それでも僕はやってない(6Vメタモンは持ってませんでした半ギレ
ということで、シンがトレーナーをやめるぞぉぉぉ!になった経緯です。
擬人化、技や個体値の独自解釈、一向に構わん!な方はどうぞ!
目を覚ますと、ベッドの上だった。
「……あぁ、死んでなかったのか」
「第一声がそれなんですか?」
どうやら、俺がいつもいる山小屋ではなかったようだ。それでも見覚えがある。
「アララギ博士」
「ハーイ! お久しぶりね」
そう、ここはアララギ博士の研究所だ。そこにアヤと自分の三人がいる。
「事情はアララギ博士から聞きました。大変だったんですね」
「……おい」
「もう、彼女が出来たなら紹介してくれればよかったのに!」
「色々と言いたい事があるんだが……まぁいいや、どこまで話しましたか?」
そうアララギ博士に尋ねる。そうすると耳打ちで答える。
「君の過去についてはトレーナーの時まで、あの件については偶々見つけたということにしてあるわ。そして、それについてで私と知り合ったってことにしてある」
なるほど、微妙に嘘じゃないな。
「それはありがたいですけど、騙せてないですよ?」
「えっ、そうなの?」
アヤもニコニコしてはいるものの、納得はしていないんだろう。
「言っておくけど、知らない方がいいことだ」
「そう言われて引き下がらないのは、もう知ってるんでしょう?」
「えっ、話すの?」
「すいません、アララギ博士、俺は嘘が苦手なんですよ。今回みたいに下手に嗅ぎまわられるのは困るんです」
それが全ての原因と言う訳ではないが、彼女と接触した事が要因であることは間違いない。
「その代わり、幾つか守って欲しい約束がある」
「なんでしょう?」
アヤが一歩此方に寄ってくる。
「一つは他言無用だ。記事にするのも勿論駄目だ」
「わ、わかってますよ。改めて言わなくても」
「人目につく形にすると危険だって、本当に分かってるな?」
アヤは頷く。
「最後に、何かあったら……あいつらのことを守ってやってくれ」
あやが息をのむのが分かる。それはそうだ、こんな重たい話、聞きたいとは思わないだろう。駄目ならダメでその方がいい。
「……わかりました」
その返答には驚いた。どれだけ本当かは分からないが、それでもそう答えてもらえたのはありがたい。
「どこから話したものか……そうだな、まだ俺がジムリーダーに勝つ前のことから」
当時の俺はまだ弱く、ジムリーダーに挑み破れてしまう。三つめのジムで敗北した時に。
「君はもっとポケモンの事を知った方がいい」
まだ俺はその時15歳で、強いとは言えなかった。3つの街を渡り歩いたことでようやく、自分の力が足りていないことを痛感した。
「とりあえず、色々な街を探索していこう」
ジムリーダーは基本的に一つのタイプに統一している。それを知っていれば対応するポケモンを手に入れれば勝てるのではないか、と考える人も多い。と思いたい。自分がそうだっただけかもしれないが。
「……勝てる訳ないよなぁ」
捕まえただけのポケモンで勝てる程ジムリーダーが弱い訳が無い。ジムリーダーよりも強いポケモンを育てようとなると相応の時間が必要だ。勿論、相性の悪いポケモンで勝とうとするよりかは時間は短いのだろうけど、それを8つのジムで行おうとなると合計幾つのポケモンを育てることになるのか、想像したくも無い。となると多くのタイプに対応出来るパーティと戦術が必要になってくるのだが、今の自分にそれがある訳が無い。
幾度かの街を通ること数カ月、手持ちのポケモンも少しは育った。ポケモンについての知識は少しは増えてきた。
(ジムバッジを一つ手に入れることすら困難だ)
一匹のポケモンを育てるのも時間がかかる。ましてやそれを6匹育てるのも現実的ではないのだ。充分な環境があればまた違うかもしれないけれど。
「……トレーナー、むいてないかもな」
ポケモンバトルや日当のバイトを重ねて、お金は少し溜まっているものの、路銀とポケモンの諸経費で微々たるものになってしまう。
