カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
デビラスキング――カラスさんには逃げられてしまったものの。
結果として、イベントの治安を守ることができた。
まぁあの様子だと、カラスさんにイベントを荒らすつもりはなさそうだけど。
それなら、別にこれ以上カラスさんを追いかける必要はあるまい。
そんな判断の元、エレアが招集していた休憩中だった闇札機関のエージェント達は帰っていった。
そうして再びコスプレブースの巡回に戻ると――俺達はどこか見覚えのある仮装を見かける。
「むむむ、店長アレって――」
「<
<探偵ショルメ>。
ヤトちゃんが操る「蒸気騎士団」デッキのモンスター。
役割は一言でいうと初動札。
このカードがあるとないとじゃ、デッキの回しやすさが全く違う。
「帝国」デッキで言うところの<エクレルール>だ。
んで、そんな<探偵ショルメ>の仮装をしている人物がいる。
<ショルメ>は性別不詳で金の短髪、顔がいい。
王子様系美少女か、線の細いイケメンか。
まぁ、どちらにせよヤトちゃんがサモンするとこれがまた絵になるのだ。
「私の予測だと、多分女性です」
「そうなのか」
「でも確定はしません、そのほうが美味しいから」
そ、そうか。
ともあれ、<ショルメ>は一般に知られていないモンスターだ。
何せ推定異世界のモンスターだからな。
そんな<ショルメ>がここにいるということは――
「声をかけてみましょう」
「そうだな」
そう言って、近づく。
ショルメの方もこっちに気づいたのか、俺達の方に振り向いて微笑を浮かべた。
「おや、これは――店長にエレアじゃないか」
「おお……」
「いや、ここはお初にお目にかかる……といったほうがいいかな?」
普段より少し低めの声でショルメが語りかけてくる。
そうして、穏やかな笑みを浮かべたまま、紳士的な一礼。
何とも堂に入った姿である。
「<探偵ショルメ>だ、以後お見知りおきを」
「よ、よろしくおねがいしますー」
「よろしく。それにしても――」
俺は、<ショルメ>の仮装をもう一度眺めて。
「本当にそっくりだな――ヤトちゃん」
「ん、んん。……そう言ってくれると嬉しいわね」
仮装の主である店の常連、ヤトちゃんに対して呼びかけた。
この世界で<ショルメ>に仮装する人間は、おそらくヤトちゃん以外にいないだろう。
余りにも完璧な仮装だ、声まで調整してくるなんて。
「ヤトちゃん、声真似までできたんですか?」
「そもそもショルメの声を、エレアは聞いてないわよね?」
「そういえばそうでした! 私の脳内CVと一致していたもので!」
オタク特有の脳内CVが完全一致していたらしいエレア。
嬉しそうに、ヤトちゃん仮装のショルメを眺めている。
「今は休憩中か?」
「まぁ、そんなところね。せっかくコスプレブースがあるんだもの、私もコスプレしてみたいじゃない?」
「にしても――」
言いながらコスプレショルメを見せびらかすヤトちゃんに、エレアは興味深そうに近寄る。
その視線は、ショルメの衣装に向いていた。
「……これ、自作ですか? すごいですねぇ、ほんと良くできてますよ」
「え? ええそうね。頑張って用意したのよ」
「エクスチェンジスーツは、触った時の質感が服と違いますし、近くで見ると服じゃないってわかりますしね」
ふーむ、と腕組みしながらよくできている仮装に満足げなエレア。
「でも、用意してるなら言ってくれればよかったのに……私、これでも服飾にはそこそこ自信があるんですよ」
「エレアにサプライズしたかったのよ」
そういえば、エレアの服飾に関する技能はかなりガチだ。
あのレンさんが、わざわざ衣装のデザインを相談するくらいだからな。
レンさん自身に服飾技能はないが、レンさんは優秀な経営者である。
そんなレンさんが認めた、自分の店で使いたいと思わせるエレアの技術。
まさに本物と言わざるを得ないだろう。
そんなエレアからして、今のヤトちゃんの衣装はよくできているらしい。
「実際、カードの中から飛び出してきたみたいだものな」
「そう言ってくれると嬉しいわ、店長」
ふふ、と笑みを浮かべるヤトちゃんはどこかいつも以上に大人っぽい。
ショルメを意識しているのだろうか。
「カードの中と言えば、<蒸気騎士団>の世界ってどんな感じなんですかねぇ」
「パンクの名に恥じない、スチームパンクな世界だろうってのはカードを見ていて解るけどな」
この世界には無数のカードシリーズがあって、それぞれにバックグラウンドを持つ。
それをカードから読み取ることが可能だ。
エレアの「帝国」デッキはそれが顕著で、カウンターエフェクトのカードイラストなどから帝国の生活を垣間見ることができた。
特に<帝国革命>カードは、こっちに来たエレアが向こうの様子を知る貴重な手がかりだ。
「蒸気騎士団」はその名の通り、近代の英国を舞台にしたスチームパンクモチーフの世界観だ。
異世界のカードが、この世界の英国をモチーフにしているのはどういうことかと思うかもしれないが、この世界ではよくあることである。
一体この世界に、何枚ギリシャ神話モチーフのカードがあると思ってるんだ。
「そうね……蒸気騎士団の世界は、民衆を苦しめる悪党を、蒸気騎士団が成敗する感じの世界観ね」
「なんか、名前に反して義賊っぽい雰囲気のカードが多いですよね、蒸気騎士団。表舞台でも活躍してそうなの、それこそ<ショルメ>くらいじゃないですか?」
カウンターエフェクトのイラストを見た感じ、蒸気騎士団は英国版時代劇みたいな世界観だ。
表立っては裁けぬ悪や、偉い人の眼をかいくぐろうとする悪を成敗する感じの。
「正体を隠した王族系のモンスターもいるだろ、<リチャード>のパイロットとか」
「何にしても、賑やかそうですね」
見ていて楽しそうな世界である。
まぁ、虐げられてる人たちからしたらたまったものじゃないだろうが。
「帝国」の世界よりは百倍マシである。
「この世界も、大概愉快な世界だと思うけどね」
「まぁ……そうだな」
ハクさんとか、ハクさんとか、イグニッション星人ズとか。
ヤトちゃんが言うと説得力が違うな。
「わかりますよぉ、この世界ってすごいですよね。面白いアニメがシーズンごとに放映されてるんですもの」
「それはなんか違う気がするな……」
アニメは別に、異世界でも放映できるだろ!?
