【改訂】剣士さんとドラクエⅧ   作:ryure

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第6話 復讐心

リーザスの塔の中腹あたりから右目が痛いと訴えていたトウカ。

普段はおしゃべりなのに口数がどんどん少なくなっていって、そして「遊び」がちな戦闘スタイルも痛みを訴えてからすぐに情け容赦ない一撃必殺スタイルに変わった。

 

そして最上階につくと、とうとう立ってもいられなくなってべしゃりと膝をつき、近くにいるヤンガスも僕もまったく見えていない様子で最上階に祀られている女の像を睨んだ。

震える手を伸ばして、その宝石の瞳を破壊してやると言わんばかりに。

もしかして、あれがトウカの痛みの原因なの?

 

とにかく急いで手放したトウカを抱え起こした。

戦闘狂なトウカが剣を手放すなんて珍しいにも程があるよ。

トウカが服の下に着込んでいるずっしりとした鎖帷子のせいでなんとか座らせるのが精一杯だったけれど。

トウカは僕より小柄なのにがっちりした全身鎧の大男を起こした気分。

 

あの宝石からは魔法があまり得意じゃない僕でもはっきりと分かる程に強力な魔力があるのがわかる。

だけどその魔力はトロデーンを包み込んだ茨の呪いのように禍々しいものじゃなくて、どちらかといえば神々しさを感じるもの。

決して悪いもののように思えない。

丁寧に飾られているのも納得の、リーザス村の宝物なんだろうってすぐわかる。

教会関連の施設にあってもおかしくないような神聖なもの。

 

トウカは僕のことさえわかっているのかわかっていないのか、座らされてもまだうわごとのようにブツブツ何かを呟いていて、痛みに顔を歪めたまままだズリズリと像に近寄ろうとしていた。

 

あんなに身軽なのに僕さえ振り払えないで、立ち上がることさえできないっているのに。

 

最上階まで来たけどここにゼシカさんはいなかった。

トウカはどう見たって限界だし、早いところ村に戻ろうか。

ヤンガスと顔を見合わせて頷いたその時だった。

 

不意に、チリチリとトウカの「髪」が光った気がしたんだ。

誰でも魔法を使うと何かしら魔法陣なり身体なりが光るけど、まさにそんな感じに。

一瞬だけ息を呑むような莫大な魔力がこの場を覆う。

息苦しいくらいに、どこからか魔力が溢れ出す。

元々の空間が魔力に満ちているから出処さえ分からない。

 

目の前でトウカの焦げ茶色の髪が、キラキラ光りながら毛先から銀色に変化していく。

銀色になった髪の毛は数秒間はそのままだったけどまたゆっくりと毛先から茶色に戻っていった。

トウカになにがあったの。これは大丈夫なの? 

トウカは魔法が使えないけど、こんなにたくさんの魔力に触れたからなにか悪い影響があったのかもしれない。

 

故郷だけじゃなくてトウカまでわけのわからないことに取られたら、僕はどうしたらいいの!

 

「トウカ、トウカ、大丈夫? 髪の毛が今光って、目の痛みは平気?」

 

焦って思わず肩を揺する。

それまでの痛みのせいか、それとも本人にも変色の違和感が分かっていたのか、カッと見開いた目も色が変わっていたのが分かって、だけどそっちも徐々に元の黒色に戻っている最中だった。

多分、目の方は鮮やかな緑色に変わっていたんだと思う。

そして普段から外を走り回っている割に焼けもしない白い肌はさらに血の気が引いたような青白さに変わっていて心配が募る。

 

この様子じゃ帰りは背負って帰らないといけないかもしれない。

防具外してもらわないと背負うのは無理だけど。

 

だけど、トウカはさっきまでの返事さえできない感じから一変して僕の方を見るときょとんと首をかしげた。

 

「……大丈夫みたい。何か、痛みが限界突破して逆に痛くなくなった? なんで?」

「え?」

「今の何? なんかすごかった。死ぬかと思ったのに一瞬で楽になったし。痛すぎて脳の血管切れちゃった?」

 

呆然と目をぱちぱちさせていたけど口に出したのはそんな突拍子のない言葉。

勿論痛くないってことには安心したけど、だけど。

でも、それより気になるのはそこじゃなくて。

いや、トウカの体調も気になるけど、そうじゃなくて。

 

普通の人間は髪の毛や目の色が魔法みたいに変わってすぐに戻るなんてない。

そういう魔法がこの世に存在する可能性はあるけど聞いたこともないし、第一トウカがそんな魔法が使えるなら多分僕をびっくりさせるためか目を覚まさせるために夜勤の時に披露してくれてるはず。

 

だから今のは、何?