「あ、あの……きみポケモントレーナーだよね?」
怪しげな研究員が話しかけてきた。
「いけっ、コジョフー!」
「あっ、あっ、ちょっと待って!」
早速捕まえたポケモンの強さを見ようと繰り出したのだが、相手はポケモンを繰り出さない。
「バトルしに来た訳じゃないんだ。君はポケモンの卵を見たことがあるかい?」
そりゃあ、噂には聞いたことがあるけれど育てる事に長けた育てやが稀に卵を見つけるらしい。そんな事があったことがあるどころか、生まれるまで育てやに預けることが出来る程のお金も無い、そもそもどんなポケモン同士だと卵をうめるのかも分からないが。
「ボクのメタモンをあげるよ。このメタモンは特殊でね、大体のポケモンと卵を作ることが出来るし、生まれたポケモンはどれも強力だ。放牧が出来る土地は必要だけど、それはどこかの山でも借りれば大丈夫だよ」
「う、う~ん、そんなこと出来るんですか」
眉つばものの話だが、ポケモンの卵が手に入るのならば悪い話ではない。
「ぜ、絶対とは言えないよ。だから、ボクも見返りは求めない。生まれてきた卵とか、育ったポケモンを見せてくれれば、それで良いから」
そう言われると魅力的な提案に聞こえてくる。それに、自分も今いるポケモンを育てていいのかという疑問もあった。
「わかりました、どこまで出来るかは分かりませんがやってみます」
とはいえ、土地探しからしなければいけないのが厳しい。
「えっ、いいんですか?」
「うん、荒れている土地だからね。誰かに整備して欲しかったんだけど、育ててるポケモンだったら荒らしたりはしないでしょ。それにお金を出すことは出来ないけど、無償で貸すくらいならいいよ」
なんというか、近くの山で交渉してみると案外簡単に借りることができたのだ。それから日々土地の整備と日当のバイト、試しにポケモンを放牧しつつ、数を増やしていった。メタモンと合わせてコジョフー二匹を放牧すること2週間、初めての卵を見つけることが出来た。
「……うそだろ?」
あまりにもトントン拍子に話が進んでいるように思えるが、実際はこんなものなのかもしれない。そもそも、ポケモンを何匹か同時に放牧する場面を見ることが少ないし、卵に気付く前に生まれているということも有り得る。兎にも角にも初めての体験に心が躍る。ポケモンと共に日当のバイトをしながら、卵を温める。何日か後に、ひびが入りコジョフーが生まれる。
「ふー」
幼い命がその腕の中で生まれる、その感覚に感動を覚えた。その瞬間だけは、バトルとか、ジムバッヂとか、様々なことを忘れてコジョフーを抱きしめた。
最初のコジョフーが生まれてから数カ月、十何匹目のコジョフーを孵化させたところだ。同時に訓練をさせると能力の違いが見えてくる。能力が育ちやすい性格もある程度把握できた、感覚的なもので難しいが、それを知ることが出来たのは大きいだろう。
「こいつも……だな」
確かにこのメタモンが作る卵から生まれるポケモンは強力なのだろう。草むらから出てくる比較的弱いポケモンに対してはかなり優位に立てるが、それでは意味が無い。闘ったポケモンの種類によって、伸びる能力が変わるのも合わさって、選別をすることが重要だ。合計6匹を育てることを考えれば、最初の妥協は好ましくない。
何匹かと数えるのを辞めてどれくらい経っただろうか、研究員が現れて尋ねる。
「……こんなに卵が生まれるなんて、凄いですね。一つ相談なんですが、このコジョフー何匹か買い取らせてもらっても良いですか?」
流石に増えすぎて管理しきることが出来なくなってきた頃合いだ。預けることこそ出来るが、個人で預けられる量には限界がある。
「渡すのを選ばせてもらえるなら、構いませんよ」
「わかりました。ただ、孵化したポケモンでお願いしますよ」
何匹かを選ぶと、それなりの金額を渡された。正直に言ってしまうと日当のバイトよりも数倍の金額だ。これは正直ありがたい。
「……そう言う手もあるのか」
