【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第12話 亡霊

「ねえ、エルトは大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。エルトは自己評価が低いから、自分が言っているよりもずっと強いよ。いくら姫さまの推薦とはいえ誰の反対もなしに十八歳で近衛兵になったんだよ? 本人が優秀なんだよ」

「あたし、兵士の階級はよく分からないんだけど……」

「近衛兵は分かりやすく言うなら兵士の中のエリートかな。ボクもそうだけど、ちょっと前提が違う。実力は嘘じゃないつもりだけどやっぱり家の名前があるじゃないか。それにもうすぐ父上に代わって当主になる年齢だからね。いつまでも下っ端兵士にしておくのは各方面のメンツの問題があるみたい。当主になったからってやることはほとんどなんにも変わらないのにね。忙しすぎたら兵士はやめなきゃいけないかもしれないけど……」

 

さっきまでエルトが居た位置で普段とは違う片手剣を振って戦うトウカは、言葉の割にちらちらとエルトを窺いながら言った。

何だかんだと言いつつエルトを気にしているみたい。

ヤンガスはエルトに絶対的な信頼をしているからなのか、目の前の敵に集中しているけど。

 

エルトもそうだけどトロデーン兵のこのふたりは言葉がやわらかくて優しくて、そして強くて。

びっくりするくらい戦うのが大好きなトウカもなにか聞けば言葉を尽くして答えてくれる。

 

向こうの方で露払いをしてくれているエルトは槍のリーチを活かして、部屋の中でできる限り大きく薙ぎ払って近寄ってくる魔物を吹き飛ばしては起き上がってくる順に各個撃破を続けている。

トウカは初撃でほとんどの相手を真っ二つにしていたわね。でももうそろそろ分かってきたわ、それは人並み外れた腕力と魔物の懐に飛び込む恐れ知らずのコンビネーションだって。あんなのやるものじゃないわ。命がいくらあっても足りないような行動。

 

「……エルトには言えなかったんだけど」

「何かしら? ……あぁもう、魔物、減らないわね」

 

トウカは相変わらず綺麗な剣捌きだと思うわ。近くで見ればやっぱりそう感じる。そして体調も悪くて、しかも喋りながらなのに太刀筋は乱れもしない。だけど顔色は最悪ね。真っ白な血の気の引いた顔で、唇は真っ青。

もし、今倒れられたら……どうすればいいのかしら? 抱えて逃げるべき? 彼は小柄だし、武器を片付けてもらえたら、ヤンガスとふたりならなんとかなるかもしれないかも。あ、リレミトでいいかな?

 

なんて戦いながら考えているとトウカのいつもと比べると覇気のない声が見かけの通り不調を訴えてくれた。

 

「このままだと最深部で私、立っていられる自信はないんだ。でもぶっ倒れるわけにはいかない。私は防具で見た目よりかなり重いから。それで、どうやら原因は最深部にあるみたいに感じる。リーザスの塔だと像の宝石が原因だったみたいにね」

「あたしたちに置いていけなんて言っても聞かないわよ」

「ダメそうならひとりで地上まで駆け戻ってでも生き残るつもりだから心配無用。最深部に着いて駄目そうだったら私は遥か後方から支援するつもり。動ける場所から。ね、感じるよね、奥から流れるなにかおぞましい力を、ゼシカなら」

「……そうね。なにか、親玉がいるのかしら」

 

チリチリと肌を焼くような気配。悲しいような、恐ろしいようなナニカ。

 

トウカは両手に剣を構えるのをやめて左手の剣を片付けてしまって、それからエルトの方へ駆け出していったわ。

エルトの吹き飛ばした魔物を受け止めるように斬り飛ばして、何か話しているみたい。

 

こっちも戦いながら前に進んでいくと、一層ナニカの気配が大きくなっていくのがわかった。あの奥の扉の向こう。きっと親玉がいるんだわ。

 

扉を蹴り飛ばすように開いたトウカと前に立つエルトに急いで追いついて、待ち受けていた相手を見ると、そこにいたのはボロボロの法衣をまとったアンデッド。骨だけになった屍に魔の魂が宿った、きっとこの修道院で亡くなった人間の末路。

 

「あァ、苦しイ! 苦しミは消えヌ……ミンナみんナ死んでイッタ……蔓延すル呪イはいマダ解けヌ……」

 

虚ろな瞳がこっちを捉えて、元がなんだったにしても今は魔物に成り果ててしまったナニカは、すっかり狂ったままこちらに襲いかかってきた!

