【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第18話 石投

「あ、エルト、ゼシカ。おかえり」

「何してるの……」

「敵の数が多かったから槍で戦ってた。範囲攻撃できるから。で、この重さを自慢してたってわけ!」

「あー……それ、あの、『動かずの槍』でしょ?」

「特に銘はないけど。これしか槍持ってないし区別しなくていいから。それは使えない人の言い分じゃないか。エルトは持てるでしょ?」

 

キラさんの実家から出てきたエルトたちと一緒に川沿いの教会の敷地内に入って、これで魔物に関しては一安心。

 

エルトは私たちの会話を途中から聞いていたのか、なんだか呆れたような顔をしている。

 

もしかしてエルト、何人も持てずに諦めていた姿を思い出したの?

エルトの昔のチャレンジでは充分持ち上がってたのに。

それもしっかり肘を曲げられてたんだから私の次に使えるようなもの。

他の人は肘を曲げられてなかったしあんなの平行移動しかできないじゃないか。

 

「持てるけど。なんとか持ち上げて、ボトッと落とすことが出来るというか。それでもそれだけ重かったら、当てられた時点で攻撃としては十分だよね」

「槍使いとしてその発言はどうなの。あ、ヤンガス、持ってみる?」

「いいんでがすか?」

 

地面にめり込んだ槍をウンウン唸りながらちゃんと両手で持ち上げて、勇ましい雄叫びと共に見事頭上に掲げたヤンガス。

やるね!

これを持ち上げられた当時のエルトよりチカラ持ちだ!

 

そしてそのまま隣にいたエルトが両手で受け取って、緩慢な動作でお手本通りの演武の基本的な形をやって見せて、あんまり重そうな様子を見せずにそのまま普通にククールに渡しかけたので私はククールの手を下から包み込むように添えて、支えた。

そんなに重くないと思って持ったら最悪脱臼するって!

 

エルトが手を離した途端、ククールはヴッと唸って、だけど手を離さなかったし、無理だとも言わなかった。

かなりガッツがある。

しかも思ったより耐えるね。

半分くらいは……ううん、半分ちょっとはククールが持ってるじゃないか。

身長があるし、これでチカラもあるなら剣士にかなり向いているね。

 

ヤンガスは見た目通りの筋力にしてもエルトって細い腕してる割にチカラ持ちだよね。

そして天使みたいな顔をしたククールもチカラ持ち、と。

味方が強いのはいいね。

そして物理一辺倒だとどこかでボロが出るかもしれないところをゼシカがカバーしてくれる。

そもそも私以外、何かしら魔法使えるみたいだけどね!

 

「マジでこの重さを振り回していたのか?」

「はい、回収。結構耐えるねククール。思ったよりずっとチカラ持ち」

「……お褒めに預かり、光栄だ」

「作ってすぐはボクもついついやりすぎたもの作ってもらったかなって思ってたよ。剣と槍じゃ重心が違うから重さの感じ方も違うし。しばらくこれで素振りして筋トレしてた。そしたらもっともっとチカラが溢れてきてね……」

「あ、あたしは遠慮しとくわよ」

「そう言うと思った。大丈夫、やりたいひとだけでいいのさ」

 

そのまま片手で掴んで持ち上げて、戦闘後のいつものエルトの真似してブンブンクルクル回して魔物の血やら体液やらを吹っ飛ばした。

そのまま手袋に槍をしまってからエルトやゼシカに伝説の話を聞く。

なんでも、この川沿いの土手を歩いて行くと「願いの丘」と呼ばれる場所があって、その頂上に満月の時に行ったら願いが叶うとか言われたらしい。

 

満月か。

今も絶賛夜だけど、よーく見ると微妙にきれいな真ん丸には足りてないかな。

ちょうど明日あたりじゃない?

良かった、これで欠けはじめてたら一ヶ月くらい足止めされるところだった。

 

ってことは、これから山登りならぬ丘登りをすればいいんだね?

代償もなしに願いが叶うとか言われたらなんだか疑いもあるけど、それと同時にワクワクしちゃうね。

だって満月だし。

なんか神秘的で魔法的なパワーがありそう!

