【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第4話 関所

目をつぶって静かにしていなければ気づかないほど小さな物音が聞こえて、二階からゆっくりと軋む音が降りてくる。

そして昼とは別人のように穏やかな声で話しかけてきた。

 

「それが貴殿の答えですか?」

「あぁそうだ、ご客人。私はまた元の占い師になろう。真実を占う者として」

 

仲間もユリマも皆、寝静まったのだろう。

寝た人間を気遣っているらしく「彼女」は小さく、やや不自然な低い声で私に言った。

夜闇と同化する黒い瞳が、じっと私と水晶玉を見つめている。

 

勿論、私はすでに目が覚めている。

ユリマの想いをこれ以上踏みにじる訳にはいかない。

ユリマの両親を死に追いやった罪の償いはこれからも続けていくが、以前のような占い師の自分に戻ろうと決意していた。

決意を感じ取ったのか、「彼女」はわずかだが優しい微笑みすら浮かべていた。

 

「そうですか、それは良かった。ユリマさんも喜ぶでしょうね」

「して、恩人殿。名前は何と?」

 

尋ねる前から、旅人の三人組のうち、剣を装備しているふたりはその素性にある程度は予想がついていたが。

身のこなしが一般人ではないというのはある意味三人に共通していることだったが、剣のふたりは訓練によって洗練された動作……つまり、軍人らしい所作を完全に殺せてはいなかった。

 

ふたりともそのように訓練されたのかとも思うほど、人間を観察するのが生業の占い師、情報屋、あるいは宗教家などの存在でなければ気づきもしないほど上手くただの一般人の旅人らしく振舞っていたが。

 

水晶玉の前に座った時から水晶玉を通して染み通ってきたざわざわとした感覚。

占い師としての「みる」チカラは告げていた。トロデーン王国の惨状、そして二人の「生還者」の事だった。

あの青年と「彼女」の纏う空気はトロデーンの者という証。

無論、私には感じられるが他の者にはわからないような風土の空気。

その地で育ったものに香る「匂い」だ。

 

「彼女」はその上に高貴な者独特の空気を纏っており、同時に戦場に生きる者が発する魔物の血の「臭い」もしていた。

物理的ではない、そのような立ち振る舞い、雰囲気ともいえるものだ。

そのような特殊な人物で娘くらいの年代の人間に当てはまるのは一人しかいないだろう。

 

「ボクはトウカ。トウカ=モノトリア。それで貴殿には誰なのか分かるでしょう?」

「勿論だとも。高貴なる血を引かれている貴女がどうしてそのような勇ましい格好をしているのかは分からんのだが、なにか事情があるのだとは思っていた」

「勇ましい、ね。さすが占い師殿はすべてをお見通しというわけですか。ボクは人よりも非力だったら命が狙われる立場でした。今のボクは弱くはありませんが、それでも、『私』、嫌というほど命を狙われてきましたから。死なないためには強ければいいでしょう? 全部首を切って返り討ちです。

その道を選ぶなら、普段着るのは素敵なドレスより動きやすいこんな格好の方が都合がいいというものです」

 

「彼女」は濃い茶色の髪の毛の上からつぶられた右目を、左手で魔力を帯びた布に覆われた首を押さえて見せた。

 

「ただでさえボクは生まれついての出来損ないだ。魔法ひとつ使えない、五体満足でもない」

「……そんなことを言ってはご両親が悲しむ。貴女はこの街でも忠義の者として名前が知られているのだから」

 

「彼女」の噂はよく聞いている。

それは見事な腕を持つ剣士だと。

命を狙われているとは言っているが、何人の人間が彼女と戦って勝てるのだろうか。

不意打ちであろうとここで立っている「彼女」に「生まれつき」以外のなんの欠けもないのがその証拠。

世界的に有名な最強の剣士トウカこそ「彼女」だった。

 

何故か、正しい名前や容姿は知られていないが、誰よりも高潔で強い剣士の噂は十分すぎるほど広まっているのだから。

 

その「噂」があるのは「彼女」の努力にほかならないだろう。

 

