カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
118 ファイト構成作家は恋愛脳 ①
モンスターランドカーニバルが終わってからの俺達の日常には、いくつかの変化があった。
劇的な変化はないものの、明らかに以前とは違う部分がある。
一つは外部からの客が増えたこと。
もともと繁盛している土日がさらに繁盛したり。
平日に店を覗きに来る人が増えたりした。
明らかに、他県からの遠征って感じの人が多いな。
逆に、天火市の人間でたまにうちを訪れていた人たち――闇札機関のロウさんみたいなタイプ――はあまり顔を出さなくなっている。
遠征でやってくる人もしばらくすれば落ち着くだろうから、人が少なくなるまでは様子を見ようということらしい。
んで、もう一つは取材が増えた。
元々、俺は第三回ファイトキングカップで三位だったこともあり、知る人ぞ知るファイターではあった。
それが今回のイベントで多くから注目を集めた結果、話を聞きたい記者とかが増えてるのだ。
ダイアが「いよいよ店長も人々に知られる時が来たか」と感慨深そうにしていた。
それは構わないんだが、取材が来る日は来店を避けてくれると嬉しいぞ、大変なことになるからな。
そして三つ目――これが一番の問題だった。
「うへへ、うへへぇ……」
エレアがバグった。
今も怪しい笑みを浮かべながらオリパを作っている。
正式に俺と付き合うこととなり、嬉しさで情緒がおかしくなっているのだ。
俺はといえば、正式に恋人になったくらいで俺達の関係が大きく変わるわけではないことは理解っている。
不意に手とかぶつかった時にドギマギするくらいで……
「この色ボケどもがー!」
ぐああ。
レンさんがハリセンを持ち出して、俺達をスパンスパンと叩いてくる。
まぁ俺の方は私生活に支障をきたしてはいないのだが。
エレアの方はやばい。
店員としての仕事は問題ない。
それ以外の部分がモロに影響を受けていた。
主に配信とか。
例のステージで正体を明かしたときのアレで、ファンからも付き合い始めたと思われている俺達。
それで配信頻度が下がったとなれば、良からぬ想像をするファンも出てくるだろう。
……まだしてないから、まだ!
ともあれ、コレではいけないと思っている今日このごろ。
増えている取材の中に、少しおもしろい依頼があった。
これは……ちょうどいい機会になるかもしれない。
そう思って、俺はその依頼を受けることにしたのである。
当然エレアも同席だ。
□□□□□
「と、いうわけでー、今日はよろしくお願いします。私ー、ファイト構成作家の小中井ツムグともうしますー」
「デュエリスト店長の棚札ミツルだ、よろしく」
「エレアです、よろしくお願いします。えへへ……」
その日、俺達はある依頼を受けてバックヤードで話をしていた。
俺達が受けた依頼は、簡単に言うとこうだ。
『映画の脚本のモチーフにしたいから、取材させてほしい』
前世の感覚でいうとなんざそりゃ、と思うかもしれないが。
この世界ではよくあることだ。
なにせ、日頃から世界の危機が頻発する世界。
一から物語を考えるより、モチーフを元に色々こねくり回した方が楽に決まってる。
とはいえ、あくまでモチーフはモチーフだ。
だいたいは原型もないくらい魔改造されるのが常である。
オタクとしてそれはどうなのと思わなくもないけど、ナマモノはプライバシーの配慮も必要である。
この世界ならその方が無難だな、というのが実際のところ。
「いやぁ、お聞きしましたよー。エレアさんは異世界からやってきたモンスターだったと」
「え、えっと、そうなんですよぉ。それでずっと店長のところでお世話になってるんですけど」
「先日お付き合いしたと」
「えへへへへぇ、どぅえへへ……」
落ち着けエレア! 笑い方がやばいから!
取材に来た人がちょっと引いてるから!
