【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第11話 跡地

マイエラ修道院の静かでどこか重苦しさに似た空気を押しのけて、邪悪な気配がたちこめる。

こんなに背筋が凍るほどの邪気を、仮にも聖職者の集団だというのに他の誰にもわからないらしい。

いつも通りの生活をして、いつも通り神に祈る。

お笑い草だ。

俺みたいな、この修道院でいちばん清貧な僧侶らしくない人間だって分かっているっていうのに。

 

込み上げてくる悪態を目の前に飛び込んできた希望を前にして飲み込んだ。

 

聖堂騎士団の宿舎に現れたのはドニで出会ったあの旅の一行。

俺の言葉の通り、早速騎士団の指輪を返しに来たらしい。

まったく、こんなに素直な連中にお目にかかったのは初めてだ。

 

パーティは歳の近そうな三人に加え、なぜか人相の悪いおっさんがひとり。

しかも空気感からすればおっさんは若い方の部下か子分のようなへりくだった態度。

謎のおっさんがいるせいでイマイチなんの集団なのか分からないが、今はなんだっていい。

 

確か……トウカと呼ばれていた勇ましいレディが真っ先に俺に気づいて振り返った。

彼女の髪を結んでいる黒いサテンのリボンがひるがえって、あのどこまでも真っ黒い目が真っ直ぐにこちらを見ている。

らんらんと輝いた左の瞳は迷わず俺を見つけて、優しく親しげにきゅっと細まった。

 

「さっきぶり、ククール」

「どうも、さっきぶりだ。再会を喜びたいところだが、今は緊急事態でね。感じないか? この邪悪な気配。他の奴らは気づいていないらしい。気配の位置からして俺たちの敬愛するオディロ院長が危ない。様子を見に行きたいところだが頭の硬い連中が警護気取りで道を塞いでやがるんだ」

「気配だけじゃなくてどの方角かまでわかるんだ、すごいな。ボクには全然」

「流石は本物の聖堂騎士だね。こっちも仲間のゼシカが嫌な予感がするって言っていて。たしかに中庭の方で騎士団の人に追い返されたばっかりだよ。

それで、僕たちがなにか協力することは?」

 

揃って話が早い。

なるほど、この槍を背負った青年がリーダー格らしいな。

いかにも穏やかそうな顔つきをしてるが、ただの旅人というより元兵隊か?

レディが喋っていると青年が周囲を警戒し、青年が喋るとレディが人が来ないか周りを見ている。

それでいて普通は警戒されないような、人のいい雰囲気が崩れない。

そっちが素か。

わざとやっているわけではなさそうだ。

無意識なら尚更「当たり」だな。

いやはや、ドニでたまたま出会った相手にしては頼れるようで運がいいな。

 

「助かる。オディロ院長の様子を見てきて欲しいんだ。だがさっきも言ったように正面の橋には話の分からない見張りがいて正面から行くのは無理だ。

他の道は……」

 

ふと、レディ・トウカの握りしめていた俺の騎士団の指輪が目に入った。

俺を見つけ次第返せるように持ってくれていたのか?

律儀すぎるだろ。

 

指輪?

視線に気づいたのかレディは指輪を差し出した。

 

「そうそう、指輪を返しに来たんだけど。きっと大事なものでしょ?」

「指輪、そうか指輪だ。そうだ、その手があった!」

 

正面からは入れない。

だが、旧修道院側からならまずノーマークだ。

魔物の巣窟になっているあんな場所から誰が入ってくるとあの頭の硬い連中が考える?

そこからなら!

 

「いいか、聞いてくれ。他の方法があった!」

 

連中は嫌な顔ひとつせずに話を聞いてくれ、快諾ののちすぐさま修道院を飛び出していった。

 

さて。

じゃあ俺はあのマルチェロが「招かざる客」に気づいた時にいかにもやりそうなことを先回りして止めておくだけだな。

 

最悪、オディロ院長の部屋にいた部外者なんて状況を見れば言いがかりでもつけて牢屋にでもぶちこんでくるだろ、あいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

マイエラ修道院のある川沿いをスピードをあげて駆け抜ける。

この辺りの魔物とは思えないほどの強さを持つさまようよろいが道を塞いできて、敵意を向けてきたけど悪いけど構っていられないから川に投げ込んだ。

楽しく戦っている暇なんてない!

