【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第14話 文句

雨のお葬式の終わったその夜。

与えられた修道院のベッドの上でなんとなく眠れない。

きっと、マイエラ修道院にいる人間はみんなそうだと思う。

 

だけど、抜け出して夜風に当たるというのもここの人間に気を遣わせてしまうだろうからやめておく。

ベッドの上で、脇に置いた剣の位置を確かめながら目をつぶって、みんなの小さな呼吸音を聞いている。

 

小さくて遠慮がちな呼吸音はみんなも眠れていないことを示している。

 

守れなかった。

届かなかった。

やっと目の前までたどり着いたのに。

 

ドルマゲスが凶悪犯であることを分かっていながら、私たちの攻撃は届かなかったし、みすみす逃がしてしまった。

一撃たりとも届かなかった。

渾身のチカラを込めても弾き返されてしまった。

 

ドルマゲスはきっと最初からオディロ院長を狙っていて私たちなんて目もくれずに目的だけ果たして行ってしまった。

きっと、次の標的に向かっているんだと思う。

 

止めなくちゃ。

悲しみを理由に立ち止まれない。

被害者を出さないようにしなくては。

そしてトロデーンの呪いを解かせなくてはいけない。

 

剣を抱き寄せて寝返りをひとつ。

硬質な感覚はベッドの中にふさわしくないけれど、大貴族のたったひとりの跡取りの立場は何度も命を狙われるのに十分で、その対策のために剣と眠るのも慣れてしまった。

今はむしろ、いつでも飛び出して戦えるというのは安眠の要素。

今だって、悲しみにくれる修道院の中は安全だと思うけど、武器がなければ自分がのうのうとゆっくり眠るなんて、後ろめたさで寝ようなんて試みることさえはばかられた。

 

もう一度寝返りを打って、できる限り思考をとざす。

眠れなくても眠らなきゃ。

私たちの旅は続くんだから。

一日でも早くドルマゲスに追いついて今日の落とし前をつけてやる。

 

そう決意して、ようやく少し身体のチカラが抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

陛下を丁重に馬車にお送りしてから僕らは騎士団長の部屋に向かった。

よく眠れなかったのはみんなも、ここの人も一緒らしい。

トウカはいつも通りの両手剣と双剣の重武装をもう隠そうともしないで大きなノックをしてズカズカと部屋に入った。

 

部屋にはマルチェロとその部下が二人いて、部下の片方が何かを言われて部屋から出ていった。

 

ゼシカは昨日の今日じゃまだお兄さんのことを思い出して参っていて、ヤンガスについてもらっている。

別に慰めるとかそういうことじゃなくて、単純に心配だったから。

本当はトウカの方が適任なんだろうけどこっちはこっちで普段の調子じゃないから頼むのを辞めた。

 

牢屋に入れられたことに物申す必要があるって朝から怒ってたし。

まぁ冤罪投獄とかトロデーンで起きてたら後処理は本当に面倒臭いってわかるからそこは甘んじて受け入れて欲しい。

 

「罪のない旅人およびよその国の貴族を牢屋に放り込んでおいてその詫びがただの世界地図ですか。いりませんよ。そもそも地図はもうありますし」

「そっちなのトウカ」

「もう持ってるから他の物を寄越せって話じゃないんだよ、エルト。私は面子の話がしたくてね。別に多くを求めるわけじゃないし、なんなら詫びなんて何にもいらない。ただうちが、我がモノトリア家が舐められる訳にはいかないから」

 

いつもの大剣を鞘ごと背中からおろしたトウカは鞘と刀身に入った紋章をマルチェロに見せつけた。

シンプルな銀色の意匠はトロデーン王家の紋章が上下がひっくり返っている。

色つきの紋章なら色も反転しているのを僕は知ってる。

 

王家の紋章のこんなに強烈なオマージュなんて他で見かけたら権威に詳しくない僕でも問答無用の不敬罪で即刻しょっぴくレベル。

さすがに上下反転だけじゃ分かりにくい場合があるからか、区別のために紋章は常に盾みたいな五角形で囲う枠があって、その枠込みでモノトリアの紋章らしい。

 