闘った事があるポケモン、その中で魅力的だと感じたけれど、厳選と捕獲しに行く手間は好ましくない。
「ねぇ、このコジョフー、欲しくない?」
ジムがあるわけでもないこの町は、然程人の出入りは多くないが、それでもトレーナーは多い。その中でもメタモンから生まれたコジョフーの潜在能力に気付いてくれるトレーナーや珍しさに惹かれたトレーナーに交換を乞う。5回に1回くらいの割合で応じてくれるが、その全てが欲しいポケモンだった訳ではない。だが、個体値の選別はこちらでするし、増やしてしまえば交換の幅も広がる。願ったりかなったりだ。
「イーブイと交換だね、ありがとう」
そうやって自分で苦労して捕獲するのではなく、交換によって様々な種類のポケモンを手に入れる事が出来た。その頃から、コジョフーだけではなく、他のポケモンの孵化もさせるようになった。
そこで一息入れる。
「……あんまり聞いていて、気持ちの良い話ではないですね」
知っている、ポケモンに対する愛情は、その時の俺にはなかった。ただの道具であり、生活の糧としてしか見ていなかった。
「でも今は違うわ、そうでしょ?」
アララギ博士がフォローを入れてくれる。
「そうだと、いいんですけどね」
一度失敗したら、信用されなくなる。他人の評価もそうだが、自分に対しても、だ。
「ちなみに、その時に貰ったのが6Vメタモンで良いんですね」
「そうだよ、研究員がそう言っていた」
「6Vってなんですか?」
質問を待っていたかのように研究員は答える。
「おお、そこに気がつくとは流石だね! いいかい、仮にではあるけれど、ポケモンの能力を体力(HP)、攻撃力(ATTACK)、防御力(Block)、特殊攻撃力(Contact)、特殊防御力(Diffence)、すばやさ(SPEED)の6つのステータスがあると仮定しているんだ」
「は、はぁ、それが6なんですね」
「その通り! そして、気になるVなんだけどね、僕達は現状、共通して上下32段階あることが確認出来ているんだ。これは遺伝的なもので生まれてから一生変わらない。0をAとして順番に数えていくと、31がVになる、つまり、君に渡したメタモンは同じメタモンの中では最高の能力をもつってことなのさ!」
そのメタモンの資質を受け継げば、必然的に高い能力のポケモンが生まれる事になる、そういう論法だ。そして、それは自分も理解している。同じポケモンを孵化させて比べることで、限界が見えてくるのだ。低いところではバラツキが出てくるが、高い部分では同じ個体がいくつか見られる、それがメタモンの資質を受け継いだポケモンなのだろう。
「最強のポケモンも、夢じゃない?」
勿論、野生のポケモンも例外ではない。偶発的に生まれたポケモンが6Vである可能性だってある、というか、ジムリーダーや四天王に選ばれるようなポケモンはそれに近いのだろう。
そして、運命の日とも言える日がやってきた。いつもと同じように、コジョフーを孵化させた時、卵から生まれた瞬間に気付いた。
(こいつは違う)
体の大きさであったり、瞬間の仕草、腕や足の形、骨格その微妙な差が彼女が特別であることを雄弁に語っていた。それに気付いた瞬間に、コジョフーを抱きしめていた。強く、力いっぱい。
「ふ、ふ~?」
「これからよろしく頼む、コジョ」
安易な名前だったが、孵化作業をして初めて名前をつけたパートナーだった。
それから、何匹ものポケモンを山に放流した。孵化してすぐのポケモンは野生に帰るのも早いだろうし、ボールに閉じ込めるよりかはいいと考えたからだ。ボールの費用や餌代のキャパシティを超えたというのも理由の一つだが、その時は然程悪いとは考えていなかった。
「最近、この山の様子が変わったわね」
「野生のポケモンの種類が増えてきたのよ、それでトレーナーさんの出入りも多くなったから、別に良いんだけど」