しかし、「彼女」は気付いているのだろうか。

自分に流れる古く貴き血が、自分の養い親よりもずっと濃いものであり、自分こそが正しき「モノトリア」であることを。

不思議に思わないのだろうか。

その身に宿る……「宿らせられる」チカラの強さを。

限度を知らない強さの源の理由を。

それでいて何故魔法が使えないのかを。

 

このことは、今の私の口から言って良いものではない。

 

「彼女」がいつか、自分から知らなくてはならないのだ。

古代の血を引くモノトリアに、課せられた本当の使命を。

最後になってしまった「彼女」は知らないのだろう。

いや……彼女はモノトリアであり、真の意味ではそうではない。

古き血を引いているのは、「彼女」にとってはただの過程に過ぎず、「モノトリアの使命」からすればどうでもいいのだ。

 

それと同時に、「彼女」の友であろう青年も、己の生まれた理由を知る日が来てほしいと願う。

あちらはあちらで特別で高貴な血を引く者だと分かる。

が、どこまでただの人間である自分が「みて」いいのやら。

 

やれやれ、ご客人たちの運命はどれも数奇で、どれも非凡。

少しだけ覗くだけでもこちらが運命の渦に吸い込まれそうだ。

この調子ではあの人相の悪い男も相当な人生を歩んできたのだろうな。

 

「ご自分を大事にされるべきだ。貴女は誰よりも強いが、それでもご両親の念はただの幸福な娘として生きることを願っている。それは占い師としてではなく、同じひとの親として分かるのだから」

「……! お気遣い、痛み入ります」

 

「彼女」の両親も、そして私も。

娘たちにとって血を分けた本当の親ではない。

だが、この愛しいと想う気持ちは本物の親と変わりはない。

 

今なら、胸を張って思えることだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ふたりとも」

「おはよう……あ、トウカが復活してる」

 

普段通りのやわらかな笑みを浮かべたトウカに、温厚な性格の幼なじみは嬉しそうに挨拶を返した。

その後、昼すぎまで寝ていたという事実をネタにからかわれ、拗ねた挙句もう一度布団に潜り込みかけて一階まで引っぱり……いや、引きずり出されることになるのだが。

 

「ボクは何時でも元気さ、体力的に。ちょっと寝たら全回復」

「うん、それは天と地がひっくり返っても間違いない。だからちょっと離してよ」

「離したらまた寝るじゃんエルト。ボク知ってるんだからね。今日出発するんだからこれ以上の睡眠はできないよ」

「……分かってるよ」

 

頷き合う二人はまた笑い合った。

これから歩む、険しい旅路を知らずに。

沢山の出会いと別れ、べったりと血に塗られた茨道。

その果てに世界を救い、ほとんどの人々に名前すら知られることもなく平和を取り戻すというのに。

 

とはいえ、最初から「世界」を救いたくて行動するような「勇者」などこの世界に存在しない。

 

そんなふたりの声を聞きながらかつてのように占いの姿勢をとったルイネロは、光り始めた水晶玉の向こうにどこか見覚えのある姿を見た。

トラペッタの住人なら誰もが目にした事のある、不器用なある男の姿を。

 

「……すまないが、少々きな臭いものが見えそうだ。お探しの人物の後ろ姿のようにも……」

「もしかして、それはドルマゲスのことですか?」

「ドルマゲス?!」

 

思わずとこぼしたトウカの声に瞬間的に反応したヤンガスが跳ね起きる。

そしてドタドタとものすごい音を立てて勢いよく階段から降りてきた。

それを咎めることもせず、ルイネロは手を水晶玉にかざし、占いを始めた。

 

ようやく掴んだ情報だったが、ルイネロのただならぬ様子に不安そうな顔になった三人はただルイネロを見つめるだけだった。

 

「むむ……見えるぞ。関所が見える……道化師の姿をした長身の男……そなたらの言うようにあやつはドルマゲス……おお、関所は破られ……」

「トラペッタから近い関所? ……リーザス地方への関所かな」

「トウカ、知ってるの?」

「知ってる」

「ルイネロのおっさん! もっと詳しい情報はねぇのかよ?!」

 