 

月明かりで明るいのも運がいい。

張り切った陛下の号令で、このまま丘に登って、そしてそこで昼に休むということで話が着いた。

 

 

 

 

 

 

 

白い服の長い裾がひらひら揺れる。

月の光に反射してぼうっと浮き上がっているように見えるその背を、俺はただ見つめていた。

 

その服は昼間によく見ると縫い目の細かい上等の仕立てだが、ぱっと見るとただの頑丈そうな旅人の服だ。

膝下の長さのブーツもいかにも頑丈そうだが細身で、揺れる短いポニーテールを飾る艶やかなリボン結びが、現実を受け入れようとした俺に逃げ道を与えようとする。

そのうなじは首全体を守るように巻かれた太いチョーカーで見えはしない。

これで喉骨が見えてりゃすんなり諦めがつくってのに。

いや、どうだか。

喉骨が見えていたとしても今、見苦しい抵抗をしているように結局「彼女の家に伝わる変化の呪文の結果」だの「目が疲れているか、影の見間違い」だの「そもそも、もはや男でも構わない」だのなにか無理やりな理屈をつけるに違いない。

そもそも、相手にこそ選ぶ権利があることを忘れるな、ククール。

 

歩く度に小さくちゃりちゃりとした鎖帷子の擦れる音が聞こえるが、それを加味しても、小柄な後ろ姿だけ見ると「どっち」なのか分からない。

 

俺の勘はまだボーイッシュな「彼女」だと言っている。

もともとボーイッシュなのか、貴族の令嬢が何らかの事情で男装しているという物語めいた理由があっての事だと思っている。

さっき体感した凄まじい重さの感覚がまだはっきりと手に残っているのに、だ。

 

目の前にやってきたトウカが手袋越しに俺の手の甲に両手のひらを当てた時、このレディの扱いにかけちゃ海千山千のククールさまが近い顔を見れずに手の方を見ていたのは……。

 

だから正気に戻れよククール。

いくらうっかり笑顔にときめいちまったからって、頭の中で上手い言い訳を思いついても現実は何も変わらない。

そもそも相手にも選ぶ権利があるって話以前に、だ。

トウカは貴族のひとり息子。

それも本来なら気安く話しかけられるような身分ですらない、王族を除けば最高位の大貴族、しかも嫡男だ。

とてもそうは見えなくとも教会の上の方と同じくらい陰謀と計略渦巻く中を成人まで生きてきたんだろうぜ。

 

本人は……俺の知っている貴族とは真反対に無邪気そのものだが。

そんな「彼」を困らせても互いに気まずいだけだろ。

 

とはいえ、目で追ってしまうのはやめられずにいた。

くだんのトウカは現在進行形でミイラ男の上半身と下半身を泣き別れさせている。

ところであのバカデカい剣は片手剣として運用されていいものなのか?

 

考えが逸れた。

あの激重の槍の見た目の細さを考えてみろ。

細いのに重い、その矛盾の意味を。

どれだけの希少な魔法鉱石が使われているって意味だ?

まさかあんな見た目で中身が鉛のはずがない。

平民が思いつくような、飯でも服でも宝石でもなく、普段の得物とは違う武器にじゃぶじゃぶ金を注ぎ込める特権階級。

 

きっと、国に戻れば可愛い許嫁がいるんだろうぜ。

頼めば似姿くらいは見せてくれそうだ。

エルトに話を聞いてもいい。

超上流のお姫さまを拝ませてもらって、お似合いのふたりを想像して、それで……。

 

先頭をずんずん歩いていたトウカが突然しゃがみこんだかと思うとアンダースローの豪速球で石を投げつけ、こちらに向かってきていたサイコロのような目をした魔物に風穴があき、ギャッと悲鳴だけ残してそのまま消滅した。

石つぶての威力かよ、これが。

 

いやはや、あれこそ正しく直球のハートキャッチってか……最早ハートブレイクってか……ははっ。

 

思考が逸れた。

如何にも筋肉質なヤンガスはともかく、痩身気味のエルトよりもずっと俺は非力らしい。

どう考えてもただ非力な男より勇ましくチカラある男の方が張合いがあるよな、トウカにとって。

 

だからもう考えるなって。

ここ数日、何を考えても帰結先が同じでまったく……俺はこんなに一途だったのか。

 

「エルトだって軽くはない槍を振り回してあんなに元気に駆け回ってるし、何よりトウカの同僚よ。現役の兵士だし、見た目よりチカラ持ちでも不思議じゃないわね」

「……あぁ」

「まったく聞こえちゃいないわね」

「トウカ、トウカ、ちょっとは責任取って慰めてあげたら。ショック状態じゃない?」

「えっボク? えーっと、筋力不足の悲しみは筋力をつけるしか解決策はないよ!」

「トドメをさせとは言ってないんだよ」

「ええと、じゃあ……筋トレ、付き合うよ」

「それも攻撃に近いって」

「どうしろと」

「えーっと、ククールの好きな笑顔を見せてあげるとか……」

「はい」

「僕にじゃないよ」

「……」

「ここまでの流れが聞こえてないのは良かったけど……」

「聞こえてないのに回復は忘れないところは評価してもいいでがすね」

「それってより重症って証明にならないかしら」

「哀れすぎる」

「ねぇなんかちょっとククールにもボクにも失礼なこと言ってない?」

「言ってる。色男が人生に迷い始めてる」

「えぇ……」

 

レイピアに目を落とす。

剣は剣だが打突武器だ。

細い刀身は斬るためではなく突くためにある。

単純な筋力より瞬発力が必要な武器だ。

ゆえに軽くできている。

 

いや、そもそもチカラで張り合ってなにか意味があるのか?