 

「何か今、トウカの髪の毛が銀色になって元に戻った怪現象が起こったんだけど」

「銀色? 何それ知らない現象……」

「毛先から色が変わって、すぐに戻ったよ。目は緑色からすぐに戻ってた。なにか体調に違和感はない?」

「緑色、だって?」

 

一応、当の本人にそのことを伝えると銀色の件で不思議そうだったトウカが緑色の件で血相を変えた。

さっき以上に一気に血の気が引いて、唇まで真っ青になって慌てている。

 

これは言わずにいたほうが良かったかもしれない。

余計に体調が悪化してしまったみたいだき……何やってんだ、僕。

でもこうして返事が返せるぐらいに回復しているみたい。

 

「も、もう戻った? 元通り?」

「うん。そこまでびっくりしたの? 確かに意味不明だけど」

「心臓止まるかと思った! 父上も母上も、モノトリアのご先祖さまも、髪と目はほとんど無色彩! あって色素の濃い茶色くらいだし、緑色なんてどこから出るんだよ! ……まあ、私くらいの末代だと混血進みすぎて何色が出ても変ではないんだけど……」

 

とりあえず戻って良かったと胸を撫で下ろすトウカの手を引っ張って取り敢えず立たせた時、今度は後ろから知らない声がかかった。

勿論、トウカの隣で心配そうにしているヤンガスじゃない。

高い女性の声だ。

もしかして、探し人のゼシカさん?

 

振り返るとそこには花束を持ったワンピースの女性がいた。

こっちを見て一瞬呆然としたあと花束を取り落とした。

なんか嫌な予感がする。

 

「勘違い」を沢山されてきたというヤンガスが慌てだす。

 

「あんたたち、戻ってきたの……!」

「えっ、ちょっと、いろいろと違うよ!」

「お嬢ちゃん! 俺たち怪しい者じゃないぜ!」

 

今にもこちらを攻撃しそうな雰囲気にびっくりしてトウカが叫ぶように弁解する。

現れた彼女はツインテールに強気で勝ち気な瞳。

特徴は間違いない、探し人のゼシカさんだ。

だけどこの状況で何を勘違いしたのか、まるで僕らが仇であるかのように睨まれてしまった。

 

「兄さんを殺した盗賊たちね……許さない!」

 

ああ、本当に「仇」と間違えられているみたいだ。

こっちの話に耳も貸さず、炎の攻撃魔法を唱えられてしまった。

慌てて床を転がるようにして必死に避ける。

特にトウカはぴょんと跳ね起きて過剰なくらいジャンプして避ける。

 

はっきりと怖がってる。

さらに顔色は白くなっていて、そこまでこわばった表情は見たこともないほどで、落とした剣を回収しようという様子すらなく必死に逃げてる。

 

顔色はともかく、その俊敏な動きにはさっきまでの体調不良は本当に治ったんだっていう感想を抱くくらい。

えっとたしか、トウカは魔法に人一倍弱いんだっけ? 

受けたら本気で命が危ないくらい魔法攻撃に弱いとか。

それなら全力で逃げるよ。

 

僕も一撃で燃やし尽くされそうだから逃げるけどさ! 

冤罪で焼死とか冗談じゃない!