ルイネロの占いが終わるのを待たずに小さな声で二人は話し合う。

水晶玉を見つめたまま不意に話さなくなったルイネロをヤンガスは大声で催促した。

だが、もう一度目を凝らしたルイネロが発見したのは水晶玉の表面に書かれたザバンの恨みのこもった落書きだけだった。

 

「あの関所には精鋭のトロデーンの兵士が配属されているはずなんだ」

「……でも、破られたって」

「兄貴たちの同僚でがすか。それは心配でがすね」

「ドルマゲスに追いつけるかな、今から出て」

 

早くも飛び出しそうなヤンガスを引き止めてまで話す姿にルイネロは笑いをこぼしそうになる。

彼らならなんとかやれるだろうと確信していたから。

だけど、それを言わないで、背中を押す。

 

「早くいきなさい、信じたように進みなさい」

 

と。

そう促す。

 

軽く背中を押す。

少しの誘い。

与える僅かなきっかけ。

そして、少しでもいい未来を掴み取れるように祈ること。

占いの役目というものはそういうものだから。

 

 

 

 

 

 

陛下と姫さまに事の顛末をお話しし、そしてすぐにリーザス地方への関所へ向かって出発することになった。

魔法もなしに追いつけるなんて思っていないのは全員そうだけど、少しでも急ぐ必要があると考えたのもみんな同じ。

 

マスター・ライラスは火事が原因で亡くなられたけど、本当にごく最近のこと。

情報を知ったときはすぐ後にあんなことがあったものだから冷静に考えられなかったけれど、もしかしたら火事はドルマゲスの仕業という可能性も捨てきれない。

 

ドルマゲスの師匠だった、マスター・ライラス。

ドルマゲスの人物像がよく分からないから何とも言えないけれど、いきなり縁もゆかりもない王国ひとつ呪いに沈めるような危険人物だ。

そんな人間の思考回路なんて分かりっこない。

最悪の事態を想定した方がいい。

例えば、快楽犯のドルマゲスが大規模殺人を企てている、とか。

 

街道が整備されていてよかった。

姫さまは不満ひとつ漏らさずに走ってくださった。

だから、私もそれに臣下として報いなきゃ。

エルトとヤンガスと手分けしつつ、行く手を阻む魔物をどんどん倒して少しでも馬車の速度を落とさないでいいように進んでいく。

 

とはいえ、姫さまの身体能力は本物の馬と同等らしい。

戦闘しつつ馬車の速度を全く落とさないで進むなんて真似をしたら人間の方が先にバテちゃう。

聖水を撒いて魔物を避けながら緩やかに歩く区間も設けつつ、完全に止まって休憩はしない。

そんな勢いで進んでいく。

 

完全に魔物を避けちゃえるように聖水を撒き続けるというのも不可能じゃないけど。

資金がどこまで持つかわからない。

普通に考えれば聖水は安いし、たくさんストックがあるから数か月くらいどうにかなりそうだけど、先がどれくらい長いのか分からない以上魔物が弱い地方で使い続けるのは得策じゃなかった。

 

それに、エルトもヤンガスも、そして私も強くならなきゃいけないし。

ドルマゲスの脅威はまだわからない。

なら備えすぎるくらい備えなきゃね。

 

「トウカ。地図はあるかの?」

「はい。こちらが世界地図です。現在私たちはトラペッタ地方のこの辺りを進んでおります」

「その紋章、モノトリアの私物じゃな。用意が良いのはいいことじゃ。ふむ……この様子じゃと今日中にリーザス村に着きそうじゃな?」

「仰せの通りでございます、陛下」

「今日の休息地はリーザス村とする。姫に無理をさせない速度で頼むぞい。ううむ……エルトとヤンガスもバテない速度でな」

「拝命いたしました。エルト、ヤンガス! アモールの水をあげるから頑張っていこう! ちょっと馬車守って休んでてよ」

 

