カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
普段使用している待機画面が切り替わり、エレアが画面に映る。
エレア自身もそれを確認して、少し呼吸を整えてから挨拶をした。
「はい、というわけでこんばんわー、カードショップ”デュエリスト”の美少女店員、エレアです。今日もよろしくお願いしますー」
『よろしくー』
『こんばんわー』
勢いよくコメント欄が挨拶で埋まっていく。
時折『ご祝儀』だの、『イベント乙』だのスパチャが流れるが、比較的数は少ない。
フライングのようなものだ。
「ここ最近はイベントの準備もあって雑談配信とか全然してませんでしたからね……前回からえーと、一ヶ月ぶりくらいの雑談配信です。配信自体も結構ご無沙汰ですね」
『ずっと待ってた』
『待ちすぎて悪堕ちした』
「悪堕ちはシャレにならないからやめてくださーい、強いて言うならこの配信で浄化されてくださーい」
一日に車が事故を起こす件数より、一日に闇堕ちが発生する件数の方が多いと言われる世界だ。
闇堕ちは割と日常的に起こり得る事件である、気をつけなくてはならない。
「色々と話題は尽きないのですが、まずはタイトル通りモンスターランドカーニバルの話からしていきましょうか」
『店長と付き合ったって報告の方が先では?』
「モンスターランドカーニバルの! 話から! していきましょうか!」
コメント欄が怪しくなったのを見て取って、強引に話題を切り替えるエレア。
このあたりは手慣れたもので、エレアが芸人気質なのもあって話題は速やかに切り替わる。
コメントのノリがいいのだ。
調教されているとも言う。
「私としては、イベントがまず無事に終わってくれて何より……というのが大きいですね。幸いにもイベント会場に現れたダークファイターも一人だけでしたし」
『いたのか……』
『その割には、何も起きなかったけど』
「比較的無害なダークファイターでしたので……」
なお、例の”陰”は数に含まれていない。
会場に出たわけじゃないのだから当然だが、相変わらず不憫だ。
「イヤほんと、ずーっと不安だったんですよ。もし失敗したら……って、イベント開催を手伝ってくださった方たちの期待とかも背負ってましたし。本当に、無事終わってよかったです」
『お疲れ様』
『ゆっくり休めた?』
「えへへ、実は休日に店長と遊園地に行って、めっちゃ補給してきました。何にしても、イベントはすーっごくたのしかったで……うわあああああああスパチャが!?」
うっかり。
エレアは意図せず口をすべらせた。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとまってくださーい! まだイベントの話が……!」
『イベントの話なら最初にするべき話があるでしょ!』
『それを聞きたくて俺達ここに集まってるんだからさ!』
『はよ! 発表はよ!』
ずっとお祝いする瞬間を待ち続けていたと言わんばかりのスパチャラッシュ。
止めようとするたびに加速するそれに、エレアは頭を抱える。
というか、視聴者が全員揃って“あのこと”に話を持っていこうとする。
このまま行くと、あの話が始まるまでスパチャが止まらないだろう。
「く、くうううううう! むあああああああああ!」
『唸ってる』
『かわいい』
「やってやりますよ! ええ、語ってやろうじゃないですかあああ!」
その瞬間、盛り上がりが最高潮に達するコメント欄。
なお、スパチャは話を始めても止まらなかった。
エレアが数瞬躊躇いを見せた後、顔を真赤にした後。
「わ、わ、わ……私、エレアは……」
そこまで口にして、また詰まる。
焦らすじゃあないかと盛り上がる視聴者達。
スパチャは更に加速した。
それを見て、意を決してエレアはそれを口にする。
「私、エレアは……店長こと棚札ミツルさんと、お付き合いすることになりました!」
――その日、エレアのコメント欄は”赤”にそまった。