もがいている隙に私たちは急ぐ。

今度は間に合わせるつもりだから。

マスター・ライラスやサーベルトさんは現場に間に合わなかったけど、今回は何とかなりそうだって思えたから。

ドルマゲスだって確証はないけど、なんとなくみんな「そう」だって思ってた。

 

勢いそのまま駆け抜けて、滑り込むようにして遺跡のような人工物の跡地にたどり着いた。

きっとここだね。

みんなで顔を見合わせて頷く。

どうしたらいいのかはすでにククールに聞いてあった。

 

「ふくろ」の機能のついた手袋から鍵となる指輪を呼び出すのももどかしい。

魔法のように、ううん、まさしく魔法の産物なんだけど、パッと音もなく現れた指輪を石碑のくぼみにはめ込む。

するとすぐさま「仕掛け」が作動し、軽い地響きと共に階段が現れた。

この階段の先に旧修道院の跡地があるのか。

 

指輪をはめるだけで入り口が現れるなんてすごいとしか言いようがないね。

やっぱり魔法は私の知っているテクノロジーでは成し遂げれないことを軽々やってのけるんだね。

その恩恵をたくさん受けている身としてはなんか感慨深い。

使えないのが本当に悔しい。

せっかく魔法がない世界を知っているのに、使えないなんてさ。

って、そんなことはどうでもいい。

 

この先は明らかに危険があるであろう場所だけど、偵察したり準備したりする時間はない。

皆で顔を見合わせて頷き合って、陰気な階段を皆で恐る恐る降り、私は先頭に立って、襲ってくるいかにも暗い場所に生息していそうな魔物たちをまとめてぶった切った。

そう広くない場所なのになんだか数がとんでもない。

大きなハエみたいなのまでいる。

 

接敵して斬り捨てていくくらいなら平気だけど、頭の片隅にある「前」の価値観が拒絶をしている気がする。

とりあえず倒した魔物はすぐに青い光になって消えるから良かった。

魔物の死体がいつまでも残るならもっともっと嫌だったと思う!

 

「なんだか、今までよりも魔物が強い気がするね!」

「ゼシカ、ヤンガス! ここの魔物は相当強いみたいだから最大限に気をつけて!」

「気をつけたらきっと問題ないさ! いつも通りボク、数を減らして前にいたらいい?」

「お願いするよ。でも気をつけてトウカ」

「もちろん。視界も暗いし、全部倒してたら余計時間かかるし、とにかく急ごう!」

 

でも思っていたよりも敵の数が多かった。

入口は閉じられていたわけだし、怨念の成れの果てが発散することはなかったらしい。

ゾンビ系の魔物たちは増えはしなくても減りもしなかったらしい。

そんな魔物たちに混ざって暗い所を好む魔物までひしめいている。

 

何時も通りじゃんじゃん単騎突撃して戦いまくってたら、わらわらと沸いて出てくるミイラ男たち。

大剣で薙ぎ払うように倒していくけど、それは接近するって意味でもあって。

私は倒しきれなかったミイラたちから呪いの玉の集中砲火を受けてしまった。

後ろに下がることも出来ない、だって後ろの皆に当たってしまう。

これじゃ避けられない!

 

大剣を身体の前で斜めに構え、防御態勢をとったけれど。

物理的な守りなんて呪いにはきっと関係ない。

 

迫り来る沢山の呪いに思わずギュッと目を閉じた。

頭ではそんなの意味ないってわかっているのに!

 

 

 

 

 

 

暗い部屋だ。

明かりくらいもっとつけたらいいのに。

ミハエルは目が悪くなってもいいらしい。

 

いつも通り今日も今日とて「覗き見」に勤しむ俺たち。

「覗き見」することは俺にとっても唯一の楽しみだからいいにしても、わざわざ暗い場所で見る必要は分からないな。

手鏡を持つ手を任せて、ただただ見入る。

 

ほんと、目がチカチカしそうなくらい色彩に溢れていて、目にまぶしい草原から暗い地下に潜ったっていうのに俺にとっては眩しすぎ。

ミハエルが部屋を暗くするから余計に眩しく感じるんだけど。

 