「それでえっと、小中井さん」
「はいー、今日はよろしくお願いします」
「構成作家の人が取材にくるのは、少し意外だったよ」
小中井ツムグさん。
黒髪に銀のメッシュが入ったストレートロング。
デカ目の眼鏡と、ちょっとフリル多めのエレアと趣味が合いそうな服装の女性だ。
俺と同年代か少し下くらいの女性で、ファイト構成作家をしている。
ファイト構成作家とは、作劇の中で行われるイグニッションファイトの展開だけを専門に考える作家のことだ。
前世でもカードゲーム系作品にはそういう役割の人がいたけれど。
この世界では絶対にその役割が必須である。
なにせ、恋愛ものにすらファイトが挟まる世界だからな。
「いやぁ、脚本の人も監督の人も忙しくて、私しか予定空いてる人間がいなかったんですよー」
「そりゃまた大変だな……ファイト構成作家だって忙しいだろうに」
「やまぁ、私はまだまだ中堅どころですからねー。そんなもんですよ」
確かに俺も小中井さんの名前を聞いたことはないけれど。
そもそも、ファイト構成作家は脚本や監督と比べて名前の出にくいポジションだから仕方ない。
「あ、でも私、小中井さんの作品見たことあります! いいですよね、『ラブコメはイグニッションと共に』!」
「え? 見ててくれたんですかー? でも恥ずかしいなぁ、私の初担当作品ですよそれー」
「他にも『ロマンティクス・ボルケーノ』とか、『愛・イグニス』とかも好きです!」
正気に戻ったエレアが、小中井さんの作品を挙げていく。
流石はディープなオタクといったところか。
とはいえ、なんかタイトル聞いてる限りだとどれも恋愛作品が得意そうな感じだ。
「そうなんですよ店長! 小中井さんはファイトの中の繊細な恋愛感情をカードで表現するのが得意なんです!」
「へぇ、そりゃあすごい」
「やははー、照れますねー」
ファイト構成作家の仕事は大変だ。
脚本の展開に合わせて、いい感じのカードをプレイさせる必要がある。
それでいてファイトそのものはドラマチックに、劇的でならなきゃいけないわけだ。
脚本書きながら、いい感じのファイトを考えるなんて土台無理な話。
ファイト構成作家が専門の職業として認識されるのは、この世界ならではだよな。
「いやでも、ほんと。そんなすごいもんじゃないんですよー、私なんて」
「えー、絶対そんなことないですって!」
そういう小中井さんは、なんというか自己評価が低そうな感じだ。
俺の経験上、何かしらコンプレックスを抱えているのは間違いない。
とはいえ、当てずっぽうでコンプレックスの中身を指摘しても当たるかどうかは半々ってところだからな。
話を聞いて、必要であれば口を挟む程度で十分だ。
こういう時に、ずけずけと相手の内に入っていくのは失礼だと思うかもしれない。
でも俺の場合、それで他人の問題を解決したり後押ししてきた実績がありすぎて、むしろ入っていかないほうが失礼だと周りから思われてるんだよな。
まぁ、初対面の相手にはやらないけどさ。
「それで、たしか今回の話って本格的なバトルモノって聞いたんだが」
「はいー。すでに聞いてる話だと、店長さんとエレアさんはその帝国っていう場所に乗り込んだりはしてないそうですけど。映画の中では思いっきり乗り込んで事件を解決しようかなって感じなんですー」
まぁ、アレンジとしては妥当だな。
そもそも俺が例外なだけで、むしろ巻き込まれるなり乗り込むなりして、異世界の問題を解決して帰ってくるのがこの世界の普通だ。
どういう普通だよ。
「というか、だからこそ本来なら映画だと直接乗り込んで問題を解決するっていうのはやりにくいんですけどねー」
「そうなんですか?」
「モチーフにした話からずらしにくいですから」
なので、そういう映画は異世界からやってきたヒロインとの恋愛にフォーカスしたりするらしい。
俺達とは全く逆だな。
映画的にも、本格的なバトルモノは予算がかかる。
現代舞台の恋愛モノの方が、安上がりだし特定層からも受けが良いからな。
「あ、わかりましたよ! そのうえで主人公とヒロインの恋愛の機微は繊細に描きたいんですね! それで小中井さんが起用されたってわけですか」
「そんなところですー。エレアさんと店長さんのあま~い関係を、いー感じにアレンジして、全国にお届けしちゃいますよー」
「おおー、それはすご……い? ……うん?」
おっと、エレアがなにかに気付いたようだ。
「店長と私のあま~い関係が全国にぃ!?!?!?!?!?」
すごい勢いで飛び上がった。
顔を真赤にして、俺と小中井さんから距離を取っている。
「ててて、店長! 謀りましたね!?」
「いやぁ、少しくらい全国のお茶の間から意識されてると思えば、エレアの気も引き締まるかな、と」
俺の狙いはそこにあった。
最近のエレアはいろいろとやばい。
いつもなにもないところで、変なふうに笑ってる。
俺はそこが可愛いと思うんだけど、二十歳の淑女がやっていい顔じゃないと思う。
というわけで、周りから見られているという意識を高めるために今回の取材を受けることにしたのだ。
「いいじゃないですかちょっとくらい悦に入っても! 人生初の恋人なんですよ!」
「うぐっ」
「あまあまイチャイチャな生活を想像してもいいじゃないですか!」
「ぐさっ」
……なんか小中井さんに刺さってない?
ともかく。
恋の病を患ったエレアを正道に引き戻すため、俺達は取材を受けるのだった。
それにしても、あまあまイチャイチャな生活かぁ……
ん? どうしたレンさん、ハリセンを構えてバックヤードまで入ってきて――
スパァン!
この回以降エレアが通常運転に戻るので、その前に色ボケ話を詰め込んでおく必要があったんですね。
そういえば、年間ランキングで3位になりました。
ありがとうございます。
すごい。