 

 

 

 

 

なんでまたもやこんなに頭が痛いのか。理由にぜんぜん心当たりがない。リーザスの塔だと像の瞳の宝石の魔力にあてられたみたいだった。せっかく素敵なファンタジー世界に生まれてきた割になんの魔法も使えないくせに、魔力には悪い影響を受けるなんて意味不明過ぎる。

 

今回はなんだろう? ここに縛られている嘆く亡霊の魔力? この修道院で亡くなった誰かの記憶、無念さ、生者へ向けられた怨念。そういう強い感情から生まれた魔力が悪いの?

 

意味がわからない。だってモノトリア家は私を除いて代々誰もが魔法使いだった。養子さえもそうだったみたい。

たくさん家に守護の魔法が掛けられていたというし、魔法を使っているところに居合わせるなんて普通だった。旅に出るまでこんな意味不明の体調不良になんてなったこともないのに、こんな大事な時にまともにチカラが発揮できないなんて何のために鍛錬をしてきたのかわからなくなってくる!

 

戦いたい。ただでさえ狭いのに歪む視界と激しい痛みが私の邪魔をする。

剣を抜く。最初はただの男装の手段でしかなかったけれど、今の私のすべての拠り所。

身体が重い。剣が重い。ただの子どもだった頃みたいに、大好きな両親に見向きもされなかったあの子みたいになんにも出来なくなってしまうの。

 

戦うのは好き。そして「トウカ」は戦えなきゃいけない。

 

亡霊が呪文を唱える。激しい炎がどこにも燃やす物もないのに迫ってきて、炎は私の前で突然勢いを増す。

来るのが分かっていても避けられなくて熱い。痛い。焼ける。

 

頭の痛みと身体の火傷で打ちひしがれて膝をつくと、その瞬間バチンとどこかで何かが弾けて一瞬にして痛みも重さも消え失せた。

でも、完全に一周まわって良くなったって訳でもない。視界が何か歪んで、乗り物酔いしたみたいに平衡感覚が変になってしまったみたい。もちろん火傷が消えてしまった訳でも無く、痛みはどこが遠かったけど確かにある。

でも剣は軽い! 軽々と持ち上がった双剣の片割れを左手に持ち替え、いつもの私の大剣を右手に構えて。

 

「いける!」

「無理しないでよ……」

 

私がモロに呪文を受けたのを見てくれていたのかすっ飛んできたエルトのホイミでキズが癒えていく。大丈夫の代わりににっこり笑って、私は立ち上がる。

 

むしろ、身体が軽い。剣も何もかもが軽くてさっきと真逆。

解き放たれたみたいで、澱んでまずい地下の空気まで素晴らしく美味しく感じてしまうね。

 

踏み込んで飛び込む勢いのまま斬りかかる。亡霊の骨を砕きながら真っ二つにぶった斬る。魔力で構成された偽物の身体なのか、それともアンデッドには身体なんてものはそこまで重要でもないのか、そこまでの手応えもなくて、すぐさま粉々になった骨が元の位置に戻っていく。

全くの無意味ではなかったみたいで嘆きの亡霊の敵意は私に向いた。

 

そうこなくっちゃ。

ほらこっちを向いて。私と戦うなら私に夢中になってくれなきゃ。だってこっちは一心に殺したがっているのにただの敵のひとり扱いされたら不公平じゃないか。

 

「かかってこい!」

 

閃光呪文が私を取り囲んで激しく燃え上がる。真っ二つに炎の壁を切り裂いて突破し、左手の剣を投げる。亡霊の法衣を床に縫いとめて、私は大剣を両手で振り抜く。

しゃれこうべを真っ二つに叩き割り、勢いそのまま突き刺さった地面がまるでバターのようにやわらかく感じてなんだか変! ぬかるんでいる訳でもないのに妙にやわいっていうか、簡単に沈み込むなんて!