少なくとも俺の前世でも放映してたぞ!
この世界と若干内容が違う感じの奴!
「何にしても、この世界の人達はとても楽しそうだわ。いつも、ファイトに情熱を燃やして楽しんでる」
「そりゃそうだろ、ファイトは面白いものなんだから」
たとえそれが命を賭けたファイトだったとしても。
燃えてくるのが、この世界のファイターだ。
なぜならファイトは面白いから。
常にエキサイティングな、最高のエンターテイメントだから。
「環境によっては、ファイトを楽しめないこともあるかもしれない。でも、俺はそんな環境だからこそファイトは楽しんでほしいって思うよ」
「……どうして?」
「ファイトの中で、得るものがあると気づいてほしいからだ」
たとえ、それが命を賭けたファイトでも。
「帝国」世界のように、負ければ自分のすべてが相手のものになってしまう世界だとしても。
ファイトの中で、得るものは必ずある。
その事を、どんな世界のファイターにも気づいてほしいからだ。
「何かを得たという気付きこそ、ファイトを楽しくする原動力だ。何も得られないファイトほど、虚しいものはない」
「本当に、全てのファイトに得るものはあるのかしら」
「わからない。ないかもしれないし、あるかもしれない。でも、探そうとする行為に意味があるし……探そうとすることこそが、楽しみなんだ」
この世界の人々は、その事をよくわかってる。
そうでなければ、彼らは世界を守り、楽しいファイトを守ろうとはしてこなかっただろう。
そうした積み重ねが、この世界を作ってこなかっただろう。
「俺達のようなファイトを楽しめるファイターがこの世界にあふれるに至るまでの、多くの道のりが、この世界を築いてる」
「……なるほどね」
「あえて大げさな言い方をすれば――」
その言葉に、エレアとヤトちゃんが視線を向ける。
「俺がいるから、この世界のファイターは楽しそうなんだ」
正確には、俺のようなファイターがいるから、だけど。
流石に大げさすぎたな。
いや本当に何を言ってるんだ?
まぁ、ともかく。
「そういうことなら、それもいいだろうね。うん、とてもよくわかった」
「……ヤトちゃん?」
「それじゃあ、
ヤトちゃんとしての雑談を終えたからだろうか。
はたまた、他にも理由があるのか。
再びヤトちゃんは<ショルメ>として声を低くして言った。
どうやら、もう行ってしまうようだ。
そろそろ休憩も終わりなんだろう。
「――――――」
「……何かいいました? ヤトちゃん」
「ああ、いやなんでもないよ。それじゃあね」
そう言って、ヤトちゃんはその場を離れていった。
あとに残される俺達二人。
「……店長、今のヤトちゃんのことば、聞いてました?」
「ああ、まぁな」
小声で、ぽつりとこぼした言葉だったが。
確かにその言葉は俺の耳に届いていた。
偵察兵であるエレアは言わずもがな。
「途中から……というか、コスプレ衣装が余りにも精巧だった時から違和感はありましたが」
「……ああ」
「あの人って、もしかして――」
彼女、もしくは彼はこう言っていた。
「――あの子がたどり着いた世界が、ここでよかった」
……と。
俺はスマホを取り出して、レンさんに連絡しようか少し迷う。
レンさんなら、今ヤトちゃんが何をしているか把握しているはずだ。
だが……やめた。
野暮なことだからな。
コスプレブースに入る直前、俺はエレアとブースに本物のモンスターが何人いるかという話をしたが。
もしかしたら、あの<ショルメ>は――
『いや、ここはお初にお目にかかる……といったほうがいいかな?』
そんな、ショルメさんの挨拶を想起しつつ、俺はショルメさんの正体に思いを馳せるのだった。
一応ヤトちゃんのお話も進んでいたりいなかったり。