 

「ちょこまかと逃げるな!」

「違う! 人違い! 僕たちここにきたのはあなたを探すためで!」

「女神像の宝石を盗みに来たんでしょ! 兄さんの仇は許さない!」

「要らない! こんな石盗んだら私の身体が爆発四散する!」

 

トウカ、僕、ヤンガス。

次々と連続で魔法を飛ばしては避けられて、イラついたのか彼女は事もあろうにこんなに魔力が充満した部屋で一際時間をかけて魔法を詠唱する。

視界の端では慌てふためくヤンガスと、変わらず顔を盛大にひきつらせたトウカがいた。

何とか隙を見て剣を拾って魔法を弾く準備まで整えている。

 

魔法はどんどん高まっていって、ゼシカさんからとんでもない魔力の風が発せられて、普通に立ってもいられない! 

なんで一介の村人のお嬢さまがこんな大魔法使いみたいな芸当ができるの!

 

――止めなさい、魔法を止めるんだ、ゼシカ!

 

あとほんの少しで魔法がこっちへ放たれてしまうというところで、突然不思議な声が聞こえた。

頭に直接話しかけられたかのような不思議な声。

若い男の人の声。

どことなくゼシカさんの声に似ているような。

 

その声は全員に聞こえてらしくて、ゼシカさんは分かりやすく動揺した。

 

「止めろったって! 今更、もう、止まらないわよ!」

 

最大級の威力を込められて放たれた魔法は、無理やり狙いを逸らした結果、女神像……もといリーザス像に当たって、どこにも可燃物がないのに魔力を燃やした赤い炎を高く高く燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

声の主は強盗に殺されたというゼシカさんのお兄さん、サーベルトさんのものだった。

 

亡き彼の魂はリーザスの像に預かられ、ここでゼシカさんを待っていたらしい。

ゼシカさんが犯人を勘違いして僕らに攻撃したから止めてくれたという。

 

そして事件の真相を見せてくれた。

 

悲劇の日、村人しか開け方を知らないはずの扉が開いているリーザスの塔を発見した彼。

 

盗賊を警戒したサーベルトさんは、彼は異変がないか塔を登った。

問題なく上り詰めた先の最上階に異常は見当たらない。

不思議に思いつつも引き返そうとしたサーベルトさんは、それ以上歩くことも出来なかった。

 

彼の背後に現れた不気味な道化師。

その姿は間違いなくドルマゲス。

 

狂ったような笑い声と共に、彼は剣を抜くことすら封じられて。

 

トロデーンの杖を突き刺して、殺害。

 

克明に当時の様子が頭に流れ込んできた。

サーベルトさんの無念がひしひしと伝わってくる。

そして悟る。

ドルマゲスは、ここにも来ていた。

そしてもういない。

 

サーベルトさんを狙った理由はなんだったんだろう? 

次の街へ移動してまた殺す相手を探しているのか?

 

ドルマゲスは、一体何を考えている? 

ドルマゲスは、何故、面識のなかったサーベルトさんを殺した?

 

最初はマスター・ライラス。

自分の師匠。

まだ、関わりがあっただけ人間関係のこじれだとか、理由が分からないわけではないけれど。

でも、どう考えてもサーベルトさんとドルマゲスの接点が思い当たらない。

二人の共通点は何だろう。

種類は違うけど、実力者であること?

 

そしてなお悪いことに、殺人によってドルマゲスは強くなっている様子さえ伺われた。

殺した相手のチカラを奪い取る杖だったの?

 

謎は謎のまま、死者の魂はこれ以上留まられずに光とともに召されていくのを見送る。

ゼシカさんは最早僕らのことなんて構っていられずに、すがるように燃える像の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼシカさん、泣いてたね」

 

ぽつりと、トウカが言う。

一人にしてくれと言って彼女はただあの場所で泣き崩れていた。

痛ましかったけれど、あの場に残るよりも、僕らは彼女の言葉に従った。

 

大好きなお兄さんの死の真相を知ったお嬢さん。

確信を持って彼女は絶対このまま村で傭兵を雇って仇討ちなんてしないと思う。

 

「彼女、仇討ち、するのかなぁ。するよね。お兄さんが狙われたのに妹が狙われなかったのはなんで? なにかあるのかな。マスター・ライラスもサーベルトさんも周囲に知られる実力者か。ゼシカさんもただのお嬢さまとは言えないくらい強そうだったけど……」

 