 

思いっきり踏み込んで剣を地面から引っこ抜いて、もう一度斬りかかる。

斬られてすっかりバラバラになって原型を留めていない骨はまだ亡霊の形を取り戻そうとしているんだもの!

 

斬られた衝撃のまま飛び散った骨の破片が跳ね返って、頬が切れたのを他人事みたいに感じた。飛び散った黒っぽい赤い血が歪んだ視界の中に入り込んできて、スッと頭が冷えていく。

とはいえ毎度ながら剣を振っていると脳内麻薬がかなり回っているのはわかる。だからかそんなに痛くはないのだけど。

 

ちゃんと今日もこの身体はファンタジーしてるみたいだ。なんでも、身体の表面の方を流れる血は鮮やかな赤らしいのにどこ切っても深く切れたみたいに見えるこの体質は深手を負ったのかと勘違いするから回復魔法の使い手の心臓に悪いらしい。なんて関係の無いことが脳裏をよぎっていくので振り払って。

 

前衛にいたヤンガスが油断なく斧を振りかぶるように構えて亡霊にジリジリ近寄っていくので私もいつでも攻撃を再開できるように下段に構えた。やや後方の中衛のエルトが小声で詠唱をしている。ゼシカは私たちを巻き込まないようにかなり気を遣ってくれているらしく、あんまり後方からのメラはなかった。正直掠めただけで突然燃え上がってぶち当たるからなれるまではそうしていてくれると心穏やかでいいのかもしれない。

戦っている最中はまったくそんなこと気にも留めていないから怖いとか感じないしガンガン撃ってくれていいのだけど。

 

「オォヲ……光ガ……苦シミが消えてユく……神よ……」

 

しぶとい。こんなに粉々なのにまだ亡霊の魔物のカタチに戻って、上に向かって手を掲げて。

もしあしてここから大技が来る? もう一回叩き斬らなきゃ。そう思って構えたけど、違った。

 

ここは地下なのに、天井の辺りから白い光が差す。光は嘆きの亡霊に降り注いで、光の下で歪んだドクロが微笑んだ気がした。

 

「おぉ神ヨ、今そちラに参ります……」

 

亡霊が消えうせると、光は私たちをも包み込んで身体中のキズがすっかり言えていくのが分かった。

魂の解放のお礼ってこと、なのかな。

 

「……もしかしてあの人、生前は本当に敬虔な聖職者だったのかも」

「アンデッドになった後にも奇跡を起こせるのはかなり高位に思えるね。……じゃあすぐ行こうか。急がないと」

「それはもちろんだけどねぇトウカ、また頭白くなってるし目が紫色になっているし、顔色も悪いんだけど体調おかしくないの」

「今度は紫色? いい加減にして欲しいね! 体調はおかしいよ! なんか平衡感覚がないっていうかくらくらぐわんぐわんしてる! 視界が気持ち悪い感じ! 船酔いに近いかな! でもどこも痛くないし気分は悪くないんだ。身体は軽いし、今なら大木を身一つで引っこ抜けそうなくらい元気いっぱい。なんだろねこれ、あの亡霊が悪さしてるにしては落ち着く気配もないし……」

 

エルトの言葉通り見慣れない白い髪の毛が『視界を半分覆うように』ゆらゆら揺れてなんだか邪魔。前髪がかかってきたのかと思って首を振って払ってみたけど全然普通に居座っている。なんだろ、普段は視界の邪魔になって気になることないんだけどな。前髪は見えない右目の方に流しているし。

 

まぁ気にしなくていいか。さすがに修道院の中に入れば魔物は出ないし。ドルマゲスの首をはねておしまいにしたい。いやダメだけど。呪いを解かせなきゃいけないし。気持ちの問題というか。対話不可能なら結局そうなるけれども!