リーザス村までなら夕方くらいにつくかなあ。

ちょっとくらい休憩をはさんでも大丈夫のはず。

このあたりの魔物相手ならそこまで苦戦もしないはずだし。

 

残りの距離を考えつつ、姫さまは平気そうだけどふたりが疲れてきちゃったみたいだし馬車の近くでアモールの水を飲みながら護衛兼休憩しててもらおう。

 

「ボクはちょっとこのあたりの魔物狩ってくるから! このまま進んでて大丈夫だからね。だいたい片づけたら合流するから気にせずに進んでよ?」

「え、なに、トウカどこいくの?」

「どこって。どこにもいかないさ。ただ馬車に襲ってくる魔物を減らせばみんなの負担が減るからね! ちょっと広範囲を狩ってくる! じゃあ行ってくる!」

「トウカの兄貴! そういうことならあっしもお供しやすよ!」

「ヤンガスはエルトと馬車を守る大事な役目があるから、そっちをお願いするね!」

 

ヤンガスはもともと山賊だったって聞いたけどそうは思えないくらいまともな人で不思議な気持ち。

まだ見ていないところが「治安が悪い」のかもしれないけど、今のところはどこまでも人情のある、だけど人相の悪い人って感じ。

こういう人を任侠っていうのかな?

 

これなら権力が好きすぎる貴族の方がよっぽど「ワル」じゃない? 

なんてね。

そんなの考えるまでもなくヤンガスの方がよっぽどまともな人間に決まってるんだけど。

少なくとも、まだ短い時間しか一緒に過ごしていないけど……すっかり信用できちゃう不思議な人だ。

 

やっぱり「衣食足りて礼節を知る」ってことだよね。

どんな人間もお腹が減ってて寝るところがなかったら。

明日が不安なら、安心していられないなら。

最終手段として追剥するしかなくなるか……。

 

ちょっぴり考え事をしつつ、なだらかな丘が連なる草原を駆ける。

気配を消さずに殺気を剥き出しにして。

逃げるやつは逃げたらいい。

無理に全部倒そうなんて思ってない。

明らかにぶっ飛ばす気満々の危ない相手に向かってくるような向こう見ずと嬉々として人間を襲ってくる魔物だけ相手にしたいんだ!

 

ぴょんぴょん飛び跳ねて逃げていくスライムたちを見逃し、鋭い爪を剥き出しにして迫ってくるしましまキャットを引き付けてから一気に輪切り。

仲間たちへの見せしめのつもりだったけど全然逃げようとしないから全部まとめて横薙ぎ一閃、真っ二つにして倒す。

 

青い光に包まれて消えていく魔物たちの姿を見て襲い掛かってくるつもりだったらしいプークプックたちが慌てて逃げていく。

角笛を落としていくやつもいたから背中に向かってポーンと投げてやったけど、一匹も拾わないなあ。

そもそも気づいた?

 

あらかた追い払ってから馬車を中心に大きく円で囲むように思いっきり走って、私がいたのと反対側で馬車に向かっていく魔物をどんどん倒していく。

両手に一本ずつ剣を持って、すれ違いざまに真っ二つ! 

仲間がやられても全然ひるまない相手は賽の目に切り刻んで、簡単なサイコロステーキの出来上がり!

 

「あっはははは! こっちだこっち、ボクに向かってかかってこい! ぜーんぶ相手にしてやるから!」

 

大声で逃げるなら良し、挑発に乗ってこっちに向かってくるならそれもいいね!

 

走れ、走れ、それからたくさんたくさん切り刻む!

 

あー、気持ちいい! 

風の中で私は世界でいちばん自由だ! 

広い世界で殺し合う。

命を狙ってくる魔物をこっちからぶちのめして、私は死体を還してどんどん前に進む! 

これこそ生きてるってことじゃないか!

 

向かってきたくしざしツインズを縦に輪切り! 

二匹目はみじん切りにしてあげる! 

残った串を拾って向かってくるドラキーたちに思いっきり投げてくしざしドラキーの出来上がり! 

焼いて食べたらどんな味かな?