旅人が多いことは、その村にとってプラスの効果だった。買い物をしたり、宿をとったり、活性化の一因ともなった。実名こそださなかったものの、ポケモンを放牧して育てている自分のことも噂程度には広まっていった。育てやの真似事をしている内に、目当てのポケモンの同時育成もある程度出来るようになり、整地についても地主さんに認められたので、期間と範囲を区切って場所も増やしてもらえた。
「そろそろ……かな」
危うく忘れかけていた当初の目的を果たす為に、その街を離れようと考えていた。育成が完璧とは言い難いが、それでも旅をする分には充分育った。タイプの偏りも解消出来たし、対ジムリーダーに関してもそう悪い結果には終わらないだろう。研究員と地主さんに挨拶をして、その村を出ていくことにした。
「ハーイ! 貴方が噂の育てやさんね!」
「……間違っては無いとは思いますが、育てやじゃないですよ」
育てているのは自分のポケモンだけだ、他人のを預かったことは一度もない。
「あ、そうなの? いや、トレーナーだったのね。色々と話を聞かせてもらえると嬉しいんだけど」
「あなたは?」
「私はアララギ博士。あまり有名じゃないかもだけど、ポケモンの研究者よ」
それが、自分とアララギ博士の出会いだった。話していく内に打ち解けていき、卵の事も話す事ができた。
「それじゃ、これが私の連絡先。何かあったら教えてね」
自分が旅に出るのを邪魔するのは悪いと言って、別れてしまった。それから偶に連絡する程度には仲が良くなっていた。
ジムリーダーの最後のポケモンを倒す。
「驚いたな……君とポケモンの絆にあっぱれ!」
卵から育てた甲斐があって、懐き度も良い。どんなに経験を積んでも、信頼関係が崩れることはなかった。旅を始めてから3年、ジムバッヂ集めが始まった。幾つものバトルを経験し、ポケモンが進化し、更に戦力も高まった。
アララギ博士の表情が曇る。彼女は知っているのだ、その後どうなったのかを。
「……何が起こったんですか、最後の、大会の日に」
あやも半ば予測しているのだろう。何が起こったのか、いや、ここまできけば分かるだろう。ジムバッヂを8個集め、志半ばでポケモンリーグを諦めた訳が。
賞金や道具をかけた大会の決勝前日。大会はジムバッヂ等とは無縁だが、それでも腕に覚えがあるトレーナー達と闘うことは、ポケモンにもいい刺激になる。
「コジョ?」
コジョンドに進化したコジョは、体調がおかしかった。単純に調子が悪いのではなく、進化の前の様な違和感だった。だが、コジョンドの先の進化は見た事がないと、アララギ博士にも確認している。バトルに影響が出る様なものでもなかったので、放っておいたが、心配なことには変わりない。
「どうしたんだ?」
うずくまって、動かなくなってしまったコジョンド。様子がおかしい、普段では有り得ない光景だ。何故ならば、その光景を自分は知っていたのだ。だが、有り得ない。知っているからこそ、有り得ないのだ。
「コ、コジョ……」
か細い鳴き声と共に、体に変化が現れる。変化していく肉付き、骨格、まるで人の様に変化していく。
『……あ、あぁあ』
上手く発声出来ていないようだ。それはそうだ、今まで喉の形とは違う、人間のそれに近くなってしまっているのだから。
「……6Vメタモン」
そう、それはへんしんの瞬間だった。だが、コジョンドがへんしんを覚えることはない。特定のポケモンしか覚える事の出来ない技のはずだった。それに、中途半端な変身で人間でもコジョンドでもない姿になってしまった。その時俺は直感的に気付いた。他のポケモンにもその危険性があること、そして、彼女達を世に出してはいけないこと。そこからアララギ博士に連絡をとって、保護してもらうことと何か異常があるかを調べてもらうことにした。
「大変だったのよ、いきなり連絡してきた、助けてくれ、だもの」
「悪かった……でも、貴女が居てくれて本当に助かったよ」
「お互いさまよ、私もこんな例をみたのは初めてだったし……それに、こういった時に頼りにされるのは、悪くないものよ」
なんとなく、二人の関係が深いものに見えて苛つく。こんな年増よりも、私の方が可愛いのに。
