カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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120 ファイト構成作家は恋愛脳 ③

 小中井さんの使用デッキは、「B・M・G(ボーイ・ミーツ・ガール)」という、なんかどっかで聞いたことのある略称のデッキ。

 そのスタイルは単純で、彼女の扱うモンスターにはこんな共通効果がある。

 

「このモンスターをサモンした場合、<B・M・G ◯◯>を手札、デッキ、セメタリーからサモンすることができる」

 

 全てのモンスターに、対応するモンスターがいるのだ。

 言うまでもなく、片方は男性で片方は女性である。

 十代の少年少女が多い。

 んで、それら二体のモンスターが揃うと、対応したエースモンスターをサモンできるのである。

 

 手札に「B・M・G」モンスターが一枚あれば、エースを呼び出すことのできる継続戦闘能力が高いデッキだった。

 シズカさんのアドバイスもあって、こちらも相応に苦戦を強いられるが――

 

「俺は<極大古式聖天使(フルエンシェントノヴァ) エクス・メタトロン>で攻撃! このとき、エフェクトを使用し、フィールドの『聖天使』モンスターの数だけ攻撃力を上げる!」

「はっ……そ、それで<大古式聖天使 デュエリスト・エレア>をわざわざ……! くっ、さすがです、店長さん」

「これでとどめだ!」

 

 なんとか、勝利したのは俺だった。

 いや、マジで激戦だった。

 <エクス・メタトロン>を初見の相手に引きずりだされるとは。

 シズカさんのアドバイス、恐るべし。

 

「くぅ……負けましたー」

「いいファイトだったよ」

 

 ノリは不真面目だったが、ファイト自体はいい内容だった。

 俺のファイトは、割とこうなることが多い。

 たまには、ロウさんの時みたいな真面目なファイトがしたいぞ。

 アレも十二天将のノリが軽いと言えばそうだけど。

 

「それで……話してもらえるか? 小中井さんは何を悩んでるんだ?」

「だから今はコイナカですってばー。ううー」

「もう、そこはぐいっと話しちゃいなさいってば、ツムグ」

「シズカさんは私の味方なんですよねー?」

 

 味方だからこそ、背中を叩いてるのではなかろうか。

 途中から優雅にパフェを食べながらアドバイスし始めてたけど。

 まぁ、糖分はイグニッションファイトでは重要だけどさ。

 

「ええとー……そのー」

「そんなにためらってると、私が話しちゃうから!」

「わわー! わ、わかりました。実はその……私、思ってることがあるんです」

 

 ふむ、と耳を傾けると。

 

 

「……恋愛ものの作品にファイトシーンって、必要なくないですか?」

 

 

 この世界では、トップクラスの爆弾発言が飛び出した。

 ……なるほど。

 

 この世界において、あらゆる創作においてファイトシーンはほぼ必須だ。

 なぜなら、ある方が自然だから。

 現実でも何かと理由をつけてファイトするのである、創作の中でも存在しないのは不自然だ。

 そんなこの世界の常識に、小中井さんは正面から背いていた。

 

 まぁ、前世の記憶がある俺からすると、納得できない話ではない。

 こんな風に喫茶店でファイトができるのもそうだが、それを使っておじさんたちがファイトする光景は、現代的な文明にいながら異世界を感じる光景である。

 しかも遊んでるわけではなく、仕事でやってるというのだから、何とも。

 

 とはいえ、俺の場合はしばらくするとそんな違和感もなんとなく飲み込めるようになってしまった。

 ずっとこの世界で生きてきたからというのもあるだろうけど。

 単純に、俺がファイトを楽しいと思ってるからだな。

 対する小中井さんは――

 

「も、もちろんファイトシーンって大事だと思いますよー? 店長さんの映画みたいに、大迫力のファンタジーファイトは見ていてすごく楽しいですし……でも恋愛モノだと、こう……ねー?」

「……ファイトしない方が、甘酸っぱい雰囲気をだせる気がする?」

「!? そ、そうです! 初めて同意されました!」

 

 まぁ、この世界だと一般的な感覚ではないからな。

 

「ちょっと、私だってツムグのそういう考え方は好きよ?」

「シ、シズカさんのそれは、懐が深すぎるだけっていうかー……店長さんは、私の言いたいことをきちんと理解してくれたんですよー……」

「ツムグあなた、割とおとなしい性格の割にずぶといわよね……」

 

 この世界で小中井さんの意見は、肯定的なものでも一言で言えば「それもありなんじゃない?」がほとんどだ。

 そもそも、普通なら小中井さんの言い方だと理解してもらえない可能性が高い。

 

「と、とにかく! 店長さんの言う通りなんですー! 私、恋愛モノを書きたいんですけど、恋愛モノにファイトシーンっていらないと思ってるんですよー!」

「それは……なんというか、難儀だよな」

「そのせいで、ツムグの小説って出来はすごくいいのに、知名度がないのよね」

 