「そもそもここはうちの権力の範囲外だし、あなたがたは我らの領地に根付いた我が守るべき民じゃないから。もう我らはこの三大聖地への庇護を辞める。ドルマゲスを倒した後に使者を送ろう。サザンビークの分家にも通達を出す。これからは牢屋に放りこむ前に相手の素性を調べるんだね」

「それはそれは……どうやら私どもは知らぬとはいえ、大変なご無礼を働いてしまったようですね。どうかお許しいただきたい」

「私が本気で手を引くなら父上と母上は『従う』。嫡子の戯言だと思うかい。生まれた時からあの家の最高決定権は私だ。現在のモノトリアの全ては私に従うもの。『私に従え』と言えばそれですべて思い通り。」

 

珍しくとんでもなく不遜な言い方だった。

トウカがそんな言い方をするのは陛下を牢屋に入れ、陛下とミーティアと離れ離れにしたからだって僕たちにはわかっているけど知らないならメンツを傷つけられた貴族の息子の大口に聞こえるのかもしれない。

なんとなくトウカの素性を知ってもマルチェロは追い込まれている感じはしないし。

 

そういえばモノトリア家がどれだけここに寄付金を出しているのかは知らないけど、きっとモノトリアが辞めればトロデーン系の貴族はみんな手を引くんだろうな。

自分より序列が上なところが手を引いたら従うんじゃない?

問題はさらに上の王家がどうしてるか、だけど今回陛下ご自身がこんな不敬をはたらかれているわけだし……。

 

あの盛大に溺愛するご両親がトウカくらい穏便ならむしろ温情かもしれない。

トウカならきっと今後の寄付金なしくらいで済ませてくれる。

あの両親は違う。

それはトウカが跡取りということさえ関係なくて、本当にものすごく溺愛しているひとり息子が無礼な目に遭わされたなんて知ったら……。

 

……あくまで噂だけど、昔にトウカが命を狙われた日のあのご両親が、文字通り「呪」文を使って犯人の関係者を引きずり出して次々に首をはねた、とか本当のことなのかな。

なんか怖いから考えるのやめよう。

あの人たちならきっと本当にやったんだと思うし。

トウカはかわいそうに、暗殺の実行者に反撃した末に反射的に斬り伏せたはいいけど普通にそのあと怖がっていたし。

 

「さて。具体的な話をするのは辞めておこう。意味のない話は終わりだ」

「僕たちはドルマゲスを追う旅を続けます。みんな行こうか」

「少しお待ちいただきたい。私どももオディロ院長を失い、ドルマゲスには強い恨みがある。地図を受け取っていただけなくともなんのお力にもなれないというのは騎士の名折れ。無礼者の身ではありますがひとつよろしいか」

 

ちょうどその時、部屋にククールが入ってきた。

さっき出ていった部下の人に呼ばれたのかな。

マルチェロはそれを見てわざとらしく笑みを浮かべた。

 

なんだろう。

なにか企んでる?

 

「ちょうどいいタイミングだククール。お前はこの方たちと共にオディロ院長の仇を討つ旅に出ろ。誉ある聖堂騎士団として必ず遂行しろ」

「は? なんだよそれ、いきなり……」

「この修道院において抜けても良いのはお前だけだ。他の者には役割がある。しかしオディロ院長の仇を追う存在は必要だ。そこで、という訳だ」

「ていのいい厄介払いだろ、それは」

「そういうわけです。不真面目なやつですが聖堂騎士団の端くれとして腕はそこそこ立つのでせいぜい使ってやってくださいね?」

 

実の兄に住処を追い出されるって、とても辛いことだと思うんだけど……。

聖堂騎士ってくらいだし、僕がトロデーンで十年暮らしているくらいの期間は少なくともここにいたんだと推測できる。

 

ククールはなにか言い返しかけたけど、口を開くのを諦めて、そのまま退室していった。

 

「昨日、最初にドルマゲスがマイエラ修道院に侵入しようとした時。ボクたちを牢屋に入れたあの時。あなたたちなんにも気づいていなかった。でもククールは邪悪な気配を察知してボクたちにオディロ院長の様子を見てくるように頼んだ。