「それで、擬人化の理由は分かったの?」
「恐らくメタモンの技を引き継いだ、としか言えないんだ。調べた結果としては、体細胞なんかはポケモン、コジョンドのそれとほぼ同じと判断された。その代わり、個体値としては……絶望的な数字がでた」
「……え?」
私が知る限り、ポケモン相手にも引けを取らないどころか、どのポケモンよりも強かったのだが。
「全てのステータスが軒並み下がっていたの。人間の体をしている以上、そこが彼女の限界なんでしょうね。様々なポケモンバトルで培った経験があるから、並のポケモンでは歯が立たないけれど」
思う節があるのだろう、少し溜めてシンが言う。
「ポケモンリーグを目指す事は、出来なくなった」
「コジョを……助けてくれ!」
アララギ博士の元に辿り着いたのは、土砂降りの雨の日だった。彼女が入ったモンスターボールをアララギ博士に直接渡す。この手続きをとるだけでも、数時間掛かった。それはそうだ、場末とはいえ研究職にアポイント無で会う事が簡単に出来るはずが無い。むしろ、研究所に居た事自体が幸運だったとすら言える。
「とにかく、中へ」
普段のおっとりした雰囲気とは違い、きびきびとした指示と、封鎖令をだす。人目につかない研究室の一つと、ベッドの置いてある休憩室を一つを用意された。
「……あなたはここで、結果が出れば伝えるわ」
出来るならば彼女について居たかった。何故こんな事になったのか、意の一番に知りたかった。だが、
「……お願いします」
それと同時に、彼女の隣にいることが怖かった。
彼女から離れて、何時間がたったのだろう。ポケナビを確認すれば時間の確認が出来るのだろうけど、来た時間など把握していなかったからどちらにしろどれだけの時間が経ったのかは分からない。
「……来た時は暗かった、気がする」
そもそも、実験結果が出るまで何時間かかるのか、いや、何日と掛かるのかもしれない。そう思った時に、ドアがノックされる。
「ハーイ! 起きてたのね、丁度良かったわ、朝食よ」
「……コジョは?」
食欲なんてなかった。口に物を入れるだけの気力等ない。
「健康状態に異常はないわ。それを見る限り何かのウイルスや毒の可能性は少ないと思うの。内的要因となってくると、血液検査の結果待ちになってくるけど」
「それはどれくらい?」
「結果自体は今日にも、遺伝子配列の結果はシークエンサの稼働待ちだから1ヶ月位先になるかな」
「そう……ですか」
「とにかく、君が体調を崩してしまったら、コジョンドちゃんも心配するんだから、ちゃんとご飯を食べておくのよ?」
扉からアララギ博士が出ていく。彼女が俺の心配をするだろうか。
「俺の所為で、コジョは全てを失ったのに?」
結局、俺の為に動いただけで、コジョからは与えてもらうばかりで、何も与えられなかったのに。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか、日付だけを見れば約三日、そのはずだ。
「長い」
どれだけの時間、こうしていたんだろう。当たり前の答えが出ている問を何度も繰り返す。彼女が元に戻って欲しいと、最初の一日は考えていた。少し冷静さを取り戻すと、次の事を考えた。彼女が戻ってきた後の事、もしも姿が戻らなかったら、或いは簡単に姿が戻ってしまったら。どちらにしても、元の日々には戻れないだろう。いつまた変化が訪れるかもしれない恐怖に立ち向かうことは出来ない。
「いや、俺はポケモントレーナーとして、間違えていたんだ」
15歳のあの日、あの時、怪しい研究員からメタモンを受け取ったあの瞬間に、トレーナーとしていることを間違えたのだ。それなら俺は、もう彼女に会わない方がいいのかもしれない。だけど、二度と会えないと思うと、足が動かない。どれだけ身勝手なのかと自分に絶望したくなる。
ガチャリ
「ハーイ! ご飯食べてる、シン君?」
アララギ博士はまだ手もつけていない食器を見て愕然とする。
「食べてもまた、戻すだけだ」