 なんというか……惜しい話だ。

 自信を持って自作を面白いと思ってるのに人気がでないことほど、創作者として悲しいことはないだろう。

 

「それにー……私、自分で言うのもなんですが、ファイトの中で恋愛の機微を表現することに関しては才能があるんです」

「ああ、それは俺も作品を見せてもらったけど感じたよ。あの感情の表現の仕方は絶妙だった」

「お、恐れ入りますー」

 

 あの後、エレアの薦めてくれた小中井さんが参加してる作品を何作か観たのだ。

 どれも素晴らしいファイトの構成で、舌を巻く展開の連続だった。

 

「ただ……それ以外の脚本の才能は、はっきり言って凡庸……って言われてしまってましてー」

「私はそんなことないと思うんだけどね」

 

 なるほど。

 それだけ構成作家として才能があって、それ以外の脚本に適性がないなら自然と小中井さんはファイト構成作家の道を選ばざるを得なかったのだろう。

 だが、彼女のやりたいことはファイトシーンのない恋愛モノ……

 

「なんとなく、話が見えてきたよ」

「恐縮ですー」

 

 小中井さんの抱える問題。 

 それを端的に言うと、こうだ。

 

「小中井さんは、自分のやりたいことと適性があってないんだな」

「……そう、ですねー」

「そういうことなら、俺よりも的確にアドバイスを送れる相手を、俺は知ってる」

 

 やりたいことと適性が噛み合わない。

 そう言われれば、ピンと来るファイターが一人いる。

 お嬢様系マジカルファイター、ロックバーン使いのプロデュエリスト志望。

 アロマ・ユースティアさんだ。

 

「プロ志望のロックバーン使い……そんな方がいらっしゃるのですねー」

「ああ、いい人だから。一度会ってみるといいよ」

「は、はいー……」

 

 ここは、アロマさんにも単発ギャグ回みたいに解決してもらおう。

 今、俺達がいる場所はアロマさんが通ってる学校に近い場所だしな。

 俺の店に行くよりも、会うのは簡単なはずだ。

 アロマさんって、他県に住んでるんだよな。

 天火市とは隣り合ってるんだけど。

 んで――

 

「で、俺の方からも一つアドバイス」

「は、はひーっ!」

「世の中には、イグニッションファイトが存在しない世界もあるよ」

「えっ!?」

 

 思わず驚いた様子の小中井さん。

 俺の前世……の話、ではない。

 以前、こんな話をしたことを覚えているだろうか。

 俺達が暮らす世界は、異世界に繋がっている。

 エレアが産まれた「帝国」の世界。

 刑事さんの弟さんが召喚された異世界。

 他にも、色々と。

 そういった世界では、この世界と同様にイグニッションファイトが行われている。

 

 だが、例外も存在する。

 いわゆるフレーバーテキストの世界だ。

 そういった世界では、モンスター同士が直接争っている例もある。

 そういう世界なら、ファイトは発生しない。

 

「はえー……そういう世界もあるんですねー」

「まぁ、かなりレアケースな世界だそうだから、俺も話に聞いた程度だけどな」

「私も初めて聞いたわよ!」

 

 ちなみに、誰から聞いたかと言うと、レンさんだ。

 シズカさんが知らないのも無理はない、この話はエージェントの中でもごく一部の人しか知らないそうだからな。

 なんで広まってないかと言えば、広める理由がないからだ。

 

 ま、何にしても話としてはこんなものか。

 基本的に、俺は昔からカードショップ店長になるつもりで生きてきたから、それ以外の職業がどんなことをして、何に悩んでいるのかは知らない。

 それを知れたのは、貴重な経験だな。

 まぁ、小中井さんは結構レアケースかもしれないけど。

 

 なんて話をして別れて、しばらく。

 

 

 シズカさんから、小中井さんの小説が書籍化すると連絡があった。

 

 

 え? 何をモチーフにしたんだ?

 俺の話をモチーフにしない約束だし、アロマさんたちは基本女子だけの集まりだ。

 恋愛モノのモチーフになることは――

 と思っていたら。

 

 落ちぶれた元悪の組織の親玉と、その親玉を蹴落として新たに台頭した悪の組織の女幹部のラブコメらしい。

 

 そういえばいましたね、元悪の組織の親玉――デビラスキングが。

 後、今シーズンのアロマさんの敵こと、ネオデビラスの刺客が。

 許可は取ったのだろうか――え、許可を求めて挑んだファイトには勝利した?

 ああうん、多分ふたりとも冗談だと思ってるけど、それならいいんじゃないかな。

 後から文句言っても、冗談だと思って油断したほうが悪い、で終わりだしね、その場合。




ネオデビラスの刺客(二十代後半独身女性)も順調にネタキャラの道を歩んでいるみたいですね。

10評価が200を越えました、こんなにも評価していただきありがたい限りです。
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