カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「失礼、少しよろしいだろうか」
道を歩いていると声をかけられた。
おそらく三十代ぐらいの、渋い顔の男性だ。
その姿を一言で表すなら――
――めっっちゃ探偵だ――!
トレンチコートとハンチング帽。
鹿うち帽じゃないあたり、現代的な探偵だな。
「ええと……何か?」
この場にエレアがいたら、大興奮だったろうなぁと思いつつ応える。
いや、エレアは俺以外の男性にそこまで興味を示さないので、多分これでおじさんじゃなくて美少女だったらなぁ、とか脳内で考える方がありそうか。
失礼な奴め。
と、エレアに対して失礼なことを考えていると。
「私はこういうものなんだが」
「ふむ」
名刺を男性が取り出してきた。
ええと、なになに……?
――ファイト探偵、丹波スグル?
…………。
「ええと」
「……ファイト探偵、丹波スグルだ」
――ファイト探偵、丹波スグル!?
思わずびっくりして二度見してしまった。
そんなファイト探偵が、どんな御用だろう。
「ええと……ネッカ少年のことに関して聞きたいなら、プライバシーの問題もあるしあまり話せることはないんだが」
「私が聞きたいのは、その少年のことではない」
「ネッカ少年のことじゃない!?」
思わず聞き返してしまった。
いやだって、ファイト探偵だよ?
そういうネーミングのエージェントが関わる俺の知り合いと言ったら、ネッカ少年を置いて他にいない。
ネーミングの安直さで言えばマジカルファイターことアロマさんの周辺も負けていないが、あっちは別の事件が進行中だ。
「この写真を見てほしい」
「ええと、どれどれ……」
「この写真の少女――
――――ヤトちゃん?
どうしてまた。
ヤトちゃんと言えば、中二系ラノベ主人公だ。
はっきり言って、ファイト探偵が関わりそうな世界観ではない。
確かに闇札機関は学生のノリが強いが、それは平時だけのこと。
事件が起きれば、それなりに真面目な組織となるはずだ。
……俺はそれを見たことないけど。
いや、まて。
一人いたな。
ファイト探偵なんて胡乱なエージェントが関わりそうな人。
言うまでもない、痴女の辻ファイターこと月兎仮面のハクさん。
あのとんでも痴女ファイターなら、こういう変なエージェントに声をかけられても不思議ではないだろう。
でもそれなら、直接ハクさんのことを聞けばいいのでは?
「……とりあえず、プライバシーの問題もあるから、話せることしか話せないが……構わないか?」
「構わない。そういった事を聞くのに一番適した相手を選んでいる」
言っていることはまともだ、ファイト探偵こと丹波スグルさん。
でもなんだろう、ファイト探偵という二つ名が、そのまともさを胡乱なものに変えている。
端的に言って、雰囲気が胡散臭かった――
□□□□□
「と、いうことが先程あったわけだが」
「むむー、なんだそれは。そもそもそのファイト探偵、ギルドに登録しているのか?」
店に戻った俺は、その事をレンさんと話していた。
現在、店にはメカシィと俺しかいない。
エレアは二階で遊んでいる、非番だからな。
そして相談する相手としては、ヤトちゃんの上司であるレンさんは最適解だろう。
さて、ここで話は少し脱線するけれど。
この世界には様々なエージェントがいる。
まず大前提として、エージェントというのはこの世界の危機をふせぐために戦うファイターを指す。
ダークファイターと戦って、人々を守っているわけだ。
んで、そんなエージェントには公的エージェントと、秘匿エージェントがいる。
この国最大の警察っぽい組織、「ネオカードポリス」が公的エージェント。
レンさん率いる「秘密闇札対策機関」が秘匿エージェント。
ここまでは、これまで何度も話をしてきた。
で、公的エージェントの中には、個人でエージェントを名乗っている人もいる。
先程のファイト探偵こと丹波スグルさんは、本来ならこの個人エージェントに属する人だ。