トウカを超えるなんて絶対に不可能。

それどころか迫るのも不可能だ。

鉄格子を引き裂くようなパワーをただの人間が付けられるかよ。

……まず、鉄格子を引き裂くとは一体なんだ。

 

もういっそ、別の方向からチカラをつける方がいいはずだ。

それも取り掛かるのは早い方がいい。

俺にとってこの旅は始まったばかりで、これからどれほどの期間旅が続くかなんて未知数だが、何事も取り掛かるのが早いほど長い時間取り組めるということだ。

今この瞬間の俺がいちばん若く、そして恐らく次の瞬間のトウカの方がさっきのトウカよりパワーに満ちている。

決して追いつけはしない。

 

このパーティで俺に最も期待されていることはなんだ?

それは「回復呪文」あるいは「補助呪文」だ。

それではきっと「主役」にはなれない、目立つこともない、だがそもそもなる気もない。

むしろ裏方の貢献の方がいい。

五人の仲間のうち前線で暴れたそうな奴が三人もいるパーティなんだ、好きなようにさせた方がいい。

 

ひとつ心の中で指針が決まり、少しだけ視界がスッキリした気がする。

 

相変わらず、視線の先にいるトウカは元気よく動き回っていて寄ってきた魔物を正面から思いっきり丘から蹴落として、隣にいるエルトに向かって笑顔で何かを話していた。

 

 

 

 

 

 

 

ここは願いの丘、なんて地名らしいけど登っている感じでは山登りでもしているみたいだ。

間違っても丘をハイキング気分で、といったものではなくて。

とにかく勾配がすごい。

 

途中、丘の中を突っ切るように洞窟を通ったりしたし、天然なのか大昔に開拓されたものなのか、急勾配の道があったりしたし……それに強力な攻撃をしてくる目がさいころみたいな変な強いモンスターもいるし、アンデッド系のモンスターは群れをなして襲って来るし、……結構険しい道のりだ。

挟み撃ちされて避けきれなかった強力なかまいたちでトウカが大出血したのは恐ろしかった。

どす黒い血を見た瞬間、重傷を悟って心臓が止まるかと思ったよ。

なのに怪我に構わず距離を詰めて始末していたけど、無理をして悪化したらどうする気なんだ。

というか、すかさず放たれたククールのホイミの速度はとんでもなかったけど。

一回のホイミでは癒やしきれてなかったから僕も加勢したぐらい酷かったから、その判断はナイスだったと思う。

 

攻撃のせいで大幅に破れた袖をひと思いにむしり取ったトウカは真っ赤に染まった服を残念そうに見下ろし、首を振っていた。

服は残念だったけどきっと山ほど出てくるだろうからそっちは心配していない。

 

……ドルマゲスに吹っ飛ばされた時に曲がった僕の槍の代わり、そろそろ錬金おわらないかな。

あのサイズの釜にどうやってロングスピアが入ったのか、入れた張本人が分からないのだけど、怖いから考えるのはやめよう。

 

そろそろ夜明けだからか、空が白んできて魔物は少し減ってきたけど。

あれ、そういえば。

そろそろ、夜明けなんだけど。

 

寝てないからぜんぜん頭回ってなかったけど、夜に何か起こるって話だし、いくら何でももうすぐ着くと思うし……丘の上での待機時間長いね?

 

「願いの丘の頂上で満月が登った時に何かが起こるって聞いたんだけど、明日の夜まで待ってるってことだよね」

「街でもないのにルーラに登録できないんじゃない? 分かんないけど。ゆっくり待てばいいじゃない、交代で昼寝でもしながら」

「そうだね、徹夜だったし」

「聖水撒きまくったら三人か四人は寝ていられると思う。見張りは一人でいいんじゃないかなあ」

 

まあ、そうか。

野宿でもすればいいだろうね。

でも、聖水撒いても危なくない?