それって彼がいちばん聖職者としての才能があるって証左じゃないのかなぁ。エルトはどう思う? あ、ごめん、早く行こうか。サザンビークの叔父上へ手紙を出さなきゃいけないし」

「ねえ話は後でにしようよトウカ。ククールともいろいろ話したいことが出来たんだから。それより早く行かなきゃ。そうでしょ?」

 

トロデーンにいた頃の近衛兵以前に貴族をしっかりやってた頃のトウカなら内心思うところがあってもきっと黙っていたんだと思うけど、最近のトウカは妙に好戦的というか、結構口を開くというか。

元々好戦的ではあったけど。

 

こんな行く先々で人が亡くなることが続いていたらいつもの調子じゃなくなるのも当然だと思う……。

 

とりあえずこれ以上親友が噛み付く前に退散した。

こんなに不毛な会話なんて必要ないよ。

でも、素直に引っ張れば素直に引き下がってくれたのは幸いだった。

よくもまあ、あんな鉄格子を破壊して脱獄したよく知らない相手に下手に出ないものだと思ったけど。

むしろ尊敬する。

僕らはトウカが人間に向けてこないことを分かってるから平気だけど、親しくない人間なら普通怖くないのかな。

特に今、敵意むき出しだし。

早々そういうことをしないって分かっていても、大貴族の跡取りが人間ひとり権力で消してしまうことが可能だって分からないのかな。

……ドルマゲスが全部こっちの攻撃を防いだから脅威をイマイチわかっていないのかも。

 

出口へ向かって歩きながらトウカは家紋入りの地図を取り出して僕に渡してくれた。

渡してくれたけど。

 

「ねぇ怖いんだけどこれ」

「世界地図だよ。怖くないよ。噛み付いてこないし。これを使いなよ」

「噛み付くとかじゃなくて、家紋が怖いんだって!」

「じゃあ声掛けてくれたらすぐに出すよ。それでいい?」

「そうして」

 

それまで静かに成り行きを見守っていたゼシカはそんな僕たちのやり取りを見て、ぽつり。

 

「なんにも解決していないんだけど、ドルマゲスに追いつけたらなんとかなるかもって気持ちになってきたわ」

「どうして?」

「さぁ何ででしょうね」

 

ヤンガスはそんな僕らを交互に見て、なにか納得したように頷いていた。

 

 

 

 

 

 

入り口で彼らをただじっと待つ。

マルチェロの野郎に対しての怒りが胸の内で膨らんでくるが、それを抑えこんでポーカーフェイスを保ったまま。

 

しばらくして、あの四人組が奥の扉から出てきた。

先頭で仲良く話す兄妹は相変わらず仲良さげで、そして面々はよく見りゃ重武装だ。

これでもかとでかい剣を背負い、腰から二本もぶら下げているレディへの驚きはむしろおさまってきたが、よく良く考えれば服装はただの旅人を装っているくせに背よりも長い槍と大きな盾を軽々背負っているリーダーの方も大概だ。

魔物が出る旧修道院跡地から院長のところへ回るように頼んだときも思ったが、民間人じゃないだろ。

もちろん、でかい斧を背負った傷のある強面のおっさんがカタギじゃないのは言うまでもないが、一見ただの一般人のナイスバディの勝気なレディも屋内で魔法をぶっぱなしかけるくらいには穏やかではない。

 

マルチェロめ、他人事だからって押し付けた相手の癖強すぎだろ。

軽く野垂れ死にかねない一人旅させようとしなかったことが最後の慈悲なのか、もしも誰かに指摘された時のために言い訳を用意するためか、それとも手っ取り早くお払い箱にできる上に面白いことになりそうな方を選んだのか。

 

「待っててくれたんだね」

「待たせちゃった? ごめんねちょっとボク、ちょっと言いたいことがあってさ」

「……」

「もう言わないって」

 

あー、内容は聞こえなかったがあいつに何か話していたみたいだったな。

牢屋に入れられたのも冤罪だったのもそりゃあ怒って当然、か。

 