僕の知っているトウカらしくない無感動な声。

ただただ事実を並べて、その次に自分の憶測を淡々と言っただけのよう。

思わず振り返ればやっぱりトウカは無表情だった。

たまにそんな風に笑顔を消して言う。

ちょっと怖い。

 

そういう時のトウカは人情よりも合理だった。

 

「自分の手で仇討ちするよね、彼女」

「やると思うでがす」

「実に無謀だね。ドルマゲスは正面から戦うと思えないし。まぁ、それはボクたちもだね? でもね、ドルマゲスはあまりにも強い。転移魔法に無詠唱の金縛り、物理攻撃で一撃必殺。魔法使いがノーモーションで距離を詰められる相手とまともに戦えるわけがないだろうに」

 

僕たちはサーベルトさんが殺されたその場にいたわけでもない。

トロデーンでドルマゲスを直接見た訳でもない。

事件の日のマスター・ライラスがどんな最期を遂げたのかも知らない。

ただ、その場所に残る痕跡だけでも、感じられるほどの、圧倒的な強さがドルマゲスにはあった。

それを僕たちは理解した。

理解させられてしまった。

 

「彼女、あんなにすごい魔法が使えるけど」

 

そっとトウカの目が細めた。

そこにあった感情はふたつ。

ひとつは哀れみ。

自分たちの境遇とも重ね合わせたような哀れみ。

 

「ドルマゲスの方が上だね。このままじゃ為すすべもなく死んでしまう」

 

そして、もうひとつは悲しみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親子喧嘩を目撃しちゃった訳だけど、エルト」

「なかなか激しい口論だったね」

「兄貴たちは冷静でがすね……」

「え、だって口喧嘩だけで魔法とか斬撃とか飛び交わなかったでしょ?」

「トウカの兄貴の両親の喧嘩はそんなに危険なんでがすか!」

「僕はノーコメントで」

 

あのおふたりの夫婦喧嘩なら何度か目撃しちゃったけど思い出すのも恐ろしい、さながら戦場だったなぁ。

二方ともとんでもない実力だったし。

高名な騎士と名高い魔導師の戦いだった。

 

そんな中、なんでもないように平然としてたトウカには絶対に流れ弾が行かないんだよ。

たまたま居合わせた僕にもこなかったけど、トウカと僕じゃ全然距離が違う。

父君とトウカは同じソファーに座っていたけど、僕はもう少し遠くの、部屋のドアを開けてすぐぐらいの部屋の端に居た。

でもトウカは少しでも身じろぎすれば斬撃や魔法が簡単に触れるぐらい近くにいたんだよ。

 

「え、あ、うん。たまにね。でも本人の目の前で教育方針の事とか言われても反応に困ったな。お客様のエルトがいたのに夫婦喧嘩しちゃったって反省してたね。私がエルトを家に呼びすぎて馴染みすぎてたからだと思う。そこにいてもいつものことかな? って思うくらいにさ」

「教育方針、でがすか?」

「父上がよく、『そんなに剣を極めにかかると知っていれば文官教育にしたのに』って言ってたし、母上も『わたくしの子は戦える文官にすべきでした!』って……そんなにボク、剣士やってて問題かな? こんなに楽しいのに。趣味と実益を兼ねてる。剣技は兵士として役に立つし、戦うのも好き。多分、両親は心配してくれているんだろうけど。心配してもらうような子どもじゃない。いや当時は子どもだったっけ。でもさぁ……」

「いくつになっても子どもを心配するもんじゃないでがすか?」

「そうかもね」

 

ヤンガスも何かそういう心当たりあるのかな? 

分からないけど。

 

「待って、僕ってあの大きなお屋敷に馴染んでたの?」

「いつかに使用人のひとりがエルトの部屋がないのは何故ですか? って言いに来たことあったよ。母上は納得して部屋を手配してから気づいたって」

「怖……」

 

庶民には怖いんだけど、モノトリアの人たち。

 

そういえば、夫婦喧嘩を目撃したあの頃、腕自慢と戦いたいって話してたね。

叶えてもらってたはず。

それで一時期有名な剣士や戦士が出家のためにサヴェッラに行くブームが起きてたの? 