さっきのかまいたちが寝てる間に飛んでくるとか心臓がいくらあっても足りないんだけど。

 

「聖水撒いて、さらにトヘロスの魔石を置けば簡易結界になるから」

「陛下、どういたしましょう」

「トウカの好きにさせればいいじゃろ。魔除けのエンチェントは我が国の守護呪文に司るフィオナ・モノトリアの十八番じゃ、使ってやらねば報われん。数が減っていなければわしが何を言われるか」

「君主に何を言っているんですか、母上……」

「あの者は守るべき子どもができてから物怖じというものを知らんのじゃ。いいことかもしれん」

 

トウカの持ち物なんだから魔法のアイテムはモノトリアご当主夫妻が手掛けたものだよね。

あの母君ならきっと意味のわからない数を持たせているはずだし使われていた方が喜ばれそう。

 

……普段から展開してないのはなんで?

いや、このままの僕らじゃドルマゲスに勝てるわけがないって分かったし、正しい判断か。

またいつ、ザバンやオセアーノン、旧修道院の亡霊みたいに「ボス」的な存在と戦う羽目になるか分からないし。

 

絶対にそんなことよりトウカが戦いたいだけじゃないのか。

強くなるべきという正しい判断の中に何割か私情が混ざってるに違いない。

とは言わないでおく。

 

「登るにつれて、だんだん不思議な感じが高まっていくわね。悪いものじゃないみたいだけど。何かがあるのは本当みたい」

「そうなんだ? ……あ」

「何でこっち見たの」

 

魔力が高い所と言えば、何故か髪の毛が脱色し始め、頭や目の痛みを訴えるトウカを思い出した。

じっと見てみてもトウカに別に何ら変わりなかったんだけども。

 

寝てないのにテンションもいつも通りで元気そのもの。

 

「ボクの家も魔力に溢れる所だったけど、何もならなかったことを知ってるでしょ?」

「まぁ、そうだけど。また頭とか目が痛かったりしない?」

「しないよ」

 

若干憮然と言い返されたけど、ここ最近のトウカを見てたら誰だってそうなると思うんだけど。

最前線で暴れてくれるトウカに離脱されたらパーティが危ないし、勿論、トウカが心配ってのもあるし。

 

「何も感じないし、体調は万全だけど」

「何かあったら言ってね?」

「勿論」

 

話しながらも、あの目がさいころみたいな魔物を見ると優先的に蹴り飛ばしたり斬り飛ばしたりしてるから大丈夫そうだけど。

 

右手に大剣、左手に片手剣。

片手剣ってなんで片手剣って言うんだと思う?

片手で使える剣だからだよ。

片手で普通に大剣を使われると片手剣の立場がないよ。

これ、トウカが大剣をもう一本作ってもらう前だったからこういう状況なだけで、剣が重たいから仕方なく片方は片手剣にしているわけじゃないのを僕は知っている。

 

「片手大剣かぁ」

「片手で槍を振り回しながらよそ見しながら盾持った手で魔物を撲殺しながら戦ってるエルト、アンタが言えたもんじゃないわよ」

「あ、ありがとう? でも重くはないよ、あんなに」

 

ゼシカに指摘されたことは、確かに僕がやってることだけど。

トウカと比べれば鍛えられた兵士で槍が得意ならやれる事だし、ヤンガスも大きな斧を両手で振り回しながらも盾で攻撃を防ぎつつ、時々トウカの戦いを眺めているんだから、似たり寄ったりだよね?

ククールは回復に専念してくれているみたいで、回復呪文が飛んでくる速度が自分で「ホイミ」を唱えるより早い時がちょいちょいあるし、それって仲間全員をよく見てくれているってことだよね。

 

進んで前衛を担当しているだけあってトウカもヤンガスも元気いっぱいだし、僕も戦いにおいて何年も訓練を受けてきたし、そんなものでは。

 

「兵士だから訓練されてきたからね。ヤンガスだってこれまで後ろ盾なくあれだけ戦える人だし、ククールも『聖堂騎士』なら然るべき訓練されてきたと思うよ。ゼシカは戦闘訓練を受けていなかったけれど、それだけ呪文も鞭も使いこなせているから比べて心配しなくていいと、思う」

「そうかしら」

 

だって。

王国の衛兵が、何かあった時に現場に向かって、そこにいた女の子が衛兵より強いってことがあったら、情けないなんてものじゃないよ。

上官からの叱責と情けなさでその晩枕を濡らすしかないよ。

ゼシカならわりと有り得そうなくらいだけど。

成人してすぐの新入隊員じゃなくても勝てそう。

トウカ相手だって上手いことメラを当てたら倒せると思うし。

 

魔法使いのタマゴ、どころじゃなくてもう普通に立派な魔法使いが正しいよね、うん。




・文章直したら少しも話が進まなくて驚いたその2
・これでもいくらか削っている
・中盤後編くらいまでもだもだし続ける人とその気も知らずに元気に戦ってる人
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