「改めましてだが、成り行きで同行させてもらうことになった。聖堂騎士ククールだ。これからは君だけを守る騎士になるよ、レディ」

「うわ」

「それなんだけど、ちょっといい?」

 

いつの間にか初対面と同じ茶色の髪……つまりは兄と同じ頭の色になっていたトウカにご挨拶を……と思ったところでエルトに割り込まれた。

強面のおっさんはキレてるし、ナイスバディのレディは潔癖なのか引いた顔をしているが構うものか。

それより問題は、ご家族の気に障らないようにするべきということだな。

 

「兄君は嫌かもしれないが俺は本気だぜ」

「……兄? 僕、トウカの兄弟じゃなくて友達、もしくは同僚だよ」

「それたまに間違えられるよね、旅人とかよその人には」

「たまたま目とか髪とかが色合いが似てるってだけ。親戚ですらないはず。両親知らないから分からないけどね。そうじゃなくて」

「エルト、説明はボクからでいい?」

「もちろん。本人が言うべきだよ」

 

勝手に勘違いしておいてなんだが、兄じゃないのかよ。

それからサラッと今結構重いこと言わなかったか?

 

「ボクはトロデーンで近衛兵をしているんだ。そして貴族の嫡子でもある。つまり跡取りさ。そういうことで、分かってくれたかな。そうだ、ついでに自己紹介も。

ボクはトウカ。トウカ=モノトリア。よろしくね」

「……跡取り……嫡子?」

「一般的には長男かな。当主に必要な能力で決めるケースもあるみたいだけど。うちはボクしか子どもがいないからね」

 

別大陸の有力貴族。

「お祈り」させられに行ったことはないが、それでもその家の名前は知っている。

つまり盛大なとんでもない勘違いをしていたんだと優しく教えてくれたって訳だ。

 

トウカは相変わらず明るくにこりと笑っていて、そうは言われても嫡()には見えないんだが。

確かに信じられない怪力を見た。

飾りではないだろう剣を振り回す姿も見た。

 

この笑顔で。

この可愛らしい顔で。

男……。

 

「まあ仇討ちの旅は道連れさ。生きていてほとんどのことは権力で働きかけるより直接ぶった斬った方が早いからね。そういう感じでよろしく。そうそう、最前線は任せて。だから後方を守ってね」

 

ほんの少しの間しか関わっていないってのに、「彼」は好戦的で、怪力で、ハスキーな声が裏付けをする。

同時に野郎だと分かったからと言って、すぐさま手の平を返すのも戸惑われた。

 

調子が狂ってやがる。

らしくない。

まったくらしくない、むしろ普段の俺なら最初から男と分かっているよりも「ガッカリした」だの「まぎらわしい」なんて言って適当に扱うもんだが……。

 

「ぜひ、任せて欲しい」

 

同時にあの太陽のような笑顔にはやはり惹かれて。

とりあえず、今からでもやっぱり気づいていなかったし何も指摘されなかったってことにできねぇか?

 

続けて他のメンツの自己紹介を聞いたものの、初手に凄まじい衝撃を与えられたせいですんなりと受け入れられることばかりだった。

ゼシカも俺と同じく仇討ちの旅だと聞いて少しばかり親近感が湧いたが、なんとなく初対面よりも生暖かい目で見られてねぇ?

そんなにトウカをレディ扱いしたことがおかしかったのか?

言動はともかく、今だって俺の目にはボーイッシュなレディに見えてるけどな。

 

とりあえず細かいことを考えるのはやめだ。

 

何度考えても他のメンツとより歳がひとまわりどころじゃなく上に見える強面のおっさん……ヤンガスはなぜこの面子に加わっているのかよく分からないな。

どうやらトウカとエルトを兄貴と呼んで慕っていて舎弟のようだが、どうにも毛色が合わない。

 

ワケアリには違いないが、新参者が口を出すことじゃねぇ。

 

やれやれ、それにあの緑色の肌をしたおっさんも仲間なんだろ?

こんな奇妙な一行に加わることになるなんて人生どうなるか分かったもんじゃない。




・ほぼほぼ書き直し
・紋章の意匠 初出
・「私に従え」は元々あった設定。説明があまりに薄かったため追加
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