今日も元気なあの子は身体の弱いミハエルが真似したらほんの数分で四散しそうなくらい激しく動き回る。

自由に走って、跳んで、斬って。

自由に喋って、笑って、小さな身体で元気いっぱい生きている。

 

いわれもない怪我をさせられた小さな君が今はこんなに元気でよかった、なんて兄心めいた気持ち。

とっくにミハエルの方が小柄なくらいなんだけどさ。

ミハエルもトウカを見習ってもっとご飯をしっかり食べたらいいのに。

俺たちは本当に「気が合う」から多分どっちが主導権を握ってもしっかり食べることはないけれど。

 

まぁ「気が合う」なんて当たり前のことか。

つまりはせいぜい健康で元気いっぱいなあの子を眩し・羨まし・微笑ましな気持ちでニコニコしながら観戦しているだけのこと。

「覗き見」な時点でどう言い訳しても悪い趣味だけど他にやることもないし。

他にできることもないし。

言い訳だけど、俺も見ていたいのでここは大人しく乗っかっておく。

 

「魔物の呪いか。大好きな妹の危機だけど、慌てもしないの?」

『馬鹿だねミハエル。不意打ちの「大元」の呪いが効かないくらいガッチリ守られているのにその辺りの死者崩れがトウカにどうこうできると思うの?』

「僕をその名前で呼ぶな。

それで? あのお姫さま、普通に怪我するし、ならそれが元で普通に死ねるだろう? ちょっと強力な呪文に当たればあっという間に起爆して、自爆しておしまい。自覚してない爆弾みたいなものなんだから」

『怪我や呪文に関しては俺たちの主の想定外でしょ。

でも呪いは関係ない。絶対にあの子を害すためのものだから最初から絶対にかからないようにしているでしょ。ほら』

 

ほら。

ちゃんとあの子に掛けられた古い魔法が展開されて、露出した魔法陣によって呪いが全部弾かれて食い潰された。

古すぎて解読なんてどんな人間にもできそうにもない呪文。

ミハエルの言う通り、魔物の攻撃や呪文もシャットアウトしてくれたら安心なのにね。

でもそこまで求めるのは無理か。

本来、「あのお方」が目覚めた後に戻ってくる想定だったんじゃない? 

そうしたら戻ってきた可愛い娘に新しい呪文を掛けられたし。

 

俺たちが生まれるよりはるか昔。

封印の伝承すら消え去ってしまうほどの太古。

なにがあったかなんて曖昧だけど、きっとそんな余裕はなかったさ。

 

そんなに、もしもあとの時代に帰ってきていたらうちなんてとうの昔に滅んでたし、というか今代でもう終わりだし、まぁこれで良かったのかもしれないけど。

少なくとも狙い通り衣食住の苦労はさせずにすんだものね?

 

あの子は戦うのが好きだし、あんまり過保護すぎたら父親として嫌われない?

わからないな、俺にはわかるわけもない。

あの子の戦い好きは結果論だし。

そもそも生まれてもない俺に父親の気持ちなんてわかるわけもないさ。

 

『ねぇミハエル』

「その名前で呼ぶな」

『せっかく親につけてもらった名前なのに? 俺にはないよ。大事にしなよ、天使の名前』

「……」

『頑固なんだから。今のうちになにかひとつくらい回復呪文を覚えておいてよ。攻撃魔法ばっかり練習したって怪我したら終わりだよ』

「うるさい。死人が生者に口を出すな」

『俺は言ったからね』

 

鏡を覗き込む。

あの子はちゃんと無事で、魔物を倒しつつ駆け寄ってきた幼馴染に笑顔を向ける。

 

『俺にもなにかひとつくらいしてやれる事があればいいのにな』

 

ミハエルの、馬鹿にしたような鼻の鳴らす音だけが、その場に響く。

大きな屋敷だけど俺たち以外誰もいないし、行儀の悪さをたしなめる人間なんて誰も残ってないし。

 

俺たち虚しいね。

ここは静かだ。

そしてなにもない。

なにもないし、なにもできない。

 

「僕たちが使命を果たせるわけがない。だろう?」

『その通りだよ』

 

手を伸ばしても届かない。

だからただ、見ているだけなのさ。

 

もし手が届くなら、なんて。

夢みたいなことをいつも考える。

考えるだけ無駄なんだけどね。

 

俺が生まれていても呪いに負けていたに違いないし。

ならせめて、かわいい妹に悪い虫がつかないように特別な呪文をかけてあげたかったかも。

なんだか怪しいのいるじゃない?