 

まぁ、魔物って死んだらそのまま青い光に包まれて消えちゃうから、食べるなら倒す前に何かしらの特殊な処置が必要なんだけどね!

 

魔物を倒して、走って、走って、走って。

それから。

 

「トウカ! 関所が見えてきたよ!」

「今行く!」

 

エルトに呼ばれたらすぐに行かなきゃ。

弾む「まり」みたいにその場で大きくジャンプして前へ、向かってきてた魔物を踏み潰してジャンプ、大きく大きくジャンプ! 

緩やかな坂を飛び降りて、空中で剣を収めて、エルトの後ろに着地して合流!

 

「いい汗かいた! ただいまエルト!」

「おかえりトウカ。少しは疲れた?」

「息が、ちょっとあがったかな!」

 

なんて話していたのは最初だけ。

近づくにつれ、関所の様子がわかってきたから。

 

「ボクの目がおかしくなっていなければ、関所が力づくで破られてる……?」

「僕にもそう見える」

「あっしにもでがす」

 

わなわなと手を震わせた陛下が、すぐに命令された。

 

「トウカ、今すぐ生存者の捜索をしてくるのじゃ」

「はっ、ただいま」

 

走る。

牢屋の鉄格子とも比べ物にもならないほど頑丈なはずの金属の門が思いっきりへしゃげていて、真ん中は馬車でも余裕で通れそうなくらい大穴を開けているのが分かる。

 

陛下もわかっていらっしゃる。

これじゃあ、死体さえ見つからないかもしれない。

 

「誰か! 誰かいないのか!?」

 

大声を張り上げて、関所に向かって走る。

 

関所はなにかの魔法で破壊されたのがわかったけれど、魔力の分からない私にはどんな魔法によるものなのかは、分からない。

 

きっとここの兵士は抵抗したはず。

じゃなきゃ、こんなことになってない。

 

「私はトロデーン近衛、トウカ! 生存者は応答願う!」

 

関所は、複雑な構造じゃない。

むき出しの橋があってそこの両方の端に門があるというシンプルな構造。

 

とっくに見通せている。

誰もいないって。

 

だけど血痕ひとつない。

せめてドルマゲスから逃げてくれているなら。

それなら救いだけど。

だって関所を吹き飛ばせるような魔術師を相手にするなんて正気じゃない。

どうやって相手にしろって? 

戦前逃亡として罰する? 

本来ならそうするべきだけど、ここにある痕跡はたとえ戦前逃亡が分かったとしても見なかったことにするべきだと思ってしまうような惨事だ。

 

「誰か!」

 

服の切れ端すら見つからない。

 

「いないのか!」

 

なにも。

ここにいたはずの兵がいない。

何も残さずに。

 

私はここにいた兵士の名前も知らない。

でも、トロデーンの同僚たちは変わり果てた姿をしていても、呪われ喋ることさえできなくなっていても、生きていた。

 

あんまりじゃないか。

あんまりだ。

ドルマゲスの狙いは一体なんなんだ? 

トロデーンの国宝の杖を盗むことでは飽き足らず、呪いをかけただけではなく、状況証拠的に兵士を殺した。

次は何を狙っている? 

リーザス地方へ向かって、次は?

 

「トウカ、もういいよ。陛下は命令を撤回された」

「……わかった」

 

見つからなかった。

なにも。

 

「ご苦労じゃった。では、進むぞい」

「仰せのままに、陛下」

 

エルトの顔色が白い。

私もきっと同じ顔色をしている。

陛下も、姫さまも、すっかり塞ぎ込んでしまわれた。

気遣うようにヤンガスが私たちを見上げて、明らかに集中力を欠いた私たちの分まで警戒してくれているのがわかる。

 

ドルマゲスは、こういう奴なのか。

 

あの呪いの日、ある意味当事者として渦中にいたけれどいまいち実感できていなかった。

今、ようやく。

誰の死を目撃できた訳でもないのに、やっと奴の危険度がわかったんだ。




・関所のくだりを追加
・エルトの独白を削除
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