 

曲がりくねった洞窟を進み、その先のはしごを登る。ふさいでいた石の蓋をえいやと開けてみるとそこは聖堂騎士団の人たちが塞いでいてたどり着けなかった小島の裏側だった。

 

急がなきゃ。何となく胸騒ぎがする。神聖で静かな修道院の中なのに恐ろしい殺気が満ち溢れていて、きっと狙われちゃいない私でさえこのまま殺されそうな、そんな正体不明の恐怖を感じるから。

 

大きな両開きの扉を静かに開けて忍び込んで、足音を殺して階段を上る。小さな教会のような建物の主は穏やかに眠っていて、その枕元にはあの杖を持った長身の道化師がいて。

 

剣を抜き放つ前に、みんなが身構えるよりも早くドルマゲスはこちらを見て笑ってその場から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

「本当にあなたは聖職者? あんな邪悪な気配がわからない? やっぱり叔父上に手紙を書くべきか。エルトはどう思う?」

「一介の小市民に意見を聞かないで欲しいな」

「ま、それはそれとして。

私どもはオディロ院長を闇討ちしようとしたのでは逆ということを主張します。目の前でドルマゲスという道化師が退散するのを見たのですけど。ええ侵入者には違いないのでそうそう信用できないでしょうが、こっちもいきなりこちらの事情や立場も知ろうともしないでいきなり上から発言いただきましたのでね、訂正の機会もありませんでしたけどあんまり懇切丁寧な説明をする気力も湧かないわけです」

 

敢えて家の紋章を見せびらかす真似はしない。剣は全部片付けてある。今武器持ってたらより刺激しそうだし。ほかのみんなはいつも通り持ってるけどやらないよりはいいでしょ。

 

察しろ、早く。そっちのためにもね?

という分かりにくいスタンス。かなりの難物相手にどこまで手札を出していいかなんて分からない。政治的なことは両親が全部やっていたから駆け引きなんて分からない。トロデーン兵はやりつつも箱入り娘をやっていたからね。

手っ取り早く家名を明かしてどうにかなりそうならそうしてもいいのかもしれないけど……それはそれでめんどくさい嫌がらせが飛んでくる予感がする。

 

陛下が手荒に扱われた時はそのまま首を跳ねてやろうか、最初の時点で即座に国際問題にして大騒ぎしなかっただけマシじゃないか? なんて思ったけど、トロデーンが呪いに沈んでいることがバレる訳にはいかない。

 

それに立場のある人間を消したら絶対にあとが面倒。そんなことしたことないし。

 

「さぁ、この者たちを牢屋に連れていけ」

 

数人の聖堂騎士が私たちを取り囲み、物々しく連れていかれそうになったその時、息を切らして部屋に飛び込んできたククール。上司に逆らえないにしても、言葉だけでも助けようとしてくれるのかと思いきや何故か私を二度見して、目を見開いて固まった。

何にびっくりしたのか、そりゃもうあんまりにもびっくりしすぎたようで何も言うことなく素直に騎士団長から指輪を受け取って生返事しつつ、そのままフラフラと部屋から出て行った。

待って、助けに来たんじゃないの。じゃあ何しに来たのか。

 

多分兄の騎士団長さえ何しに来たのか分からなかったと思う。一言嫌味を言うでもなし、こっちに助言するでもなし。いやきっとなにかするつもりか、少なくともこっちの状況を伺いに来たんだろうけど全部びっくりしすぎて吹っ飛んだって感じ?

何にそんなに驚くことがあるの。

 

「あなたの弟さん、変わってますね」

「……」

 

さすがに黙殺するしかないよね、私でもそうする。

 

まぁどっちにしろ多勢に無勢の上、騎士団長と仲も良くないようだしどうにもならなかったと思うけど。




・9割完全新規の文章
・覗き魔たちは仲良く笑い転げている
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