 

『俺のことを思い出してくれた数だけこっそり魔法で支援出来たら最高なのにな』

「どだい無理なことをほざくなよ、……悲しくなる」

 

そうだね。

君は望み通りにならないし、俺は君に縫いとめられたまま。

 

さぁ、傍観しよう。

関わることも出来ない、夢の世界を。

 

 

 

 

 

 

先行して魔物を倒してくれていたトウカが、魔物に囲まれてしまった。

そして僕たちが救援に行く間もなく、呪いの玉を全方向からトウカは受けてしまう。

 

禍々しい紫色の光に埋め尽くされるトウカ、動きを止めたことに便乗して追撃を加えようと腕を振り上げるミイラ男たち。

でも、視界の中で繰り広げられている親友の危険に手を差し伸べられるほど僕は強くなかった。

そして助けられるほど速くもなかった。

間に合わないけれど、必死で手を伸ばす。

駆け寄りながら、群がる何匹かミイラを倒したけれど、背筋が凍る。

 

僕が前に出るように指示をしたせいだ。

トウカは強いけど、戦い慣れてるけど、同い年の同じ近衛兵で。

決して最強じゃない、同じ人間だって知ってるのに。

悪い考えだけがどんどん加速する思考の中に溢れてくる。

 

その時。

呪いがぶつかる前に展開されたのは魔法陣だった。

ミイラ男の呪いよりもよほど禍々しく見えて、なんの魔法なのかも読めない、変な術式の大きな魔法陣だ。

ザバンとの戦いでも見た、あの紋章のルーンなのかな?

それが呪いの光を吸い込み、トウカには届かなかったみたいだ。

そして、元気な声が僕の耳に届く。

 

「ダメかと思った!」

「ちょっと心配したんだけど!」

 

不気味な魔法陣を気にせず、トウカが元気よく自分を囲んだミイラ男の首を次々と跳ねていく。

何の心配もなさそう。

本当にヒヤッとしたんだから!

 

それにしても……目に焼きつくほど輝いた魔法陣は呪いの紫色の光を打ち消すほど悪いものに見えた。

正直、「突撃」、「攻撃」、「戦闘」に「正面からの」を付けた言葉が似合うトウカに似合わないにも程がある魔法陣だ。

 

あ、そうだった。

トウカは僕と同じで、トロデーンでも呪いが効かなかったんだ。

なら呪いに関しては心配しなくてよかったかも。

 

「簡単にはやられないよ!」

 

いつも通りの勢いでトウカの剣撃が辺りの魔物を殲滅していく。

次々に不可視の剣撃が魔物を何匹も倒している。

あれ、不可視の剣撃?

当たる距離じゃないよね? 

剣からなんか出てるよね?

もしかして剣でかまいたちか真空波やってる?

 

普段は直接ぶった斬った方が早いって主義なのに早く倒すためにそうしてるってことはやっぱり魔物に囲まれて一斉攻撃を浴びるのは怖くはあったんだろうなぁ、なんて思ったけど言わないでおく。

だって采配は僕が悪かったんだし、でもただ謝ったってトウカは受け入れてくれるかどうか。

 

それよりも僕も食らいつくように魔物を倒してどんどん先に進むのが誠意だと思った。

 

外より魔物は強いから今までに比べればやや進度は遅いけど、それ以降は窮地に陥ることなく進んでいき、いかにも有毒そうな水が床に溜まっている部屋に出た。

 

「これは酷い。何があったらこんなひとところに溜まってしまうんだろう?」

「踏んだら無事ではすまなそう。急いで駆け抜けようか」

「あそこ、置き石みたいになってるわ。うまく渡れば踏まないでいけそうね」

「あっしはしんがりにしてくだせぇ。体重で崩したら申し訳ないでがす」

「ボク、もし崩れたら飛び越えて渡るから気にしないでいいよ?」

「暗いんだから足元危ないよ。ヤンガス、最後お願いしてもいい?」

「もちろんでがす!」

 