確か二日目の昼ごろに無理に食べさせられたのだが、胃か喉か、おそらくはストレスによって受けつけられなかった。結局水と栄養価の高いゼリーのようなものしか取っていない。
「はぁ、そんなんだったらいつまでたっても元気になれないよ?」
「俺は、別に、どうでもいいから」
俺の健康状態を見直す為にここに来た訳ではないのだから。
「でもでも、そんなシン君にとっておきのお薬を持ってきました」
じゃーんと両手を広げて誰かをこの部屋に迎え入れる。そうして入ってきたのはチャイナ風のドレスと、コジョンドらしい長袖を纏ったコジョの姿だった。
「やっぱり女の子なら可愛いほうがっ……」
「っざけてんのか、テメェ!」
首根っこを掴み、壁に押し付ける。そのまま捻り切ってしまおうかと思ったが、幸いにも連日の不摂生の為に腕力も体力も落ちているみたいだ。
ゴホッゴホッ
力を入れ続けられない、だが、多少の痛みなど知るか、彼女を馬鹿にしたつもりならば、それ相応の報いを、受けてもらう。拳を振り上げると何者かに腕を掴まれる。
「ま、って……だめ」
その場にいたのはコジョだけなのだから、当たり前のことだったのに、時間が止まった様に感じた。そう思える程に驚いた。言葉を紡げる事も、彼女がアララギ博士をかばうことも、何もかもに。
「……げほっ、少しは、落ちついた?」
流石にやりすぎたのか、喋るのも苦しそうだ。
「な……にがっ!?」
落ち付いたも何も、怒らせているのはお前の方じゃないか。
「シ、ン」
たどたどしく言葉を紡ぐ彼女に、不満の様子はない。どちらかというと、怯えや、不安そんな感情が見えてくる。
(何だ、なんでコジョが怯えているんだ? こんな事になってるのに、そんな)
「分からない? 貴方の心配をしてるのよ」
「……で、この衣装作ってた訳か」
検査自体は一日でほとんどが終わっていたらしい。あとは検診に使うのと、肉体の特徴、用は採寸を行っていた程度で、そのタイミングで、
「こんなに可愛いんだから、服を着よう!」
というアララギ博士の提案で次の日のまる一日使って衣装を用意していたらしい。
「可愛いでしょ!」
「そう言う問題じゃねぇよ!」
横で困ったように椅子に座っているコジョ。衣服に慣れていないようで、ちょくちょく触っている。
「……」
「いやぁ、採寸の時も大人しいというか、慣れてない様子が可愛らしくって」
アララギ博士の表情がものすごく輝いていた。こういう趣味があったのか。
「これから、どうしたらいいかな?」
少し落ち着いたら、考えていたこと話す。こうなってしまった以上、トレーナーとして続ける気はない、今まで連れ添ったポケモン以外と旅を続ける気もない。何より、身の振り方を考えなければ、コジョ達を不幸にしてしまうかもしれない。
「私に良い考えがあるよ」
訪れたのは、とある山の麓。自分がメタモンとコジョ達を育てた、あの場所だ。
「やぁ、最近この付近に強いポケモンが住み着くようになってね、君が管理してくれるなら心強い」
あの時の山の持ち主が、また自分を頼っている。そもそも、この付近に強いポケモンが住み着くようになったのは。
「知っているよ。トレーナーがこの付近にポケモンを逃がす事が多かったからだろう? 町の皆も見てるから、知らない人はいないよ」
その一端を自分がになっているということも、分かっているのなら、何故。
「君ならちゃんとやってくれるさ、前もそうだったじゃないか」
「……ありがとうございます」
悔しくて、嬉しくて、涙が出そうだった。
読了ありがとうございました。
そろそろ、ワードの文字数がおかしい事になって来た(困惑
「逃がしたポケモンって、野生になるんかな」
ロコンの厳選をしている時に、ボックスから逃がしまくって整理しまくってる時に思いました。
4V、5Vのポケモンがわらわらと草むらから出てくる姿や、そいつらが野生で成長するのを想像したら、環境破壊でしかないなぁ、と寝惚けた事を考えていました。
もうちょっとだけ続くので、お付き合いいただければ幸いです。