そういうことなの? 

僕が十二歳くらいの頃だからその歳で大人のプライドへし折ってたってこと?

 

あの頃の僕は毎日トーポと戯れ、ミーティアと遊んで、トウカと木の棒振り回してたっていうのに。

 

それはともあれ。

 

ドルマゲスはここにはいない。

なら僕らは追いかけるまで。

リーザス村を出て、トウカが経緯を陛下に報告をしている間に僕は盾をしっかりと腕に装備して周囲を警戒した。

トウカも人間だから体調不良だってあるだろうし、万能じゃない。

頼ってばかりだときっと痛い目を見るって分かったし。

 

次に目指すは、港町ポルトリンク。

大陸の端っこまで来ちゃったからここからは船に乗らないとどこへも行けないし。

 

でもこれからどこを目指すんだろう。

ドルマゲスがサーベルトさんを殺害した後に何時までもこの大陸に留まったとは考えにくいけど。

ドルマゲスが道化師の姿をしたままならポルトリンクでもさぞかし目撃情報が多そうだけど、わざわざ目立つ格好をするだろうか。

重大な犯罪を犯した後でさ。

 

普通の人間なら目立たない格好へ変装すると思う。

杖を手放さなくても少なくとも化粧を落として普通の服を着るだけでもマシになる。

 

サーベルトさんの記憶の中では未だにあの白塗りの道化師を続けていたのがその異常者っぷりを際立たせていて余計に不気味だ。

 

「さて、次はポルトリンクを目指すぞい」

「はっ」

「分かったでがす」

 

そういえば、あのまま家出して飛び出したあのゼシカお嬢さん、多分ポルトリンクに行けば遭遇するよね。

もうちょっと落ち着いてたらいいな。

 

馬車が進み始めるとやる気満々に大剣を抜いて元気いっぱいに魔物を狩りはじめたトウカがもう遠い。

楽しそうな高笑いも聞こえてくる。

 

こっちももうちょっと落ち着いてくれたらいいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は記念すべき日だ。()()()お姫さまのお目覚め。それにしても随分お寝坊じゃないか。王子さまのキスが必要だったんじゃないか?」

『そんなもの必要ないし、これからも必要にさせないし、ずっと前から起きてるよ。ちょっとクラン・スピネルに揺さぶられただけじゃない? トウカにキスは必要ない』

「シスコン亡霊め」

『ほら俺の魔力を勝手に使ってるんだからもっと可愛い妹の姿を見せてよ。楽しそうに戦って、うん、お前にはできそうもない芸当だ。健康が一番ってやつだよね。どう思う? 俺って生まれてても相当虚弱だったと思うし。あ、君も病弱だっけ。生まれただけマシってやつだよね。俺もそれで生き残れるんだったらそうするんだったな』

「うるさい。もう黙ってろよ……」

 

そこは暗かった。

いや、どこまでも黒く白い世界だった。

部屋の中に明かりはあったが、どうにも薄「黒」く、色彩のない世界だった。

 

玉座のある広間の中心に座り込んだ青年は鬱陶しそうに自問自答しながら、大きな手鏡を覗き込んでいた。

 

『ほらほら、逃げろ逃げろ! 死にたいやつだけこっちにおいで!』

 

鏡の中は明るく色鮮やかで、目に眩しい緑の草原を剣を構えた娘が疾走しながら魔物をぶった斬る瞬間だった。

 

青年はその光景を眩しそうに眺め、羨望の表情を隠そうともしなかった。

 

『実に元気いっぱいで可愛いね。ほっぺたをリンゴみたいに真っ赤にして、とびっきりの笑顔でさ。俺があそこにいたらすぐにでも水筒を差し入れてやりたかったのに』

「あんな頭がおかしいお姫さまのどこがいいって言うんだ」

『ここから手も足も出せないくせに。どうせやれることもないんだし素直に応援観戦しとけばいいんだよ』

 

色彩のない部屋で、白い肌の痩せた青年は僅かに頬を持ち上げた。

 

『期待するのは辞めたら? 君も俺も使命を果たせるわけないんだよ』

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