運のいいことに、腐った水に足をつっこまずに向こうにいけるような配置に箱やら瓦礫やらが積み重なっていたのでみんなで気をつけながら渡っていく。

魔物もいたけどゼシカの呪文とトウカのかまいたちが追い払ってくれて頼もしかった。

 

そして何やらさらに下に降りられそうなところに着いたはいいものの、いきなり構えていた剣をおろして頭、というか右目を押さえるトウカ。

足取りもふらふら、そのままゆっくり振り返るともともと白い肌が青く透き通って見えるほど真っ白だ。

なんだか嫌な予感がするんだけど。

 

旅に出てから一体どうしちゃったの。

風邪もひかない、病気もしない、いつも元気なトウカ。

まさかトロデーンでイバラの呪いは効かなかったけど体質に悪影響が出てたとか?

僕も無自覚なだけで前とは違っているのかもしれない。

 

あぁ嫌だ、僕たちに遅れて呪いが発動したらなんて想像しちゃった。

ミーティアと陛下は結界の中にいたからイバラの呪いを免れたけど僕たちはどうして無事だったか分からないものね。

そうしたら終わりだ。

考えたくもない。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

「……大丈夫とは言えないな。この先から強烈なほど何かを感じるんだけど、訳が分からないけどそのせいで目が痛いんだと思う。右目だけが痛い。隠してるから分かると思うけどボクこっちの目、生まれつき見えないんだ。ホント、この役立たず」

「トウカの兄貴、休んだ方がいいでがすよ」

「リーザスの塔と同じ現象ならきっとそのうち限界突破するからいいよ……ありがとう。原因はなんだろうね? あの時は多分像の目の宝石だったけど、それくらい魔力に溢れた存在があるのかな?」

 

いつもよりずいぶん早口で喋りながらトウカは大剣を仕舞うと片手剣一本だけ装備した。

 

今回は何が原因なんだろう?

リーザスの像の目の宝石レベルのものが修道院の跡地の、こんな荒れ果てた所にあるとは思えないし。

 

「……取り敢えずトウカは様子見つつ、中衛ぐらいで居てくれないかな。槍持てる?」

「ボクの槍は無理かも。エルトの槍を借りたら多分壊すよ」

「そう。じゃあその剣でいいか。

で、話は変わるんだけど、僕がトウカの代わりに単騎突撃したらどうなると思う? 装備は剣でも槍でも」

「……。エルト、それ、到底無傷じゃ済まないと思うよ。ボクの怪我を回復してくれているのは君じゃないか。それにエルトは真っ当な兵士の訓練を受けてる。前線で暴れる訓練じゃないよ。無茶だ」

「うん」

 

そりゃそうだよ。

四方囲まれて戦うんだから。

後ろの味方に攻撃が減るように囮になりながらも戦うんだから。

その上大量に魔物を倒さないと下手すれば全滅するんだ。

 

でももう最深部が近いのはわかってる。

トウカの真似はそんなに長いことやらないし、きっと大丈夫。

 

「僕も呪いが効かないみたいだから、動きが止まることがないし。それにこの魔物の数でちまちま倒しながら進むのは埒があかないよ。もしも死にそうになったらアモールの水を投げつけでもしてくれたらいいから」

「……分かったよ。エルト、無理だと思ったらボク、爆弾岩の欠片でもぶん投げるから言って。やっぱり、言わなくても投げるかも」

「それ、魔物と一緒に僕死なない?」

「冗談だよ。……死なないでよ、エルト」

「うん」

 

危険だと分かってても止めないのはトウカなりの優しさか、本当に思考が回っていないのか。

僕の意思を尊重しつつ、そっと爆弾岩の欠片を握らせてくる。

親切心なのはわかってるけど。

ここ地下室なんだよ?

起爆したら最悪崩れてもろとも死ぬから。

そっと返して、僕は槍を構えて前を見た。

階段にも魔物はまだまだ沢山いるみたいだ。

 

実際、あの数の魔物に囲まれて自分を回復しつつも攻撃するなんて出来ないんだから。

やるっきゃない。

 

トウカに頼ってばかりじゃなくてこれからは混戦もやれるようにならないとな。




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