そういった個人のエージェントは、言ってしまえば個人の正義を振りかざす人だ。
ヤバい人だ。
もちろん、ちゃんとした正義の個人エージェントもいる。
そういった人を、国や人々が認めるための組織が存在するのだ。
その名もエージェント互助組合。
通称“ギルド”。
――そう、この世界にもギルドが存在するのだ。
異世界に冒険者ギルドが存在するように、カードゲーム世界には正義のカードファイターギルドが存在する。
いやぁ、転生モノっぽいですね。
ともあれ、ギルド――もしくはエージェントギルドとも呼ばれる――は個人、ないしは少数で活動するファイターの活動を保証するための組織である。
ちなみに、俺達の知っているところで言うと月兎仮面はギルドに属していたりする。
ハクさんは闇札機関のエージェント「白月」だけど、月兎仮面はハクさんではない。
そんな月兎仮面がエージェントとして大手を振って活動するには、ギルドに登録する必要があった。
そしてギルドには、ギルドへの貢献度によって算出されるランキングが存在するのだが。
現在月兎仮面は、新人エージェント部門で第三位に入ってたりする。
超有望株だ。
その話をレンさんにすると、何とも言えない顔をするので口には出さないけど。
「調べてみたんだけど、ギルドにファイト探偵の名前がないんだよな」
「モグリではないか、普通に危険だぞ。うちの夜刀神をそんな奴に渡せるか!」
んで、そのギルドには登録されたエージェントの名前を検索するデータベースがある。
そこで検索しても丹波スグルの名前が出てこないということは――考えられる可能性は二つ。
一つは、丹波はファイト探偵を名乗る怪しいやつである。
大抵の場合はダークファイターで、最終的にこちらへ牙を剥く可能性が高い。
ただ、その場合丹波の相手をするのはヤトちゃんだ。
俺達にできることは、彼女のサポートしかない。
もう一つは――
「……丹波さんが、秘匿エージェントである場合」
「それはない! 我が知らぬ秘匿エージェント組織がこの国にあるとは思えぬ!」
秘匿エージェント。
公的エージェントとは違い、一般に知られていないエージェント。
その形式は様々で、単純に一般に存在を公表していないだけの闇札機関のような存在から、マジカルファイターのような正体を隠して戦うファイターもいる。
そもそもマジカルファイターは一般的なファイターと違って、戦う相手が異界のダークファイター“デビラス”なのだから、そもそも世界観が違うようなものなのだけど。
んで、そういった秘匿エージェント組織を取りまとめるのが、レンさん達“一族”の人間だ。
この国を裏から操る、秘密の一族。
それがレンさん達なわけで、そんなレンさんが存在を把握していない秘匿エージェントが存在するとは思えない。
ファイト探偵なんていう、おもしろワードで構成されているエージェントならなおさらだ。
「そういうことなら、やっぱりダークファイターの類かな」
「最初に天の民に声を掛けるあたり、ダークファイターなら木端のはずだ」
「もしくは、イグニッション星人みたいなヘンテコ存在か……」
どっちにしても、ここで話をしていて答えが出るものではない。
ギルドにも名前がなく、レンさんも存在を知らない。
そうなったら、俺達にできることはなにもない。
「ちなみに、ヤトちゃんと連絡は取れた?」
「取れていない。
「あらら」
肩を竦める。
真面目なヤトちゃんにしては珍しい。
これもなにかのフラグだろうか。
「買い出しってことなら、ついでにこっちへ顔を出すかも知れないな」
「うむ。それがいいだろう」
いいながら、レンさんは闇札機関へ連絡を取っていた。
そっちに顔を出すかも知れないし、当然の判断だな。
まぁ、空振りに終わったんだけど。
ともあれ。
俺はその後、ヤトちゃんが店にこないか気にしながら接客を続けた。
けれど、ヤトちゃんが店にやってくることは、最後までなかったのだった。
転生モノにはギルドがつきものですという話。