やべぇ、とエレアが思うも後の祭り。
視聴者達はこの瞬間のためにここへ集まったのだ。
もはや彼らを止められるものはどこにもいない。
『店エレてぇてぇ』
『店エレてぇてぇ!』
『店エレてぇてぇ!!』
『店エレてぇてぇ!!!』
かくしてはじまる店エレてぇてぇの大合唱。
間違いなく、視聴者の心は一つになっていた。
「……はい、そこまで!」
――ピタ。
エレアがタイミングを見計らって放った言葉で、一瞬にしてスパチャが止まった。
調教されすぎている、これがエレアのコメント欄である。
まぁ、いつものことだ。
「と、とにかくですね……ミツルさんと私は、これから二人で同じ道を歩んで……まだ結婚はしてません!」
『はよしろ』
「はよしろじゃないんですよ! とにかく、そういうわけですからね、らぶらぶちゅっちゅなんですよ!」
ラブラブチュッチュて……みたいなコメントが大量に流れる中、エレアは呼吸を整える。
スパチャが落ち着いたことで、ようやく平静を取り戻したのだ。
「くうう、これからはあらゆる煽りに、でも私店長の女なんですよね、って思うことで耐えられるようになるんですね……」
『ちびっ子と付き合うとか店長ロリコンなんじゃ』
「はああああああ!? ギリ百五十あるんですけど!?!?!? これくらいなら小柄で済む部類なんですけど!?」
やいのやいの。
やっとこさ、諸々の緊張を振り払ってエレアは平常運転に戻った。
視聴者たちも、スパチャを送り終えて一段落したのか、すっかり配信は元通りだ。
もともとエレアの配信は、あまりスパチャが入らない配信なのである。
具体的に言うと、店長が出てるときのスパチャ総額にエレア単独配信のスパチャ総額が負けているくらい。
今日のスパチャラッシュで、おそらくその力関係も逆転するだろうが……店長とのお付き合いを報告する内容をエレア単独配信と言っていいのかは諸説ある。
「遊園地デートの話はしないのか? しませんよ? プライベートの話ですし、これは私と店長の宝物なんですう!」
『遊園地で二人に会えました。感激です!』
「あのときの人おおおおおおおおお!?」
遊園地で、店長に話しかけていたファンの女性が配信に混じっていた。
エレアは思わず飛び退いてしまう。
コメント欄は遊園地の件を聞きたがったが、それ以上その視聴者からのコメントはなかった。
「び、ビビらせんじゃないですよ、しゃー!」
威嚇しながら、エレアは再び席につく。
コメント欄が『かわいい』で埋まる中、エレアは話を戻した。
「じゃあえっと、ここから話を色々始めていくんですけど。モンスターランドカーニバルの件はスライドを用意したので、順を追って話していきますね」
『おー』
『888888』
カチカチと、エレアがマウスを操作してスライドを取り出す。
色々と脱線してしまったが、ようやく本題に入れそうだ。
「ええと、多分そこまで必要ないと思いますが、念の為モンスターランドカーニバルがどういったものか、ってところから話をしますね」
ここにいる視聴者は、大半がエレアと店長のお付き合い報告を聞きに来た者だ。
だが、中にはここ最近話題になっているモンスターランドカーニバルそのものへ興味を持ってきた視聴者もいる。
まぁ、大半は序盤の異様な雰囲気で逃げ出したのだが。
そこを乗り越えた者が、こうして精鋭へと鍛えられていくのである。
「……と、まぁこんな感じです。最初の説明は以上ですね。ここからイベントのレポートというか、イベントそのものの感想に入っていきますよ」
『おー』
『待ってました!』
「それで、なんですけど。始める前に一つ言っておくことがあります」
そこでエレアは、すぅ、と息を吸って。
「エキシビションでの店長とのファイトに、告白の意図はありません!」
そう、宣言した。
なお、コメント欄は『え?』で埋められ、結局信じられることは一切なかった。
次回から新章です。
次回のテーマはホビアニ世界で働く人たち。
はたらいてないひともいます