ二階から嫌味男の楽しそうな様子。さすがにあの軽薄男の方に同情するわ」

 

なんて小声で話しているけどバレても困るのでふたりに向かって人差し指を立てると、黙り込んで僕らと一緒にこっそりと中を覗き込む。

 

……えーっと、つまりあの騎士団長マルチェロとククールは兄弟なんだ。

半分って言ってたから父親か母親が同じ。

それにしても実の弟を疫病神扱いするなんて。

ふたりの間に何があったかなんて分からないけど、血が繋がっててもこんな扱いをすることがあるんだね。

みなしごの僕には分かりようもない関係だけど、とりあえずあのふたりの仲の悪さをどうにかする「親」がそうそうにいなくなってしまったのは分かる。

わざわざ首なんて突っ込まないけどなんだか聞いてて重苦しい気持ちになった。

 

「行こっか。僕らが聞いてていい内容じゃない。ちょっと待って出てきたら指輪を返そう」

「そうでがすね」

 

年の功かあっさりした顔のヤンガスと、きっと僕と同じでなんとも言えない顔をしたトウカとゼシカ。

 

十分にあの部屋から離れてから、トウカが小さな声でこぼした。

 

「実は、ボクにはひとつ上の兄がいたはずだったんだよ。名前も決まってたんだ。ルゼルって。我らは名前を自分たちで決めない。予め全部決められていて、本に記されているから。ご先祖さまと同じようにご懐妊されてから本に名前が浮かび上がって、ずっとずっと父上も母上も楽しみにされていた」

「なにそれ、初めて聞いた」

「公表してないからね。別に内緒にはしてないけど、兄上はお生まれにならなかったから。ボク、血の繋がりってすべからく全部素晴らしいものだって思ってるわけじゃないけどさ。これまでなんとなく兄弟、お兄さんって存在に夢見てたわけ」

 

トウカに兄弟はいない。

お生まれにならなかった。

トウカの母君は病弱だから。

というかお世継ぎが必要だったにしても、よくあんなにか弱いお方が連続で子どもをもうけようとなさったね。

貴族って大変だ。

 

「なんかさっきの会話聞いてて悲しくなっちゃった。綺麗事なんて言っても仕方ないけど、生まれることなんて自分で決められないことなのにさ。どこで生まれるか、誰の元に生まれるかなんて自分で選べないのにさ。

必ずしも産みたくて産んだんじゃないひともいるってわかってる。そんな人の子どもでもいざ産まれたら可愛がられることもあると思うし、突然のことにびっくりしたままちっとも可愛がられない場合もあるってわかってる。

でも兄弟はそういうのとはまた違うよね? 両親以上にどう足掻いても責任がないと思うんだ。勝手な他人の意見だけど、あの『お兄さん』が『弟』が生まれたことでなにか不都合があったとしてもそれって恨むべきはせめて親であって生まれた弟に対してじゃないよね?」

 

そうだね、と頷くとトウカはしょぼくれた顔のまま握りしめていた指輪を見た。

 

「どんな顔して返そう?」

「聞かなかったことにしてニコニコ笑って返せばいいんじゃない? かわいらしいって言ってたし」

「心底自分をかわいらしいとは思わないんだけど、そうしてみるかあ」

 

なんかちょっとズレているような気がするけど、プライベートなことを盗み聞きしてしまった罪悪感なのかトウカはぎこちなくほっぺたを持ち上げた。




・全編新規の文章。リサイクルできる部分がなかった
※作者はマルチェロ、かなり好き。それはそれとして同情できてもこの時点では特に擁護は無理
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